米国:麻薬取締局(DEA)の汚職とラテンアメリカにおけるその重み

本ブログの内容はラテンアメリカ戦略分析センター (Comunicación y Democracia, asociado al Centro Latinoamericano de Análisis Estratégico:CLAE) 付属コミュニケーションと民主主義観測所(Observatorio de Comunicación y Democracia)所長アルバロ・ベルツィ・ランヘル(Álvaro Verzí Rangel)のコラムを訳したものである。

 

連邦麻薬取締局(Drug Enforcement Administration:DEA)は、世界各地で麻薬汚職との闘いについて大々的に語っている。しかし国内においては麻薬撲滅の成果よりも一連の内部スキャンダルで注目を集めている。米麻薬政策は大失敗でしかなく、世界のコカイン市場は依然として活況を呈している。

強大な権力を持つ麻薬取締局は、汚職や麻薬密売への加担を理由に何十人もの捜査官を調査しなければならなかった。何人かは投獄され、何人かは退職を余儀なくされた。麻薬取締局内部の汚職や麻薬密売組織との共謀のスキャンダルは日常茶飯事となっている。今日、米国の強力な組織は、単独の汚職事件ではなく、組織的な問題に直面している。

 

創設から 50 年経つ麻薬取締局は 100 か国以上で初めて業績評価が行われた。その結果捜査員の職務遂行における不正行為が発覚している。その中には、麻薬取締局による情報提供者に対する支援の欠如が含まれている。情報提供者は情報提供を行っても全く保護されないまま放置されているという残酷な非難も報告には含まれている。

米国政治界の常習は、地域社会を悩ます麻薬消費問題をラテンアメリカ諸国のせいにし、一部の国民の排外主義を利用して当局の責任を回避し、麻薬取引が米国に由来する事実を隠蔽することである。

 

1971年、リチャド・ニクソン(Richard Nixon )大統領は「麻薬使用は公共の敵である」と宣言した。それ以来、ワシントンはラテンアメリカの指導者たちにアメリカ政府の強硬な麻薬撲滅政策を守らせようとした。しかし、少なくともラテンアメリカの新しい指導者たちにとっては、その時代は終わりを告げたようだ。

この戦争におけるワシントンの最も強固な同盟国のひとつであるコロンビアも、決定的に距離を置き、この傾向を強めている。メキシコとコロンビアがいなくなれば、アメリカは地域の麻薬対策戦略を失うことになる。 アメリカには需要だけでなく、カルテルに力を与える兵器産業、マネーロンダリングを促進し管理する金融機関、組織犯罪を支援する政府機関も存在する。

 

DEAは言説をつうじてアルコール・タバコ・銃器取締局(Tabaco y Armas de Fuego:ATF)の「オープン・レシーバー(Receptor abierto)」や「ファスト・アンド・フリアス(Rápido y furioso)」計画による武器の受け渡し、コロンビアのカルテルやメキシコの犯罪組織「ラ・ファミリア・ミチョアカーナ(La familia michoacana)」からの数百万ドルの送金やロンダリングにおけるDEAの協力など証明された事例を忘却の彼方に覆い隠そうとしている。

リオ・ブラボー川以北に麻薬カルテルは存在しないという物語は、これらの犯罪組織が米国の政治的および経済的権力の領域にいかに浸透しており、彼ら自身が麻薬を配布しているかのように装う不条理の中で生きているという確信を強化するものである。 

ワシントンの麻薬対策政策と禁止モデルを拒否しているのは、コロンビアのグスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)大統領だけではない。この地域におけるもう一つの米国の主要同盟国であるメキシコも米国の政策と衝突し、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドル(Andrés Manuel López Obrador)大統領の政権下で麻薬対策協力を縮小させてきた。

 

米国務省は、治安上の懸念からメキシコ32州のうち30州への渡航を控えるよう警告を発した。メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドル大統領は、メキシコは間違いなく米国より安全だと主張した。「共和党の下院議員たちがメキシコへの軍隊派遣を提案してきた。一方、メディアはメキシコ大統領はポピュリスト、共産主義者、コーディリスタであり、救世主的な政府は機能していないとし、不安を植え付けようと躍起になっている」。

米国は政治的あるいは安全保障上の問題に直面すると、麻薬取締局とともに、ラテンアメリカの支配者たちに対する中傷キャンペーンを展開し、同胞や世界全体の想像力の中で彼らのイメージを傷つけ、内政干渉するための口実を模索している。

先週、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドル大統領はアメリカ人ジャーナリストのティム・ゴルデン(Tim Golden)を召喚した。ジャーナリストは報告書の中で、何の証拠もないなか、2006年の大統領選挙活動における犯罪組織の資金提供疑惑について述べている。大統領はゴルデンに「雇い主は誰か。どうやってゴルデンを呼んだのか。いつからメキシコに来てこの問題に対処しているのか」を問うた。

 

麻薬取締局の派遣は麻薬密売を撲滅するという明確な米任務の元行われるが、一方で決して明確にはなっていない他国への介入手段の一つとなっているいることは確かである。これについては麻薬取締局に関する評価書には書かれていない。世界中に触手を伸ばすこの強力な米国機関は、ラテンアメリカ諸国の司法、警察、地方政治のさまざまな層に浸透し、それらを支配するまでになっている。

アメリカの通信社AP通信は2月1日、ドナルド・トランプ(Donald Trump)政権時代に開始されたベネズエラでのDEAによる潜入捜査について報じている。その目的は、同国の指導者に対する偽の麻薬密売事件を構築し、ニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)大統領を含む高官を追跡することだった。同様の事象は、この地域のいくつかの国で繰り返されてきた。

信じられないことかもしれないが、情報提供者の殺害や失踪は世界中で起きている一方、DEAの報告書はこれに関する記載はない。DEAは100カ国以上で活動しているが、情報提供者を保護するプロトコルがない。どの情報提供者が、いつ、どのような形で保護されているのかを知ることは不可能であるものの、このようなことに対する告発は多い。しかし公式報告書ではこのような事象は真剣に受け止められていない。

 

米国麻薬取締局の海外活動の評価には、捜査官の海外における非正規活動については書かれていない。そのため抜本的な内部改革案も提示していない。しかし、汚職や不祥事、さらには犯罪組織との共謀のケースは明らかにされている。

分析はメキシコ、ホンジュラス、コロンビア、ハイチでのDEA活動に関する重大事件についても言及している。汚職に加え、情報漏洩や民間人の死亡事例があった。

しかし、捜査官が賄賂を受け取り、マネーロンダリングに協力し、麻薬密売組織に情報を漏らし、没収された資産を盗むなどのスキャンダルが頻繁に報告されているにもかかわらず、麻薬取締局には何の影響もないようである。麻薬取締局の予算は年間25億ドル(約2,000億円)以上増え続けている。米国内の241の事務所と海外にある93の事務所で働くDEAの1万人の職員は、書類上では、米国人に危害、暴力、過剰摂取、中毒を引き起こす犯罪的麻薬ネットワークとの闘いを担当している。DEAの役割における中心的な部分には、違法な麻薬ビジネスに不可欠な汚職との闘いも含まれている。公式情報によれば、近年26,000人以上の逮捕者を出し、エル・チャポ(El Chapo)やガルシア・ルナ(García Luna)などメキシコで注目を集めた事件にも関与している。また、エル・マヨ・サンバダ(El Mayo Zambada)やハリスコ・ヌエバ・へネラシオン(Jalisco Nueva Generación)のボスなど、メキシコの他の麻薬王についても追及を続けている。これらのカルテルは最優先課題となっているフェンタニルに関与している。

 

最も壮絶なケースのひとつは、懲役12年の刑で服役している麻薬取締局のスター捜査官ホセ・イリサリ(José Irizarry)のケースである。イリサリは資金洗浄のためにコロンビアのカルテルと(そしてカルテルのために)働き、没収された資産と情報提供者への支払いで数百万ドルを盗み、パーティーや豪華なディナー、売春婦との国際的な生活に使ったと2020年にFBIに告白している。さらに3大陸にまたがる彼の壮大な汚職祭りに参加した数人の同僚、アメリカ政府高官、彼が活動していた国の政治家、情報提供者を告発した。彼は「我々がチーム・アメリカと呼んだものでは、私たちがやりたいことをすべて自由に行うことができた」ことを認めている。DEAはこのスキャンダルを独立した事件として収めようとしていた。しかしイリサリの告発はこれを許さず、2022年末までにDEA職員と検察官の最大20人が尋問されている。

イリサリは起訴状にはこの計画全体を仕切った悪徳捜査官としての自身が描かれていると指摘した。しかし「(起訴状には)他のDEAのことは書かれていない。私は首謀者ではない」と述べている。 有罪判決を下した判事は2021年に検察にイリサリは捕まった一人だと言ったが、彼の法廷には間違いなく他にも大勢の被告がいる。

イリサリは報道陣に対し、自身の腐敗行為は麻薬撲滅戦争がある種の茶番劇であると認識した結果であると語った。 「勝てない戦争に勝つことはできない。 DEAはそれを知っており、捜査官もそれを知っている…麻薬戦争はゲームだ…。我々は楽しいゲームをしていた」 。つまり儲かるゲームをだ。

DEAは1年前、メキシコ当局との協力関係が悪化していたニック・パルメリ(Nick Palmeri)局長を解任した。彼はDEAの資金を、とりわけ自分の誕生日パーティーの費用や、当時のDEA長官代理をもてなすためにパナマでヨットを借りるために使っていた。

麻薬取締局の地域局長ニック・パルメリは、カルテル幹部の弁護士と数回面会していたことがリークされ、解雇される前日の2021年に突然退職させられたが、司法省の監察官がメキシコでの解任理由を公にしたのはその2年後だった、とワシントン・ポスト紙は報じている。

元麻薬取締局捜査官は、「自分の家が燃えているようでは、メキシコ政府の問題を解決することはできない」とコメントした。なお自身の家は昨年、司法省の監察官による調査の対象となっている。DEAの高官7人ほどが、100万ドルの非競争的契約を結んで不正を働いた可能性があることによる。彼らは以前、政府機関の管理者(長官)であるアン・ミルグラム(Anne Milgram)のもとで働いたことのある12人を雇用していた。ミルグラムが締結した140万ドルの契約は、麻薬取締局の対外活動スキャンダルの評価を実施するためのものだったが、最終報告書は、数人の捜査官の不正行為に対する批判が限定的であるとして、広く疑問視された。この契約はワシントンの法律事務所と締結されたが長官の友人に近い弁護士が所長を務めていた。ミルグラムは2021年、ジョー・バイデン大統領に任命され、人種差別や性差別を含む警官の不適切な行動を防止するため、より厳しい規則を課した人物だった。

特にイリサリのスキャンダルの後、国際業務の評価を命じたのは彼女だったが、その業務を誰に委託し、誰を雇ったかが疑問視されていることが判明し、彼女の活動自体もまたチャルズ・グラスリ(Charles Grassley)上院議員のような有力議員による調査の対象となっている。

 

麻薬取締局内の汚職はデリケートな問題であり、麻薬取締局の優先事項のひとつは、その業務の完全性を保証し、内部での不処罰を許さないことを保証することだと、麻薬取締局は繰り返している。それを信じる者は少ないが、現実はその通りであることを証明している。

昨年半ば、麻薬取締局の副司令官ルイ・ミロンズ(Louis Millones)は、鎮痛剤の不審な輸送で制裁を受けた製薬会社パーデュー・ファーマ社の顧問でもあったことをAP通信によって暴露され、辞任した。ミリオネは2017年にDEAでの21年間のキャリアを辞めて民間部門に転職し、2021年にミルグラムの副官として復帰している。

#DEA

 

元コラム:

1. La narcocorrupción en las filas de la DEA y su peso en Latinoamérica

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