映画 “Canción sin nombre(名もなき歌)” 80年代のペルー歴史全部入り

ペルー独立200周年と言うこのタイミングで、ペルーの歴史を知るきっかけとなる映画が公開される。その名もCanción sin nombre(邦題:名もなき歌)。

この映画は1980年代を中心とするペルーで起きた事実をもとに作られている。楽しい話で、笑いが込み上げてくるようなもの、アットホームなものかと言われれば「否」である。ただし、人権、虐げられてきた人の存在、なぜペルーがこのような状況に置かれたのか、我々社会ではどうだった、今はどうなのかを考えさせてくれる。そんな映画だ。

名前のない歌はメリナ・レオン(Melina León)監督によって作成された。2019年カンヌ映画祭にペルー映画として初めてプレミア上映され注目を浴び、シドニー映画祭でも上映され、さらに南米の年間ベスト映画の一端を担うなど、世界からの関心も高い。

97分に渡る本作品は1980年代にペルーで起こった赤ん坊誘拐事件を題材にしている。南米、幼児誘拐と聞くとゲリラの人々に誘拐されたと考えるかもしれないが、ここで描かれるのはそれではない。裁判官、役人、医師のネットワークが低所得者層の女性を対象に偽のクリニックでの治療を提供。「無償医療」の提供のCMはラジオを通じてなされていた。赤ん坊誘拐とその後の売買の目的は主に海外へ養子に出すと言うことだった。もちろん、両親はそのような目的でクリニックが開設されていることなどは知らない。そしてこの物語の主人公ヘオルヒナ・コンドリ(Georgina Condori)もまた、この犯罪に巻き込まれる。必死になって探しているうちに訪れたのが新聞ラ・レプブリカ(La Republica)であり、そこで孤独なジャーナリストに出会い、事件の調査を引き受けてもらうこととなる。この人物もまた、社会からの孤立を感じている人物だった。

COVID-19のパンデミックはペルー社会に危機的な状況を与えた。そして与えている。そのため本作品は映画館での公開はできなかった。それでもここまで人気を博したのはNetFlixが本作品を配信したことによる。NetFlix、ラテンアメリカというキーワードで思い出されるのは「ROMA」だろう。アルフォンソ・キュアロン(Alfonso Cuarón Orozco)監督によるその作品もまた1970年と1971年のメキシコシティにおける中流家庭とその家政婦の日常を描かれていた。ROMAは3部門でオスカーを受賞した。

レオンはアメリカ人作家のマイケル・J・ホワイト(Michael J. White)と共同で脚本を執筆した。俳優たちこの事件に関連した書物等を渡され徹底的に学ぶことになる。過去の事件を演じる人ではなく、自らが当事者になる必要があったからだ。大まかな台本はあるものの、基本的にアドリブ、というか当事者となった自分たちの考えに基づき発話されていく。企画がスタートしてからカンヌでのプレミア上映まで、約10年の歳月が流れた。撮影監督のインティ・ブリオネス(Inti Briones)とともに作った本作品の中でもレオンが印象的と語るのは夜間や早朝に丘を下ったり上ったりするコンドリのショットだったという。本作品は1988年での出来事としているが、赤ん坊の人身売買組織が糾弾されたのは1981年だ。それは監督自身が1988年の方が記憶に残っていたことによる。主人公のGeorgina Condoriは、1988年にアヤクチョからリマに移住してきた。アヤクチョは、1980年から2000年にかけて、テロリスト集団Sendero Luminosoの暴力と、法と秩序を守る勢力との戦いによって、最も大きな影響を受けた地域だ。何千人もの人々同様20歳の彼女もまた暴力によって家を失い、パートナーとともに首都の南の郊外にある丘の上に小屋を作り生活をしていた。この地域は海が近く湿気が多いこともあり冬には霧が発生する。1980年代のペルーとは夜間外出禁止令やテロリストの台頭と襲撃、法と秩序の力による不時の襲撃、年間400%のインフレなど、未だ解決されていない問題が多分にある場所だった。蝋燭の炎ととも話が展開されるのは、場の雰囲気を盛り上げるためでも印象付けたいわけでもなく、この時代それが必要である、つまりエネルギー不足を語るものだ。ちなみにレオンの父親自身もこの誘拐事件を報道したジャーナリストの一人だったようだが、本作品で俳優のトミー・パラガ(Tommy Párra)が演じる記者とは関係ない。本作品の記者は全くの架空の人物だ。

主人公を演じた女優パメラ・メンドーサ・アルピ(Pamela Mendoza)は先住民出身である。でも彼女自身はケチュア語は話せなかったし、話すスペイン語も先住民の話し方とは異なっていたという。本作品のために練習し、身につけた。ロケ地の一つにはリマではあまり知られていない建物、1950年代に建築された宝石のようなガレリアス・モゴジョン(Galeria Mogollon※)が頻繁に登場する。

撮影技術に詳しくないからその点は言及できないが、インティ・ブリオネスによる映像が素晴らしいなと思った。カラーで撮られた作品は、予算の都合、過去の事件を語る作品という関係もあり、モノクロで発表したという。アヤクチョの伝統的な祭り、イキトスの高床式住宅や美しい風景、ガレリアス・モゴロンなど、色々な角度から見物することができる。また個人的に「これは」と思ったのは記者のパートナー、イサがレストランでタバコをくぐらすシーンだ。それはハバナのフィデル・カストロの写真を私に想起させた。後々イサが「ハバナいちのコック」と言ったこと、彼自身もホモセクシュアルでアーティストだったことを思うと、レイナルド・アレナス(Reynaldo Arenas Fuentes)のように彼もまた、国を追われたのかもしれないと感じた。なおこの監督はVariety誌で世界の「注目すべき撮影監督10人」の一人にも選ばれている。

この作品は80年代のペルーの状況をいろいろ教えてくれる。一度見ただけでは足りないほどだ。先住民がいかに忘れられてきたか、どのように先住民を含む貧困層がゲリラ活動に組み込まれたか、無視されている一方でハイソサイエティやマフィアなどから都合の良い時だけ利用されてきたのか、そして誠実なジャーナリズムがいかに難しい仕事なのか、セクシュアル・マイノリティがどう扱われてきたのかなど。もちろんこれらの問題は現代においてもまだ解決されていないものも含まれている。

 

あなたはこの映画を見て何を感じるだろうか。

2021年7月28日、ペルーで初めて先住民の血をひき、貧困層家庭で育った教師ペドロ・カスティージョが大統領となった。ペルーは変わっていくことだできるだろうか。就任式についてはこちらから。

なお、本作品はペルーの歴史を知らなくてもある程度は理解できると考える。公開は2021年7月31日より。ユーロスペースなどにて。

※Galeria MogollonはAvenida Emancipación, Cercado de Lima 15001 にある。建築物の詳細情報はhttps://cammp.ulima.edu.pe/edificios/edificio-comercial-mogollon/から確認ができる。これをみる限りはエレベーターがついていそうだが作品では螺旋階段を主人公が登っている。

 

参考文献:

1. Netflix: dos películas peruanas que tienes que ver si te gustó ‘Canción sin nombre’

 

作品情報:

名前:  Canción sin nombre
脚本:  Melina León、Michael J. White
制作国: Perú
監督:  Melina León
時間:  97min
ジャンル:Dorama
公式サイト:http://namonaki.arc-films.co.jp

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