(Photo:UNICEF/UNI601247/Le Lijour)
国際連合児童基金(United Nations International Children’s Emergency Fund:UNICEF)は2025年10月9日、新報告書『危機にさらされる子どもたち(Haiti Child Alert)』を発表した。この報告によると、ハイチにおける暴力の激化により、過去1年で家を追われた子どもの数が約2倍に増加し、68万人に達した。UNICEFはこれを「前例のない規模の国内避難」として警鐘を鳴らしている。
報告書は、ギャングによる暴力が避難を強いる主因であり、暴力の深刻化が公共サービスの崩壊や人道支援の不足と重なり、ハイチを未曾有の人道危機に陥れていることを指摘している。国内では130万人以上が避難生活を余儀なくされ、2025年上半期には避難キャンプが246カ所に急増した。子どもたちは絶え間ない暴力から繰り返し逃れなければならない状況にある。
UNICEF事務局長キャサリン・ラッセル(Catherine Russell)は、「ハイチの子どもたちは、驚くべき規模で暴力の被害に遭い、避難を余儀なくされている。逃げるたびに住まいだけでなく、学校に通う機会や子どもである権利さえも奪われている」と述べている。
さらに、報告書『SOS Enfants(SOS 子どもたち)』は、避難者の増加が他の危機を悪化させていることを明らかにしている。避難所の3分の1以上には基本的な保護インフラが整っておらず、子どもや女性たちが暴力、搾取、虐待のリスクにさらされている。また、多くの学校が避難所として使用されているため、約50万人の子どもたちの教育が妨げられている。
ハイチは現在、多重の危機に直面している。2025年には330万人以上の子どもたちが人道支援を必要としており、前年の300万人からさらに増加している。そのうち100万人以上が深刻な食料不安に陥っている。予測では、今年5歳未満の約28万8,544人の子どもが急性栄養失調に苦しむ見込みだ。武装ギャングはポルトープランスや主要道路の85%以上を支配し、家族から食料や医療、保護サービスへのアクセスを奪っている。一方で、人道支援に携わる関係者は、最も困難な状況にある人々を支援するために深刻な危険にさらされている。
国際連合児童基金(UNICEF)は、「ハイチの子どもたちにとって、この複合的な危機は日々の生存をかけた闘いを意味しており、学校の閉鎖、医療機関の機能不全、暴力、見捨てられること、搾取、飢えによって子ども時代が奪われている」と説明している。
また、UNICEFの報告書で事例として紹介された母親のブランディーヌ(仮名)は、「私が願うのは、ハイチの子どもたちが――自分の子どもだけでなく、すべての子どもたちが――学業を修了し、手に職をつけて未来を切り拓いていけることだ」と語っている。
さらに、UNICEFは「教育制度は攻撃を受けており、ハイチの子どもの少なくとも4人に1人が就学していない」と指摘する。この状況は、犯罪組織(ギャング)による子どものリクルート(徴用)のリスクを高めている。「わずか10歳の子どもたちが武器を持たされ、見張りや危険な任務を強いられている」と警鐘を鳴らしている。
ユニセフの役割と求めるもの
ユニセフとそのパートナー団体は、今年これまでに栄養失調の子ども86,000人以上を治療し、117,000人に医療支援を提供、さらに140,000人に安全な飲料水を供給している。また、2024年以降はハイチ政府と連携し、武装集団に関与していた178人以上の子どもたちの保護および社会復帰を進めている。
ユニセフは、避難を余儀なくされたハイチの子どもたちに対する緊急支援と保護の拡大を図るため、国際社会に即時の支援を要請している。支援内容には、安全な避難所の提供、家族の捜索および再会プログラム、心理社会的支援、医療、栄養、教育、安全な飲料水や衛生サービスへのアクセスなどが含まれる。
しかしながら、ユニセフの「子どものための人道的行動計画(Humanitarian Action for Children:HAC)」に対する資金提供は依然として大きく不足している。このまま緊急の資金拠出がなければ、必要不可欠な支援プログラムは大幅に制限され、多くの子どもたちが十分な保護と支援を受けられなくなる可能性がある。
ユニセフ事務局長のキャサリン・ラッセルは、「ハイチの子どもたちは待つことができない。すべての子どもたちと同様に、安全に、健康に、そして平和の中で暮らす権利がある。今すぐ行動を起こすことは、私たち全員の責任だ」と強く訴えている。
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