コロンビア:国連コロンビア検証ミッション2023年10月報告内容

(Photo:MisionONU Colombia/Flickr)

国連コロンビア検証ミッション(United Nations Verification Mission in Colombia:UNVMC)は当事者(コロンビア政府、コロンビア革命軍(Fuerzas Armadas Revolucionarias de Colombia – Ejército del Pueblo:FARC-EP))からの要請にこたえて国連の安全保障理事会が2016年1月、設立、組織した。同ミッションは両者による和平合意に基づきFARCが武装解除し、両当事者間の停戦と敵対行為の停止を監視、検証する政治的ミッションである。FARCとコロンビア政府は同年6月23日に「二者間・最終的停戦及び敵対行為の停止と武器引き渡しに関する合意」、11月24日に「紛争の終結と安定した恒久平和の構築に関する最終合意」に署名した。同合意は11月30日にコロンビア議会によって批准され、2016年12月1日に発効した。この合意を通じて、和平に向けた実施計画に具体的に着手することとなった。

2018年8月7日から 2022年8月7日、大統領を務めることとなったイヴァン・ドゥケ(Iván Duque Márquez)はゲリラ組織との和平交渉を大幅に後退させた。就任当初より和平合意の「構造的な誤りを正す」と強調し、合意内容を否定した。その結果武装解除しても自らの生活や身の安全が保証されていないなどとして、和平交渉に参加することなくFARCの分離派として残った集団に武装解除したはずの元戦闘員が多く戻って行った。元FARC指導者の一人である(Luciano Marín Arango、通称イバン・マルケス(Iván Márquez))もまたその一人である。コロンビアにはFARCから分離した集団が34あるとされている。FARC分離派以外にも民族解放軍(Ejército de Liberación Nacional:ELN)などこの国には武装解除をしていない組織が左派、右派ともに残っている。

 

コロンビア検証ミッションは上述の通り和平に向けた取り組みを監視する。ミッション遂行状況に関するレポートは3ヶ月ごとに発表され、この度2023年6月27日から9月26日の評価がなされた。それによるとグスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)大統領の政権発足1年目の評価は、政府は和平合意に向け断固とした行動をとっており、特定の結果も出ているとし評価されている。しかし事務総長は、和平合意の実施に向けた進展を加速させる努力を倍加させるよう促すとともに、「被害者や社会的弱者に対する国の約束を尊重し、領土全域で国の存在感を高めるよう努めることは、深い責任であるとともに、政治的意思を示し、国の正当性を強化するための比類ない方法である」とも指摘している。また「数十年にわたる紛争に終止符を打つという両当事者の決意を反映した」最近の政府とELN間の交渉の進展に敬意を表した。

報告書は、8月にペトロ大統領が農民、女性、先住民、アフロ・コロンビアの団体の参加を促進するなど、首尾一貫した実施を確保するための重要な組織間調整メカニズムである国家農地改革システムを発足させたことを、前向きな進展として強調している。今までなかなかプロジェクトが進まなかったのは、農地改革が進まなかったことも原因とされていた。事務総長は、包括的な農村改革に関与するすべての関係者に対し、進展を促す最重要手段として対話を優先するよう求めた。安全保障の面では、紛争被災地での暴力を食い止めるための待望の手段である、違法武装集団と犯罪組織を解体するための公共政策とその行動計画が、安全保障国家委員会により承認されたことを強調している。

 

グテーレスをはじめ、世界中が懸念しているのは武装集団による違法な子どもの徴用や、和平プロセス参加者として武器を捨てた元戦闘員、社会指導者、先住民、アフロ・コロンビアの指導者が直面する継続的な脅威と暴力だ。国連としては「女性指導者と人権擁護者のためのセーフガードに関する包括的プログラム」の行動計画のさらなる実施、また、女性指導者と人権擁護者の安全と保護を確保するための公共政策の実施など、必要なすべての措置を講じるよう政府に要請している。

上述の通りFARC-EPの元メンバーに対する暴力が続いている。この3ヶ月で15人の元FARC-EP戦闘員が殺害されている。最終和平合意調印以降実に元戦闘員394人(女性11人、アフロ=コロンビア人57人、先住民39人)が命を狙われ失った。事務総長は政府に対し、「彼らの安全と保護を確保するために必要なあらゆる措置を講じるとともに、司法当局に対し、これらの犯罪の責任者を速やかに裁判にかけるよう求める」と述べた。この数字は残念なことに10月29日になると合計401人にもなっている。

 

当局と非合法武装勢力との衝突は全般的に減少している。しかし非合法武装勢力と勢力拡大を狙う犯罪組織との対立や、みかじ料をめぐる衝突は続いている。こうした対立が地域社会に与えた影響は、特にアンティオキア、アラウカ、カウカ、チョコ、ナリーニョ、バジェ・デル・カウカといった県で見られた。

国連人道問題調整事務所(United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Affairs:OCHA)によると2023年6月27日から8月30日までに、8,556人が強制的に移動させられ、27,183人が監禁された。一方、OHCHRは人権擁護者の殺害に関する52件の申し立て(検証済み4件、検証中44件、結論なし4件)を受けた。これは前年同期と比べ、13%減少したことになる。社会的リーダーにおいては今年に入り138人も殺されており和平合意後の合計は1552人にもなっている。これらの数値はこれでも過去と比較すると減少したと言える。

https://twitter.com/Indepaz/status/1724081985897832551

 

ミッションが農村部での殺害が減少していることを指摘する一方、一部の地域では2023年に女性に対する暴力が1年前と比べて増加している。平和の実現に向けた努力は、違法薬物生産と闘い、テロリストや違法武装集団による行為の不処罰を回避することの重要性を認識すべきであると事務総長は付け加えている。

 

社会復帰に関しては、より持続可能で包括的なアプローチを促進するための各アクターが努力しているとした。例えば国家社会復帰評議会(National Reintegration Council:NRC)は、民間企業にインセンティブを提供し、公共部門における雇用を促進することによって、元戦闘員の雇用へのアクセスを促進する戦略を承認した。また、社会復帰・正常化庁(Agency for Reintegration and Normalization:ARN)は、女性の元戦闘員に力を与えるための新戦略の実施に約100万米ドルを割り当てた。せっかく武装解除し、社会に出るためのトレーニングをしても、元戦闘員だという理由から就職を断られ、結果戦闘員に戻ってしまうなどといったことも過去散見されていた。これを思えば、受け入れ口の確保は社会復帰に重要なポイントとなる。

報告書では認定された元戦闘員の77.6%が国主催のプロジェクトに参加している(女性元戦闘員の86%)ことも示された。また、全国に元戦闘員のための協同組合は218あり(56は女性が主導)、約7,000人が参加する。24の旧訓練・社会復帰地域(Territorial Areas for Training and Reintegration:TATR)のうち13は国によって購入された土地を持っている。しかし深刻な治安上の脅威に直面しているカウカ、プトゥマヨ、アンティオキアにある旧TATRは安全上の理由から移転させることが不可欠だとされている。

 

ミッションはまた現在8集団と行われている和平に向けた話し合い(直近で2つコミュニケーションもスタート)やELNとなされてきた停戦を含むこれまでの合意事項の履行も評価している。報告書は、国、地域、地方レベルで活動する監視検証メカニズムが9月3日、交渉の席で代表団に最初の報告書を提出したことに触れており、それによると「当事者は重大な対立を回避することに成功し、停戦とメカニズムの活動の両方が紛争緩和に貢献し、最終的に地域社会に利益をもたらしている」。残念なのは同じ地域で活動する他の武装勢力の間で暴力が続いているため、二国間停戦が人道状況全体に与える影響は限定的であると言うことだ。

停戦に加え、国家参加委員会の活動や、人道的介入に重要な地域に関する最近の合意への呼びかけは、持続的な暴力緩和の可能性を願うものであり、事務総長は紛争に影響を受ける地域社会の利益のために、これが継続することを期待している。

事務総長はまた、政府とFARC人民軍(Estado Mayor Central FARC-EP:EMC FARC-EP)を名乗るグループとの間で進行中の協議を歓迎するとともに、民間人の保護を伴う停戦に関する合意を含め、暴力の緩和と公式交渉の開始に向けた最近の措置が、紛争の影響を受けた地域のコミュニティが望んでいるように、具体化し、具体的な利益につながることを期待している。

政府は和平合意に際してFARC戦闘員に対する減刑や社会復帰の後の政治参加を和平合意を認めていた。具体的にはFARC-EPが創設した政党が、必要最低得票数に達しない場合でも、2018年、2013年の2議会においてコロンビア下院で5議席、上院で5議席を保証されている。10月29日の県・市選挙ではコムネス(Comunes)党から299人(女性128人)が立候補しており、そのうち69人(女性17人)が元戦闘員である。また、76人の元戦闘員(17人の女性)はその他政党や連合から推薦され出馬する。選挙に際しても暴力があること、さらに上述の通り元戦闘員に対する暴力が止まないことを鑑みれば治安対策の強化は特に重要である。

なおFARC(Fuerzas Armadas Revolucionarias de Colombia)は当初FARC(Fuerza Alternativa Revolucionaria del Común)という政党名を用いていたが、元戦闘員以外、つまり新たな社会セクターを取り込む目的と、「FARC」という名前をネガティブに捉えてしまいどうしても受け入れられない人々がいることから改名した。この政党は「現在の社会秩序に内在する支配と搾取との闘いにおいて、女性に中心的な地位を与える」ことを目的としている。地域選挙に関連して、国連のミッションは元戦闘員の市民生活への移行の重要な要素として、元戦闘員を含め、公正かつ安全な政治参加を確保するために必要なすべての措置をとるよう、政府に対し改めて要請した。背景にオンブズマン事務所が警鐘を鳴らす1,100を超える市町村のうち113に暴力事件の発生が差し迫っているという事実がある。

https://twitter.com/LaRojaCerveza/status/1716151192663822420

 

安全保障理事会のメンバーは、国の農地改革制度への実質的な予算配分、国家開発計画における農村開発の優先順位付け、農民・土地所有者組織との対話の強化、農村改革を進めるための優先地域の特定などを通じて、最終和平合意の包括的な実施の勢いが続いていることを歓迎した。彼らは、元戦闘員の雇用へのアクセスを促進する戦略の承認を含む、元戦闘員の社会復帰プロセスを強化する努力を歓迎した。この点での更なる進展を期待した。外相は、議長国において実施を担当する意思決定主体を強化するための更なる進展への支持を繰り返した。

この同じ文脈において、事務総長特別代表(Special Representative of the Secretary-General:SRSG)は、紛争当事者によるジェンダーに基づく、セクシュアル・アンド・リプロダクティブな暴力を取り上げるケース11の開設を平和のための特別管轄権(Special Jurisdiction for Peace:SJP)が最近決定したことを、もう一つの重要なマイルストーンとして強調した。また、「SJPが最初の修復的判決を出す段階に速やかに到達することは、和平プロセス全体にとって重要である」と強調した。 同様に、修復的判決がその目的を果たし、被害者の中心性という原則を尊重するためには、政府がその迅速かつ効果的な実施のための条件が整っていることを保証することが決定的に重要である」と述べた。

 

事務総長特別代表兼国連コロンビア検証団長のカルロス・ルイズ・マシエウ(Carlos Ruiz Massieu)は四半期に一度の演説の最後に、現在コロンビアで進められている平和構築の努力を強調し、「世界中が緊張状態にある今、コロンビアのケースは、どんなに根深い紛争であっても対話を通じて解決できることを思い起こさせるものであり、平和の探求を決して止めないよう呼びかけるものである」と述べた。コロンビアの紛争は、かつては解決不可能と考えられていたが、理事会の重要な支援のもと、今日進められている平和構築の努力は、過去数十年間の挫折を経て実現したものであり、コロンビア人は決して和平をあきらめず、国際社会もあきらめなかった結果だとした。

ペトロ大統領は2022年8月の就任以降、和平政策にプライオリティを置いていた。昨年11月4日にも完全な平和法(2022年法律2272号)に署名しており、​武装組織や犯罪組織へのアプローチと話し合いを行うことを定めた。彼が目指すのはFARC-EPやELNとの和平合意のみならず、その他の非合法組織とも対話しコロンビアの「完全な平和(Paz Total)」の実現だ。

安保理理事国は、コロンビアにおける広範かつ永続的な平和と安定を確保するための主要な柱として、最終和平合意の包括的実施を支援するため、コロンビアと緊密に協力し続けるとの約束を再確認するとともに、この目的に対する両当事者の継続的なコミットメントを歓迎した。両当事者は、国連国別チームと連携して活動する国連コロンビア検証団による補完的な取り組みを強く支持するとともに、進捗の良くない「民族」観点からの平和構築に向けた努力を強化し、平和構築プロセスにおけるこの重要な要素を加速させるよう改めて要請している。

 

#UNVMC

 

参考資料:

1. BRIEFING BY CARLOS RUIZ MASSIEU, SPECIAL REPRESENTATIVE OF THE SECRETARY-GENERAL AND HEAD OF THE UN VERIFICATION MISSION IN COLOMBIA SECURITY COUNCIL MEETING
2. SECURITY COUNCIL PRESS STATEMENT ON COLOMBIA
3. THE SECRETARY GENERAL ACKNOWLEDGES PROGRESS TOWARDS THE IMPLEMENTATION OF THE FINAL PEACE AGREEMENT AND THE SET IN MOTION OF INITIATIVES TO CONSOLIDATE PEACE IN COLOMBIA
4. UN Documents for Colombia

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