「ティファイファイ(Tīfaifai)」は、ポリネシアの工芸美術を象徴する伝統的な作品である。タヒチとその周辺の島々では、家庭のベッドやソファにこの地元の傑作を広げていない家はほとんど存在しない。インテリアに陽光あふれるエキゾチックな雰囲気を加えたい場合や、ベッドや赤ちゃんの寝室を独創的に彩りたい場合には、ティファイファイに頼るのが最適である。
「ティファイファイ」、すなわちタヒチ語で「縫い合わせた毛布」を意味するこの工芸品は、フランス領ポリネシアにおける真の文化的象徴と言える。市場や店舗、工芸展示会では、これらの布地が目に留まらないことはほとんどない。そして、多くの場合、その場で自然界からインスピレーションを得た大判の布を手に入れることができる。花や葉、地元の果物など、ひとつひとつの「ティファイファイ」は、タヒチとその島々の風景や文化をそのまま切り取ったかのような存在である。大判の布には色鮮やかなアップリケが施され、地域の動植物や島の暮らしから着想を得た独特の模様が描かれている。この布一枚一枚が、ポリネシアの自然や文化を反映する芸術作品であり、単なる布製品を超えた価値を持つ。ポリネシアの職人たちは、鮮やかで多様な模様の布地を用い、芸術作品と呼ぶにふさわしいテキスタイルを生み出している。
ティファイファイの役割
近年、ポリネシアの芸術への関心が高まったことにより、「ティファイファイ」を購入して自宅のインテリアに取り入れることも可能となっている。ベッドに横たわり、「ティファイファイ」を掛け布団として身にまとうと、まるでタヒチとその島々の白砂の美しいビーチに心が運ばれるような感覚を味わえる。ひとつひとつの模様は物語を語り、伝説を呼び起こし、遠く離れたこの土地の豊かな自然を象徴している。また、ポリネシアの神々を表す有名な彫像「ティキ(tiki)」のモチーフが模様に組み込まれることも多く、作品に神秘的で特別な次元を加えている。多くの専門店では、この伝統工芸に由来する幅広い製品が取り揃えられ、現代の生活空間に彩りを添えている。
最も美しい「ティファイファイ」は、手縫いによって丁寧に作られる。ママ(māmā:母親、祖母:ティファイファイを制作する女性たちを指す親しみのある呼称)たちは、この作業に数か月を費やすこともあり、1枚の「ティファイファイ」作成に100時間以上かかることも珍しくない。場合によっては複数のママが交代で作業したり、同時に同じ作品に取り組むこともある。特に「ププ(pupu)」と呼ばれる職人たちの技術共有の集まりでは、こうした共同作業が行われる。「ティファイファイ」は単なる布ではなく、装飾用の布であり、特別な機会に贈られる大切な品である。実際、タヒチとその島々では、結婚の際に新郎新婦を「ティファイファイ」で包むことが伝統とされ、子沢山や長寿の象徴とされている。さらに、伝統的には「ティファイファイ」は死者をあの世まで伴う死装束としても用いられてきた。現在でも、この慣習が限定的に行われることがある。
自然に着想を得た華やかな模様を持つ「ティファイファイ」は、ポリネシア人にとって誇りである。この芸術の美しさを称えるため、家族たちはオーストラル諸島(Îles Australes)で行われる伝統的な文化行事「トモラア(Tomora’a)」の際、自宅には最も美しい作品を展示する。マルキズ諸島(Îles Marquises)のタパ(tapa:樹皮を叩いて作る布)と同様に、「ティファイファイ」はルルツ(Rurutu)、トゥブアイ(Tubuai)、リマタラ(Rimatara)、ライヴァヴェ(Raivavae)などのオーストラル諸島で高く評価されており、ママたちは本格的なオートクチュールのデザイナーのような役割を果たしている。「ティファイファイ」はまた世代を超えて受け継がれ、施された模様はそれぞれのポリネシアの地域やグループ固有の文化的アイデンティティを示す。タヒチ人が自らの「ティファイファイ」を持ち本土に移住することで、島での家族や時間を思い起こす役割も果たす。
ティファイファイの直面する問題
「ティファイファイ」は手作業で丁寧に作られるため、生産に時間と手間がかかる。これは伝統を守りつつ供給量を増やすことが難しく、その人気の一方で需要に応えられないことを意味する。一方、アジアなどからは「ティファイファイ」という名の布製品が大量に輸入され、販売されることがある。このため、地元の職人たちは価格面で太刀打ちできず、生計に深刻な影響を受けている。もともとは日常的に使われる布製品だったが、現在では高級工芸品として価値があるにもかかわらず、安価な模倣品の存在によって正当な価格が認められにくいのが実情だ。
このような問題に直面しフランス領ポリネシア政府の閣議において、「ティファイファイ」という名称を地元で保護するための新しい政令案が提出された。この政令の目的は、 「ティファイファイ」という伝統的な名称と職人の技術を保護すること、偽物や安価な模倣品が「ティファイファイ」と名乗ることを防ぐことにある。
伝統工芸の分野では、長年受け継がれてきた技術や手作りの価値を守りながらも、安価な輸入品との競争が大きな課題となっている。中でも「ティファイファイ」を制作する職人たちは、その影響を特に強く受けている。「ティファイファイ」は、非常に細かい手作業を重ねて仕上げられるものであり、大量生産には向かない。もともとは日常生活で使われる布製品だったが、現在では高級で特別な工芸品として扱われるようになっている。しかし近年、アジアなどから輸入された安価な布製品が「ティファイファイ」という名称で販売されるようになり、本物の職人たちの作品の価値を損なうだけでなく、彼女らの生計にも深刻な影響を及ぼしている。
新しい政令では、「ティファイファイ」という名称を使用できるのは、地元の伝統工芸職人、もしくは公的に認められた職人団体に所属する者に限られることとなった。これにより、地域の伝統的な技術と文化を守り、本物の職人による作品の価値を確保することが目的とされている。
一方で、外国からの輸入業者が直接的な不利益を受けることはない。これまでどおり南国風の模様を施したベッドカバーなどの製品を販売することは可能であるが、「ティファイファイ」という名称を用いることは認められない。「ティファイファイ」という語は、その制作技法と完成した作品の両方を指す言葉として定義されているため、地元職人の作品を模倣した輸入製品などに「ティファイファイ」という名称を付けて販売する行為は、今後禁止されることになる。
職人や関連事業者への周知は、「伝統工芸局(Service de l’artisanat traditionnel)」が担当することになっている。同局は、説明会の開催、電子メールの配信、ソーシャルメディアでの広報など、直接的・間接的な方法を通じて情報を伝達する予定である。
また、この政令の実施状況の確認および監視は、「伝統工芸局」と「経済局(DGAE:Direction Générale des Affaires Économiques)」が共同で行う。両機関は協力して、名称の不正使用や規定に反する販売行為が行われていないかを監督し、制度が適切に運用されるよう管理していく方針である。
ティファイファイの起源
「ティファイファイ」は、18世紀末、イギリス人宣教師がポリネシアの島々に到着した頃に始まったとされる。宣教師の妻たちは、古い服や布の切れ端、シーツなどを使ったパッチワーク技術を上流階級の女性に教えた。その技術はやがてポリネシアの女性たちに受け継がれ、地域独自の模様を取り入れたポリネシアン・ティファイファイが誕生したのである。
これ以前、タヒチの女性たちは「タパ」と呼ばれる植物繊維の布を用いて装飾用タペストリーや衣服を作っていた。この布は桑の樹皮を叩いて作られ、動植物を象った模様が施されていた。タパはティファイファイの先祖ともいえる技法であり、ティファイファイの誕生にも影響を与えた。
参考資料:
1. La dénomination « Tifaifai » est désormais strictement encadrée
2. Buying a tifaifai – Traditional handicraft
3. Tifaifai : tout ce que vous voulez savoir sur cette technique de patchwork !



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