ハイチ:ケニア・ミッションを支援する米国チームがハイチに到着

(Photo:RevistaBohemiaCuba / X)

ハイチの首都ポルトープランスに5月3日(金)、米支援チームが到着した。米軍のヘリコプターがポルトープランスの暗い空を飛んでいるのが目撃された翌日、米軍南部司令部は別の飛行機をトゥーサン・ルヴェルチュール国際空港に着陸させた。この航空機には、ケニア支援ミッションがハイチ滞在中に利用する施設建設を目的に国防総省を支援する民間請負業者が乗っていた。このチームは、ハイチの治安部隊を後方から支援し、同市や同国の他の地域を事実上支配している犯罪組織との戦いを支援することを目的としている。

 

トッド・D・ロビンソン(Todd D. Robinson)米国務次官補(国際麻薬管理・法執行問題担当)が『マイアミ・ヘラルド(Miami Herald)』紙に語ったことによると、ケニア警察の初期配備はケニアのウィリアム・ルト(William Ruto)大統領のホワイトハウス訪問とほぼ同時に展開される。5月23日、ジョー・バイデン(Joe Biden)大統領とジル・バイデン(Jill Biden)大統領夫人は米国とケニアの外交関係樹立60周年を記念して、ルト大統領とラチェオ・ルト(Racheo Ruto)大統領夫人を国賓として迎えることを確認している。そして今回の米国の支援はこれらケニア・ミッションの前哨戦となる。

ロビンソンは、「最初の派遣は、彼の国賓訪問の前後に行われるだろう」と述べ、待望の多国籍治安支援ミッションの一環として、具体的な日程や派遣される警官の数については明言を避けた。

 

『リスティン・ディアリオ(Listín Diario)』紙によると、ミッション展開のためのチームは約1000人の警察官で構成され、施設の建設において国防総省の支援を受ける。それ以上の詳細を明らかにしていない。しかし米国防総省は、同市における同ミッションの地位防衛のため、2億ドルの物資と安全装備を提供することを約束しており、部隊の基地を準備する責任がある。議会側近によると、それには45日かかる。国防総省の職員は、住居計画の詳細については明言を避けているものの基地の建設は極めて重要で「安全な住居がなく、寝る場所もなく、計画も何もかもできないような状況にはしたくない」ことを語った。しかし、それ以来、この構想は、ナイロビでの司法上の課題や渋滞、議会での資金調達の妨害、ギャングの反乱に直面したハイチのアリエル・アンリ(Ariel Henry)首相の3月11日の辞任強要など、次々とハードルにぶつかっている。

司法上の課題は克服されたように見えるが、この構想のための資金が不足している。議会の共和党議員たちは、国務省がこのミッションを支援するために約束した1億ドルのうち4000万ドルを放出するよう求めている。テキサス州選出のマイケル・マッコール(Michael McCaul)下院議員とアイダホ州選出のジム・リッシュ(Jim Risch)上院議員の側近は、この計画を批判するとともに、政権が部隊に関する明確な詳細を提供していないことを非難している。一方、政府高官は、60回以上のブリーフィングを行い、共和党事務所からの数十の質問に答えたと述べた。

遅れている間に、何千人ものハイチ人が命を落としたり負傷したりしている。何百万人もの人々が十分な食料を確保できず、ハイチは人道的大惨事に瀕している。そのため最初の派遣では武装ギャングによる一連の襲撃に見舞われたハイチ人への救援を目的としており、必要な資金を提供するよう米国の議員や援助国を説得することだとロビンソンは認めた。「我々は我々の制約と権限の範囲内で、できる限りのことをしている」と語るロビンソンによれば、現在、ケニアミッション支援に向けた個人的な経費と初期派遣のための資金は十分にあるが、さらに多くの資金が必要だ。ハイチの警察は、無法地帯を鎮圧するために海外からの支援を受けることになっている。国連によって承認されケニアが率いる2,500人の多国籍軍への資金提供は主に主に米国が実施することになっている。

 

一方の国連は今週初め、ミッションのための信託基金が現在わずか1800万ドルしかないと発表している。アントニオ・グテーレス(Antonio Guterres)国連事務総長のスポークスマン、ステファン・デュジャリック(Stéphane Dujarric)は、「資金はカナダ、フランス、アメリカから提供されている」と述べた。ドゥジャリックによると、バハマ、バングラデシュ、バルバドス、ベナン、チャド、ジャマイカ、ケニアは、国連安全保障理事会の要請に従い、グテーレスに対し、このミッションに人員を提供する意向を書面で正式に通知したとしている。

また南米スリナム政府は6日(日)、ハイチへの治安移行プロセスにおける治安部隊を支援するため、軍と警察を派遣する用意があると発表した。チャン・サントキ(Chan Santokhi)大統領は地元記者団に対し、スリナムの国軍と警察部隊とともに、国防・警察・法務の各大臣が安全保障グループを結成すると述べた。大統領暫定評議会が設置されてからわずか8日しか経っていないものの、治安回復を支援するケニア主導の多国籍ミッションの到着を希望を持って待っているとした。「我々はカリブ共同体(Caricom)の姉妹国を支援する。我々はケニアが率いる警察代表団などと同様に、支援を提供する」と大統領は述べた。

 

現地のプラットフォームによると、2月末から悪化したこの治安の悪さに直面している。2月末、ヘンリーがケニア軍の派遣に必要な協定に署名するためにナイロビを訪れていたとき、ポルトープランスの武装集団が力を合わせ、ヘンリーの解任を要求しながら、政府の主要機関に対する大規模な攻撃を開始した。警察署、空港、港湾が標的となった。ギャングはまた、国内の2大刑務所から4,000人以上の受刑者の釈放を画策した。5月1日未明から2日にかけてはソリノやデルマス24といった首都の地域での暴力が顕著であった。この襲撃事件により、国際部隊によるミッションは危険すぎるとの懸念が高まり、4月末にアリエル・アンリ大統領が国際的な圧力とハイチ勢力の後押しを受け、民主的に選出されなかった大統領の職を辞したため、ルト政権はミッションを中断していた。ルトは当初、ハイチ国家警察を支援する国際部隊を率いるため、2023年7月に警察官1,000人を派遣することを約束していた。

その後、ルト政権は、ハイチでのミッションに備え、新たな大統領暫定評議会の設置を歓迎し、警察を派遣する用意があると宣言した。「私たちの意図は、国際社会がハイチ国家警察の任務遂行を確実に支援することであり、彼らに休息を与えることでもある」。「彼らは長い間、110%の力で懸命に働き、仕事をやり遂げた」とルトは語った。

 

ポルトープランスとその首都圏は依然としてこの暴力の震源地であり、犠牲者の10人中8人がこの地域に集中している。国連は、領土拡大を求めるギャンググループ間の「極めて暴力的な」衝突を警告している。暴力はハイチにおける避難の主な要因でもあり、すでに36万人以上が家の外で暮らしている。国際移住機関(IOM)によると、3月だけで5万3,000人以上が襲撃の急増を理由にポルトープランスを離れた。市民は生き残りをかけて戦っている。しかし人道的危機は拡大しており、すでに36万2000人以上が国内避難民となっている。

ハイチはここ2年間で最悪の暴力のスパイラルに陥っている。2024年第1四半期に、ハイチでは武装グループと関連した暴力事件で2500人以上が死亡または重傷者がでている。

国連はハイチへの軍事展開と支援の宣言に署名している。一方、3月28日、ハイチの政治学者ジェファーズ・ピエール・ラクロワ(Jeffers Pierre LaCroix)は、ハイチ情勢をより複雑にするために米政府が干渉していると述べた。

 

ハイチの警察署長フランツ・エルベ(Frantz Elbé)は米国からの航空機着陸に備え「空港の内外の警備を強化した」。「警察は多くの作戦を実施し、空港の治安を改善した。その作戦の一環にはハイチ政府が何千ドルもかけて住民に補償してきた空港周辺の約200軒の家屋の破壊を行った。これは滑走路の見通しをよくしただけでなく、ギャングが建造物に止まって滑走路に放火するのを防ぐことにもなった」と述べている。一方政府は周辺に警備タワーを建設した。「米軍南部司令部が調整した5機の米軍機の着陸を許可した」。「その他の安全対策も進行中だ」と彼は語った。

現在、空港では軍と警察が警備にあたっている。警察が外にいる間、兵士と警察は中にいる。最終的には、アメリカの航空会社が3月4日以来中断しているハイチへの商業便の運航を再開するために必要な信頼を築くことが目的だとエルベは述べた。

「私たちの戦略の第二段階は、ギャングを解体し、以前ギャングに占拠されていた地域に政府がサービスを提供できるスペースを作ることだ」とエルベは言う。そこで、ケニアを中心とする外国軍が介入することになる、とエルベは言う。「彼らは、ギャングを解体するための作戦を支援してくれる」。ハイチ警察官のやる気は、アメリカ政府関係者にも伝わっている。彼らはこの2ヶ月間、複雑で危険な作戦を遂行できることを示してきた。なお3月、ギャングはエルベの自宅近所に押し入るとともにエルベの家に火を放った。エルベと彼の家族はその時留守だったが彼の犬は死んだ。

 

警察署長の自宅が放火されたことで、ハイチ国民の間では、ポルトープランスの多くの地域を掌握し、国立宮殿のような重要な機関を脅かしている武装ギャングの連合軍による猛攻撃を前に、ハイチが崩壊の危機に瀕しているという懸念が深まった。しかし劣勢に立たされたとみなされるハイチ警察は、今のところ少なくとも、いくつかの戦闘で武装集団に対抗し、国家管理下に残された数少ない政府庁舎を守ることに成功している。その結果、警察は多くのアナリストから無能で腐敗しているとみなされ、悪名高い組織から、一部のハイチ人の間で新たな尊敬を集めるようになった。ハイチに拠点を置く人権分析研究センターのジェデオン・ジャン(Gédéon Jean)所長は「警察は重要な努力をしている」。「まだ不十分だが、今は住民を味方につけている」と語っている。なお政府の発表によれば人口1100万人に対して約9000人の警察官が常時勤務している。しかしこの数は国連がこの規模の国に対して推奨している警察力のおよそ3分の1の規模である。ポルトープランスにおいても、通常数百人の警官が勤務しているが、公式には約2400人が首都に配属されていると専門家は言う。警察署長のエルベによれば、多くの警官が殺されたり、辞職したり、あるいは単に職を離れたりしている。

また、なお元警察官のジミー・シェリジエ(Jimmy Chérizier)のようにギャングのリーダーに転身するものもいる。バーベキュー(Barbecue)の名で知られる彼は警察を去ったのち昨年9月、民主主義ではない形で首相に着任したアリエル・ヘンリーへの反対を示すデモ行進を先導した。

 

ハイチの人権に関する国連の専門家であるビル・オニール(Bill O’Neill)はハイチ警察が「もう何ヶ月も(海外からの)助けを求めている」と述べるものの「彼らがまだ持ちこたえていることに驚く。(これは)小さな奇跡」とも言えると述べている。

専門家によれば、国内には200ものギャングが存在し、ポルトープランスでは約20のギャングが活動している。ピストルを共有する数十人の若者の小さなグループから、自動小銃で武装したおよそ1,500人の一団までさまざまだ。米国当局によれば、要塞を貫通できる弾薬を発射できる大口径ライフル銃を持つギャングもいるという。彼らはまた、ドローンを使って警察を監視している。警察の武器はライフルと拳銃が多い。

警察は政府の重要な建物やインフラを守ることに集中しており、首都の住宅地はギャングによるヒット・アンド・ランの攻撃にさらされている。ギャングはポルトープランスの多くの地域で優勢を保っており、近隣全体を支配している。彼らは活動資金を調達するために恐喝や誘拐に手を染め、ハイチの政治的将来に対する発言権も要求している。

 

 

西半球問題担当のブライアン・A・ニコルズ国務次官補はインタビューで、「当面は十分な物資を提供したが、毎日が重要であり、これは持ちこたえるための行動だ」と述べた。米政府高官は、ハイチに多国籍軍を派遣することの緊急性を繰り返し強調してきた。同時にハイチの人権団体によれば、警察は不特定または虚偽の容疑で人々を逮捕し、拘束者を殴打するなどの虐待も行っている。

このような厳しい状況の中、あまり公の場に姿を現さないエルベは、ハイチ国民を守るために警官たちが最善を尽くしていると安心させる2本のビデオを公開した。「彼らは住民を守るために強く立ち向かい、国が完全に崩壊するのを防いできた」と、防護ベストを着用し、エリート警官に囲まれたエルベはあるビデオで語るとともに、「国が滅びるのを防ぐために、この闘いに参加してほしい」と警察官仲間に直接訴えた。

専門家によれば、ギャングは権力を誇示し、恐怖を煽るために意図的に警察を標的にしている。国際危機グループのためにハイチを監視しているディエゴ・ダ・リン(Diego Da Rin)は、「彼らは警察官を残酷に殺害したり、遺体を切り刻んだりしている」と語った。警察組合のリオネル・ラザール(Lionel Lazarre)委員長は、「警察も他の住民と同じ被害者です。士気は高くない」と述べている。エルベによれば、1月以来、少なくとも24人の警官が殺され、さらに5人がギャングに待ち伏せされて行方不明になっている。警察官が直面する莫大な困難とリスクを考えると、この部隊は驚くべき献身と回復力を示していると、何人かの米政府高官は述べた。専門のSWATチームと対ギャング部隊は、エルベが「重武装ギャングによる都市ゲリラ戦」と表現したように、内務省や司法省、最高裁判所を含むダウンタウンの主要な政府庁舎への攻撃を何度も撃退した。ポルトープランスとその近郊では、ここ数週間で少なくとも22の警察管区が破壊された。

米国務省から派遣された14人のアドバイザーとトレーナーからなるチームは、ハイチ警察に編入され、戦術的アドバイスなどの支援を行っている。ハイチ警察の幹部は、米州機構の一部であるワシントンの米州防衛大学(Inter-American Defense College)を通じて訓練も受けている。それでも、ギャングとの戦いにおいて、ハイチの警察は不利な立場にある、と専門家たちは言う。というのも、彼らは優れた諜報能力を欠いており、装甲パトロールカーやヘリコプター、ドローンなど、厳重に要塞化されたギャングの拠点を標的にするための装備もないからだ。これに対し米政府はハイチへの軍事援助6000万ドルとしてハイチ警察に ハンヴィー80台、マックスプロ(MaxxPro)35台、狙撃銃、ドローンなどを提供する予定だ。ハンヴィー(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle:Humvee)は高機動多用途装輪車両でアメリカ軍向けにAMゼネラル(AM General)が製造した汎用四輪駆動車を指す。また、マックスプロは米国ナビスター・インターナショナル(Navistar International)社の子会社であるインターナショナル・ミリタリー・アンド・ガバメント(International Military and Government) によって開発された4輪駆動の対地雷/伏撃防護装甲車(Mine Resistant Ambush Protected:MRAP)である。

 

ハイチに政治的安定をもたらすことを任務とする暫定評議会が、新政府を樹立し、総選挙への道を開くプロセスの一環として発足した。「彼らはもう何ヶ月も助けを求めている。「彼らがまだ持ちこたえていることに驚く。小さな奇跡と言える」。

#ハイチ大統領暗殺事件 #ハイチ危機

 

 

参考資料:

1. Equipos estadounidenses llegan a Haití para apoyar misión keniana
2. Surinam anuncia que se une a intervención militar en Haití
3. Déploiement imminent des forces de police kényanes en Haïti : les préparatifs sont en cours
4. Surinam enviará militares y policías a Haití para ayudar al proceso de transición
5. Haiti’s Police Are ‘Begging for Help’ in Battle Against Ruthless Gangs

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