エクアドル:新しい刑務所システム立ち上げにあたってDNAを採取する

(Photo:Ciencias Forenses,)

国立法医学サービス(Servicio Nacional de Medicina Legal y Forense:SNMLF)と国立受刑者総合支援サービス(Servicio Nacional de Atención Integral a Privados de Libertad:SNAI)は、遺伝子プロファイルのデータベースを作成するための情報収集を開始した。当局によると、この調査で得られた情報は、刑事事件や人道的事件の解決に利用される。エクアドル初のこの手の受刑者データ収集は、同国で実施されている新しい刑務所センサスの一部であり、2022年12月20日付決議第SEIIMLCF-CD-2022-001号により、「法医学および人道的研究目的の遺伝子プロファイルデータベースの作成および管理に関する規則(Reglamento para la creación y administración de la base de datos de perfiles genéticos con fines de investigación forense y humanitarios)」に基づく。

このプロセスは2段階に分かれている。第一段階では、入れ墨や傷跡の写真を撮り、目の虹彩を記録し、指紋を採取する。第二段階は、口の中の綿棒でDNAサンプルを採取する。検査が終わると、受刑者にはIDカードの番号のような固有のコードが割り当てられることとなる。

 

 

スペインの『エル・パイス(El País)』紙が入手した3つの公式情報源によると、刑務所でのデータ入手手続き方法は不透明だという。そのメモによると、この作業を行う役人は受刑者に対し、国の情報バンクに登録されるこのDNAサンプルは、この国の刑務所でよく起こっている虐殺事件や、何者かが受刑者になりすました場合に、受刑者を特定するのに役立つと説明している。弁護士に相談しないよう説得し、この手続きが刑務所の日常業務の一部であると信じ込ませるようにもしているという。彼らが隠しているのは、彼らにはサンプル採取を拒否する法的権利があること、そしてこの遺伝子情報が、過去に犯した犯罪や将来犯すであろう犯罪に彼らを巻き込むために使われる可能性があることである。この手続きは、毒物学者、人類学者、法医学化学者、法医学心理学者には必須とされるものである。

一方今回のDNA収集に際しては「自由を剥奪された者(Personas Privadas de Libertad :PPL)の同意書を読んではいけない、彼らはそれさえ理解していない」というのが、法医学専門家が受けた指示であると、3人の異なる情報筋が語っている。国立受刑者総合支援サービスは、この問題に関するエル・パイス紙の質問には回答しなかった。

政府が軍が刑務所を管理していることを利用して、遺伝子検査を開始したと報じたエル・パイス紙によれば、囚人たちは、これらの記録が、将来犯す予定の犯罪や、過去にすでに犯した犯罪に関与するために使用される可能性があることを知らない。 例えば、殺人罪で有罪判決を受けた囚人が自分の遺伝子を貸せば、レイプ事件で採取されたサンプルと一致する可能性がある。

 

3月15日の時点で、グアヤキルのPenitenciaría del Litoralとコトパクシとチンボラソの4つの刑務所で受刑者から3,794のサンプルが採取された。9人の受刑者は検査に応じなかった。リオバンバ刑務所では、受刑者全員が登録された。サンプルはSNMLFの遺伝学研究所に送られた。2月21日に刑務所で開始された第一段階を完了するには、まだ6,706人の受刑者がいる。

遺伝学研究所の責任者であるマリア・ガブリエラ・ゴメス(María Gabriela Gómez)によれば、DNAの塩基配列が分析され、特定の分子マーカーが決定される。さらに同医師がエクアビサ(Ecuavisa)紙に語ったところによると、各受刑者は、家族の背景情報を調べるために面談を受けているという。

3月15日時点の統計

 

エル・パイス紙は、3月15日にグアヤキル地方刑務所で行われたサンプル採取を目撃した情報筋の証言を紹介している。そこでは、警察官が囚人を出迎え、何も説明することなく、用紙に記入しなければならないことを告げた。

その後、彼らはテーブルに連れて行かれ、そこでコードが割り当てられ、写真が撮られた。その後、彼らは別の場所に連れて行かれ、そこで警察官が彼らのデータをコンピューターに入力し、その後、親権の連鎖を尊重するため、専門家によって保管された綿棒で採取された。誰一人として異議を唱える者はおらず、質問をした者は、ある時点で彼らを特定するために必要な指紋であることを告げられた。「万が一、バラバラにされたときのためか」との質問に「そうだ」と言われ、処置は続けられたと言う。刑務所の状況を監視している人権常設委員会(Comité Permanente de Derechos Humanos:CDH)は、この措置について知らなかったと言う。「このようなセンシティブなデータは、絶対的な秘密のもとに、同意を得て、自発的に提供されなければならない」。 「本人は同伴するか、少なくとも法定代理人の助言を受けるべきだ」とビリー・ナバレテ(Billy Navarrete)は付け加えた。「公衆衛生省は、この非常にセンシティブな情報へのアクセスを倫理的に保証すべき唯一の機関であり、それ以外の機関が関与する余地はない」とナバレテ所長は主張する。

 

このような手段をエクアドルが取ろうとしているのには訳がある。刑務所や町で犯罪者同士が対立し、非情なる暴力によって命を落としていることは確かだ(刑務所における抗争についてはこちらも参照)。その一方例えば当局の無能さを露呈させることになった事件を2度と繰り返さないための処置とも言える。麻薬密売の最重要幹部の一人レアンドロ・ノレロ(Leandro Norero)、通称エル・パトロン(El Patrón)は2020年、COVID-19の大流行を利用し警察網をすり抜けた。ノレロはウイルスによって死亡したと言う話が持ち上がり彼は当局から逃げ延びた。サンボロンドンの邸宅で彼は生きて発見され、再び投獄された。2022年10月、コトパクシの中セキュリティ病棟で彼は2度目の死を遂げた。エル・パトロンは、彼の盟友でありビジネス・パートナーであり、刑務所を支配している犯罪組織ロス・ロボス(Los Robos)が組織した待ち伏せにあった。理屈の上では、彼はバラバラにされ、体の一部が焼かれた。しかし、警察はこれも策略ではないかと疑っている。事実この時の身元確認は、法医人類学的調査 −家族構成、入れ墨、傷跡などの記述− で行われ、遺伝子プロファイルを用いてのものではなかった。裏を返せば生物学的プロファイルがなかったためこの凶悪犯が死んだと100%断言できる要素はなかった。整形手術で身元を変えたり、埋葬を偽装したりするのは、麻薬王がよく使う手口である。

 

刑務所の収容者、刑事犯罪の捜査・起訴・判決を受けた者、犯罪現場から得られた証拠の遺伝子プロファイルに関するデータは、国立法医学サービスと国家検察(Fiscalía General del Estado)の専門家によってのみ管理され、遺伝子プロファイルのサンプルを要求できるのは、裁判官か検察官だけとされている。

昨年12月に承認されたさまざまな集団からの生物学的サンプルの収集とデータベースに含められるのは囚人のみならず、武器携帯の許可・認可が必要な者、国家警察および軍隊の統合司令部の現役隊員、COESCOPの対象となる補完的安全保障機関に属する職員も含まれる。

 

※SNAI、正確には「自由を奪われた成人および青少年犯罪者総合支援サービス」

 

参考資料:

1. El País de España dice que el Gobierno de Ecuador crea base de perfiles genéticos de delincuentes
2. Ecuador suspende la toma de muestras genéticas a presos tras las críticas por el procedimiento
3. El nuevo censo penitenciario incluye toma de muestras de ADN
4. Ecuador crea Base de Datos de Perfiles Genéticos para Investigación Forense y Humanitaria

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