エクアドル:隔絶先住民族タガエリおよびタロメナネをめぐる歴史的判決

(Photo:Amazon Frontlines)

2025年3月13日(木)は、エクアドルの先住民族タガエリ(Tagaeri)およびタロメナネ(Taromenane)にとって特別な一日となった(両先住民族についてはこちらの記事も参考のこと)。この日、長らく待たれていた判決がついに通知された。これは2024年9月4日に米州人権裁判所が下した判決であり、エクアドル西部アマゾンに居住するこれらの民族に関するものである。この判決が下るまで実に19年の歳月を要した。

 

この事件は、隔絶状態および初期接触状態にある先住民族(Pueblos Indígenas en Aislamiento y Contacto Inicial:PIACI)の権利の承認と保護における新たな節目と言える。なぜなら米州人権裁判所が初めて、隔絶状態にあるこれらの民族に対する包括的な保護について判断を下したからである。5対2の票差で、国際裁判所はエクアドル政府が先住民族の権利侵害に責任を負うと認定した判決は、彼らの領域の保存および不可侵性から、自己決定権、接触拒否権、身体的および文化的統合の保障に至るまで、極めて重要な問題を明示的に扱っている。この判決は、国家レベルおよび資源採掘部門におけるさまざまな緊張関係の文脈の中で下されたものであり、PIACIの生活と文化的環境に大きな影響を及ぼしてきた状況を背景としている。

エクアドル国家は、これら2つの民族の領域に対して2つの採掘プロジェクトを承認していたが、米州人権裁判所による国際法上の集団的所有権の侵害と言う認定は同国に対し、損害賠償を行い、関与した者に対する調査および訴追の実施命ずるものである。

 

タガエリおよびタロメナネは、近年、国際機関によって定義されている「自発的隔絶状態にある先住民族(Pueblos Indígenas en Aislamiento Voluntario:PIAV)」のカテゴリーに該当する民族である。彼らの特異な地理的環境と社会的状況ゆえに、ラテンアメリカにおいて法理学的・政治的議論、そして市民社会の中でも強い関心を集めてきた。「隔絶」という語は、彼らの現状を的確に表現していると言えるだろう。しかし、「自発的(voluntario)」という形容詞は誤解を招く可能性がある。なぜなら、これらの民族の多くは、自らの意思というよりもむしろ外的要因により他社会からの隔絶を余儀なくされたからである。複雑な状況に直面する彼らの構成員の中には、自らの民族がそのように分類され、国際的な法文書において自決権の主体として認められていることすら知らない者も少なくない。また、彼らは「非接触民」「自由民」「隠れた民」、あるいは「見えざる民」とも呼ばれてきた。これらの呼称の根底にあるのは、彼らが自らの文化、アイデンティティ、そして世界観を守るためだけでなく、自らの生命と集団としての生存を守るために社会との接触を避けてきたという事実である。彼らは時空を超えて継承されてきた知識と叡智の保持者であり、自然を敬い守る厳格な保護者でもある。

しかし、今日に至って彼らは多方面からの数え切れない脅威と課題に直面しており、常に深刻な脆弱性の状態に置かれている。上述の通り、「自発的」という形容は誤解を招きかねない。多くの民族は、自ら望んで社会から離れたのではなく、状況に追い込まれて隔絶を選ばざるを得なかったのである。そしてこの状況下では、国家自身が権利侵害の加害者となる場合が多く、こうした現実を前にして、彼らが社会からの離脱を決断する理由は十分にある。現に、組織犯罪(麻薬取引)や違法伐採、企業による資源の過剰開発、異なる民族集団との紛争、さらには内外資本によるメガプロジェクトの進出など、彼らの領域を侵す要因は尽きない。

このような絶望的とも言える状況に対して、単に隔絶するだけでは不十分であることが明らかとなっている。そこで彼らは、自らの文化と伝統的な生活様式を守るための新たな手段や戦略を模索し始めた。その一つが、司法機関への訴えである。

しかし、当然ながらこの道は決して容易ではない。実際、彼らが直面したのは、先住民族の権利に対して無理解または無関心な国内司法制度であり、そこでは彼らの保護は実現しなかった。国内で正義を見出せなかった彼らは、やむなく地域的な国際裁判所に救済を求めることになった。このような経緯をたどったのが、タガエリ族およびタロメナネ族である。彼らは、エクアドル国家の責任を問うために米州人権委員会に訴え出た。そして同委員会は、2020年にこの事件を米州人権裁判所に付託した。それは、国家が「保護されている」とされる彼らの領域に対して、2件の採掘プロジェクトを許可したことによる。

 

タガエリおよびタロメナネ 対 エクアドル事件

1999年、エクアドル政府は、タガエリおよびタロメナネを強制的接触および天然資源開発に起因する脅威から保護することを目的として、「タガエリ・タロメナネ不可侵地帯(Zona Intangible Tagaeri Taromenane:ZITT)」を設置した。しかし、この地域の実際の境界確定は2007年まで実施されなかった。この年の政令により、ZITTの確定とともに、その周囲に10kmの緩衝地帯が設定された。さらに2018年には、国民の意思に基づき、ZITTの拡大が行われた。

この措置は、集団的財産権および健全な環境への権利の保障にとって重要であったが、イシュピンゴ・タンボコチャ・ティプツィニ(Ishpingo-Tambococha-Tiputini:ITT)つまり鉱区16、31、43および55区画のカンポ・アルマディジョ(Campo Armadillo)といった石油活動の活発な地域において、資源採取利益の圧力によって影が差した。米州人権裁判所の判決は、ZITTと指定され、「あらゆる形態の採掘活動が永久に禁じられる」とされていたにもかかわらず、エクアドル国家が隔絶先住民族(PIACI)を効果的に保護するための必要な措置を講じることもなく、むしろ領土の奪取を行った。エクアドルの裁判所も当該措置は法的に有効な所有権の根拠とはならないと判断していた。エクアドル国家、そしてこの判決が彼らを多くのリスクおよび基本的人権侵害にさらしてきた。

だが、事態はこれだけにとどまらない。エクアドルの最上位法規である憲法そのものが、これらの民族の保護に関して矛盾をはらんでいる。一方で、エクアドル憲法は先住民族の権利を認める点において比較法的にも最先端の内容を有しており、第57条では「自発的に隔絶した民族の領域は、不可分かつ非可侵の祖先からの所領であり、いかなる形態の採掘活動も禁止される」と定めている。

しかしその一方で、同じ憲法の第407条は、より一般的な条文として、「例外的に、保護地域または非可侵地域での資源開発が認められる可能性がある」とし、大統領の要請と国民議会(Asamblea Nacional)の「国家的利益に関する宣言」があれば許可されると規定している。つまり、憲法上の保護が明記されているにもかかわらず、これらの民族の運命は、国家的利益という名のもとに立法権と大統領の裁量に委ねられているのが現実である。

だが、エクアドル国内法の矛盾を超えて、国際および地域レベルでは、自発的に隔絶した先住民族(PIAV)を含む先住民族の権利は、多数の国際法文書によって保障されている。その中には、1989年の国際労働機関(ILO)第169号条約(先住民族に関する中核的条約。エクアドルも批准済み)、2007年の国連先住民族の権利に関する宣言、2016年に米州機構(OEA)の枠組みで採択された米州先住民族の権利宣言などが含まれる。さらに、米州人権裁判所(Corte IDH)や、最近ではアフリカ人権裁判所も、先住民族の権利保護に関する判例を積み重ねており、国際的保護制度の強化に大きく貢献している。

 

判決

2024年9月4日、米州人権裁判所は、エクアドルがタガエリ族およびタロメナネ族を含むアマゾンの隔絶先住民族(Pueblos Indígenas en Aislamiento:PIA)の権利を侵害したとして、歴史的な判決を下した。この判決の公布・発表は2025年3月13日付で行われた。

米州人権裁判所は、隔絶先住民族の自己決定権および彼らの隔絶状態を侵害する介入を禁ずる「非接触の原則(principio de no contacto)」に基づき、これらの権利侵害に対する賠償を命じた。また、強制接触後に被害を受けた少女たちの権利侵害に対する賠償も命じ、同様の事案の再発防止を求めた。

主な賠償措置は以下の通りである:

  • 2003年および2006年に発生した暴力事件の加害者を捜査・処罰すること。
  • 強制接触後に少女CおよびDの対応に関与した者の責任を明らかにすること。
  • タガエリ・タロメナネ不可侵地帯(ZITT)の評価を行う技術委員会を創設すること。
  • 2023年8月20日の国民投票による「43鉱区の原油を地下に留める」という決定を履行すること。
  • 保全措置計画(Plan de Medidas Cautelares)の枠組みにおいて、隔絶先住民族の保護に関する年次報告を作成すること。
  • CおよびDが被った物的・非物的損害について、独立した専門機関による包括的賠償の査定を実施すること。
  • 環境影響評価における予防原則を確保するための改革を行い、とくに隔絶先住民族に配慮した視点を組み込むこと。

 

歴史的判決と残された課題

本判決は、隔絶状態および初期接触状態にある先住民族の権利擁護における重大な前進である。しかしながら、その実効的履行には依然として多くの課題が残されている。資源採取産業の圧力、政治的意志の欠如、ZITT保護のための明確なメカニズムの不在が、タガエリ族およびタロメナネ族の生存を脅かし続けている。

この判決は、単にエクアドル国家を非難するものにとどまらず、アメリカ大陸全体に向けて明確なメッセージを送っている──すなわち、PIACIの保護は各国家の義務であり、人権と大陸の生物多様性を尊重するために不可欠な条件であるということである。

今回の判決により、エクアドル国内のみならず、ラテンアメリカ諸国全体において、PIAVの権利保障に対する実効的な保護が進むかどうかが大きく左右されることとなった。なぜなら、米州人権裁判所の判決には、影響力、法的権威、波及効果、そして地域的・国際的な正統性が伴うからである。

このようにして、長年にわたる苦難の歩みの果てに、ついに待望の日が訪れた。途中には、2003年、2006年、2013年に国家が保護責任を果たさなかったために発生した暴力的な死という悲劇的な出来事もあった。

そして、2020年9月30日に米州人権裁判所に訴訟が提起されてから、間もなく5年を迎えるという2025年3月4日、ついに判決が下された。とはいえ、実際に判決内容が当事者に通知されたのはさらに170日後の3月13日であった。

それでもなお、「待った甲斐があった」と言える内容であった。なぜなら、同裁判所は、隔絶先住民族の権利保障において、地域的に確かな先例となる判決を下し、エクアドル国家に対して有罪を宣告したからである。

今回の裁判の決定は、裁判所にとっても、エクアドル政府にとっても大きな挑戦であった。エクアドルは現在、政治的不確実性、経済危機、エネルギー不安定、全レベルでの治安悪化という問題を抱えており、その中でタガエリ族とタロメナ族の存続、あるいはその消失のリスクが裁判所の判決にかかっていた。裁判所の最終的な決定は、これらの先住民族の権利がエクアドル国内のみならず、ラテンアメリカ全体でどのように守られるかに影響を与えると考えられていた。裁判所の判決には、影響力や国際的な認知、間接的な波及効果が伴うため、非常に重要である。

この判決を受けて、エクアドル政府は2003年、2006年、2014年のタガエリ族とタロメナ族に対する暴力行為の責任者を刑事裁判にかけることが求められる。さらに、立法的、行政的、司法的な措置を講じ、タガエリ・タロメナ地域の保護区の管理、企業に対するライセンスの付与・更新の監視、物質的・非物質的損害の修復、およびPIAVへの司法アクセスの確保が求められている。

また、判決に基づき、エクアドル政府は一定の賠償金を支払うこととなるが、補償的賠償は適用されない。判決通知後、エクアドル政府は1年以内に判決内容を履行する必要があり、裁判所はその履行状況を監督した後、本件を終了とする予定である。

2001年のアワスティニ対ニカラグア裁判以来、米州人権裁判所は先住民族の権利を広範かつ進歩的に解釈し、文化的多様性の中で権利保障を進めてきた。今回の判決は、ラテンアメリカ諸国におけるPIAVの権利保護にとって重要な前例となる。特に、ブラジル、コロンビア、ボリビア、ペルー、ベネズエラ、パラグアイなどには、同様の状況にある先住民族が多く存在しており、この判決の影響は広範囲に及ぶ。

 

[イトゥラルデの考察] 判決から公共財政とアマゾンの関係を考える

経済学者であり人類学者であるパブロ・イトゥラルデ(Pablo Iturralde)は米州人権裁判所の判決を受け判決から公共財政とアマゾンの関係について以下の通り考察している。エクアドルの「経済的・社会的権利センター(Centro de Derechos Económicos y Sociales:CDES)」の研究者および総括コーディネーターを務める彼は自身の研究活動を「活動的な研究」と位置づけており、主に先住民および労働組合の支援に取り組む社会組織と共に活動している。

2024年9月4日、米州人権裁判所は、「タガエリおよびタロメナネ 対 エクアドル国家」事件において歴史的判決を下した。この判決は、2025年5月5日、エクアドル憲法裁判所によって公布された。この判決は、アマゾンの保護と、国際債権者や石油収益に依存する国内エリートによって要求される「資源依存型経済モデル」との間の緊張関係を克服するために、私たちが何をしているのかについて考える契機となるべきである。

上述の通り米州人権裁判所は、エクアドル国家がタガエリおよびタロメナネの基本的人権を侵害したと断じている。これには、生命、領土、健康、文化的アイデンティティ、健全な環境への権利が含まれる。また、2013年に発生した少女CおよびDの誘拐事件のような強制接触の深刻な影響、そして2003年、2006年、2013年に記録された虐殺事件に関する効果的な捜査の欠如による不処罰の持続も認定された。過去に採用された一定の法的措置にもかかわらず、裁判所は、国家による保護が弱く、矛盾し、構造的に不十分であったと結論づけた。さらに、ヤスニ地域における資源採取活動の継続性についても評価がなされた。

本判決の中でもとりわけ注目すべき点は、石油開発活動――とりわけ31号および43号区画での活動――の影響に関する分析であり、これが接触を拒否する先住民族(Pueblos Indígenas en Aislamiento Voluntario:PIAV)の権利侵害と直接的に結びついているという点である。裁判所は、非接触民族の存在を認識しながらも、国家が領土不可侵原則や隔絶尊重よりも財政資金調達の必要性を優先したという国家的論理を批判した。

以上を踏まえて、筆者が提起したい主たるジレンマは次のとおりである。国家が、最も重要な石油開発区画のひとつである43鉱区を開発すべきかどうかを問うことは、合理的な問題提起である。なぜなら、この開発により、多くの人々、特に最も脆弱な人々にとって不可欠な公共サービスを支えるための国家収入が左右されるからである。そのため、意思決定者にとって問題は、「抽象的な概念(例えば、エクストラクティビズム)と先住民族のどちらを選ぶか」といった単純な二項対立ではない。このような単純化は知的誤謬にすぎない。実際には、意思決定者は二つの深刻な影響の間でバランスを取る必要がある。すなわち、一方では自発的に隔絶状態にある先住民族の生存への危機、そして他方では、独自性ある生態系への取り返しのつかない影響である。他方で、経済危機の最中における国家財政の逼迫が社会に与える影響もある。

しかし、このジレンマには否定できない裏側もある。それは次の点にある。現在の国際通貨基金(IMF)によって課されている緊縮財政モデルのもとでは、石油の採掘を継続することだけでは、根本的な問題の解決にはならないということである。なぜなら、そうして得られる石油収入(ペトロダラー)は、多くの場合、金融の規制緩和や輸入の自由化を通じて資本流出を促進する経済システムの中で拡散・消失してしまうからである。

加えて、このジレンマをより完全に理解するためには、第三の要素を導入する必要がある。それは、公的債務の国際的な債権者たちであり、アマゾンにおける石油開発の継続に対して圧力をかけている主体である。
国家が資源を必要としているという点は前述の通りだが、公的債務の返済が国庫を空にしているのも事実である。対外債務を返済するには十分な国際準備高が必要であり、その外貨準備を恒常的に供給している唯一のセクターが、まさに石油・ガス部門なのである。その他のすべてのセクター――民間、公共、そして民間銀行の金庫に至るまで――は、歴史的に見て純粋な外貨流出部門である。輸入、利益送金、金融支払いなどが主な要因である。つまり、我々はアマゾンの石油で対外債務を返済しているのである。

この現実が、アマゾンの先住民族による闘争と、ワシントンの金融機関の利益とを正面から対立させている。

同時に、国際的な債権者たちは、国内における同盟者たち――経済・政治エリート――と連携して活動していることにも言及すべきである。彼らは、国際通貨基金(IMF)が推進する経済モデルや、国家内部で争奪される石油収益の恩恵を受けている。これには、輸入業者、銀行家、国家との契約業者、そして省庁テクノクラシーが含まれる。

 

エリート層が石油から利益を得る仕組みは主に二つある

一つは、クロスサブシディー(交差補助金)や公共契約、金融保険、財政移転などの仕組みである。
もう一つは、石油収益によって形成された外貨準備を利用して、資本逃避や裕福な層――銀行家や大規模輸入業者など――の利益確保を保証するというものである。

したがって、米州人権裁判所の判決の履行を論じる際、それを単なる技術的・行政的な保護措置の問題に矮小化すべきではない。ましてや、通貨収入の代替を税収で埋めようとするような、一時的な税制措置によって問題が解決するものではない。本質的な問題は、モデルの継続そのものである。

この判決は、問題の核心に切り込むための再出発の機会を提供している。すなわち、人権およびアマゾンの保護が、債権者と国内エリートの利益に従属させられている現在の経済システムを変革しなければならないということである。これは、異なる発展モデルによってしか実現されない。

そのためには、PIAVの権利保障のみならず、すべての国民の発展権と主権を守るためにも、再分配的正義を伴う財政・生産・エネルギー転換が必要となる。それが実現されるか否かは、これからの時間が証明するであろう。

#Yasuní #Tagaeri #Taromenane #PIACI

 

参考資料:

1. Histórica sentencia contra Ecuador por los Pueblos Indígenas en Aislamiento Tagaeri y Taromenane
2. LA SENTENCIA DE LA CORTE IDH SOBRE LOS TAGAERI Y TAROMENANE: PENSANDO SOBRE LA RELACIÓN ENTRE FINANZAS PÚBLICAS Y AMAZONÍA
3. La Corte Interamericana de Derechos Humanos sienta precedente con el fallo a favor de los pueblos indígenas en aislamiento voluntario Tagaeri y Taromenane de Ecuador
4. Yasuní: The significance of a victory

 

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