メキシコ2024年選挙:大統領候補シェインバウム、ガルベス、マイネスによる公約

(Photo:efe)

6月2日の大統領選には3人の候補者、クラウディア・シェインバウム(Claudia Sheinbaum)、ソチトル・ガルベス(Xóchitl Gálvez)、ホルヘ・アルバレス・マイネス(Jorge Álvarez Máynez)の中から選出されることが注目される。

 

1962年6月24日にメキシコシティで生まれたシェインバウムはリトアニアとブルガリア出身のユダヤ人家庭に生まれた。カルロス・シェインバウム・ヨセレヴィッツ(Carlos Sheinbaum Yoselevitz)とアニー・パルド・セモ(Annie Pardo Cemo)を親に持つ。化学者のカルロス・シェインバウムは、1920年代にメキシコに渡ったリトアニア出身のアシュケナージ系ユダヤ人コミュニティの一員であった。父親は宝石商でメキシコ共産党員だった。一家は重要な祝日を祝ったり、アシュケナージの習慣を守るなど、ユダヤ教の伝統を実践していた。生物学者であったアニー・パルドは、1942年にメキシコに到着した帰化したブルガリア系セファルディック・ユダヤ人の家系の出身である。クラウディアは1987年、民主革命党(Partido de la Revolución Democrática:PRD)の創設メンバーでトラルパン代議員会代表(2003~2004年)であったカルロス・イマス・ジスペルト(Carlos Imaz Gispert)と結婚するも2016年に破綻、2023年11月17日、UNAM出身の物理科学博士で元大学同僚のヘスス・マリア・タリバ(Jesús María Tarriba)と結婚している。2023年6月16日、彼女はMorenaの大統領候補となるべく2018年12月5日から勤めていた州知事職を離任した。2023年11月19日、政党連合歴史を作り続けよう(Sigamos Haciendo Historia)は2024年選挙における共和国大統領公認候補とすることを表明している。

 

ガルベスは2024年のメキシコ選挙に向けて結成された連合メキシコのための力と心 (Fuerza y Corazón por México)の公認候補である。同連合は伝統政党としても知られる制度的革命党(Partido Revolucionario Institucional:PRI)、国民行動党(Partido Acción Nacional:PAN)、民主革命党から成る。1963年2月22日にイダルゴ州テパテペック生まれた彼女はオトミ出身のエラディオ・ガルベス(Heladio Gálveze)とオトミにもルーツを持つメスティソ、ベルサ・ルイス・ロペス(Bertha Ruiz López)を両親とする。父はニャニュ(Hñähñu)語とともにスペイン語を話し、バイリンガル小学校で教師を勤めた。彼女の祖父母も話すニャニュ語は、オトマンゲ語族に属する9つのオトミ語派のひとつで、イダルゴ州の36の市町村で87,488人の話者がいる(2008年1月14日付Diario Oficial de la Federaciónに記載)とされている。

 

彼女は自身の過去を振り返り、教育費を払うために、町の市場でゼリーを売っていたと語っている。メキシコ国立自治大学(UNAM)でコンピューター工学を学び、2010年に学位を取得した。彼女はロボット工学、人工知能、持続可能性、省エネをなどを専門とする。

 

 

市民運動(Movimiento Ciudadano)の候補者であるマイスネスは1985年7月8日、サカテカスで生まれた。父マヌエル・フェリペ(Manuel Felipe Álvarez Calderón)はサカテカス共産党の創設者で、2001年から2004年までサカテカスのグアダルーペ市議長を務めた。母親はマルタ・ガブリエラ(Martha Gabriela Máynez)であう。2003年にオクシデンテ工科大学に入学した彼は2006年に国際関係学の学位を取得、同年モンテレイ工科大学(ITESM)に入学し、2008年行政学と公共政策の修士号を取得した。2010年に同大学院で国際学研究科の修士課程も修了し、2017年から2019年通ったCentro de Estudios Jurídicos Carbonellでは憲法と人権の修士号を取得した。2015年に女優のカリナ・ギディ(Karina Gidi)と結婚するも翌年離婚。2017年からパートナーであるサラ・アギラル・フランチェスカ(Sarah Aguilar Flaschka)との間には長男(2018年8月生まれ)と次女(2023年8月生まれ)がいる。彼は2021年9月1日から2024年2月28日まで連邦議会副議長を務めた。

 

選挙戦の争点は安全保障、健康、女性などが挙げられる。野党候補のソチトル・ガルベスとホルヘ・アルバレスの場合、警察の給与を増やし、兵士を兵舎に戻すことで一致している。マイネスは薬物使用の規制を提案している。一方のクラウディア・シェインバウムは、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領政権で実施した措置を維持することを提案している。

各候補者は以下のような公約を掲げている。

 

クラウディア・シェインバウム

– 州兵を強化する
 道路監視のためのその能力を拡大し、第一応答者として活動できるようその力を拡大する
– 裁判官、判事、司法大臣がメキシコ国民によって選出されるようにする
– 全国で就学前、初等、中等学校の生徒を対象とした普遍的な奨学金を提供する
– 国家警備隊の強化、連邦司法の運営を独立した自治司法機関に移管する
– 保健省管理の長期国家計画を樹立、全国の公衆衛生サービスを調整する
 生まれたときから全国民が幸福のための公衆衛生局からのサービスを享受できるようにする
– 社会プログラムが最も必要としている人々へのサポートを確実に行う、そのための予算化と社会的再配分の提案する
– 60歳から64歳の女性には、65歳以上の年金の半分に相当する支援金が月2回支給する(2025年には50万人に達し、普遍的なものになるまで徐々に増加させる)
– 暴力の被害者である女性に寄り添い、女性殺人を減らすことを目的に、SOS女性プログラムを創設する
– 検察庁に女性弁護士を任命し、「加害者は家から出て行く」ことを保証するイニシアチブを連邦議会に送る
– 女性が殺害された場合はすべて女性殺人事件として捜査することを義務づけ、ジェンダー犯罪専門の検察庁を通じて捜査能力を強化する
– 国家水委員会(Comisión Nacional del Agua:Conagua)を強化し、水へのアクセスを基本的人権とし、国の社会経済発展に不可欠な資源として認める
– メキシコの主要都市における電気自動車の利用促進とともに、6つの製油所と水力発電所の近代化を目指す
– 最低賃金の引き上げを継続する
– 65歳からの高齢者向け国民皆年金、障害者支援、未来を築く若者支援、働く母親の子ども向け福祉プログラムを保障する
– 公立の就学前児童、小学校、中学校の生徒には、国民皆学費を支給する(政権発足最初の3年間で順次実施)

 

ソチトル・ガルベス

– 兵士や海兵隊を民間の任務から外し最も暴力的な犯罪組織との戦いに集中させる
– 将来的には、技術、情報、訓練の面で軍隊の優れた能力を活用する、その予算、技術、装備は政府に移譲される
– 農村地域や運送業者を脅かす集団が引き起こす問題に対処する
– セキュリティ対策には国家の全面的な力と能力をもって行動すし、組織犯罪には譲歩も便宜も与えない
– 公教育省(SEP)による教科書作成に保護者を参加させる
– 必要な教育機関には設備とインターネットアクセスを提供する
– 公的、社会的、私的サービスを統合した「統合医療システム」を構築する
 すべての人が同じ質のサービスや医薬品を受けられるようにする
 「マイ・ヘルス」カードの提供で必要な医薬品や治療法だけでなく、希望する診療所や薬局にアクセスできるようにする
 治療にはおいては公立・私立病院問わず国費から補助されるようにする
 遠隔医療も推進し、その場を離れることなく、最高品質の医療を受けられることを目指す
 デジタルカルテと処方箋を開発し、薬が希望の薬局に届くようにする
 一人一人にかかりつけ医がつくようにする
– 行方不明の子どもを探す母親に対する専門の検察官と国からの金銭的補償を迅速に実行する
– 女性殺人の被害者の子どもたちに経済的・教育的奨学金を提供する
– 社会的弱者である女性に月5,000ペソのメキシコ・カードを付与する
– 女性を介護の役割から解放するための国家介護制度を導入する
– 学校を卒業するための奨学金、特に先住民族や農村部の少女のための奨学金を付与する
– 女性自殺によって孤児となった子どもたちへの支援する
– 平等な賃金、社会保障のある適正な雇用、若者や女性主導の起業を促進・支援する
– 零細・中小企業と協力する
– 自然災害の保護と予防のための資金を再構築し、環境犯罪に対するゼロ・トレランス政策をとる
– 都市部におけるネットワークの拡張、漏水の修理、パイプの改修、廃水の再利用など、飲料水供給インフラを改善する
– 公共交通機関の電動化を優先し、効率的かつ安全に利用者の移動を促進する

 

ホルヘ・アルバレス・マイネス

– 適切な給与と労働条件で警察力を強化する国家平和化計画の策定
 高等警察訓練アカデミーの創設、検察庁の捜査警察へのモデルチェンジなどを盛り込む
– 公設弁護人事務所の能力拡大と、無償での助言と弁護へのアクセスを保証する
– 国を非軍事化する(国土における軍事的プレゼンスの縮小化と撤退)
– 司法の自治を実現する(外部からの影響を受けずに行動できる司法制度の独立性と能力)
– 男女平等と人権尊重に特に配慮した市民の保護を保証する
– 司法制度を強化のための検察庁の機能と構造の修正・改善する
– 薬物の禁止主義モデルから規制への段階的かつ責任ある移行を行い、歴史的に禁止主義の影響を受けてきた地域社会や民族が規制の恩恵を受けられるようにする
– 公教育省(Secretaría de Educación Pública:SEP)による無料教材と教育プログラムの更新と開発を行う
– 今後6年間で100万人の若者を大学に進学させ、女性が勉強を続けられるようなプログラムを推進する
– 国家介護制度の実施する
 子ども、青少年、高齢者、病人、障害者のための介護サービスや、登校日の延長や食事サービスなどの学校プログラムが国家が提供する
– 大学院における研究および学術交流プログラムに対する財政支援を拡大する
– 教育カリキュラムに個人金融と経済管理に関する内容を含める
– 国家科学技術評議会(Consejo Nacional de Humanidades, Ciencias y Tecnologías:CONAHCyT)を独立した組織へと変更する
– 技術的、専門的、雇用可能なスキルを公教育システムに統合する
– 全国レベルで大学やその他の高等教育機関の会議・審議の場、具体的には全国大学・高等教育機関会議(National Congress of Universities and Higher Education Institutions)を設立させる
– ジェンダー・バイオレンスに関連する犯罪の被害者に対する保護命令や措置が効果的であるよう監督されるようにする
– 女性司法センターが強化され、刑事事件に付随するだけでなく、被害者の要望があれば修復的司法のメカニズムが実施されるようにする
– 人々が安心して事件を報告し、危険や暴力の状況を告発できる環境を作る
– 性的健康管理、積極的な男性性の促進、人間関係における平等な責任分担を目的としたイニシアチブを開発する
– 父親が新生児の世話のために取得できる有給休暇の期間を延長する
– 労働者の権利を守るために労働組合の結成と参加を奨励する
– 全国民に最低水準の所得を保障する
– 危機的状況に対する緊急財政支援プログラムを確立する
– 政府の歳入法および歳出法の策定を担当する独立機関を設立する
– 与信へのアクセスを容易にするための新たな金融手段を開発する
– 中小企業の研修の改善と育成を行う
– 経済開発の促進のための政府系金融機関の構造と機能の変更を行う
– 先住民族コミュニティや一般市民の参加と同意を得た後の公共インフラプロジェクトを実施する ※先住民に対するFPICの実施は国際的に必須なものである
– エネルギーの中心を再生可能で持続可能な資源に移し、化石燃料への依存を減らす
– 連邦電力委員会(Comisión Federal de Electricidad:CFE)が実施している州の電力会社の管理・運営に民間セクターを参加させる
– オアハカ州、サカテカス州、タマウリパス州、ユカタン州に再生可能エネルギーによる発電のための特定地域を設立する
– 持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)で定められた目標を国家レベルで達成させる

 

選挙戦においてSNSの活用がもたらす影響は大きい。他国選挙においては若者層の票獲得のためにも比較的年齢の若い候補者がそのツールを利用しているようにも見向けられるがマイネスは女性候補者よりもSNS利用は少ないように見向けられる。支持政党の資金繰りの問題なのか、彼の信条によるものなのか。

なお知名度の問題なのか、彼に興味を持った人間の多さなのか泡沫候補とされているマイネスのGoogle検索数は他の候補者を上まわっていた。

 

クラウディア・シェインバウム、もしくはソチトル・ガルベスのどちらかが大統領として選出された場合、この国初の女性大統領となる。

#メキシコ2024選挙

 

参考資料:

1. Las propuestas de los candidatos presidenciales de México para el sistema de pensiones
2. ¿Cuáles son las propuestas de los candidatos a la Presidencia?

 

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