エクアドル:2023年、女性という理由だけで300人以上が殺された

(Photo:@GKecuador / X)

2014年にフェミシディオ(英語ではフェミサイド)が犯罪化されて以来、少なくとも1,698人の女性、少女がこの犯罪の犠牲になっている。エクアドルにおける女性殺人のマッピングのためのフェミニスト同盟(Alianza Feminista para el Mapeo de los Femicidios en Ecuador)が収集した数字によると、2023年1月1日から12月31日の間に、エクアドルでは321人の女性がジェンダーに関連した理由で殺害された。グアヤキルでは昨年91件のフェミシディオがあり、最も件数の多い県だった。

 

女性を理由とした殺人をついていう場合「Femicidio(Femicidio) 」と「Feminicidio(フェミニシディオ)」が用いられる。どちらも女性の殺害を意味する言葉ではあるものの、両者には違いがある。エクアドルでは、ボリビア、コロンビア、メキシコといった他のラテンアメリカ諸国とは異なり、「フェミシディオ」のみが法的に類型化されている。

スペイン王立アカデミーの辞書によると「フェミシディオ」とは「マチズモや女性嫌悪のために男性の手によって女性が殺害されること」であり、女性が男性から受ける身体的、心理的、性的暴力の極端な結果である。エクアドルでは包括的有機刑法典(Código Orgánico Integral Penal:COIP)第141条でフェミシディオを類型化されている。第142条には加重状況も規定されており、以下の場合には、前条に規定された最高刑が科される。

  1. 被害者との関係または親密さを確立または再確立する意図があったこと
  2. 加害者と被害者の間に、家族関係、婚姻関係、同棲関係、親密関係、求愛関係、友情関係、交際関係、仕事関係、学校関係、その他信頼、従属、優越を意味する関係が存在する、または存在したことがある
  3. 犯罪が被害者の子供やその他の親族の面前で行われた場合
  4. 被害者の遺体が公共の場に晒されたり、投げ捨てられたりした場合

 

一方の「フェミニシディオ」とは、女性に対する極度の暴力事件に対して国家が不寛容に対応することを指す。「フェミシディオ」に対処する責任を負う国家が、責任者を捜査し処罰しない場合、それは「フェミニシディオ」に分類される。

「フェミシディオとフェミニシディオの違いは、後者が、女性の生きる権利と不可欠な保護を害する国家の不作為または不十分な行動の結果として、不処罰の要素を含んでいることである」と、国家検事総局(Fiscalía General del Estado)による書籍『フェミシディオ(Femicidio)』(2016年)に記載がある。また、『ディアリオ・フェメニノ(Diario Femenino)』誌に寄稿したジャーナリストのガブリエラ・バルカリオニ(Gabriela Barcaglioni)は、「フェミニシディオという言葉には、女性を殺害することを可能にする脆弱な状況を維持することによって、状況を生み出す主役としての国家も含まれる」と説明している。

 

フェミシディオという言葉自体は1976年に生まれた用語で、アメリカの人類学者ダイアナ・ラッセル(Diana Russell)が多くの殺人は「女性であること」が理由となっていると指摘した。彼女がこれを指摘するまでは、フェミシディオという言葉は存在しなかった。それもあり「女性の殺人」を意味する言葉を1801年に作りだした。1976年、ブリュッセルで開かれた女性に対する犯罪に関する国際法廷において、フェミニストのダイアナ・ラッセル(Diana Russell)とジェン・カプティ(Jane Caputi)が女性に対する極端な暴力を糾弾するために初めてこの言葉を法的な文脈で使用した。この言葉は「女性であることを理由とする女性の殺害」を意味するものの、原理的には「フェミシディオ」は、感情的・心理的虐待、殴打、侮辱、拷問、レイプ、売春、セクシャル・ハラスメント、児童虐待、性器切除、家庭内暴力など、あらゆる暴力行為を包含する場合もあるとDiario Digital Femeninoは述べている。

バルカリオニはフェミシディオが、女性が直面する状況、この問題を理解できる言葉だと語っり、その理由を「侮蔑や憎悪、快楽や私たちに対する所有意識に突き動かされた男性による、男性による女性の殺人だからだ」と語った。

ジャーナリストでラ・マタンサの女性・ジェンダー・多様性政策事務局(Secretaria al frente de la secretaría de las Mujeres, Políticas de Género)の新任事務局長であるリリアナ・ヘンデル(Liliana Hendel)は少し前までは、実際には今でも時々処罰されることもなく行われるこのような犯罪について、メディアは「情熱の犯罪 」と呼んでいた。この言葉を用いることで犯人は本能の犠牲者として描かれ、女性らしさよりも男性の生活と欲望を優先するシステムの永続化という、実際に起こっていることがぼかされることになる。

「不在の国家が積極的に存在することを指摘することは、実に重要なことだと思う。というのも、今日の問題は明らかに男性の暴力と関係しており、この場合、最悪の暴力のひとつである殺人とフェミニシディオは区別されなければならないからだ」とヘンデルは主張し、さらに「フェミニシディオという概念の使用にこだわることは、女性や反体制派に対して、その状態を理由に行われた殺人において、国家が少なくとも責任の一端を負っていることを白黒つけることになると考えるからだ」と付け加えた。

 

2023年に321人の女性が命を落とした理由は以下の通りである。
 - 128人はパートナーや元パートナーによるもの
 - 17人はトランスフェミサイド
 - 172人は、組織犯罪などの犯罪システムと関連したもの

 

これらの数字には、失踪届が出されていた過年度の4件が含まれている。彼女たちの遺体が2023年に発見されたこともあり、その分も含まれている。これらを鑑みた場合、2023年には、平均27時間ごとに女性が残酷に殺害されていたことになる。2022年は28時間ごとだった。女性の殺害が記録されていないのは、エクアドル・アマゾンのサモラ・チンチペ県とガラパゴス諸島だけである。

なお2023年に殺害された321人の女性のうち、37人は暴力を受けていることを報告していた。8人は暴力の被害者として報告されており、6人は性的虐待を受けていた。

2023年に殺害された女性の平均年齢は34歳で、被害者のほとんどは22歳だった。被害者の最年少は生後1カ月半、最年長は90歳だった。このうち、108人が母親であり、少なくとも187人の子供が孤児となった。また、同年死亡した女性のうち15人は、死亡時に妊娠していた。なお2023年に殺害された女性のうち、215人が銃器による殺害だ。290人がエクアドル人、27人が外国人であった。フェミシディオの容疑者のうち12人は犯行後に自殺し、他の5人は自殺未遂に終わった。

 

これらの数値は、エクアドルにおける女性、少女、青少年に対する暴力に関する統計を独自に収集する組織の連合体である「エクアドルにおける女性殺人のマッピングのためのフェミニスト連合」によって発表されたものだ。同連盟は暴力に苦しむ女性のための優先注意センター、シェルター、避難所で働く女性たちとのグループチャットを通じて、暴力による死亡の警告を受けている。また、地元メディアや全国メディアが報じた死亡事例も記録している。同同盟は、被害者の近親者による殺人だけでなく、2021年以降、不平等な状況の中で起きたと考えられる女性の暴力的な死もリストに追加している。つまり犯罪ネットワークに絡んだ死、つまりヒットマンによるもの、あるいは「巻き添え被害」も含まれている。犯罪組織のリーダーが殺されれば、敵はそのパートナーをも殺害の対象とする。

 

アマゾニアの指導者であるネモ・アンディ(Nemo Andy)は、「先住民のコミュニティでも失踪やレイプがあり、このデータは現在存在しない」ことを告げている。彼女は政府に対し、「先住民族のテリトリーに届くような公共政策が行われるよう、公正な資金を提供する」よう要求した。2014年1月1日から2023年10月31日までに、アマゾン地域でも114人の女性が殺害されている。

同団体の女性たちはまた、娘、息子、母親、父親、その他の女性殺人の犠牲者家族に対する包括的な補償を求める法律の草案が国会で承認されるのを待っていると述べた。同法案はすでに議会での第1回審議を通過しており、現在、第2回目の最終審議に向けた報告書を作成するため、憲法保障委員会に入っている。

エクアドルでは、マリア・ベレン・ベルナル弁護士のような女性に対する暴力や殺人事件が増加しており(詳細はこちら)、「フェミシディオ」と「フェミニシディオ」という言葉についての議論もまた再燃している。

 

参考資料:

1. Estas son las cifras de femicidios en Ecuador en 2023
2. ¿Son lo mismo femicidio y feminicidio?
3. Femicidio y feminicidio, ¿son lo mismo?
4. Violencia femi(ni)cida: una pandemia que mata en Ecuador a mujeres y niñas

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