(Photo by TheDuckfartr/wikipedia)
ウーパールーパーはメキシコ原産のサンショウウオの一種だ。インターネットでそれを調べれば、飼育方法が容易に見つかるし、比較的安価に手に入ることもありペットとして人気だ。一方アホロトル(axolotl)、つまりウーパールーパーを含むメキシコの山の湖に生息するサンショウオは現在絶滅への道を辿っている。背景に汚水、無責任な観光、この両生類を捕食する鯉やティラピアなどの導入魚種による汚染がある。アホロトルは有尾両生類だ。カエルなどとの違いは大人になっても多くの時間を水の中で過ごすこと、そして変態せずに一生水中で過ごすことにある。
メキシコシティのソチミルコ(Xochimilco)は元来アホロトルで有名な場所だった。一年における最高気温が27度程と比較的涼しい気候にあり、また、農村の溜池や用水路など過ごしやすい環境があったことによる。1998年の記録によるとソチミルコ湖で発見されたアホロトルの数は1キロ四方に6,000匹だった。しかし2014年におけるその数は同面積において35匹と激減した。数の減少は1970年代以降顕著となっている。水の汚染や新たな敵の登場が、ソチミルコにおける野生のアホロトルとの出会いをほぼ困難なものとした。上述の通りペットブームも拍車をかけた。その一端を担ったのがゲーム「マインクラフト(通称マイクラ)」だ。マイクラにおけるウーパールーパーをとても可愛い友好的な動物、そして決して攻撃してくることない動物として扱った。また、気候変動で危機に瀕した湖の底にいるアホロトルののどかな生活を描いた児童書「My Life At The Bottom」が賞を受賞したことでも人気を博している。結果としてアホロトルはリアルな観賞用動物としての需要が高まった。メキシコ国立自治大学(Universidad Nacional Autónoma de México:UNAM)はテキサス州ダラスにある米国の繁殖保護施設の共同経営者であるジェイク・パック(Jake Pak)が自分の店でアホロトルをペットとして買おうとする子供のほぼ全員が、ゲームの中でこのサンショウウオのことを知ったと通信社NPRに語った発表した。
大人になってもエラを持ったままの姿ですごすメキシコ・サラマンダーは幼生成熟(ネオテニー)だ。それは他のペット同様、命を持っている。ゲームが軽ろんずる命ではなく、決して復活することのない命だ。一度生態系が崩され、絶滅すればこの世に戻ってくることはない。だから彼らの生息地の改善が求められるし、安易な気持ちで命の売買をすべきでもない。
アホロトルはアステカ時代、神の一種だった。より正確に言えばアステカの火と雷の神であるソロトル(Xolotl)が生贄にされるのを避けるためにサラマンダーに変装したものだと言われている。
National Geographicはアホロトルについて
頭から羽毛のようなエラが生え、足には網があり、背びれは体の長さ分あり、尾もある。エラは残っているが、大人のアホロートルは肺の機能を持ち、皮膚で呼吸することができる。そして、永遠の赤ちゃんであることを忘れてしまうほど、口が上向きでモナリザのような微笑みを浮かべている
と、そのユニークさと美しさを表現する。
アホロトルは、失った手足、心臓、脊髄、脳の一部を再生する能力を持っている。だから生物学者の研究対象としてもよく知られている。その再生能力は損傷部分が見つけられないほどのものであり、この解明は人間の組織再生能力を解き明かすことにもつながるのではと期待されている。
アホロトル1歳で性成熟し、野生では2月に産卵期を迎える。オスは尾や下半身を揺らしながら求愛の「フラ」ダンス、湖底に精子包を沈ませ、メスはそれを肛門で拾い上げ、卵を受精させる。植物や岩の上に産み付けられた最大1000個(平均300個程度)の卵は2週間後に孵化を迎え、その後親の世話なしに育っていく。アホロトルが変態しないのは、生態域である場所が干上がることがないためとされている。その一方で水の汚染は彼らの生命に大きな影響を及ぼすこととなっている。
以前はメキシコ盆地のスムパンゴ湖やチャルコ湖、テスココ湖にも生息していたアホロトルは埋め立てによって生息地が消滅したにより、姿を消した。1975年のワシントン条約発効時から、同動物はワシントン条約附属書IIに掲載され規制の対象となっている。密猟に伴う絶滅の危険から国境を越えての取引が禁止されているのみならず、米国の一部の州では飼育自体が違法となっている。それは飼育下から逃げ出して在来のサンショウウオと交雑する危険性もあることを危惧するものでもある。
ソチミルコにおけるアホロトルの現象は3つの事象によるものだと科学者たちは考えている。一つはソチミルコの都市化、二つ目に処理場からの廃棄物で満たされた水質、そして1970年代から1980年代にかけてグリーン革命のビジョンを掲げて導入された鯉とティラピアだ。
メキシコ国立自治大学は、絶滅危惧種であるメキシコのサンショウウオの生息地を保護する環境計画のための国際募金キャンペーン「AdoptAxolotl」を開始した。このキャンペーンは、20年以上に渡りアホロトルの自然環境を守るための保護プロジェクトに取り組んでいる生物学者ルイス・サンブラノ(Luis Zambrano González)が発表したもの。そのプロジェクトの一つが「チナンパ避難所(refugio-chinampa)」の整備で、捕食者からアホロトル種を守りながら、本来の生態系を維持することを目的としている。チナンパとは、メキシコシティの淡水湖に農業用として作られた人工島を指す。
コロニー維持のためのキャンペーンは大きく4つある。200ペソ(約1400円)で始められる「アホロトルをディナーへご招待(INVITA A CENAR A UN AXOLOTE)」、仮想養子縁組プログラムであり600ペソ(約4200円)から始められる「アホロトルを受け入れる(ADOPTA UN AXOLOTE)」、1000ペソ(約7000円)で始められる「アホロトルのお家を整備する(Tunea la casa del ajolote)」、ソチミルコの彼らのお家への個人訪問と専門家との対話をも可能にする「アホロトルのお家を受け入れる(ADOPTA LA CASA DE UN AXOLOTE)」だ(ドネーションはこちらから)。
エコシステムは微妙なバランスの上で成り立っており、何か一つが欠けても成り立たない。アホロトルももちろんその一員である。我々人間は生命をさまざまな方法で奪うのみならず、その大切な命を後世につなげることもできるはずである。
参考資料:
1. Axolotl
2. Biologists promote “Adopt an Axolotl” campaign to raise funds for conservation
3. ADOPTAXOLOTL: UNA CAMPAÑA UNIVERSITARIA PARA SALVAGUARDAR EL AJOLOTE MEXICANO
4. Buy an Axolotl Dinner, Save It from Extinction
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