[ヒメネス&カシアブエのコラム]誰がナルコに銃を与えるのか?組織犯罪暴力における米国の役割

本記事はともにNODAL紙のディレクターを務めるパウラ・ヒメネス(Paula Giménez)とマティアス・カシアブエ(Matías Caciabue)によるコラムの翻訳である。両者はラテンアメリカ戦略分析センター(Centro Latinoamericano de Análisis Estratégico:CLAE)の研究員でもある。


マルコ・ルビオ(Marco Rubio)とドナルド・トランプ(Donald Trump)が率いる米政府は、ついにメキシコと地域の麻薬カルテルを「テロリスト」と指定する大統領令を発令した。これはホワイトハウスと国防総省によるラテンアメリカの主権領土に対するドローンやミサイル攻撃を正当化するための枠組みの構築を可能とする。

これは我々の国家に対する侮辱であり、我々の国の市民に対する危険を意味する。それは、儲かる麻薬経済からの資金が違法な武器取引を続け、組織犯罪の火力を強め、我々の社会を苦しめる暴力のスパイラルを招くことになる。暴力は、明らかに、トランプ主義によって米国の有権者の外国人嫌いを覚醒させた移民の発生を促進することになる。

麻薬密売の武器はどこから来るのか。主にアリゾナ州、テキサス州、フロリダ州といった北部からで、法整備や規制が緩いため、組織犯罪に武器が簡単に流れてしまう。これらの州では、武器取引と世界最大の麻薬市場が共生関係にある。銃が犯罪グループを強化するために南部国境を越えると、麻薬はアメリカの需要を満たすために逆の旅をする。

麻薬市場と銃器市場は互いに利益をもたらし、強化しあう傾向がある。一部の地域では武器が入手可能になったことで、犯罪グループがライバルや治安部隊を出し抜くことに利益を投資する軍拡競争が起きている。

米国からこの地域への違法な武器取引は、規制の緩さ、汚職、犯罪グループによる武器需要の高さによって促進され、近年エスカレートしている。

米国製の武器は、いくつかの地域で暴力に拍車をかけている。ラテンアメリカの場合、犯罪現場で回収された武器のかなりの数が、米国で製造されたか、あるいはまず米国に輸入され、その後違法に取引されたものであることが知られている。例えば、ハイチとバハマでは、違法武器の98%が米国製である。メキシコでは、この数字は過去10年間で70%に達した。中米7カ国では、違法武器の50%が米国から輸入されている。

米国政府説明責任局の最近の報告書によれば、カリブ海地域で2018年から2023年の間に回収された武器の73%は米国からもたらされたものであり、国によっては、これらの武器が殺人の90%にまで及んでいる。

ラテンアメリカは世界で最も暴力的な地域であり、世界人口の8%に過ぎないにもかかわらず、世界の殺人事件の33%がここで発生している。銃器の普及は、メキシコ、コロンビア、中米北三角地帯(グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル)などの国々で暴力の発生率を高めており、そこでは銃による殺人が殺人の70%以上を占めている。

アメリカやラテンアメリカでは銃器が殺人の主な手段となっているが、武器の取引や携帯に関する法律や規制が厳しいヨーロッパではそうではない。国連薬物犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and Crime:UNODC)の「世界殺人調査2023」によると、南北アメリカ大陸では人口10万人当たり15件の殺人が発生しており、世界全体の数字である5.8件を大きく上回っている。

この地域のいくつかの国では、この数字は憂慮すべきレベルまで上昇している。メキシコでは、2022年の数値は26.1だが、ロペス・オブラドル(López Obrador)の6年間の任期の最初の数年間(29.3)より3ポイント低い。ホンジュラスでも似たような状況で、2019年には人口10万人当たり40.9人だったが、2022年には35.1人に減少している。グアテマラは過去10年間、一貫して人口10万人当たり30人以上の殺人率を維持しており、この地域で最も暴力的な国のひとつに数えられている。

2015年、エルサルバドルの殺人率は人口10万人当たり103人に達し、その年の殺人総数は6,650件だった。2024年には、この数字は人口10万人あたり1.9人まで激減し、9年間で98%減少した。その一方で、ナイブ・ブケレ(Nayib Bukele)の極端な懲罰主義は暴力を制度化し、有名なモデル刑務所をめぐっては、人権侵害や、マラスとは無関係の無実の人々が弁護も裁判も家族との連絡もなく恣意的に拘留されているという苦情が何千件も寄せられている。

 

武器密売は孤立した現象ではない。麻薬密売、強制移住、人身売買と密接に結びついている。麻薬カルテルは、米国でアサルトライフルや拳銃、弾薬を容易に入手できるようになったおかげで、武器庫を高度化している。 これらのグループは、領土支配を強化し、麻薬流通ルートを守るために武力暴力を行使している。いわゆる「麻薬戦争」の懲罰的な熱気の中で、彼らの火力は増している。国務省による「テロリスト」のレッテル貼りに対抗するために、彼らの疑いようのない経済力が活用されたとき、暴力のスパイラルがどのように拡大するか想像できるだろうか?

 

“マヨ” ザンバダの逮捕とシナロアにおける暴力のエスカレーション

昨年7月、メキシコの麻薬王が小型のビーチクラフト機に括り付けられ、極秘裏に米国に空輸されたとき、米国政府はこれをフェンタニルの密売に対する重要な一撃として歓迎した。しかし、イスマエル・”エル・マヨ”・ザンバダ(Ismael “El Mayo” Zambada)の逮捕は、世界最強の麻薬密売組織のひとつであるシナロア・カルテルの支配権をめぐる熾烈な争いに火をつけた。彼の逮捕以来、シナロアの殺人事件は昨年同時期の4倍に増え、わずか2カ月で400件近い殺人が起きている。

クリアカンの街は戦場と化した。カルテルの武装集団が燃え盛るバリケードを築き、銃撃戦を繰り広げる一方で、住民は包囲された状態で暮らしている。閉店した店、空っぽの学校、家に閉じこもる市民は、イスマエル・”エル・マヨ”・サンバダの息子たちからなる ラ・マイイサ(La Mayiza) 派と、ホアキン・「エル・チャポ」・グスマン(Joaquín “El Chapo” Guzmán)の後継者である チャピトス(Chapitos)派の内部抗争に巻き込まれた街の絵葉書である。

「シナロアの不安定な状況や対立は、彼ら(米政府)が決定したことであり、メキシコでそれを無視することには同意できない。私たちはそれに直面し、解決しているが、シナロアでは今のような暴力はなかった」と、当時の大統領アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドルは、2024年9月の伝統的な朝の記者会見で語っている。

 

儲かる武器販売ビジネス

米国の武器メーカーは、この危機から莫大な利益を得ている。スミス・アンド・ウェッソン(Smith & Wesson)、グロック(Glock)、コルト(Colt)といった企業は、効果的な規制がないために武器が組織犯罪に流出しているとして、さまざまな調査で指摘されてきた。2005年に成立した武器取引合法化法は、武器産業を訴訟から保護しているため、自社製品がラテンアメリカの暴力に与えた影響に対する責任を問う試みが妨げられている。

これらの企業の背後には、兵器産業に大きな出資をしている大手グローバル金融投資ファンド(grandes fondos financieros de inversión global:FFIG(GIFF))がいる。たとえば、スミス・アンド・ウェッソンの大株主には、ブラックロック(9.54%)、ディメンショナル・ファンド・アドバイザーズ(6.96%)、バンガード・グループ(5.79%)、ジオード・キャピタル・マネジメント(2.40%)、ステート・ストリート・コーポレーション(2.24%)が名を連ねている。

これらの同じ企業は、ロッキード・マーチン(F-35やF-22などの戦闘機、ミサイル防衛システム、航空宇宙技術の生産のリーダー)、レイセオン・テクノロジーズ(ミサイルシステム、レーダー、防衛技術の専門家)、ジェネラル・ダイナミクス(戦車、原子力潜水艦、地上兵器システムの生産者)といった大企業の株主でもあり、地域の軍事化から利益を得ている。このように、戦争ビジネスに投資する同じ金融関係者が、ラテンアメリカを苦しめる暴力から利益を得ている。

 

閉ざされた扉の向こう側:マスコミが語らない麻薬取引

麻薬取締局は2024年5月、ハリスコ・カルテル・ヌエバ・ヘネラシオン(Cártel Jalisco Nueva Generación:CJNG)とシナロア・カルテルが米国における合成麻薬危機の主な原因であり、疾病予防管理センター(Centros para el Control y Prevención de Enfermedades:CDC)によると、2022年だけで10万人以上の死者を出したと指摘した。

両組織は、秘密の麻薬製造研究所と米国への密売ルートを支配しているだけでなく、自国領土内の複数の都市で犯罪ネットワークを運営している。しかし、麻薬密売に関するメディアの報道は、ほとんどメキシコ人犯罪者だけに焦点を当て、米国内の麻薬経済ネットワークが果たす基本的な役割を見過ごしている。WASP(ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタント)エリートのメンバーを含む多数の米国市民が、組織犯罪の指揮系統で重要な地位を占め、米国経済そのものから違法ビジネスの継続性を確保しているという事実は、さらにあまり言及されていない。

これらのカルテルは、麻薬密売にとどまらず、武器密売、マネーロンダリング、人身売買、性売買、贈収賄、恐喝など、活動の幅を広げている。米国でシナロア・カルテルとCJNGが最も多く存在する州は、アリゾナ、カリフォルニア、ノースカロライナ、コロラド、ジョージア、イリノイ、メイン、ニューヨーク、ニューメキシコ、ノースカロライナ、テキサスである。『全米薬物脅威評価2020(2020 National Drug Threat Assessment)』では、CJNGはシアトル、サンタロサ、モデスト、オレンジカントリー、サンディエゴ、ロサンゼルス、デンバー、シカゴ、フェアビューハイツ、ニューヨーク、インペリアル、カンザスシティ、テキサス、ヒューストン、ラレード、レキシントン、ロアノーク、メンフィス、アトランタ、ガルフポート、オーランドの20の地域に広がっていると述べている。

 

アリゾナ、テキサス、マイアミ:ラテンアメリカへの違法武器取引の震源地

違法な武器取引には、アリゾナ、テキサス、フロリダという3つの基本的な震源地がある。これらの州は、柔軟な規制と銃器店の集中により、メキシコ、カリブ海諸国、中央アメリカへの銃器の違法輸出を促進してきた。

2009年以降、メキシコで回収され、アメリカでの購入地点まで追跡された銃の60%以上がテキサス州とアリゾナ州からで、この2州から国境を越えて密かに取引された銃が80%を占めている。アリゾナ州の場合、ツーソン市が重要なポイントとなっており、5つの銃砲店がカルテルへの武器密売を助長したとしてメキシコ政府に訴えられている。テキサス州では、国境に近いため、武器密輸はほとんど陸路で行われ、自家用車を使って取締りを回避している。

一方、フロリダ州、特にマイアミは、カリブ海諸国と中央アメリカへの武器の主要供給地である。Stop US Arms to Mexicoの報告書によると、カリブ海で回収され、米国に持ち込まれた武器の57%がフロリダ、特にマイアミとオーランドで購入されたものである。ブロワード郡とマイアミ・デイド郡には470以上の銃砲店があり、ハイチ、ドミニカ共和国、南米北部の犯罪グループの手に渡る武器の供給源となっている。

密売人の戦略には、銃砲店や武器見本市で武器を入手し、闇市場で転売する「ストロー・バイヤー(straw buyer/compradores de paja)※」による武器の合法的購入が含まれる。3D技術を使った武器の製造もこのケースに当てはまり、完全な機能を持つ武器の自作が可能になっている。例えば、フロリダ州ミラマー(郵便番号33023)では、カリブ海に密輸された194の武器が10年足らずの間に追跡され、MGアーモリー社は軍事化された武器に特化していることで際立っていた。この違法なビジネスモデルは、カルテルや犯罪集団がアサルトライフルや戦争兵器を無制限に入手できるようにしている。

 

アリゾナ州とテキサス州は主にメキシコのカルテルに武器を供給し、マイアミはカリブ海諸国と中米への武器密売の中心地となっている。規制の柔軟性、銃砲店の急増、効果的な取締りの欠如により、これらの州はこの地域の犯罪組織に供給する闇市場の柱として確固たる地位を築いている。

国際機関からの絶え間ない警告やメキシコ政府による訴訟にもかかわらず、武器産業と強力な武器ロビーは効果的な規制の試みを阻止し、ラテンアメリカの暴力を煽る数百万ドル規模のビジネスの継続を保証してきた。違法な武器売買が紛れもない社会的現実であるマイアミの権力サークルで鍛えられた政治家であるマルコ・ルビオ現国務長官が、この問題の次元を組織的に無視していることは、控えめに言っても明らかだ。同州のマル・ア・ラゴ(Mar-a-Lago)邸に居を構えるドナルド・トランプが、麻薬経済を支える武器の主要供給国としての米国の役割を取り上げる代わりに、武器を受け取る国々を犯罪者扱いする措置を推進することを好んでいることは、さらに印象的である。

 

最後の言葉

この対決戦略の一環として、トランプはドナルド・トランプ政権時代(2017〜2021年)にメキシコ、カナダ、中米のDEA地域長官代行を務めたことのあるテランス・テリー・コール(Terrance “Terry” Cole)をDEA長官に任命した。テリー・コールは以前の声明で、「メキシコはテロの訓練場になりつつある」と主張し、カルテルが軍事戦術で活動し、米軍に対して高度な諜報活動を用いていると指摘した。ホワイトハウスによるこの新たな行動方針は、ラテンアメリカ領域における米国の直接的な軍事作戦への扉を開くだけでなく、移住の犯罪化を激化させ、組織犯罪の定着と暴力的スパイラルを煽る、最大限の攻撃姿勢を強化するものである。

武器密売は、移民という点で壊滅的な結果をもたらしている。組織犯罪が生み出す暴力によって、何百万人もの人々が出身国からの逃亡を余儀なくされ、ラテンアメリカとアメリカの双方に影響を及ぼす状況が生まれている。悪循環の中で、不安は人々を追い出し、移民の増加はアメリカにおけ排外主義的言説を煽り、ワシントンの対応は、問題の構造的原因を攻撃することなく、さらなる軍事化と抑圧となる。

この危機に対する地政学的対応は矛盾している。アメリカは麻薬密売に宣戦布告し、麻薬カルテルを「テロリスト」とレッテルを貼る一方で、自国の領土から武器が自由に流入することを容認している。この政策は、戦争産業と民間の治安産業を利するだけの暴力の連鎖を助長してきた。このような現実に直面しているラテンアメリカは、制度的能力を強化し、地域協力を強化し、違法な武器取引における自らの役割についてワシントンに説明責任を果たさせなければならない。

こうした措置がなければ、暴力はエスカレートし続け、組織犯罪はますます強力になり、ラテンアメリカ社会は暴力と死のスパイラルに陥ったままになるだろう。

 

ヒメネスは心理学の学位、国家安全保障・防衛学および国際安全保障・戦略学の修士号を持ちつ。カシアブエは政治学の学位を持ち、アルゼンチンの国家防衛大学UNDEFの元事務局長。

※ストロー・バイヤー:銃の所持を禁じられている人のために代理で銃を購入する人。

米国において計画されていたテロ計画を描いた映画「Wasp Network」はこちらを参照のこと。

#DEA  #UNODC  #DonaldTrump

 

参考資料:

1. ¿Quién le da las armas al Narco? El rol de los EEUU en la violencia del crimen organizado
2. Stop US Arms to Mexico
3. Evaluación Nacional de la Amenaza de las Drogas 2020
4. 2020 NATIONAL DRUG THREAT ASSESSMENT

 

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