エクアドル:政府、違憲とされた2件の経済緊急法案に続き自治体予算規則変更法案を提出

(Photo:EL UNIVERSO)

2026年、ダニエル・ノボア(Daniel Noboa)大統領は、エクアドルの地方自治体である分権自治政府(Gobiernos Autónomos Descentralizados:GAD)の予算規則を見直す法案を、国民議会(Asamblea Nacional)に提出した。ノボア政権は2025年にも経済分野の緊急法案を2件提出しているが、いずれも違憲判断を受けている。それにも関わらず2026年も同様の立法手法を継続している。今回の法案は、「地方自治組織・自治・分権に関する有機法(Código Orgánico de Organización Territorial, Autonomía y Descentralización:COOTAD)」の改正を目的とするものだ。

地方自治組織・自治・分権に関する有機法(COOTAD)は、自治体、県庁、教区評議会の組織や運営の枠組みを定めた基本法である。2026年1月28日には、ノボア政権の法務秘書官エンリケ・エレレリア(Enrique Herrería)が、政権発足から8か月で7件目となる緊急経済法案として、同改正案を国民議会に提出した。政府側は、分権自治政府(GAD)の「支出効率の向上(eficiencia del gasto)」を制度的に担保することを狙いとして掲げているが、その内容は地方政府が有する政治的・行政的・財政的自治権に直接的な影響を及ぼすものとなっている。

エクアドル憲法は、同国を分権型国家と位置づけ、権限や意思決定が中央政府に集中しない制度設計を採用している。具体的には、分権自治政府(GAD)、県庁、教区評議会に権限が配分されている。地方自治組織・自治・分権に関する有機法(COOTAD)によれば、分権自治政府(GAD)は恒常的収入(税収、手数料、公共企業収益)の21%、および非恒常的収入(石油や再生不可能資源の売却収入)の10%を、国家総予算(Presupuesto General del Estado:PGE)から受け取る権利を有する。

しかし、こうした法定配分は十分に履行されていないのが実情だ。2025年9月24日、エクアドル自治体協会(Asociación de Municipalidades Ecuatorianas:AME)は、中央政府が222の自治体(GAD)に対し、総額5億4,300万ドルの未払い債務を抱えていると公表した。エクアドル自治体協会(AME)は、この不履行が地方財政を深刻に圧迫し、基礎的公共サービスの提供、公共事業の実施、さらには職員給与の支払いにまで悪影響を及ぼしていると警鐘を鳴らしている。

 

 

ノボア政権が進める「地方自治組織・自治・分権に関する有機法(COOTAD)」改正案は、中央政府による地方政府への関与を制度的に強化する内容となっている。地方政府の財政運営に対する統制が強まることで、自治権が損なわれかねないとの懸念が、自治体関係者や専門家の間で広がっている。

改革案の柱の一つは、分権自治政府(GAD)が中央政府から受け取る予算の使途を厳格化する仕組みの導入だ。改正案では、分権自治政府(GAD)が受領した予算のうち、少なくとも70%を公共事業に充てなかった場合、中央政府が当該分権自治政府(GAD)の予算を削減し、制裁を科すことが想定されている。公共事業には、基本サービスの提供、賃貸費用、道路整備などが含まれる。

今回の改正では、既存条文の修正に加え、別の条文に6つの新たな項目を追加する構成となっている。その中核となるのが、「優先配分の最低割当ルール(regla de asignación mínima de asignación prioritaria)」の新設である。この規定は、財政運営の基準を満たさない分権自治政府(GAD)に対し、中央政府が制裁を発動できる法的根拠を明確化するものと位置づけられている。

現行の地方自治組織・自治・分権に関する有機法(COOTAD)第198条には、分権自治政府(GAD)の予算の70%を公共投資に充てるべきだとの規定がすでに盛り込まれている。しかし、自治体運営に詳しい専門弁護士のレネ・ベドン(René Bedón)は、「この規定は実際には適用されていない」と指摘する。その上で、同氏は、地方自治組織・自治・分権に関する有機法(COOTAD)の改正によって、「義務を履行させるための制裁が制度として明確に組み込まれる点が重要だ」と警告している。

もっとも、制裁によって予算が削減された場合でも、憲法は地方政府に対する財政移転の下限を定めている。中央政府は、分権自治政府(GAD)に対し、恒常的収入の少なくとも15%、非恒常的収入の少なくとも5%を、最低限移転しなければならない。

地方自治組織・自治・分権に関する有機法(COOTAD)改正案は、地方政府の財政規律を強化する一方で、中央政府の裁量を拡大する側面も併せ持つ。分権自治政府(GAD)の予算運営や自治権にどのような影響が及ぶのかは、今後の制度運用と制裁の適用のされ方が重要な焦点となりそうだ。

 

地方政府による自治

エクアドルでは、地方政府である分権自治政府(GAD)が中央政府から資金を受け取り、その支出の優先順位を自ら決定してきた。自治体法制に詳しい弁護士のレネ・ベドン(René Bedón)は、「分権化の目的は、地方政府が財政的自治を確保することにある」と指摘する。

2026年に提出された法律案の狙いは、中央政府が分権自治政府(GAD)に移転する資金が、公共事業や公共サービスに正当に使われているかを監督する点にある。しかし、ベドンによれば、実際には多くの分権自治政府(GAD)で、資金の大部分が人件費や行政運営などの経常経費に充てられ、インフラ整備やサービス向上に必ずしも結びついていないという。同氏は、この法律案について、「中央政府が分権自治政府(GAD)の予算の使い方を直接統制できる仕組みを作るものであり、自治を侵害し、分権化の原則に反する」と警告している。

データからも、その実態がうかがえる。2024年における分権自治政府(GAD)の支出のうち、公共事業や基本サービスに充てられた割合は平均で39%未満にとどまった。飲料水、下水道、医療、教育といった基礎的サービスの不足は、各地で依然として深刻な課題となっている。

現在、エクアドルには24の県政府、221の市町村政府、796の都市教区、408の農村教区が存在する。国立統計調査院(Instituto Nacional de Estadística y Censos:INEC)によると、分権自治政府(GAD)が中央政府から受け取った資金は、2024年に約54億9,700万ドル、2025年には約43億1,700万ドルだった。中央銀行(Banco Central del Ecuador:BCE)も、地方政府への資金移転額を公表している。

ベドンは、多くの市町村で予算の大半が人件費や運営費に消え、公共事業への支出が制限されていると指摘する。例として首都キト市を挙げ、2009年には約7,500人だった市職員数が、その後の歴代市長政権の下で増加し、2021年には関連機関を含め約2万2,000人に達したという。市民権・開発財団(Fundación Ciudadanía y Desarrollo:FCD)の分析では、中央政府が経常経費の管理や削減に踏み込めば、「公務員の解雇が発生する可能性もある」とされている。

さらにベドンは、分権化は財政移転だけでなく、市民参加を伴う制度であると強調する。エクアドル憲法および地方自治組織・自治・分権に関する有機法(COOTAD)は、地方議会を通じて市民が公共事業の優先順位を議論し、予算編成に意見を反映できる仕組みを定めている。しかし、今回の改革案は、こうした地方議会の役割を軽視しかねないとして、「分権制度の根幹を揺るがす」と警鐘を鳴らしている。

 

公共投資とみなされる支出

今回の改革では、何が「公共投資」に該当するのかを明確に定義している点が特徴とされる。公共投資とは、市民に直接的な利益をもたらす、具体的かつ目に見える事業やインフラ、設備、公共サービスに充てられる支出を指す。

改革案によれば、公共投資として認められる支出は限定されており、公共部門の収入・支出予算分類において、あらかじめ指定されたグループ、サブグループ、項目に該当するものに限られる。この仕組みにより、地方政府が予算上「公共投資」として計上できる範囲は、制度上明確に線引きされることになる。

その結果、これまで公共投資と解釈されてきた一部の支出が対象外と判断される可能性もあり、地方政府の予算編成や事業選択に実質的な影響を及ぼすとみられている。

具体例は次の通りである:

  1. 投資用財・サービス
    公共サービスやインフラを維持するための購入。
    例:水道料金などの基本サービス、自治体病院の清掃サービス、機械の運搬や設置、出張費・日当など。
  2. 公共事業
    道路や上水道、下水道などのインフラ建設。
  3. その他の投資支出
    事業開始前の技術調査やプロジェクト監査。
  4. 耐用資産
    自治体用の車両や公的機関のコンピューター。
  5. 資本の移転や寄付
    第三者の投資支援のための資金。
    例:地域センターの設備整備のための寄付など。

一方で、公共投資とみなされない支出も明確化されている。

  • 財務支出
    市民向けの事業やサービスではない支出。
    例:借入金の利息支払い、債券購入などの金融投資、ローン返済の元金分(公的債務償還)など。

さらに、この改革では「最小優先配分ルール」を義務化している。分権自治政府(GAD)はこのルールを守るかどうかを自ら決めることはできず、予算のすべての段階で徹底的に遵守しなければならない。

具体的には以下のすべてで適用される:

  • 予算計画時(策定)
  • 予算承認・配分時
  • 予算変更時(改正)
  • 支出の約束・支払時(発生主義)
  • 実際の執行時

 

このため、分権自治政府(GAD)は、財務省(Ministerio de Finanzas)に提出する決算報告書に、「最小優先配分ルール遵守添付書類(Anexo de Cumplimiento de la Regla de Asignación Mínima Prioritaria)」を必ず添付する義務が課される。

添付書類は、財務省が180日以内に新たに作成するフォームに基づいて作成されることになっており、中央政府はこれを通じて分権自治政府(GAD)の予算執行が公共投資に充てられているかを確認する仕組みを整えることになる。

添付書類には、少なくとも次の4つの要件を満たすことが求められる:

  1. 年間非財務支出総額
    給与などの金融支出を除いた、公的機関の年間支出の合計。
  2. 投資に充てられる予算の内訳
    公共投資に使われる予算の具体的な明示。
  3. 投資が非財務支出総額に占める割合
    投資額が年間非財務支出に対して占める割合の算出。
  4. GAD最高責任者による署名入り証明
    情報の完全性と正確性を保証する証明書の添付。

分権自治政府(GAD)は、この情報を3か月ごとに公式ウェブサイトで公表する義務を負う。財務省(Ministerio de Finanzas)は、60日以内に監査とフォローアップを実施し、違反があった場合には憲法に基づき予算削減を適用する。

さらに、弁護士のレネ・ベドン(René Bedón)は、「会計検査院(Contraloría)は、異議や行政制裁、場合によっては刑事制裁も課すことができる」と指摘している。

 

段階的な変更

分権自治政府(GAD)が予算の使途に関して従うべき新ルールは、即時適用されるのではなく、段階的に導入される。弁護士のレネ・ベドン(René Bedón)は、「これは、地方政府が予算や内部構造を適切に調整する時間を確保するためである」と説明している。

具体的には、以下のように進められる:

一般分権自治政府(GAD)の場合

  • 2027年:予算の60%までを公共投資に充てる
  • 2028年:予算の65%までを公共投資に充てる
  • 2029年:予算の70%までを公共投資に充てる

小規模な農村区(Parroquias Rurales)の場合

 小規模農村区は予算が少ないため、変更の猶予期間が長く設定されている。

  • 2027年:予算の50%までを公共投資に充てる
  • 2028年:予算の55%までを公共投資に充てる
  • 2029年:予算の65%までを公共投資に充てる
  • 2030年:予算の70%までを公共投資に充てる

#DanielNoboa

 

参考資料:

1. Así es el proyecto de ley que cambia las reglas del presupuesto de los GAD

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