2013年4月27日、キエフにあるウクライナ国立チェルノブイリ博物館(Український національний музей “Чорнобиль”、National Museum “Chernobyl” )を訪れた。3.11東日本大震災から2年後のことであると同時に、チェルノブイリ原子力発電所の事故から27年後のことである。当時のウクライナ・ソビエト社会主義共和国キエフ州プリピャチ(Прип’ять)のV・I・レーニン記念チェルノブイリ原子力発電所(Чернобыльская атомная электростанция имени В.И.Ленина)では4つの原子炉が稼働中の状態にあり、さらに2つが建設中だった。現地時間1986年4月26日午前1時23分、4号炉(黒鉛減速軽水沸騰冷却型-RBMK型)で事故が起きた。1983年12月から運転を開始していたこの原子炉では保守点検に向け、停止作業が前日から行われていた。ソ連が独自に開発した熱出力が320万キロワット、電気出力が100万キロワットのRBMK-1000は暴走し、急激に出力が上昇した。原子炉とその建屋は一瞬のうちに破壊された。爆発とその後の火災によりそれに引き続いた火災にともない14エクサベクレルの放射性物質が大気中に放出された。最初の放射能雲は西から北西方向に流され、ベラルーシ南部を通過しバルト海へ向かった。翌日の27日にはスウェーデンで放射能が検出され、政府は事故発生の公表をしないわけにはいかなくなった。事故が露わになったのは28日のことである。目撃者は爆発の瞬間をまるで花火が上がったようだったと述べている。事故によって排出された放射能は4月末までにヨーロッパ各地で観測され、5月上旬にかけては北半球のほぼ全域で観測された。4月末から5月始めには燃え続ける原子炉の封じ込めと火災の鎮火を目的に砂、鉛、ホウ素など5000トン以上の資材がヘリコプターから炉心めがけて投下された。5月6日に大量の放射能放出が終わったと報告されている。
チェルノブイリ博物館は1992年4月26日に設立された。「悲しみには限界がある。だが、心配には限界がない」はこの博物館の掲げるモットーだ。20世紀最悪の原子力災害の歴史を保管、記録し、人々にこの事故がどれほどのインパクトを与えたかを伝えることを目的としている。博物館には7000点以上の展示物が公開されている。その中にはリクィデイタ(liquidators、チェルノブイリ事故処理に従事し命を落とした人たち)や犠牲者の記録と共に、核戦争の脅威にあったキューバからのメッセージ、第二次世界大戦で米国から2発の原子爆弾を投下された日本からのメッセージが常設されている。そして福島第一原子力発電所事故以降彼らは、被災した福島県への応援メッセージを発信し続けてくれている。
昨年2021年は史上最悪の原発事故が発生してから35周年だった。ただ廃炉に向けた具体的な目処は立っていない。現在の4号炉は放射性物質の飛散を防ぐため「石棺」と呼ばれるコンクリートの建造物で覆われた後、2016年からは石棺を外側から覆うように「新安全閉じ込め構造物」である巨大なシェルターが被された状態になっている。可動式の構造物としては史上最大規模だ。そして2022年2月24日に発生したロシアによるウクライナ侵攻と、発電所付近でチェルノブイリの戦いが発生した。ウクライナの民間警備隊やウクライナ軍が応戦するも原発はロシア軍に占拠された。国際原子力機関(International Atomic Energy Agency:IAEA)は「深刻な懸念をもって注視している。同国内の原子力施設を危険にさらすことのないよう、最大限の自制を呼びかける」との声明を発表している。
2013年ウクライナを訪れた時、彼らは日本のことを本当に心配してくれていた。津波もそう、福島もそう、我々の心もそう。それはこの博物館だからと言うことではない。宿の人、街で声をかけてくれる人々もだ。そんな人々が今脅威に晒されている。そんな人々に無関心でいられるはずなどない。
チェルノブイリ原発事故後体験に関するVRコンテンツについてはこちらから。
国立チェルノブイリ博物館(Національний музей “Чорнобиль” )
住所
キエフ プロヴロク ホリヴァ1番地(Київ, провулок Хоревий, 1)
最寄駅:地下鉄コントラクトーヴァ・プローシャ(Контрактова площа)駅
電話
0038 (044) 482-56-27
営業時間
月曜日~土曜日 午前10時~午後6時(入館は午後5時まで)
休館:日曜日及び、毎月最終月曜日
ホームページ
http://chornobylmuseum.kiev.ua
参考資料:
1. チェルノブイリ原発事故
2. チェルノブイリ原発事故から35年 廃炉への具体的なめど立たず
3. ロシア軍、チェルノブイリ原発を占拠 ウクライナは「生態系災害」の再来を警告
4. チェルノブイリ原発で放射線量が急上昇、危険性は「極めて低い」と ウクライナ侵攻
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