プエルト・モン(Puerto Montt)と言ったらやはり、海鮮が有名だ。その中でも、サーモンはとびきりで、世界における一大養殖場となっている。毎日大量の新鮮なサーモンが空輸され、冷凍サーモンは船で各地に運ばれる。この土地の発展はまさに、鮭の養殖とともにあるのだ。
この土地のサーモン産業が常に順風満帆であったわけではない。2005年から2010年頃発生した伝染性サケ貧血(ISA)はその生産量を激減させ、プエルトモンでは50億米ドルもの損失が出たと言われている。2016年には大量発生したシャットネラ類の有害藻が、チロエ地区のサーモンを汚染した。死んだ魚や腐った魚の海洋投棄によって発生した赤潮は、今度は鮭のみならずあらゆる魚介類を殲滅させた。被害総額も総生産額の15%以上となる5-10億米ドルとなった。
この地区が産業の発展とともに得たものはそれだけではない。養殖場のまわりの海底に溜まった廃棄物(余った飼料や排泄物など)もまた赤潮を発生させる原因となり、鮭以外の漁獲量も減っているという。また、鮭養殖に使われる他国とは比較にならないほどの抗生物質は(ノルウェーと比較し最大約500倍)、抗生物質が効かない耐性菌の出現リスクを発生させた。
海を覆うように、広がるサケの養殖場、内陸の湖沼における幼魚飼育のための数多くの施設は、美しい自然景観を壊し、ペンギンやアザラシ、ミズナギドリの生息環境にも影響を与え、野生生物が時として、漁網に絡まって溺れてしまうなどといった事故も起きている。
同時に先住民の人権を侵害したり、劣悪な労働環境を生むなどの社会問題にも発展しているという。
これら遠い国で起きている事象は、我々と無関係ではない。サーモンの大輸出国の一つは我が国日本であるし、養殖を定着させたのは日本の技術に依るところも大きい。さらに、この土地のサケ産業に投資をし、支えているのは日本の企業だったりする。
もちろんこの手の活動を非難するつもりは毛頭ない。すでに生活の一部となっているこの安くて上質なサーモンにありつけなくなるなど、考えることができないからだ。
持続可能な社会を作るために、昨今複数の業者は昨今養殖業を一斉に停止する期間を作った(2年間に3カ月)。さらに、養殖途中で死んだサケの死因を調査することで、次の取り組みに繋げるようにした。政府もいけすの数量規制に乗り出そうとしているという。 経済発展のために、我々が手放さなければならないものはゼロではない。ただ、それを最小限に食い止めるような取り組みはきっとできるはずである。 いつまでも美味しい鮭が手元に届き、そして鮭に携わる人々、その土地にいる人々が笑って過ごせる環境を皆で作って行きたい、そんなことを思った。
アルゼンチンのティエラ・デ・フエゴ州は環境の保護を理由に特定地域での養殖を禁止している。詳細はこちら
鮭と鱒、サーモンとニジマスの違いも知らないので、commentは難しいです。稚魚を川に放流してやると海で勝手に成長して3年くらいで律儀に帰ってくれればいいのだけど。養殖はどうなんだろう?寿司はトロサーモンが好きで自分のような庶民が食せるのは養殖のおかげなんだろうけど。経済発展と環境の問題、marinaさんは博識ですね。今度寿司食べる時は、このブログとプエルトモンの海を思い、考えながら味わってみます。