本記事はフェルナンド・アヤラ(Fernando Ayala)によるコラムの翻訳である。大使であるフェルナンド・アヤラはクロアチアのザグレブ大学経済学部を卒業し、チリ・カトリック大学で政治学の修士号を取得した。チリ大学戦略問題副所長、国防次官も歴任したことがある。コラムの後には
ピノチェト主義者であった候補が大統領選挙に勝利したことは一度もない。アレッサンドリ(Alessandri)、ブーキ(Büchi)、ピニェラ(Piñera※)、エラズリス(Errázuriz)、ラビン(Lavín)、マッテイ(Matthei)、カスト(Kast)のいずれもが敗北している。
現在の時代は右派にとって困難なものであり、それは彼らがいまだに解き放たれない過去に囚われているためである。その過去は、本年11月に予定されている大統領選挙を前にして再び浮かび上がっている。現在の主要な右派候補3名―ドイツ系の祖先を持つことから「ドイツ派閥(división alemana)」と称される―エブリン・マテイ(Evelyn Matthei)、ホセ・アントニオ・カスト(José Antonio Kast)、ヨハネス・カイザ(Johannes Kaiser)は、いずれもアウグスト・ピノチェト(Augusto Pinochet)軍事独裁政権への無条件かつ無制限の忠誠を共有している。
このうちの一人、マテイは軍による人権侵害について若干の緩和的な姿勢を示してはいるが、3人全員が1973年の憲法破棄、すなわちサルバドル・アジェンデ(Salvador Allende)大統領の正統な政権を転覆し、憲法および共和国大統領への忠誠を誓った軍の誓約を裏切った行為を正当化している。
彼らの誰一人として、元陸軍総司令官カルロス・プラッツ(Carlos Prats)将軍とその妻がブエノスアイレスで暗殺された事件、元外相オルランド・レテリエル(Orlando Letelier)とそのアメリカ人助手がワシントンで殺害された事件、あるいはピノチェトが不正に蓄財し、偽名でアメリカの複数の銀行に隠匿した数百万ドルに言及していない。
果たして、ピノチェト独裁の17年間という苦難の過去は、11月16日の次期大統領選挙に影響を及ぼすのだろうか。それは不明である。しかし、1989年から2011年までのすべての選挙において、独裁政権を支持した候補が勝利した例はない。エルナン・ブチ(Hernán Büchi)、アルトゥロ・アレサンドリ(Arturo Alessandri)、ホアキン・ラビン(Joaquín Lavín)などがその例であり、またエブリン・マテイやホセ・アントニオ・カストのように、2度目の挑戦を行う者たちも同様である。
今後数週間で本格化する選挙運動と、候補者たちが出席しなければならない討論会が、選挙結果に大きな影響を与えることは間違いない。確かなことは、現在の有権者の多くが1973年のクーデター当時にはまだ生まれていなかったという事実である。
チリ社会には、隠れた罪悪感や恥の感情が存在しているように見える。それは、犯罪と略奪の凄まじさ、そして愛する者の行方を未だ知らずにいる何千もの家族の過去と現在の苦しみに起因し、集団的無意識の中に根を下ろしている。
家族全体の虐殺、女性への性的暴力と拷問、海への投棄など、残虐さ、悪意、そして非道の数々が語り継がれ続けており、軍による拷問施設での死者も加わって、これらはチリ陸軍にとって、そしてチリの歴史の未だ書き終えていない頁にとって、消すことのできない汚点である。
2010年には、右派が52年ぶりに大統領選挙に勝利した。当選したのはセバスティアン・ピニェラ(Sebastián Piñera)であり、右派としては1958年のホルヘ・アレサンドリ(Jorge Alessandri)以来の勝利であった。ただし、今日の「ドイツ派閥」の候補者たちとは異なり、2度にわたって大統領に選ばれたピニェラは、ピノチェト独裁政権に対して明確な反対の立場をとっていた人物であった。
セバスティアン・ピニェラは、独裁者ピノチェトが権力に永続しようとした際にそれに反対票を投じ、さらに右派の多くを「人権侵害を防ぐために何もせず傍観した『受動的共犯者(cómplices pasivos)』」であると批判した人物である。彼は、過去の罪責から解放された新たな右派の構築を目指し、長年にわたって婚外子の承認、女性の経済的自立、離婚、3つの条件による中絶、同性婚といった価値観の変化に抵抗してきた保守的価値観から距離を置こうとした。
元大統領は部分的には、いわゆる「原始的な右派(derecha cavernaria)」―故マリオ・バルガス・リョサ(Mario Vargas Llosa)がチリの保守勢力をそう形容した―から脱却しようとする自由主義的右派の胎芽を築くことに成功した。しかしながら、現実にはそのような保守勢力は今なお健在であり、誰かが大統領に当選するのを目指して一丸となっている。彼らは文化的、価値的、社会的権利の面で退行的な政策を掲げ、豊富な資金を使って選挙戦を展開しつつ、かつて熱狂的に支持していた独裁政権について語ることを避けている。
一方、中道左派では、6月29日に予備選挙が実施される予定であり、同陣営の統一候補を選出する見込みである。しかし、ニカラグア、ベネズエラ、そしてキューバの政治体制を巡っては、民主主義の欠如や自由の制限に関して意見の相違が一部左派内で生じている。
共産党の候補ジャンネット・ハラ(Jeannette Jara)は、キューバには「異なる民主的制度」があると述べ、党書記長はそれを「先進的民主主義」と表現した。だが、この定義は他の候補者たちからは広く否定されている。
左派陣営でのもう一人の候補、38歳の「第4のドイツ系(cuarto alemán)」であり、ボリッチ(Gabriel Boric)大統領の後継とされるゴンサロ・ウィンタ(Gonzalo Winter)は、義務投票制、マプチェ民族の自治権、政府政策の進捗に対する批判などの繊細な問題に関して矛盾した発言をしており、主に若年層の支持を受けている。
また、地方分権的な言説を掲げる小政党のハイメ・ムレット(Jaime Mulet)も立候補しており、政治的立ち位置の確保を目指している。
現在、中道左派の中で最も支持を伸ばしているのは「民主社会主義(socialismo democrático)」を代表するカロリナ・トア(Carolina Tohá)である。彼女は他の政党からも支持を集めており、豊富な知識と主張の確かさ、批判に冷静かつ自信をもって応じる姿勢、そして将来の課題に対する沈着な態度により、中道左派候補の中で世論調査の首位に立っている。
本格的な選挙戦は、6月29日夜、予備選挙の結果が判明した時点から始まることになる。その時、誰が中道左派の代表として、予備選挙で統一候補を擁立できなかったピノチェト派の右派候補たちと11月の本選で対決するかが明らかになる。
カロリーナ・トアが中道左派の候補として選出された場合、彼女の勝利を恐れて、右派候補の中から1人あるいは2人が選挙戦から撤退し、進歩主義勢力による再度の勝利を阻止しようとする可能性もある。
チリの次期大統領選挙は、2025年11月16日の投票日に向けて本格的な局面に入りつつある。2021年の前回選挙では、中道勢力が擁立した候補者が敗北し、チリ史上最年少の人物、つまりボリッチが率いる左派政権が誕生したことで話題を呼んだ。特に注目されるのは野党側の動向である。というのも、「新たな右派(nueva derecha)」の一角をなす共和党の指導者、ホセ・アントニオ・カストが支持率を3ポイント上昇させ、これまで「伝統的右派(derecha tradicional)」を代表してきたチリ・バモス(Chile Vamos)の候補、エブリン・マッテイと並び、両者ともに17%の自発的投票意向で同率首位となったためである。一方、マッテイは前回から3ポイント下落しており、支持基盤の揺らぎも見て取れる。
この結果は、世論調査会社カデム(Cadem)が5月18日日曜夜に発表した最新の調査によって明らかとなった。調査では、元下院議員であるカストが、第一回投票のさまざまなシナリオにおいて、元プロビデンシア市長マッテイと一進一退の激戦を繰り広げると予測されている。
その後に続くのは、元内務大臣で民主主義のための党(PPD)のカロリナ・トアで、10%の支持を維持し、堅実に第3位の位置を確保している。さらに、国家自由党(Partido Nacional Libertario)の指導者、ヨハネス・カイザが7%、広範戦線(Frente Amplio)の予備候補であるゴンサロ・ウィンタ(Gonzalo Winter)が6%、共産党候補のジャンネット・ハラが5%、人民党(Partido de la Gente)の創設者フランコ・パリシ(Franco Parisi)が3%を獲得している。また、候補者ではないが元大統領のミチェル・バチェレ(Michelle Bachelet)にも依然として一定の支持が存在している。
一方、政権与党側でカロリナ・トアが予備選を制した場合という仮定のシナリオでは、マッテイが21%で首位、続いてカストが20%、トアが16%となり、その他ヨハネス・カイザーが9%、フランコ・パリシが7%、マルコ・エンリケス=オミナミ(Marco Enríquez-Ominami)が5%という結果が示された。
このように、チリ大統領選挙戦は右派内部の主導権争いと、中道左派の統一候補選出が交錯する複雑な情勢となっており、今後の展開は予断を許さない。
仮にヨハネス・カイザーが最終的に大統領選から撤退し、その支持をホセ・アントニオ・カストに譲ることになれば―これはまだ不確定な状況ではあるが―、エブリン・マッテイは25%、カストは24%、カロリナ・トアは17%の支持を得ると予測されている。
一方、仮に与党側の候補として労働大臣を務めたジャンネット・ハラが選ばれた場合、マッテイが21%、カストが20%、ハラが14%、そしてカイザーとマルコ・エンリケス=オミナミはそれぞれ8%となる。
さらに、ガブリエル・ボリッチ政権の「継承候補」とされるゴンサロ・ウィンタが与党予備選で勝利した場合のシナリオでは、マッテイが22%、カストが21%、ウィンターが11%、カイザーが10%、フランコ・パリシ(Franco Parisi)が8%、エンリケス=オミナミが7%という結果が示されている。
このように、最新の世論調査によれば、カロリナ・トアは与党陣営の中で最も有力な候補であり、右派候補に対抗できる可能性が最も高い人物とされている。対照的に、右派は予備選を実施して統一候補を擁立することに失敗しており、票の分裂が懸念される。
#Cadem Si el abanderado fuese @gonzalowinter , @evelynmatthei llegaría a 22%, @joseantoniokast a 21%, @gonzalowinter a 11% y @Jou_Kaiser a 10%.
— Cadem_cl (@Cadem_cl) May 19, 2025
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大統領ガブリエル・ボリッチへの支持と不支持
また、ガブリエル・ボリッチ大統領に対する不支持率は、2週連続で70%に達しており、2022年3月の就任以来最も高い水準となっている。この背景には、精神科医で友人でもあるホセフィナ・ウネウス(Josefina Huneeus)との会話の流出がある。この録音では、「プロクルトゥラ事件(Caso ProCultura)」と呼ばれる汚職スキャンダルの「ダメージコントロール」を図る様子が明らかとなり、大統領自身にも影響が及んだ。
同時に、ボリッチ大統領の支持率は前週よりも1ポイント下がり、26%となった。これは、2024年4月に南部で3人の警官が殺害された事件の直後、支持率が過去最低の24%に落ち込んだ際に近づきつつある。
この調査は、全国の18歳以上の成人705名を対象に電話で実施されたものであり、世論の現在の温度感を如実に反映している。
※セバスティアン・ピニェラの兄
参考資料:
1. Chile: La derecha entre un dictador y tres candidatos
2. Encuesta presidencial en Chile: José Antonio Kast alcanzó a Evelyn Matthei en el primer lugar
3. Kast empata a Matthei en intención de voto espontáneo (17%) y en los distintos escenarios de primera vuelta
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