野党民主党のみならず、一部の共和党議員は、米国によるカリブ海での麻薬「疑惑」船に対する攻撃の合法性に疑問を呈している。米国の二重攻撃をめぐる論争は、議会における超党派の圧力の一端を示しており、上下両院の議員は、作戦の映像・音声資料への全面的なアクセスを求めている。この事件は、最初の攻撃が完全に致命的でなかった後に米軍が同船舶に乗船し生存していた者を殺害する目的で2度目の攻撃を行ったとの指摘がある。これに対しペンタゴン(Pentágono)の関係者は、この攻撃は船を沈める目的で実施されたものであると主張している。一方、ワシントン・ポスト(The Washington Post)は、作戦に直接関与していた2人の情報源を引用し、最初のミサイルが船に命中して火災が発生した後、指揮官たちは船の残骸につかまって水中に浮かぶ2名の乗組員がいることに気付いたということともに、指揮官から生存者殺害の命令があったと報じている。
CNNはこのようなドナルド・トランプ(Donald Trump)政権による行動の合法性への精査が議会内でも強まっていると報じている。
作戦映像へのアクセス要求の高まり
共和党所属の上院軍事委員会(Comisión de Servicios Armados del Senado)委員長ロジャー・ウィッカー(Roger Wicker)は月曜日、国防長官ピート・ヘグセス(Pete Hegseth)が、9月に疑わしい船舶に対する第二の攻撃が行われたことを確認したと報告した。
ウィッカーは、委員会が作戦の音声および映像資料に全面的にアクセスできることを期待していると述べ、第二の攻撃で生存者が死亡したかどうかを確認する必要があると指摘した。確認されれば、これは戦争法に違反する可能性がある。「我々は監督を行い、事実に迫ろうとしている」と同氏は述べた。
さらに、ウィッカーは統合参謀本部議長ダン・ケイン(General Dan Caine)とすでに会談しており、ホワイトハウスによれば攻撃命令を出したとされるフランク・M・“ミッチ”・ブラッドリー(Frank M. “Mitch” Bradley)と近日中に会談する予定であると述べた。
米下院軍事委員会(Comisión de Servicios Armados)委員長マイク・ロジャーズ(Mike Rogers)も、週末にピート・ヘグセス(Pete Hegseth)とこの事件について会談している。
ウィッカーとロジャーズは、カリブ海での軍事作戦に関する回答を求める共和党議員グループの一員である。この作戦はホワイトハウスが実施したもので、トランプ政権は、CNNによれば80人以上の死者を出している。
上院情報委員会での動き
上院の中道派として重要視されるトム・ティリス(Thom Tillis)は、「ワシントン・ポスト」など複数の報道機関が伝える報道の真偽を確認中であると述べた。報道によれば、ヘグセスは、生存者が炎上する船にしがみついていた際に二次攻撃を命じた可能性があるという。「事実として確認できれば、倫理的要件の違反であり、場合によっては法的違反にもなる」とティリスは語った。
下院議員ドン・ベーコン(Don Bacon)も、報道が事実であれば「問題である」と述べ、ヘグセスの指導力に疑問を呈した。トランプに近い立場のリンジー・グラム(Lindsey Graham)議員は「事実を確認したい」と述べ、長年の規範として、攻撃の生存者はもはや戦闘員とは見なされないことを指摘した。「どのような事実かを見極める」と同氏は語った。
ホワイトハウスが二次攻撃の存在を確認していたことを知らなかった上院議員ジム・ジャスティス(Jim Justice)は、2度目の攻撃の可能性を「完全に過剰」と評したものの、情報が限られていることを認めた。同氏は「受け入れ可能とは思えない」と述べた。
上院情報委員会(Comisión de Inteligencia)の指導者も、フランク・M・“ミッチ”・ブラッドリーとの説明会を検討している。民主党議員マーク・ワーナー(Mark Warner)は、今週中にブラッドリーと会談することを望み、作戦の未編集映像の公開を政府に要求した。これにより、船舶の乗員が置かれていた正確な状況を確認できると述べた。ワーナーは、トランプ政権による透明性の欠如に対し、不満を表明した。
一部の民主党議員は、二次攻撃を戦争犯罪の可能性があると位置づけている。そのうちティム・ケイン(Tim Kaine)は、共和党のランド・ポール(Rand Paul)にも、カルテルに対する大統領の軍事行動権限を制限する取り組みに加わることを期待していると述べた。これらの議員は同攻撃に対し、トランプが議会の承認を得ていなかったことを指摘している。
上院議員ピーター・ウェルチ(Peter Welch)は、「非常に重大な懸念を抱いている」と述べ、ピート・ヘグセス(Pete Hegseth)およびそのチームから直接説明を聞くことを望んでいると表明した。
国防長官による指示
上述の通りワシントン・ポストは1回目の攻撃後生存していた人物に対する殺害命令があったと報じている。作戦を指揮していた司令官によると、アメリカ合衆国の国防長官ピート・ヘグセスの指示「船にいる全員を殺せ」という命令を遂行するため、第二の攻撃を命じた。
この新たな攻撃により生存者は死亡し、船は沈没したと、事態に詳しい関係者がCNNに語った。関係者によれば、この攻撃は2025年9月2日に行われ、「軍が意図的に生存者を殺害した唯一の既知の事例」であるという。
しかし、ペンタゴンの関係者はその後、複数の議員に対し、この攻撃は船を沈めることと、「国家に対する危険」を防ぐ目的で実施されたものであると説明したとCNNは報じている。
9月2日の攻撃は、カリブ海におけるアメリカ合衆国の一連の船舶攻撃の最初のものであり、ドナルド・トランプ大統領によれば、「トレン・デ・アラグア(Tren de Aragua)」と呼ばれる多国籍犯罪組織に関連付けられた小型船舶を対象にしていた。一方、米政府の発表後、共和党下院議員 カルロス・A・ヒメネス(Carlos A. Giménez)は米軍がカリブ海で沈没させた船が「ソレス・カルテル(Cártel de los Soles)」 に属していると主張しており、情報が食い違っている。
ワシントンは、「ソレス・カルテル」を率いているのはベネズエラ大統領のニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)であると主張している。米国によるとこの組織は、現役のベネズエラ軍人が関与しているとされ、麻薬取引で利益を得ているとされる。そのため、米国はマドゥロの逮捕に対して5000万米ドルの懸賞金を提示している。
カルロス・ヒメネス議員の発言は、すでに地域で緊張が高まっていた米国の麻薬対策作戦に新たな政治的側面をもたらした。標的がマドゥロ政権と直接的な関係を持つと米国が主張するソレス・カルテルとすることで、ベネズエラ軍高官の役割を議論の中心に据えることが可能となるためである。なぜならトランプ政権がベネズエラ政権の同盟者や犯罪構造に直接対抗するという物語を強化するものだからである。
ヒメネスは、ベネズエラから活動する麻薬テロネットワークに対する圧力を維持する必要性を強調し、マドゥロ政権が「致死性の麻薬で我々のコミュニティを毒し続けている」と非難した。
一方、8月に内務大臣ディオスダド・カベジョ(Diosdado Cabello)は、これらの非難は虚偽であり「ソレス・カルテル(Cartel de los Soles)は、彼ら(米国)が作り上げたものだ」と、は述べた。カベジョ自身も、米国当局からこの組織に関与していると指摘されている。「ソレス・カルテルの話を彼らが作ったのは何年も前のことだ。その間、約300人の“首領(jefes)”がいた」と語った。
「誰かが彼らに迷惑をかけるたびに、その人物をソレス・カルテルの首領に据えるのだ」と述べ、さらに「しかし確かなことは、世界最大のカルテルが活動している場所は米国である」と付け加えた。ここで言及されているのは、米国の麻薬取締局(Drug Enforcement Administration:DEA)である。ベネズエラ当局にとって、麻薬対策はあくまで口実に過ぎず、軍事展開の真の目的は南米諸国の政権交代を引き起こすことである。
「国際人権法」も無視する米国
米国は、国連が「国際法違反」として停止を求めたにもかかわらず、カリブ海で別の「疑われる」麻薬高速艇をミサイルで破壊し、乗員を殺害し続けている。これは、国連人権高等弁務官(UN High Commissioner for Human Rights)フォルカー・テュルク(Volker Türk)が作戦の即時停止を要請したわずか24時間後にも実施されている。10月末、テュルク高等弁務官は「これらの攻撃、そして増大する人的被害は受け入れられない。米国はこのような攻撃をやめ、たとえ疑われる犯罪が何であれ、これらの船舶に乗っている人々の超法規的殺害を防ぐために必要なあらゆる措置を講じるべきである」と強く批判していた。
しかし、ワシントンはこの要求に応じていない。9月にカリブ海で開始した殺人計画は、その後太平洋で拡大されている。
米国防長官ピート・ヘグセス(Pete Hegseth)は、新たな攻撃を報告する際、X(旧Twitter)で「我々の海岸に薬物を持ち込み、アメリカの家庭を毒しようとするこれらの麻薬テロリスト(narcoterroristas)は成功しない」と投稿し、「国防総省は疑われる麻薬密輸者たちをアルカーイダ(Al Qaeda)と同じように扱う。今後も追跡し、位置を特定し、狩り、そして殺し続ける」と警告した。
すでに世界中のコンセなサスになっているように、本作戦に関する情報はほとんど公開されていない。ヘグセスが投稿した短い映像には、空中から撮影された爆発の瞬間だけが映され、破壊された船舶の乗員に関する詳細や積載していたとされる薬物の情報は提示されなかった。ヘグセスが述べるのは、「このランチャは、他のすべてと同様に、麻薬密輸に関与していることで我々の情報機関によって把握されており、既知の麻薬密輸ルートを航行し、違法薬物を運搬していた」ということであり、国際水域で行われていた攻撃が麻薬テロリストを対象とするものだということだ。しかし、亡くなった者たちが所属していたとされる犯罪組織については明らかにされなかった。
9月2日から11月2日までの間に、米国軍は麻薬を運んでいると「彼らが主張する」高速艇に対し16回の攻撃を行っている。先月初旬までの攻撃で60名以上が死亡しており、生存者は3名だけ確認されている。そのうち1名はコロンビア人、1名はエクアドル人で、それぞれ母国に送還された。また、別の1名の身元は不明である。
米国内外の専門家は、これらの作戦を「超法規的処刑(ejecuciones extrajudiciales)」と評価しており、この見解は国連の高等弁務官フォルカー・テュルクによっても支持されている。テュルク高等弁務官は「国際人権法に基づき、致死力を伴う武力の意図的使用は、生命に差し迫った脅威を与える人物に対する最後の手段としてのみ許される」と指摘する。さらにテュルクは、米当局が公表した限られた情報に基づき、攻撃を受けた船舶にいた人物はいずれも他者の生命に対して差し迫った脅威を与えていなかったと指摘しており「この状況では、国際法に基づき致死力を伴う武力行使を正当化するものではない」と述べている。
テュルクはまた、国家間の協力が「麻薬密輸という深刻な問題」に対抗する上で重要であることを強調し、今回の作戦に関して迅速かつ独立した、透明性のある調査の実施を求め続けている。
トランプ大統領は9月2日の攻撃を発表する際、ソーシャルメディア「Truth Social」において、米軍が「南方軍(United States Southern Command)の責任区域内で特定されたトレン・デ・アラグアの麻薬テロリストに対してキネティック攻撃を実施した」と述べた。政府は、船舶に搭乗していた人物が米国と武力紛争中の麻薬カルテルや犯罪組織に関与していると主張し、攻撃の合法性を正当化している。ホワイトハウスは、同政府の行動は「武力紛争法(Law of Armed Conflict)」に完全に準拠していると繰り返し表明している。
しかし、多くの法的専門家は、攻撃対象となった麻薬密輸者は戦闘員ではなく民間人であり、従ってこれらの攻撃は「私刑的処刑(extrajudicial executions)」に当たると指摘している。情報筋や専門家によると、9月2日の攻撃では生存者はほぼ無力で、差し迫った脅威は存在していなかったという。また、米国司法省は夏季に秘密裏に発表した法的見解で、大統領は自国民に差し迫った脅威をもたらすカルテルや犯罪組織に対して致死攻撃を行う権限を有すると主張している。
この作戦の合法性には米国防高官や同盟国の間でも懐疑的な声があり、米国南方軍司令官アルビン・ホルジー(Alvin Holsey)提督は、国防総省や統合参謀本部議長に対し合法性への疑問を呈した後、司令官職を辞任する意向を示した。国防総省の国際法専門弁護士も、攻撃の合法性に懸念を表明している。
参考資料:
1. Exigen audio y video de operación en el Caribe desde el Senado de Estados Unidos, mientras que un doble ataque genera preocupación
2. EE.UU. atacó 2 veces una misma lancha en el Caribe para matar a supervivientes, según medios
3. EE.UU. destruye otra presunta narcolancha en el Caribe a pesar de que la ONU pidió detener estas acciones por ser “violatorias del derecho internacional”
4. Congressman confirms that the ship sunk by the U.S. belonged to the Cartel of the Suns

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