ペルー:10月第3金曜日を「ピカロネスの日」に、アイデンティティと農家の経済的活性化に向け

(Photo:Picarones Marcelo / Facebook)

ペルーは、本年より毎年10月の第3金曜日を「ピカロネスの国家の日(Día Nacional de los Picarones)」として制定した。これは、国の食文化に対する誇りを強調し、観光および地域経済の促進を目的としたものである。

ピカロネスは、サツマイモやカボチャ、甘いシロップ(主にチャンカカ)、およびスパイスを組み合わせて作られる。独特の甘いシロップをかけて供されるこの菓子は、現在でも国内で最も広く消費される伝統的なデザートの一つである。

この施策は、農業灌漑開発省(Ministerio de Desarrollo Agrario y Riego:MIDAGRI)によって発表された。同省によれば、この記念日の制定には以下の三つの目的がある。

  • 国家ガストロノミー・アイデンティティの強化

  • 小規模農家の経済的活性化

  • 観光振興および食文化の保全

さらに、2025年からは、ピカロネスの消費促進と、それに使用される農産物の価値向上を目的とした広報活動やプロモーションイベントが実施される予定である。

 

ペルーのガストロノミー・アイデンティティの称揚を目指した取り組み

この施策は、農業灌漑開発省(MIDAGRI)が発出した省令第0337-2025-MIDAGRI号(Resolución Ministerial N.° 0337-2025-MIDAGRI)によって正式に制定されたものである。目的は、ペルーを象徴する伝統菓子であるピカロネスの価値を再評価するとともに、家族経営の農業によって生産された農産物の消費を促進することである。

農業灌漑開発省(MIDAGRI)は、ペルーの海岸地帯、アンデス山脈地帯、アマゾン地域に由来する食材、具体的にはサツマイモ(camote)、カボチャ(zapallo)、キヌア(quinua)、キウィチャ(kiwicha)、ジャガイモ(papa)、チャンカカ蜜(miel de chancaca)、カカオ(cacao)などの農産物を重要視している。これらの食材の多くは家族経営の農業によって生産されており、その農業形態は多くの農村家庭にとって主要な経済基盤となっている。また、これらの食材はペルーのガストロノミー遺産における生物多様性(biodiversidad)の維持・発展にも貢献している。

 

ピカロネスの起源と調理に不可欠な主要食材

ペルー政府観光サイト「Perú Travel」によると、ピカロネスの起源はプレヒスパニック(先スペイン時代)にまで遡るとされている。ペルーの現在のリマ地域が発祥の伝統的なデザートとも言われている。インカ時代には、サツマイモやカボチャを使った類似の料理がすでに存在しており、スペイン植民地時代になると小麦粉や砂糖といった新たな食材が加わり、現在のピカロネスの形が完成したとされる。先住民の料理文化とスペイン料理の伝統が融合した結果として誕生したピカロネスは、スペインのブニュエロ(揚げ菓子)の経済的な代替品としても用いられたと言われている。この頃から中央に穴の開いたリング状の形が定着し、現在に至っている。ペルー副王領時代(Virreinato del Perú)には、ピカロネスは頻繁に食される食べ物となり、やがてペルー料理を代表する伝統菓子の一つとして定着した。

ピカロネスのレシピは特にアフリカ系ペルー人女性(アフロ・ペルー人)によって世代を超えて受け継がれてきた。多くの女性は「ピカロネーラ(picaronera)」と呼ばれ、歌や詩を使ってピカロネスを売り歩く伝統を持っている。毎年10月に行われる「主の奇跡(Señor de los Milagros)」の宗教行事の際には、新鮮なピカロネスが行進とともに販売されるのが恒例となっている。ピカロネスはこの祭礼の時期に特に多く消費され、国民的な食文化の象徴としての地位を確立してきた。

 

ピカロネスの起源はチリなのか

ペルー料理が国際的に注目され続ける中で、代表的な料理の起源をめぐる論争が時折巻き起こっている。今回は、国民の祝日として制定されたピカロネスに焦点が当たり、チリのテレビ番組での発言が波紋を呼んでいる。問題となったのは、チリのテレビ司会者が番組中に「ペルーの皆さんは怒るかもしれないが、ピカロネスはチリ発祥だ」と発言したことである。

チリのテレビ局Megaの番組で、司会者ホセ・アントニオ・ネメ(José Antonio Neme)は「ピカロネスはチリのものだと思う……それでいいじゃないか!」と自信満々に主張した。彼は歴史的な根拠を一切示さず、ペルーを代表するデザートの起源を否定したのである。

これに対し、共演者の一人が「ペルー人の間では、このデザートがペルー料理の一部であることは明らかだ」と指摘し訂正を試みたが、ネメ氏は主張を変えなかった。他の出演者たちも「ピスコの起源問題と同様に、この話題には議論の余地がある」と述べ、議論をさらに煽る結果となった。この発言はSNSで瞬く間に拡散され、多くのペルー人ユーザーが怒りや失望を表明。「文化の盗用だ」「またもや“ガストロノミー戦争”か」と、ピスコやセビーチェに続く“料理の起源論争”として注目されている。

今回の件は初めてのことではない。ピカロネスの起源をめぐる論争はここ数年にわたり続いている。2019年には、チリ政府の公式ブランド「Marca Chile」がSNS上で「ピカロネスはチリ料理の一部である」と示唆する投稿を行い、ペルー国内から激しい批判が殺到した。その結果、投稿は削除される事態となった。

ピスコ・サワー(pisco sour)と同様に、両国が国家の誇りとしてその起源を主張しており、ピカロネスもまた国境を越えた象徴的な存在となっている。

 

世界50種類のドーナツランキングでペルー代表として選出

Taste Atlasは国際的なドーナツランキングでピカロネスを評価している。ピカロネスはTaste Atlasで4.1点を獲得しており、このスコアはペルーのデザートの中で2位にあたり、ペルー料理全体のレシピの中では25位にランクインしている。一方、ドーナツ部門の1位は、イタリアのカーニバル時期に楽しまれている「ボンボローニ(bomboloni)」である。

Taste Atlasのレビューにはこう記されている。「ピカロネスはペルーのストリートフードの定番で、しばしば『ペルーのドーナツ』と呼ばれる美味しい揚げ菓子だ。生地はリング状に成形され、熱い油で揚げられ、仕上げにサトウキビの甘いシロップがかけられる」。さらに、「ピカロネスはサンタクララ修道院の修道女たちによって広まり、現在では特に10月の宗教祭典の時期に人気がある」と締めくくられている。

 

世界でピカロネスが食べられるおすすめレストランTOP10

Taste Atlasはピカロネスを味わえる世界のおすすめレストラン10店を紹介している。そのうち9店はペルー国内にあり、1店だけがオーストラリアにある。

  1. Picarones Mary — リマ、ペルー

  2. Doña Julia — リマ、ペルー

  3. El Tío Mario — リマ、ペルー

  4. La Panka — リマ、ペルー

  5. Granja Azul — リマ、ペルー

  6. Saqra — リマ、ペルー

  7. Panchita — リマ、ペルー

  8. El Rincón Que No Conoces — リマ、ペルー

  9. Pastuso — メルボルン、オーストラリア

  10. Picarones Marcelo — リマ、ペルー

#Gastronomy

 

参考資料:

1. Gobierno declaró cada tercer viernes de octubre como el ”Día nacional de los picarones”: conoce la historia detrás de este delicioso postre
2. Presentador de TV genera polémica sobre el origen de los picarones: “Aunque los amigos peruanos se enojen, los picarones son chilenos”
3. Los picarones son incluidos dentro de las mejores donas del mundo por Taste Atlas: ¿en qué puesto están?

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