エクアドル:1月の麻薬押収量2倍、暴力による死亡事故3倍に

2022年1月、エクアドルの治安悪化が甚だしい。新しい年が始まって1ヵ月もたたないうちにすでに17.9トンの禁止薬物が押収されている。昨年同月の押収量は8.4トン、2021年一年で210トンが回収された。

1月に実行された758件の作戦では857人の容疑者が逮捕され、63丁の武器、11,798発の弾薬、25,450ドルの現金も押収されている。

麻薬に関して言えば押収量の98%がコカインで、1.4トンのマリファナ、101キロのコカインベースのペースト、33.4キロのヘロインとなっている。麻薬対策課(Unidad de Antinarcóticos)の推計によると1億6800万回分以上、国際市場で4億2,300万ドルに相当する。警察によると17.9トンのうち、16.2トンが国際取引、1.7トンが国内消費のためのものだと言う。

昨今エクアドルの治安は悪化しており、昨年も麻薬の押収や殺人事件が増加していた。2022年の1月だけでもそれらの増加傾向を見て取れる。ギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)大統領によると麻薬組織の抗争や取引に関する殺人事件が驚くべき数値増加の原因になっている。

https://twitter.com/MinGobiernoEc/status/1478491803951276039

 

殺人事件は特にゾーン8(グアヤキル、ドゥラン、サンボロンドン)で増加している。これはこの地域に国営7港のうち5港があり、そこを通してほとんどの麻薬が密輸されていることによる。カルテルによる縄張り争いの結果、2月3日現在、ゾーン8での暴力による死亡者数は103人となっていて、2021年同時期の33人から3倍になっている。なお、犯罪、暴力死、失踪、恐喝、誘拐国家総局(Delitos contra la Vida, Muertes Violentas, Desapariciones, Extorsión y Secuestro:Dinased)によると、80.5%が犯罪による暴力で、残りは対人暴力や強盗によるものだ。また、2020年には刑務所の支配権を争うギャング間の衝突が複数あり300人以上の受刑者が死亡するなど暴力のスパイラルに入っている(詳細はこちら)。それ以外にもクエンカ市で、2人の子供の首を吊って自殺した女性のけーすなどもある。また、グアヤキルの観光名所サンタ・アナの丘(cerro Santa Ana)の355段目では2人の反社会的勢力による暴行に抵抗したとの理由でオランダ人観光客ジェイコブ・ボーゲル・ コーネリス(Jacob Vogel Cornelis)が銃弾に倒れるというケースもあった。事件が起きたのは19日(水)21時頃だ。彼のケースを受け今一度この国では「なぜサンタ・アナ、ラス・ペーニャ(Las Peñas)、マレコン(Malecón)…の警備に警視庁(市警)は出ていかないのか」「カメラやバンなど警察に与えられたものは何の役に立つのか」「なぜ以前のようにデモ行進の警備に出ないのか」などと論争になっている。グアヤキル市長のシンシア・ビテリ(Cynthia Viteri)は「憲法を改正しない限り、この国の犯罪対策の絶対的な責任は中央政府にある」とメディアを通じて語っている。なお、サンタ・アナの丘での事件については警察が容疑者を特定している。「観光がなければ仕事がない。仕事がなければ、殺人、雇い人殺し、麻薬密売…が増える」と、その負のスパイラルについて述べるTwitter投稿もある。

元国家警察官でCedhusの国際関係担当高等弁務官(Alto Comisionado de Relaciones Internacionales)である安全保障専門家のスターリン・サコト(Stalin Sacoto)弁護士は、「米国などのように中央政府から自治体に責任が委譲されていないため、自治体は治安に責任を持たない」と断言する。暴力の問題に秩序をもたらし、安全を提供するのは、中央政府または国家の責任であるとエクアドルの法律で定められていることにもよる。

一方、都市・地域計画の専門家で建築家のルイス・サルトス(Luis Saltos)は、自治体政府の機能を挙げている「地域秩序に関する有機法典(Código Orgánico de Ordenamiento Territorial:Cootad)」の54条には、公共空間の利用の規制と管理、さらに国家警察、地域社会、その他の関係機関の参加を得て、予防、保護、治安、市民共存に関する地域の政策、計画、結果の評価を策定・実行する自治体市民治安協議会の設置が定められていることもあり、犯罪防止や市民の安全は中央政府の責任ではあるものの、共同で計画的に取り組める課題もあるという指摘している。

警察本部長のタニヤ・バレラ(Tannya Varela)は、麻薬取引は他の種類の犯罪への入り口であると述べるとともに、この国の治安問題には隣国との協調が欠かせないとした。「麻薬はコロンビア、武器はペルーからやってくる。だからこそ、この国の治安危機のあらゆる局面に対処するために、これらの国々や他の地域の国々との国際協力が重要である」と述べている。エクアドルには薬物加工用の農園がないものの、麻薬密売人の中継地として利用され、この国を経由し米国や欧州に違法薬物を送られることがわかっている。

 

この2年間で自治体は治安維持のためにトラック、バイク、GPS(衛星追跡)、携帯電話、ドローンなど技術的な装置の購入に国家警察に610万ドルを提供している。また、2021年11月にも国家警察、軍隊、都のエージェントと交通移動局による共同パトロールのために、31台のバイクと31台のピックアップトラックを提供していた。

展開中の麻薬撲滅作戦「Pacífico-Impacto 14」では違法薬物の保管場所とされる場所を捜査している。建物横の地下貯蔵庫からは、茶色の包装テープで覆われ「蝶」のロゴが入った長方形のパッケージ185個が入った麻袋6個、重さ208キロのコカインが見つかっているなどしているが、1月18日にも実績を上げている。グアヤス州のイシドロ・アヨラ(Isidro Ayora)とサリトレ(Salitre)の複数の物件で行った家宅捜査では8トンの麻薬が押収、4人が逮捕された。グアヤス州のパブロ・アロセメナ(Pablo Arosemena)知事によると、最初に押収したのはイシドロ・アヨラの農場で、農場から出た車両から半トンの麻薬が発見され、農場を調べたところ、さらに半トンが見つかったと言う。警察はサリトレに向かう道にある団地内の家でもコカインを発見した。コカイン保管のためにドラッグディーラーがこの土地を借りていたようだ。これらの捜査は、欧州共同体の協力のもと、数カ月にわたる調査の末になされたものである。

また、16日(日)にもグアヤス州ナランハル(Naranjal)のプリメロ・デ・マヨ(Primero de Mayo)と呼ばれる地区で、ドミニカ共和国出身の男6人も逮捕されいる。

2月2日現在、全国で起きていら暴力事件で313人が死亡している。このうち、解決したのは30件、予備調査中が281件、逮捕されたのは2件となっている。

 

参考資料:

1. En el primer mes del 2022 el decomiso de droga se ha duplicado y las muertes violentas casi se triplicaron en Ecuador
2. Ocho toneladas de droga se incautaron en inmuebles de dos cantones de Guayas
3. Seguridad en Guayaquil, ¿de quién es la responsabilidad?, el dilema que se genera tras muerte por robo de holandés en cerro Santa Ana, atractivo turístico de la urbe

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