エクアドル大統領選2023:討論会で候補者は何を語ったか

(Photo:CNE)

エクアドル大統領選挙第2ラウンドまであと2週間となる10月1日、カロンデレ宮殿をかけてルイサ・ゴンザレス(Luisa González)候補とダニエル・ノボア(Daniel Noboa)候補は討論会で衝突した。現地時間午後7時から2時間にわたって行われた会議では、両候補が経済、社会、安全保障、政治について話し合った。アナリストによると、この討論会は、未決定層の票を決定づけたり、最も忠実な有権者の票を正式に決定する上で、極めて重要なものであった可能性がある。多くのエクアドル国民はまだ誰に投票するか決めておらず、調査会社CEDATOSはその割合を有権者の37.5%と発表している。Comunicalizaの最新の世論調査によると、ノボアは有権者の55.95パーセントの支持を得て、ゴンサレスよりわずかに優勢で討論会に入ることができた。

それでは対談で議論された内容についてみていくこととする。

 

経済

エクアドルのアキレス腱は依然として経済である。欧州の保険グループ、クレデンドによると、エクアドルの公的債務は国内総生産(GDP)に比べて高い。2022年末時点で、債務だけでGDPの57%を占めている。専門家によれば、経済的な不安定さが、今年の大統領候補が直面するもうひとつの大きな問題である犯罪を助長しているという。

候補者たちが経済について語るのは石油利益の低下や若者の失業率の高さといった問題に対する解決策だ。「エクアドルは競争力のある国にならなければならない」とノボアは語った。地元の有力実業家の末裔であるノボアは、外国投資の誘致と新たな労働機会の創出を選挙運動の軸に据えている。彼の計画には、若年労働者の雇用奨励、新規住宅購入者への低金利融資などが含まれ、また経済状況の改善に2つの基本的な柱をあげた。それは電力と燃料の両部門における価格の引き下げであり、エネルギーコスト削減のための送電網への公共投資、石油精製所の近代化を挙げている。

ルイサ・ゴンサレスの提案は、石油活動を活発化させ、50億ドルの赤字を克服することであると断言した。市民革命の候補者は、自身の計画を発展のためには、まず経済政策の技術的分析を行うべきだと述べ、メキシコで会合が開かれ、ラファエル・コレア(Rafael Correa)前大統領もメンバーであるプエブラ・グループが主導する脱ドル化計画を攻撃、むしろ彼女の提案にドル化の強化があることを強調した。

ダニエル・ノボアによれば、エルニーニョ現象による経済への影響は80億ドルに達するという。かれは自然現象の脅威に立ち向かうため、河川の積極的な浚渫システム、農民のための排水システム、国からの補助金による害虫駆除システム、緊急債権、道路の排水などを提案した。

ゴンサレスは、影響を受けた人々の負債を借り換え、低利融資を提供することでこれに対処すると述べた。またゴンサレスは、国民経済における国家主導の重要な役割を擁護し、社会支出の拡大を約束した。彼女は「スイスに預けている国際準備から(25億ドルを)経済に注入する」と語った。さらに就任後100日間で、ゴンサレスは、公共部門を強化するために1000人の医師を新規雇用し、さらに高等教育に1億4000万ドルを投資すると公約している。

 

安全保障

ペルーとコロンビアの一大コカイン生産地の間に戦略的に位置する海岸沿いの国エクアドルでは、近年、麻薬カルテルや犯罪組織が支配力を拡大し、暴力が急増している。

かつてラテンアメリカで最も平和な国のひとつであったエクアドルは、今やホンジュラス、ベネズエラに次いで、この地域で3番目に暴力的な国になろうとしている。1月から6月にかけて、エクアドル警察は4,374件の殺人を記録し、毎日約19人が殺されている。

8月には、首都キトでの選挙集会で大統領候補フェルナンド・ビジャビセンシオが暗殺され(詳細はこちら)、その暴力は大統領選にも波及した。暗殺事件以来、候補者は防弾チョッキを着用している。ゴンサレス自身も殺害予告を受けていることを明らかにした。

彼女は討論会で、警察に新しい装備を提供するなどし強化すること、刑務所や犯罪組織の通り道となっている空港や港の管理を強化し軍事化するために5億ドルを拠出すると約束した。彼女が語るのは「私たちは、国、刑務所、道路、特に港湾と空港を軍事化することによって、その支配権を取り戻す」ということだ。ルイサはギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)政権を指して、「まず第一に、組織犯罪の浸透を許している政府を排除することだ」と述べた。

ノボアは衛星を使って海外輸出を追跡し、国境管理を強化する新しいオペレーションセンターによって、エクアドルの情報能力を一元化することを提案した。具体的には安全保障のための「フェニックス」計画を発表している。これは、イスラエル政府との市民監視に基づくプロジェクトであり、諜報センターの設立、被拘禁者を隔離するための船上刑務所の設置、エクアドルの港湾のスキャンなどである。

専門家であるフリーマンは「ゴンサレスはこれまで治安問題を強調してこなかったが、おそらくコレア政権も治安悪化の一因となる過ちを犯したからだろう」と説明する。一方「ノボアの安全保障に関する提案は、行き当たりばったりな感じがする」と付け加えた。

採掘権や違法グループによる資源採掘について両候補とも、この違法行為と闘い、政府計画の一環として正式な採掘を推進することを約束した。

ルイサ・ゴンサレスは、「違法採掘」を「職人採掘」と明確に区別して追求する姿勢を強調した。これを達成するために、彼女は採掘に適した地域を特定するための採掘マッピングを実施し、採掘を許可する前に地元コミュニティとの事前協議を適用することを提案した。この措置は、コミュニティと環境の権利の尊重を保証するものである。ダニエル・ノボアが、違法採掘や職人採掘が麻薬密売につながることを防ぐ方法について懸念を示したのに対し、ルイサ・ゴンサレスは、政府は採掘地域における国家の存在を促進すると答えた。彼女の目標は、これらの地域を観光地に変え、地域経済を活性化させ、違法行為の機会を減らすことである。

ダニエル・ノボアは、違法採掘と闘うために不可欠な手段として、国際協力に焦点を当てた。彼は「国際的な協力が必要であり、採掘を管理し、小規模採掘者を正規化し、国から利益を得られるようにし、生産的なインセンティブを与え、厳しい環境基準を設けなければならない」と語り、さらに、採掘で得た資源を社会プロジェクトの資金に充てることにも言及した。ノボアが期待するのはコロンビアやペルーといった近隣諸国の協力だ。衛星追跡システムを導入する予定で、現在大きな課題となっている違法採掘者による領土間の移動を防ぐため、国境管理を強化することも目指す。また、ノボアはヤスニでの石油節約を支持している。ノボアはバレル価格が変われば採算がとれなくなる可能性があると述べている。「私は新技術と生物多様性の保護を信じる」と討論会で述べるとともに、同鉱区の収益予測は大きな影響を意味しないと語った。また社会のニーズを満たすために環境利益と天然資源のバランスをとる必要性を信じていると答えた。これについてゴンサレスはITTでの石油開発を公然と支持していた。

ルイサ・ゴンサレスは利権の質問に絡めてダニエル・ノボアの同族企業グループに関する利益相反の可能性を指摘し、彼が個人的な理由で鉱山開発を支持しているのではないかと示唆したとき、討論会で最も緊迫した場面のひとつが起こった。ノボアはこの非難を強く否定し、ノボア・アジン・グループは鉱物開発を専門とする会社を持っておらず、したがって利益相反はないと断言した。

ゴンサレスは、ノボア・グループはアドベンタス社を通じて鉱業に関心を持っているだろうと攻撃している。それに対しノボアは、ノボア=アジン一族は鉱業にはまったく興味がないと反論した。ノボアはゴンザレスから鉱業と石油活動についての立場を何度か問われたが、その回答ではその答えを避け、疎外された地域の教育と治安のための提案で応えた。

ノボアは政府計画の中で、外国からの石油投資ポートフォリオの見直し、石油パイプラインシステムの改善、石油生産量の20%増産、8つのメガ水力発電所、エスメラルダス、シュシュフィンディ、ラ・リベルタの製油所の近代化、農村部におけるエネルギー普及率の向上を提案している。ダニエル・ノボアの政府計画には、環境と採掘活動に関連する30項目の他に、小規模採掘の支援とそのプロセスの工業化、職人鉱夫のIESSへの加盟という目標が含まれている。

ゴンサレスは、アンデス共同体の決定774号について言及した。同候補は、鉱物資源の採掘と環境保護を規制するため、エネルギー省により大きな権限を与えると述べた。「許可された鉱区を監査し、どのようなロイヤルティが支払われ、それが地域社会にどのような影響を及ぼしているかを管理する」と彼女は述べた。上述の通り彼女は職人採掘者は保護するつもりだ。「地域社会を巻き込み、保護地域の地域経済を活性化する観光プロジェクトを立ち上げる」と述べ、また、金を買い取るための政府の仕組みを導入することも提案した。彼女は、環境への影響を最小限に抑えて鉱物を採掘できる場所を見つけるために、鉱山の国勢調査を実施すると宣言した。「影響を受ける地域社会と事前に協議するか、協議しない場合は資源を地中に残す代替案を模索することが不可欠だ」と彼女は討論会で述べた。コレイスモの採掘主義的伝統にもかかわらず、ゴンサレスの作業計画には、環境正義とエネルギー転換という目的の範囲内で50項目が含まれている。その中には、環境省が自然の権利の保証者としての役割を果たすよう強化すること、気候変動政策を策定すること、石油派生商品の代替を促進することなどが提案されている。

その他にも、土地分配における不平等の是正、農業生態学的生産の促進、水資源管理機関としてのSENAGUAの回復、水力発電ダムの公的管理の回復、エネルギー寡占の規制などが挙げられている。

 

社会

社会的な面では、合意もあったが、意見の相違もあった。

ノボアは慢性的な幼児栄養不良について話している。保健の総予算の2%を10%に増やす必要があると述べた。彼は学校での密売が許され、結果子供たちが中毒になったと述べた。暴力も不安やうつ病を引き起こし、国家はそれを感じる人々に対応する必要がある。ノボアは「妊娠中の女性には毎月60ドルの給付金を与える。保育所もあり、母親は働くことがでる。栄養指数を考慮した学校の朝食と昼食も導入する」と話している。現在、正しく栄養を摂取するための十分な資金を持っていない多くの母親がいることが背景にある。教育政策に関して、ノボアは、インターネットを基本的な資源とし、誰でもアクセスできるようにすること、専門学校の設立、大学進学の促進を提案した。また彼は住宅、妊婦へのボーナス、託児所システムの計画について言及している。ルイサ・ゴンサレスは、どうやって2万人の学生を大学に入れるのかと質問した。ノボアは「汚職がなければあるお金で十分」と答えた。

ルイサ・ゴンザレスは健康が権利であると述べ、政府の最初の100日間でIessと保健省のネットワークに基本的な医薬品を供給すると約束した。また彼女が語るのは「精神衛生を重視して2000人の医師を雇う。手術待ちの手術室は24時間稼働させる」ということだ。また、学校の朝食を復活させ、バーチャル学位など大学へのアクセスを容易にし、学生が遠隔学習できるように10ギガバイトのインターネットを提供すると述べたルイサはさらに彼女が政権をとった折には高等教育への1億8000万ドルの投資も行うとした。

候補者はペデルナレス病院について話し、彼女が議員だった頃に監査したと述べ、病院が人々の要望に応えるように要求してきたと述べた。「ペデルナレス病院とポルトビエホの専門病院、エル・カルメンの病院を稼働させる」とゴンザレスは主張した。

社会かだについてノボアはまた、「学生たちは高く飛ぶべきですが、麻薬によって飛びすぎてはいけません」と薬物摂取の割合表について語っている。ルイサ・ゴンザレスは、技術学院で学ぶために毎月20ギガのデータを提供すると約束した。

 

政策

最後のテーマ別ブロックでは、まずゴンサレスが答えた。大統領に就任したらいかなる場合であっても、企業が従業員を社会保障制度に加入させないことは認めないと強調した。これに対してノボアは、国債売却の影響を受けた社会保障制度に流動性を取り戻すことが自身のプロジェクトに含まれていると述べた。加えて、退職年金は現在450ドルである最低賃金に設定すべきだと述べた。

外交政策については、エクアドルの国際貿易協定を尊重し、コロンビアと米国の両国に働きかけ、戦略的関係を強化すると述べたゴンサレスがリードした。また、キューバのミゲル・ディアス=カネル政権やニカラグアのダニエル・オルテガ政権との関係にも言及した。

ノボアは演説の順番が回ってきたときに、政府のバックボーンは治安と暴力の削減であり、だからこそ就任後100日以内に民衆との協議を実施し、民衆の支持を得てこの分野における最も緊急な措置を承認したいと改めて強調した。

 

政治アナリストのフランシスコ・モンタワノによれば、今回の討論会においてゴンサレスはよりまとまったメッセージを伝えることができた。

「安全保障に関しては、両候補の主張は不十分だと思う」。「しかし、経済と行政に関しては、ゴンサレスはより一貫性をもって自分の提案を説明し、数字を示し、どこに資金を投じるかを正確に説明した」。

ノボアは聴衆の理解を得ようとしたのか、あるいは時間を占有して2分や60秒の持ち時間を使い切ろうとしたのか、過度にゆっくりと話すことを選んだ。ノボアはほとんどすべての質問と反論をメモしていたが、正確に答えることはほとんどできなかった。彼は、より安い発電の必要性や薬物消費をなくす必要性をたゆまず繰り返すことを好んだ。またゴサンレスがコレア主義やその人物たちのパフォーマンスから自らを切り離そうとしてきた一方、ラファエル・コレアが彼女の主要なアドバイザーである、ルイサをコレアが統治するだろうという印象をつけようと躍起だった。

犯罪の増加に対する懸念が、建築家のシンシア・カバスカンゴ(24歳)を投票に向かわせた。「キトに住んでいても、グアヤキルに住んでいても、エスメラルダスに住んでいても、不安を感じる」。「これは彼らが対処しなければならない最も重要な問題なので、彼らの提案を聞くために討論を見た」と語った。露天商のホセ・セサール・バルガスは、ゴンサレスが提案した低所得世帯向けの社会プログラムに惹かれた。「彼女は貧しい子どもたちに制服を与え、大学に入学する機会を与えるだろう」。しかし、システムエンジニアのディエゴ・ゴンサレス(26歳)は無謀な出費の新時代を危惧した。「ゴンサレスは国際的な蓄えから資金を引き出そうとしている」。「ノボアが言ったように、国際準備は最後のチャンスと考えるべきだ」、そう彼は語った。

10月15日に行われる決選投票では、1300万人を超えるエクアドル国民が投票にいく。

 

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参考資料:

1. Ecuador: la seguridad marcó el debate presidencial entre Luisa González y Daniel Noboa
2. Este es el mensaje que transmitió la imagen que mostraron en el debate presidencial Daniel Noboa y Luisa González: ¿quién lució mejor?
3. In final debate, Ecuador’s presidential candidates tackle crime, economy
4. Minería ilegal: qué dijeron los candidatos presidenciales de Ecuador durante el debate
5. Debate 2023: Luisa González y Daniel Noboa fijaron sus posturas sobre el extractivismo
6. Aproximadamente, el 15% del oro extraído en el mundo proviene de minas pequeñas

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