2月8日、ボリビアのフレディ・ママニ(Freddy Mamani)外務副大臣は「イベロアメリカ先住民言語の国際10年の礎(Piedra Angular del Decenio Internacional de las Lenguas Indígenas en Iberoamérica)」と題したイベントを2月11日に開催し、イベロアメリカ先住民言語研究所構想(Instituto Iberoamericano de Lenguas Indígenas:IIALI)が始動すると述べた。
2006年以降、イベロアメリカ会議は先住民族の言語に関して議論がなされており、パラグアイ アスンシオン・サミット(Cumbre de Asunción)でイベロアメリカ先住民族言語研究所設立が合意され、2018年グアテマラで開催されたラ・アンティグア・サミット(Cumbre de La Antigua)で批准されている。その後先住民族と一緒に地域生活や社会全体で彼らの言語を「使用」「保存」「伝達」「発展」できるよう施策を検討し、公的機関、官民機関と提携しこれらの仕組みを構築するためにイベロアメリカ総事務局(Secretaría General Iberoamericana:SEGIB)、先住民族開発基金(Fondo para el desarrollo de los pueblos indígenas:FILAC)、イベロアメリカ諸国連合(Organización de Estados Iberoamericanos:OEI)からなるワーキンググループが作られた。なお仕組みづくりにあたっては市民社会のあらゆる部門の参加を得ることとし、ジェンダーに焦点を当て先住民の言語の保護における女性の役割を認識し評価した。
2019年6月にはボリビアのサンタ・クルス・デ・ラ・シエラ(Santa Cruz de la Sierra)で行われたハイレベル会合で南南交流と学習が行われている。この会議では、FILACが作成したイベロアメリカ先住民言語研究所構想の初期提案も分析され、政府機関や市民社会、先住民組織や言語コミュニティで実施された言語再生の提案と経験が共有された。それから1年後の2020年、COVID-19のパンデミックの中行われた第2回ハイレベル会合(バーチャル開催)で、10カ国がIIALI設立への支援を批准した。米州機構(Organización de los Estados Americanos:OEA)においても、2016年に加盟国が「先住民族の権利に関するアメリカ宣言(Declaración Americana sobre los Derechos de los Pueblos Indígenas)」を承認し、200年にわたる共和制の歴史において初めて、先住民族を一連の権利の保持者として明示的かつ広範囲に認め、その保障を約束し、国家と先住民族の関係を歴史的に支配してきた同化主義政策と明確に決別している(第10条)。第10条では、同化を公然と否定し、これらの民族は「外部からの同化の試みから自由に、その文化的アイデンティティをあらゆる面で維持、表現、発展する権利を有する」と規定されており、国家が「先住民の同化またはその文化の破壊の政策を展開、採用、支援、奨励する」ことを禁じている。なお、
知識、言語、コミュニケーションシステムに関する第14条では、「先住民の完全かつ効果的な参加を得て」、先住民の歴史、言語、口承伝統、哲学、知識体系、文字、文学の保存、使用、発展、再生、伝達を約束しているとともに、「自分自身のラジオ番組とテレビ番組、および他のすべてのコミュニケーションと情報の手段への平等なアクセス」を促進し開発する権利、および「特に先住民が存在する地域における、先住民の言語によるラジオ番組とテレビ番組の放送」と「先住民のラジオ局とテレビ局、および他の情報とコミュニケーション手段」の創設への国家のコミットメントも認められている。
2021年4月21日にアンドラで開催された第27回イベロ・アメリカ首脳会議でも承認された。IIALIが目指すのは、ラテンアメリカとカリブ海の先住民の言語の使用、促進、発展、保存だ。このイニシアチブはILO第169号条約の原則「先住民族の権利に関する国連宣言」、2020年にユネスコとメキシコ政府が開催したハイレベル会議で採択された「私たちなしでは何もできない(Nada sin nosotros)」というスローガンを持つ「ロスピノス宣言(Declaración de Los Pinos)」を反映している。この宣言は、社会的結束と包摂、文化的権利、健康と正義のための先住民族の言語の重要性を認識し、人類と自然を結びつける先祖伝来の伝統的知識を継承するものとして、持続可能な開発と生物多様性の保全に先住民族の言語が有用であることを強調している。また先住民族言語の存続の前提となる先住民族の権利、母語による教育、母語による公的生活への参加などを主張している。
今一度その目標を見ていく。
1. 先住民族言語の状況および文化的・言語的権利に関する認識を高める(社会的コミュニケーション、出版、情報の普及)
2. 先住民の言語の伝達、使用、学習および活性化を奨励する(教育、平等、非差別)
3. 先住民のための言語・文化政策の策定と実施における技術支援の提供(社会的一体性、南-南協力、社会的保護)
4. 先住民の言語の使用と活力について、情報に基づいた意思決定を促進する(量的・質的データベース)
なお、このイニシアチブはSDGsにおける下記項目にも対応している。
目標 4 すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
目標 5 ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る
目標 10 国内および国家間の格差を是正する
目標 11 都市と人間の居住地を包摂的、安全、強靭かつ持続可能にする
目標 16 持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する
目標 17 持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
「IIALIは、南-南協力のためのメカニズムであり、2022-2032年の国際先住民言語の10年の枠組みの中で、超国家的な枠組みで先住民言語の活性化に貢献する基本的で優良なツールを提供する」とボリビアの外務副大臣は火曜日に語っている。国連総会も「国際先住民言語の10年 2022-2032」を宣言しており、先住民言語の深刻な喪失とその保存と再生の緊急な必要性に注意を喚起し、国内外において緊急措置を講じるよう強調している。
イベロアメリカ先住民言語研究所の第1回政府間協議会は2月10日、ボリビアのラ・パス(La Paz)で行われた。ボリビアのロへリオ・マイタ(Rogelio Mayta)外務大臣、メキシコ国立先住民族研究所のサウル・ビセンテ(Saúl Vicente)先住民族担当部長、コロンビア文化省のルイス・セビジャーノ(Luis Sevillano)先住民族担当部長は記者会見を通じその会議の結果を発表した。
それによると研究所の技術事務局はラ・パスにあるラテンアメリカ・カリブ海先住民族開発基金に委託されていることから、その本部をラ・パスになる。また、最初の2年間はボリビアが議長国を務め、その後は同盟国であるメキシコとコロンビアが持ち回りで議長国を務めることしている。この3カ国でIIALI政府間評議会を構成している。なおエクアドル、グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、ペルーも評議会加盟のための最終段階に入っている。
2021年のラテンアメリカ・カリブ海先住民族開発基金の調査によると、ラテンアメリカとカリブ海地域の827の先住民のうち、独自の言語を持ち、それを使っているのは557に過ぎない。これらの言語の多くは、少ない人口で話されているため、失われる危険性があることが分かっている。世界には7,000の言語が存在している。ただ国連やユネスコの研究では2週間に1つの先住民族の言語が消えていることが知られている。また、この消滅とともにそれが持つ文化、生活システム、知識、科学、伝統とのつながり、物事の解釈の仕方が消えている。
「私たちは先住民族の言語を強化し、活性化させること、また、1つの言語だけでなく、すべての言語でそれが行われるようにIIALIイニシアティブの運営計画を作成している。なぜなら、そこには我々の民族の祖先の知識が詰まっているからだ」とサウル・ビセンテは述べた。また、この研究所の設立は2022年から2032年にかけての「国連が承認した国際先住民言語の10年」の最前線に立つことになると強調した。
ルイス・セビラノは、ボリビアでの歓迎に感謝の意を表しつつ、今後の課題は研究所の立ち上げのための膨大なる作業だと述べた。また、「言語の保護と保全を明確にし、言語を発展の軸とし、それぞれの国にとって非常に重要な原動力とすることが大きな課題である」と付け加えた。
その他先住民言語に関する記事はこちらから。
参考資料:
1. Bolivia anuncia el lanzamiento del Instituto Iberoamericano de Lenguas Indígenas
2. Bolivia acogerá la sede del Instituto Iberoamericano de Lenguas Indígenas
3. Iniciativa Instituto Iberoamericano de Lenguas Indígenas (IIALI)
4. Primer Consejo Intergubernamental de la Iniciativa Instituto Iberoamericano de Lenguas Indígenas (IIALI)
5. O Instituto Ibero-Americano de Línguas Indígenas inicia suas atividades
No Comments