米州機構(Organización de los Estados Americanos:OEA)加盟国34カ国は、10日月曜日にスリナムのアルベルト・ラムディン(Albert Ramdin)外相を満場一致でOEAの次期事務総長に選出した。67歳のラムディンは、地域でよく知られた指導者ではないが、2024年9月からカリブ共同体(Caribbean Community:CARICOM)の支持を、その後ブラジル、ボリビア、チリ、コロンビア、メキシコ、ウルグアイなどから支持を受けた。もう一人の候補者であったパラグアイのルベン・ラミレス・レスカノ(Rubén Ramírez Lezcano)外相が、10年間OASを率いたウルグアイのルイス・アルマグロ(Luis Almagro)の後任として有力な候補者と見なされていた。しかし各国からのスリナムに対する支持を受け、同氏が立候補を取り下げ、ラムディンが唯一の候補者となっていた。
ラムディンは5月に事務総長に就任し、2030年までの5年間を務める予定である。彼はカリブ海諸国出身で、OEA初の事務総長となる。OEAは歴史的にアメリカが強い影響力を持つ地域機関であったこともあり、ラムディンの選出は注目に値する。
グアテマラのメディアであるRepública.を通じラファエル・パロモ(Rafael Palomo)は、アルベルト・ラムディンがOEAの新事務総長に選出されることを受け現状を分析している。彼によるとブラジルのルラ大統領は当初パラグアイのペーニャ大統領に対しラミレス支持を約束していた。つまりパラグアイはブラジルと米国から支持を得ていたはずだった。しかし3月初旬の会談で突然その状況に変化が起きた。モンテビデオでヤマンドゥ・オルシ(Yamandú Orsi)、グスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)、ガブリエル・ボリッチ(Gabriel Boric)、ルイス・アルセ(Luis Arce)とともに会談したルラは他の南米左派とともにラムディンに対する支持を決定した。これを受けペーニャは、コミュニケの中で「突然、不可解なことに、パラグアイは友好国から、わが国に対する当初の約束を変更し、パラグアイの提案を支持しないことを決定したと知らされた」と報告している。
なぜこのようなことが起きたのかと言えば、ルベン・ラミレスがOEA創設の理念に沿った候補者だったからと考えられる。パラグアイは、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアの独裁政権や、この地域で影響力を強める中国を強く批判してきた。これに対し、中国はこれらの独裁国家の民主化を支持する姿勢を示していない。中国は、スリナムを通じてラテンアメリカに影響力を行使したいと考えている。ラムディン外相は就任以来、スリナムにおける中国のプレゼンス拡大に尽力してきた人物とも言える。外相は「一帯一路」プロジェクトへの支持を表明し、「中国はひとつしかなく、他の近隣諸国で見てきたことを支持する」と宣言している。ルラとその同盟国は、対米攻勢でラミレスを見捨てた。 これはペーニャがほのめかしたもので、ペーニャはコミュニケの中で「パラグアイは常にこうした高尚な原則と価値観に立脚しており、特定の選挙や状況によってそれを放棄することはない」と付け加えた。
この 「状況 」とは、トランプ大統領のこの地域の国々に対する攻撃的な政策であり、その影響はメキシコとコロンビアがすでに経験している。しかし、トランプはこれを気にしていないようだ。ラテンアメリカ担当特使のマウリシオ・クラバー=カローネ(Mauricio Claver-Carone)は、「アメリカはパラグアイとスリナムをまったく異なる国だと考えている。米国はパラグアイとスリナムを米国の同盟国と見なしている」と述べた。
ワシントンのOEAへの貢献とその外交的重みは、その支援なしには事務総長のポストを勝ち取ることは不可能である。スリナムへの支持でラミレスは追い出されたこととなる。
トランプにとって、OEAの歴史的なサイクルは終わった。この政権にとって、多国間組織は無用の長物であり、二国間主義こそが進むべき道なのだ。OEAは米国からの資金提供の削減、さらには放棄の可能性に直面している。
トランプはラテンアメリカを運命に委ねたが、中国の同盟国はそれを利用して、より広い門戸を開いている。
トランプが関心を失ったことで、中国共産党が公然と支持する候補者が2030年5月25日までOEAを率いることになる。
中国の同盟国が力をつける一方で、パラグアイのような米国の同盟国は、ルラとその共犯者のような裏切りに直面し、無防備なままトランプにも見捨てられていくこととなる。
スリナムは1月にドナルド・トランプが米国大統領に就任したことにより、非常に分裂した大陸の中にある。彼の移民政策は、さまざまな二国間関係を緊張させており、現在ではほとんどの政府が米国からの何千、何万の国外追放者を受け入れることに同意している。また、米国が仕掛けた貿易戦争は、この地域や世界中で紛争や国際的な物価上昇を引き起こしている。
このような状況の中で、トランプの貿易戦争の主な標的である中国とのつながりが重要な要素となることに間違いはない。近年、北京はアメリカ大陸、特に中南米諸国にとって主要な貿易相手国のひとつとなっている。実際、米国とカナダを除く地域プラットフォームであるラテンアメリカ・カリブ海諸国共同体(Community of Latin American and Caribbean States:CELAC)を通じて、この地域との貿易協定を進めようとしている。
この地域において直近で注目されるべき課題は、ベネズエラの選挙後の危機である。ラムディンの立候補を支持した左派・中道左派の政府でさえ、いまだに問題が解決したとは言い難い。ニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)の再選を認める政府もあれば、ブラジルやコロンビアなどでは、チャベスの勝利を証明する選挙記録を要求し続けている。チリは、チャビスタ政権を独裁政権と見なす国々のグループに加わっている。
アルベルト・ラムディンという人
スリナムはオランダの旧植民地で、ブラジルの北、フランス領ギアナとガイアナの間に位置している。ラムディンは社会地理学を専攻し、数十年にわたり国連やOEAなどの国際機関でさまざまな役職を歴任してきた。
1997年、彼は自国のOEA常任代表に任命され、2001年にはカリブ共同体(CARICOM)を経て、OEA事務総長顧問に任命された。2005年にはOEA事務次長に選出され、2015年にアルマグロがOEAを引き継ぐまで、2期連続でその職に就いていた。約20年後、ラムディンは帰国し、2020年にチャン・サントキ(Chan Santokhi)大統領の政府で外務・国際ビジネス・国際協力大臣および副首相に任命された。国連の指名によると、ラムディンは「国際交渉、多国間外交、開発援助、政策実施において25年以上の経験」を持っている。
参考資料:
1. La OEA tiene nuevo secretario general: quién es el surinamés Albert Ramdin
2. EE. UU. deja a la OEA en manos de la izquierda
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