映画:ラファエル・コレアのドキュメンタリーと「精神的影響」と言う罪

2007年から2017年までエクアドル大統領を務めたラファエル・コレア(Rafael Correa)の司法問題を扱ったドキュメンタリー作品『インフルホ・シキコ(Influjo psíquico)』は、クラウドファンディング・プラットフォーム「Goteo.org」における資金調達キャンペーンで必要最低額の約10%しか集まらず、目標未達のまま終了した。タイトルにもなっている「インフルホ・シキコ」という言葉は、コレア元大統領に対する訴追の中で使われた異例の法的表現に由来している。

 

資金調達キャンペーンの概要

  • 開始日:2025年6月5日

  • 終了(アーカイブ化)日:2025年7月16日

  • 目標金額:

    • 最低目標:63,100ユーロ(約68,800米ドル)

    • 理想目標:71,600ユーロ(約78,000米ドル)

  • 実際に集まった金額:6,427ユーロ(約7,000米ドル)

  • 支援者数:134人

Goteo.orgのサイトに掲載された7月15日付の最後のメッセージでは、「ご支援くださった皆さま、ありがとうございました。Goteoにて第二ラウンド継続中、最適目標に向かって頑張ります!」と支援者への感謝と継続の意欲が示されていたが、翌日の7月16日にはプロジェクトは「アーカイブ済み」と表示され、キャンペーンの事実上の終了が確認された。

 

ラファエル・コレアをめぐる奇妙な裁判

2020年4月、エクアドル司法がラファエル・コレア元大統領に対し、収賄罪で禁錮8年の判決を下した。その判決文の中に、一見すると些細で、しかし奇妙な一文があった。簡潔かつ荒唐無稽なその一文は、国際メディアやエクアドル国内のメディアによって、意図的か過失かは別として、大部分が見過ごしてしまった。

だが幸いなことに、細部に目を凝らし、目に見えにくい裂け目をこじ開けて物事の本質を理解しようとする者たちは存在する。その「裂け目」とは、「インフルホ・シキコ」という言葉であり、その見落とされた言葉に取り憑かれたのが、コロンビア出身の監督アレハンドラ・カルドナ(Alejandra Cardona)と、スペイン・サラゴサ出身のアナ・マリア・ピナル(Ana María Pinar)およびイドヤ・バラベス(Idoya Barrabés)である。彼女たちはこの不可思議な概念と、その背後にある政治と司法の物語に深く魅了され、ついにはドキュメンタリーを制作するに至った。制作を担ったのは、アラゴン州に拠点を置くプロダクション「ミリユナ・イストリアス(Milyuna Historias)」である。撮影は3年にわたり、エクアドル、イスラエル、ベルギー、カナダ、メキシコ、ベネズエラ、コロンビア、スペインで実施された。

 

「私たちがラファエル・コレアの裁判について知ったのは、ちょうど『ロー・フェア(lawfare)』という言葉を知ったのと同時だった。私たちはそのとき、別のドキュメンタリー制作のためにラテンアメリカで働いていた。彼(コレア)は、「インフルホ・シキコ」による収賄で有罪判決を受け、実刑を宣告された。その判決が意味していたのは、10年間も国家元首を務めた人物が、閣僚や国家幹部に違法行為を行わせるよう精神的に影響を及ぼしていた、ということだ。私たちは、この“精神的影響”という概念に強い衝撃を受けた。どうして人が“精神力”で罪に問われるのか、にわかには信じがたかった」と語るのは、本作の脚本家アナ・マリア・ピナルである。本作は、単にエクアドルのみならず、世界的にも前例のない司法案件を扱っている。それは、元国家検事総長が元大統領に対して「閣僚たちを精神的に操り、違法行為に及ばせた」として起訴したというものである。

この監督チームが完成させたドキュメンタリー作品は、現在は予告編のみが公開されているものの、その時点ですでに明確な「司法スリラー」的美学を示している。作品は綿密な調査と膨大な資料収集を経て制作された成果であり、その過程には並々ならぬ労力がかかっている。撮影中、エクアドル国内では街頭での暴力が顕在化し、緊張に満ちた状況が続いた。制作チームは常に安全要員に同行されていたため「無防備だったとは言えない」が、それでも「恐怖を感じない日はなかった」と述べている。また、この作品の背景には、エクアドルの政治において決定的な転換点をもたらした「コレア主義(コレイスタ / Correista)」という政治潮流の存在がある。それは本作の主題に、深い時代的意義と政治的重みを与えている。

 

「ロー・フェア」と「司法政党」

1960年代から1970年代にかけて、アメリカ合衆国によって機密解除された複数の文書によって、ある事実はすでに明らかになっている。それは、ラテンアメリカにおける保守系エリートたちが、米国の直接的支援を受けながら、左派政権の台頭や一部のゲリラ勢力の拡大を抑え込むために、地元軍隊を用いて血なまぐさい独裁体制を築いていたということである。この支援には、ほぼすべての面におけるロジスティクスが含まれており、中には反体制派に対する拷問の手法までが含まれていた。

しかし1980年代以降、この戦略は大きく変化した。もっとも穏やかに表現するならば、「民主化された」ということになる。ただし、この「民主化」は、一般的に肯定的な意味ではなく、より実務的・戦略的な意味合いにおいてである。つまり、彼らは軍事クーデターに頼るのではなく、民主的な制度――特にその枠組み――を利用することで、より“合法的”に、かつ低コストで目的を達成する術を身につけたということだ。

行政権や立法権を掌握することができなかった場合、彼らが次に目をつけたのは、民主主義を構成する「三権」のうちの第三の柱であった。それが司法権である。司法とは、「人民による統治」の中核をなす存在であるはずだが、多くの国民がその仕組みや運用について十分な理解を持たず、したがってその行動にどう反応すべきかもわからない領域である。

結論として言えるのは、かつては軍服を着た兵士たちが脅威であったが、今では脅威は法服をまとい、片手に歪んだ天秤を持ち、もう片目には透けて見える覆面をつけた“正義の女神”の姿をしているということである。

 

コレア支持者たちの主張

元大統領ラファエル・コレアおよびその支持者であるコレア主義者たちの主張は、今回の件が「ロー・フェア(lawfare)」であるというものである。ロー・フェアはと言う語は翻訳が難しく、「司法を用いた嫌がらせ」あるいは「法による戦争」といった意味合いで理解されるが、「戦争」と呼ぶには、双方が対等な立場で闘っていることが前提であり、ロー・フェアの現場ではそのような状況は存在しない。

「エクアドルのケースは、もっとも不可視化されたロー・フェア事例のひとつと言える。複数のインタビュー参加者が、典型例としてブラジルのケース――つまりルラ・ダ・シルバ(Luiz Inácio Lula da Silva)やジルマ・ルセフ(Dilma Rousseff)の件――に言及している。このドキュメンタリーの目指すところは、ロー・フェアの“マニュアル”のような役割も果たし、各国に共通して現れる構造を浮き彫りにすることだ」と、脚本家のアナ・マリア・ピナル(Ana María Pinar)は語る。この現象は、ブラジルのジルマ・ルセフやアルゼンチンのクリスティナ・フェルナンデス(Cristina Fernández)をはじめ、ラテンアメリカ諸国で左派的傾向を持ち、支配層の既得権益に触れた政権に対して繰り返し用いられてきた。「ドキュメンタリーの中でも、アメリカ合衆国の影響について扱っている。なぜなら、アメリカは常にこの地域に特別な関与をしてきたし、判決にも影響を与えてきたと考えている」とアナは述べる。また、彼女が実際にエクアドルを訪れた際、ラファエル・コレアをめぐる社会の極端な分断を肌で感じたという。

 

『インフルホ・シキコ』が描く政治的迫害の構造

ドキュメンタリー作品『インフルホ・シキコ』は、エクアドルにおける「ソボルノス事件(2012〜2016)」を通じて、元大統領ラファエル・コレアに対する司法的訴追が政治的迫害、すなわち「ロー・フェア」の一環であることを提示しようとするものである。作品の中心的な論点は、コレアが閣僚らに対して「精神的影響」を与え、彼らが違法行為に及ぶよう仕向けたという、極めて抽象的かつ前例のない法的論理に基づいている。

この「精神的影響」による有罪判決は、単なる法的判断を超えて、政治的意図が介在しているとする見方が強い。コレアの司法的経緯は、彼の副大統領であり、2017年から2021年までの後継者であったレニン・モレノ(Lenín Moreno)との決裂によって大きく色づけられている。

モレノは大統領就任後、コレア主義との距離を明確に取り始め、エクアドル国内では前例のない政治的分断が顕在化した。司法の場においても、コレア陣営の一部からは「政治的報復」と見なされる訴追が相次ぎ、司法権が政治的目的の達成手段として利用されているとの批判が高まった。

現在ベルギーに政治亡命中のコレアは、自身への有罪判決を「ロー・フェア」の典型例であると繰り返し主張している。ベルギー政府は2022年、コレアに対して正式に難民認定を行い、エクアドルへの引き渡しを拒否した。この判断は、コレアに対する訴追が「政治的動機に基づく刑事事件」であると認定されたことを意味している。

「ロー・フェア」とは、司法制度を用いて政治的敵対者を排除する戦略であり、ラテンアメリカでは左派政権に対する抑圧手段として繰り返し用いられてきた。コレアのケースは、他のラテンアメリカの左派系大統領らの事例と並び、ロー・フェアの不可視性と制度的暴力の構造を浮き彫りにするものである。

 

資金調達の内訳

『インフルホ・シキコ』の制作チームは、作品を完成させるために必要な技術的・創作的・物流的要件の一覧を公開していた。具体的な資金用途は以下のとおりである:

  • 音響および音楽の設計: 約5,800ユーロ(約6,300ドル)。オリジナルのサウンドトラックおよび物語の緊張感を高める作曲のため。

  • モーショングラフィックスおよびカラーグレーディング: 約7,500ユーロ(約8,170ドル)。法的概念を視覚的に説明し、全体の美術スタイルを統一するため。

  • 広報・宣伝活動: 約6,500ユーロ(約7,085ドル)。報道機関、SNS、およびプロモーション資料作成費。

  • アーカイブ映像の使用権: 約20,000ユーロ(約21,800ドル)。国際放送局等の映像素材のライセンス費用。

  • 最終編集およびポストプロダクション: 約18,500ユーロ(約20,165ドル)。作品の最終仕上げにかかる編集作業費。

  • 国際映画祭への出品: 約8,500ユーロ(約9,265ドル)。出品にかかる渡航費、宿泊費、登録料など。

  • プラットフォーム手数料および決済手数料: 約4,800ユーロ(約5,232ドル)。クラウドファンディングおよび支払処理に伴う費用。

 

Goteoにおける支援の乏しさは、政治的に物議を醸す人物を題材としたドキュメンタリーの資金調達が困難であることを浮き彫りにしている。たとえその作品がNetflixやPrime Videoのような配信プラットフォーム、また映画祭で議論を呼ぶものであっても、である。

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参考資料:

1. Recaudación para financiar ‘Influjo psíquico’, el documental sobre Rafael Correa, fue archivada, ¿por qué?
2. Productoras de ‘Influjo psíquico’ ‘hacen la vaca’ para terminar largometraje sobre Rafael Correa
3. ‘Influjo psíquico’: el documental nacido en Aragón que aborda el extraño caso de ‘lawfare’ a Rafael Correa en Ecuador
4. Lawfare exists and does not belong to any ideology
5. “We demand justice for lawfare in Ecuador.”
6. Influjo psíquico(オフィシャルサイト)

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