エクアドル:指名手配中のギャングリーダー、フィトの逮捕

(Photo:Mauricio Torres/EPA)

――フルネームを大声で名乗れ!

――ホセ・アドルフォ……(José Adolfo)

――もっと大きな声で!

――ホセ・アドルフォ・マシアス・ビジャマル(José Adolfo Macías Villamar)。

かつてこの国で最も指名手配されていた男の声は、かすかにしか聞こえない。彼は地面に横たわり、顔をコンクリートに押し付けられ、兵士の拳銃が後頭部に向けられている。彼の逮捕を記録したこの映像は、エクアドルの刑務所および治安システムの脆弱さを露呈した、17か月に及ぶ追跡劇の終幕を示している。

ホセ・アドルフォ・マシアス・ビジャマル、通称フィト(Fito)は、犯罪組織「ロス・チョネロス(Los Choneros)」の指導者であり、2025年6月25日(火)に、彼の出身地である港町マンタで再び拘束された。マナビ県は1980年代に殺し屋集団として結成され、やがて麻薬密売、恐喝、国際犯罪へと進化した犯罪組織「ロス・チョネロス(Los Choneros)」の発祥の地でもある。当局がメディアに発表した初期情報によると彼は首都キトから約400キロ離れたこの都市の中心部にある住宅の中の地下壕に身を隠していた。

マシアスの最後の足取りが確認されたのは、2024年1月7日以前のことであった。その日、兵士らは通常の作戦の一環としてフィトが収容されていたグアヤキル地方刑務所(Guayaquil Regional Prison)の棟に突入した。彼らの目的は、その棟の電気スイッチを破壊し、受刑者たちの武器や携帯電話を押収することだった。だが、兵士らが直面したのは、それ以上に深刻な事態だった。フィトの姿がそこになかったのである。麻薬密売および殺人の罪で服役中で、34年の禁錮刑が科されていたフィトがいつ、どのように脱走したのかを知る者は誰もいなかった。報道によれば、マシアスは最高警備刑務所への移送直前に逃走したとされているが、当局は彼がどのようにして逃走に成功したのかについて、政府はいまだ説明していない。国内で最も危険な受刑者の脱走は、「最高レベルの警備を誇る」とされていた刑務所制度の深刻な欠陥を浮き彫りにするものとなった(詳細はこちら)。

 

アメリカ合衆国政府によれば、マシアスによる脱走は、「全国的な暴動、爆破事件、誘拐、有力検察官の暗殺、さらにテレビ局の生放送中に発生した武装襲撃」を引き起こした。数時間以内に、国内の7つの刑務所で受刑者たちによる暴動が発生し、施設を占拠した。暴力はすぐに街頭にも広がり、複数の都市で爆発やテロ行為が相次いだ。混乱の頂点は、テレビ局が生放送中に襲撃された事件であった。この事態を受け、ノボア大統領は近年の歴史において初めて「国内武力衝突状態(internal armed conflict)」と全土における60日間の非常事態を宣言し、刑務所と街頭の軍事化を命じた。また、ノボア大統領は「ロス・チョネロス(Los Choneros)」を含む22のギャング組織を、「テロ組織」として指定した。

その後、陸軍と警察はフィトの行方を追う捜索部隊を編成した。ノボア大統領は以前、マシアスの拘束に関する情報提供者に対し、100万ドルの報奨金を提示しており、彼の行方を追うために数千人規模の警察および軍隊を動員していた。

陸軍は、今回の逮捕について「正確に、かつ死傷者なく実行された」と発表している。45歳のマシアスは、殺人、組織犯罪、武器所持など14件の司法手続きの対象となっていた。彼はすでに34年の刑期のうち12年間を服役していた。なお、これは彼にとって初めての脱獄ではない。2013年には、同じ刑務所複合施設内にある最高警備刑務所「ラ・ロカ(La Roca)」から、組織の他の構成員と共に脱走していた。

フィトが犯罪界で台頭したのは、「ロス・チョネロス」の長年の指導者ホルヘ・ルイス・サンブラノ(Jorge Luis Zambrano)、通称ラスキニャ(Rasquiña)が暗殺された後のことであった。この事件をきっかけに組織は分裂し、新たに「ロス・ファタレス(Los Fatales)」などの下部組織が現れた。これらは直接マシアスの指揮下にあった。しかし、彼は単に指導者の座を受け継いだだけではなかった。彼は組織を変革し、特にメキシコでも最強勢力の一つとされる「シナロア・カルテル(Sinaloa Cartel)」など国際麻薬カルテルと同盟を築いた。

彼の支配力は刑務所内にとどまらず、街頭にも及んでいた。彼は麻薬密売ルートと殺し屋ネットワークを掌握し、「ロス・チョネロス」を通じて米国に向けて大量のコカインを輸出していた。この活動によって、彼はニューヨーク東部地区の連邦裁判所で起訴されるに至った。

「被告は、暴力的な国際犯罪組織における冷酷な指導者であり、極めて活動的な麻薬密売人である。『ロス・チョネロス』による殺人、麻薬、武器の密輸ネットワークを主導し、致死性のある可能性を持つコカインを米国に輸入することで、被告は自国および米国に大きな損害を与えてきた」と、2025年4月に発表された7件の起訴内容に関する声明で、ニューヨーク東部地区連邦検事ジョン・ダラム(John Durham)は述べている。

拘束後、マシアスはアメリカ合衆国へ引き渡されることになっており、同国の連邦裁判所で麻薬密売および銃器密輸に関連する罪で起訴されていると、現在、中国と欧州を歴訪中のダニエル・ノボアは2025年6月25日(水曜日)、ソーシャルメディア「X」で明らかにした。またノボアはこの作戦の成功を「連帯法および情報法の必要性に反対し、疑問を呈した者たちへ:これらの法律のおかげで、フィトは本日逮捕され、現在は治安部隊の手中にある。警察と軍に祝意を表する。さらに多くの者が捕らえられるだろう。我々はこの国を取り戻す」と即座に称賛した。

 

エクアドル政府はすでに、マシアスの身柄引き渡し手続きを開始している。そして今回の再逮捕によって、国家が依然として権威と統治能力を保持していることを内外に示そうとしている。これは、つい最近2025年6月20日に、「リトラル刑務所(Litoral Penitentiary)」から、軍関係者の協力を得て逃走したとされる、別の凶悪犯フェデ(Fede)の脱獄事件を受けての対応でもある。

エクアドルはかつて、ラテンアメリカの中でも最も平和な国のひとつであった。しかし隣国であるペルーおよびコロンビア──いずれも世界最大のコカイン生産国──との地理的な近接性により、国外へ麻薬を輸出しようとする犯罪組織の格好の標的となった。

メキシコからアルバニアにまで及ぶ外国の犯罪組織の支援を受けた地元ギャング同士の抗争により、国内では暴力が爆発的に増加している。

#Fito

 

参考資料:

1. Ecuador captures ‘Fito’, country’s most wanted fugitive gang leader
2. Ecuador’s most wanted drug lord captured in ‘underground bunker’
3. Ecuador arrests its most wanted criminal, the drug lord known as ‘Fito’

 

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