(Photo:@ibaillanos / Instagram)
人気のスペイン人ストリーマー イバイ・ジャノス(Ibai Llanos)が主催する『朝食ワールドカップ(Mundial de Desayunos)』は、SNS上で期待を集め続けており、現在の注目はエクアドル対ペルーの対決に集中している。伝統料理であるボロン(Bolón)でグアテマラを破り、エンセボジャードを添えた形で次のステージに進んだ。エクアドルの“味の代表チーム”は、オンライン上で市民の応援を受けながら、準決勝進出を目指している。
この企画は、各対決ごとに何千人ものユーザーが参加するデジタル現象となっている。トーナメント形式は本物のワールドカップのように、ベスト16、準々決勝、準決勝、決勝と進行し、各対戦の勝敗は完全に視聴者の投票によって決まる。本大会にはエクアドル観光省も注目と共に、エクアドルが勝てるようにとボロンやエンセボジャードのキャラクターを用いながらキャンペーンを張っている(詳細はこちら)。
ベスト16ではグアテマラの朝食「チャピン(chapín)」に対し、エクアドルのボロンは1,900,000票対1,800,000票という僅差で勝利した。それに対し今回の対戦相手であるペルーの「パン・コン・チチャロン(Pan con chicharrón)」はメキシコの朝食「タマル」に対して250万票対120万票という圧倒的な差で勝利した。
ベスト16におけるエクアドルの勝利を祝いイバイ・ジャノスは、ボロンに特別な要素を加えた。それが「エンセボジャド(Encebollado)」である。さらに、コメント欄でユーザーの提案を読んだ後、ボロンに目玉焼きと肉汁(jugo de carne)も追加した。現在、エクアドルは次の対戦相手であるペルーと最終対決中である。
投票に参加するにはイバイ・ジャノスのInstagramまたはTikTokアカウントにアクセスし、「エクアドル」とトリコロール(三色旗)が言及されている投稿やコメントを探す。「いいね」を押し、メッセージを残す。各SNSでのすべての票が、ペルーに勝利し次のラウンドに進むための力となる。
イバイ・ジャノスは「ノベレリア(話題好き)」、いやむしろ、エクアドルとペルーで巻き起こっている『朝食ワールドカップ』への本物の熱狂に驚いていると言う。『朝食ワールドカップ』とは、実際のところ、内容のない架空のトーナメントである。どれだけイバイが、10年もの間「コンテンツそのもの」を最も成功裏に創り出してきた人物であったとしても、である。この「大会」には、ミシュランの星付きレストランのシェフも、名のある大衆料理人も、エクアドルのボロンやペルーのパン・コン・チチャロン、その変種や歴史を分析する人類学者も登場しない。勝者に授与されるリボンや賞状も存在しない。
ボロンで団結!
実際にあるのは、イバイ・ジャノスのSNS上に開かれた極めてシンプルな投票だけである。「最高の朝食はどっち? ボロン? パン・コン・チチャロン? 投票してください。それだけ。」という仕組みである。この「仕掛け」の核心は、単なる投票をあたかもサッカーのトーナメント形式に見せかけ、「朝食ワールドカップ」と銘打ったことにある。だが、そこに公的な美食団体の承認は一切ない。これは完全に“純粋で剥き出しのバイラリティ(拡散力)”に依存した企画なのである。
なぜエクアドルとペルーでこれほどまでに自国の料理を熱烈に擁護する騒ぎが起きたのか?なぜ各国政府までもが、何の実質的な価値もない投票に口を出すようなことになったのか?それはまるで、「我々の国歌は世界で2番目に素晴らしい」という有名な都市伝説のような話ではないか?
1. ペルーとエクアドルにおける食文化への誇り
ペルーにおいて、食の評判を守ることは極めて情熱的に行われる。国家としても、ペルー料理を世界に売り込むために多大な努力がなされてきた。そのため、たとえ冗談半分でも、「もっと優れた何かが他にある」と暗に示されることすら、ペルー国内では不快に感じられるのである。
一方、エクアドルでは常に、政府がエクアドル料理を本来あるべき形でプロモーションしてこなかったという不満が存在してきた。エクアドル国民の間では、「自国の料理は決してペルーの料理に劣ってはいない。ただ、売り方がまずかっただけだ」という認識が広がっている。これら二つの異なる認識の衝突こそが、『朝食ワールドカップ』におけるこの集団的熱狂を引き起こした要因と言える。
2. 代表的な料理
食事は単なる栄養補給以上のものである。歴史や伝統、そしてアイデンティティと結びついているのだ。
クロード・レヴィ=ストロースは、ある社会が食べ物を調理し消費する方法は単なる生物学的行為ではなく、完全な社会的事象であると提唱した。彼にとって、ある民族の料理は一種の言語である。
エクアドルのボロン(特に緑色のバリエーション)やペルーのパン・コン・チチャロンは、広く象徴的な意味を持つに至っている。
例えば、ペルーのパン・コン・チチャロンは非常に家庭的かつ日曜日の食事として親しまれている。
こうした料理を「世界レベル」で競わせることで、これはおそらくイバイ氏は認識していなかったが(それでもうまくいったが)、人々は単に料理に投票しているのではなく、自らの文化、過去、国に対しても投票(あるいはそのつもり)をしているのである。
3. イバイ・ジャノス、その天才
このイベントの主催者は単なるコミュニケーターではない。イバイ・ジャノスはスペイン語圏で最も大きく影響力のあるストリーマーの一人である。彼のプラットフォームには何百万もの視聴者が存在する。彼が何かを宣伝すれば、フォロワーだけでなく、彼のバイラル性を見抜く嗅覚とカリスマ性によって、莫大な注目を集めるのだ。
4. ソーシャルメディア上の競争
このコンテストの投票形式は、特に競争が激しいソーシャルメディア上での熱心な参加を促進した。
リンクの共有、ミームの投稿、ハッシュタグの作成といった行為は、コミュニティ意識や共通の目的意識を強化する役割を果たす。
そのため、行政関係者、企業家、有名人、メディア、一般市民までが、深く考える暇もなくバイラル現象に巻き込まれ、なぜデジタル投票でどちらの朝食が「優れている」と決まるのかについてはあまり考えられなかった。
大衆の優先事項は、ボロン(エクアドルの料理)かパン・コン・チチャロン(ペルーの料理)を支持していることを示すことであった。
フラン・セグラによる応援
「世界の朝食選手権」におけるエクアドル対ペルーのガストロノミー対決には、支持や新たな試みが相次いでいる。今回は、グアヤキルにある料理学校「エス・クエラ・デ・ロス・シェフス(Escuela de los Chefs)」がこのチャレンジに参加し、地元の味をスペイン人シェフに紹介することにした。それが、パティシエのフラン・セグラ(Fran Segura)である。
@laescueladeloschefs Respuesta a @Ibai ♬ Light Jump(剪辑版) – zeroX
TikTokに投稿された動画の中で、同校は、フラン・セグラが市内の伝統的な市場を訪れ、初めてボロン・デ・ベルデ(bolón de verde)を試食する様子を紹介している。体験は伝統に忠実であり、黄色いビニール袋に入れて提供され、ジュースが添えられていた。
「これはなかなかのボリュームだ」と、シェフは驚きながらコメントし、その後、第二の挑戦を受け入れた。すなわち、エクアドル沿岸部を代表する料理であり、今回のオンライン大会においてペルーの朝食と直接対決する一皿、エンセボジャドの試食である。
「ペルーに勝つためには、たくさん投票しないとだめですよ……」と、セグラはカメラに向かって冗談交じりに語りながら、スープにチフレス(chifles:揚げバナナチップ)を加え、食べ始めた。
この取り組みは、エクアドルが大会で勝ち進むために投票を促すことを目的としている。この大会では、各国を代表する朝食が対決しており、イバイ・ジャノスの発表によれば、エクアドル対ペルーの対戦の勝者は、9月1日(月)に発表され、同日に投票が締め切られる予定である。現時点では、エクアドルは南の隣国ペルーに対して劣勢にある。
@ibaillanos El mundial de desayunos no tiene sentido.
♬ sonido original – Ibai
Twitchで1,200万人以上、YouTubeで約1,000万人のフォロワーを持つイバイ・ジャノスは、スペインおよびラテンアメリカにおいて影響力のあるコンテンツクリエイターとしての地位を確立している。彼の『朝食ワールドカップ』は、エンターテインメントとガストロノミーが結びつくことで、どれだけ多くの人々を楽しませ、コミュニティをつなげることができるかを証明している。
「エス・クエラ・デ・ロス・シェフス」は、パティシエのフラン・セグラの訪問を逃すことなく、ボロンとエンセボジャドを振る舞うことで、イバイ・ジャノスの大会に応える形となった。この対決は8月31日に終了する。
参考資料:
1. ‘Mundial de Desayunos’: un chef español prueba bolón y encebollado en Guayaquil
2. ¿Cómo votar en ‘El Mundial de los Desayunos’ de Ibai Llanos?
3. Ecuador avanza a los cuartos de final en ‘El Mundial de los Desayunos’ de Ibai Llanos
4. ¿Por qué ha causado tanta euforia en Ecuador y Perú el Mundial de Desayunos de Ibai Llanos? ¿O todo fue una trampa?
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