メキシコ:シナロア・カルテルとヴィジャの死についてAMLOが語ること

メキシコ大統領アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドル(Andrés Manuel López Obrador:AMLO)は木曜日、エクアドル大統領候補フェルナンド・ヴィジャヴィセンシオ(Fernando Villavicencio)暗殺の背後にシナロア・カルテルがいたという説を裏付ける「要素はない」と述べた。コロシオ・ムリエタ(Luis Donaldo Colosio Murrieta)を想起させながら述べたAMLOの発言はエクアドル大統領ギジェルモ・ラッソの発言を受けての反応だ。コロシオもまた覇権的制度革命党(PRI)から 出馬した大統領候補であり1994年3月23日、ティファナ国境の人気地区ロマス・タウリナスで行われた集会で観客に挨拶した際2回撃たれ死亡した。AMLOの発言の背景に今回の事象に対し「我々は責任を持って、真剣に行動しなければならない。軽々しく誰かを非難せず、捜査を待つべきだ」と言う考えや、メキシコ政府がそのような「情報を持っていないし、当局やメディアの側が、非常にセンセーショナルで無責任なやり方で、すぐに責任のなすりつけ合いを始めているのが気になる、 ほとんどの場合それは操作的に行われる」と懸念を示した。

 

フェルナンド・ヴィジャヴィセンシオは8月1日、麻薬密売につながり、エクアドルで最も恐れられている犯罪者の一人で、服役中の別名「フィト(Fito)」からのものとされる、彼と彼の選挙チームに対する殺害予告を非難した。その後、ヴィジャヴィセンシオはエクアドルのテレビ局のインタビューに答え、マナビにある彼の政党コンストゥルイェ・へンテ・ブエナ(Construye-Gente Buena)のリーダーが「フィト」という通名の複数の使者から訪問を受けたと語り、また「フィト」の写真がプロフィールに掲載されているインドネシア国番号を持つ携帯電話から警備チームに対し脅迫が入っ他ことを述べている。マチャラ検察庁に告発するにはそれで十分だった。その一方キャンペーン中、キトに向かうグアヤキルの飛行機に乗ったとたん「我々はここにいる、空港にいる」という脅迫も受けている。

ヴィジャヴィセンシオ殺害の背後にどの犯罪グループが関与しているかについての公式情報は出ていない。しかし、木曜日の早朝、ライフルで重武装したフードをかぶった男たちの大集団が、犯罪組織ロス・ロボ(Los Lobos)に属すると主張し、候補者殺害の責任を主張する出所不明のビデオが拡散された。彼らはヴィジャヴィセンシオ殺害の犯行声明とともに別の候補者であるヤン・トピック(Jan Topic)を脅迫している。

しかし、その数時間後、同じく出所不明の別の動画が拡散されている・そこには犯罪組織ロス・ロボを名乗る別のグループが登場しており、犯行の責任を主張するビデオは虚偽であり、録画に映っているのは彼らのふりをしていると、顔を隠して糾弾した。なお、ロス・ロボとロス・チョネロ(Los Choneros)は敵対する犯罪組織である。政府によると、2022年に人口1,000人あたり25.32人を記録した意図的な殺人の増加の背後には、彼らの存在があるという。

 

ロス・チョネロは、マナビ県チョネ州に本拠を構える犯罪組織である。ホルヘ・ビスマルク・ベリス・エスパニャ(Jorge Bismark Véliz España、通称「テニエンテ・エスパニャ(Teniente España)※」または「チョネロ(Chonero)」)が1990年代に結成した。組織犯罪の取材経験が豊富なエクアドルのジャーナリスト、マウロ・ナランホ(Mauro Naranjo)がInSight Crimeに語った内容によると「ロス・チョネロは、エクアドルで最も強力な麻薬組織として確固たる地位を築くのに必要な組織、力、人脈を持っていた。彼らは、コロンビアとペルーから麻薬を買い付け、北米に輸送することで告発された『へラルド(Gerald)』が支配していた場所を引き継いだ。マネーロンダリングの専門家である「フィト」は、マナビを拠点としていたエクアドル最大の麻薬密売人、通称「へラルド」ことワシントン・プラド・アラバ(Washington Prado Álava)のコカイン収入をロンダリングしたことで告発され悪名高きグアヤキルのリトラル刑務所(Penitenciaria del Litoral)で、殺人罪で34年の実刑判決を受けて服役中である。当時の警察の記録によると、ロス・チョネロはコロンビアの麻薬密売カルテルの武装組織となり、より大きな権力と武器を手に入れた。ホセ・アドルフォ・マシアス・ヴィジャマル(José Adolfo Macías Villamar)、通称「フィト」は、テニエンテ・エスパニャ死後13年間リーダーだったホルヘ・ルイス・サンブラノ・ゴンサレス(Jorge Luis Zambrano González)、通称JLまたはラスキニャ(Rasquiña)が2020年12月28日にマンタのショッピングセンターで殺害された後、グループの指揮を執った。ワシントン・ポスト紙の報道によれば、ロス・チョネロはシナロア・カルテルや旧FARCのメンバーと同盟を結び、コロンビアの国境からグアヤキルの港までコカイン輸送を行っている。しかし、ラスキニャの死とエクアドルで続いている刑務所での虐殺により、ロス・チョネロは弱体化した。しかしグループから分裂したものやロス・ロボのような新しいギャングが登場し、他のグループと手を組みこの地における麻薬密売ルートを引き継いでいる。「ラスキニャが死んだことで、各指揮官はメキシコのギャングの後ろ盾を得て、自分のリーダーシップを取り戻した。そこから戦争が始まった」とジャーナリストのナランホはInSight Crimeに語った。ジャーナリストのアルトゥロ・トレス(Arturo Torres)によると「フィト」は「命の危険を感じてグアヤキルの刑務所に隠れている」。「この2年間で、ロス・ロボは刑務所内外でより多くの領域を獲得し、麻薬密売に加えさまざまな県で違法採掘にも進出している。彼らはロス・チョネロを駆逐し、覇権を握っている」。しかしInSight Crimeには「フィト」がおとなしく刑務所で過ごしているかといえば、そうではなく犯罪活動を続けていると語っている。

 

ヴィジャヴィセンシオ暗殺事件では、これまでに6人のコロンビア人が逮捕されており(7人目は銃撃戦で死亡、同じくコロンビア人)、この犯罪を実行した殺し屋とされている。国家警察の発表によると「殺人事件発生直後から、全警察隊を動員して捜査技術を駆使し、コノコト地区と市南部の数軒の家屋を突き止めて家宅捜索を行なった」。容疑者は以下人物たちである。

 - アンドレス・マヌエル・モスケラ・オルティス(Andrés Manuel Mosquera Ortiz)
 - ホセ・ネイデル・ロペス・ヒタス(José Neider López Hitas)
 - アデイ・フェルナンド・ガルシア・ガルシア(Adey Fernando García García)
 - カミロ・アンドレス・ロメロ・レイジェス(Camilo Andrés Romero Reyes)
 - フレス・オスミン・カスターニョ・アルサテ(Jules Osmín Castaño Alzate)
 - ホン・グレゴレ・ロドリゲス(Jhon Gregore Rodríguez)

 

このグループの逮捕は、水曜日の夜、エクアドルの首都の2つの地区で行われた一連の家宅捜査で行われた。警察の発表によると、逮捕に至った捜査の結果、ライフル1丁、サブマシンガン1丁、ピストル4丁、手榴弾3個、ライフル弾倉2個、弾薬4箱、バイク2台、そして犯行グループのメンバーが乗っていたとされる盗難車1台が発見された。「犯罪記録によると、殺された犯人は今年6月17日に武器の所持と運搬で逮捕されている。警察のファウスト・サリナス(Fausto Salinas)総司令官は記者会見で、この男について「彼は最近拘留されたばかりで、しかし、自由の身であった」。この男の死因は警察官との銃撃戦によるものだと言うことも同タイミングで発表されている。エクアドルのフアン・サパタ内務大臣は記者会見で、「逮捕された2人は、捜査技術によって犯行現場で完全に身元が確認された」と発表した。なお「集められた予備情報から、逮捕された者たちは組織犯罪グループに属していることが確認された」と当局は声明で述べた。

https://twitter.com/lahoraecuador/status/1689650740279812096

 

これらの人物が逮捕されるに至る状況もまたソーシャルネットワークを通じ共有されている。例えば映像には、白いジャケットを着た男性が大通りの真ん中で制服警官に殴られる様子が映っている。男は少なくとも1発の銃弾を受け、路上に倒れたようだ。警官が彼に突進したのはまさにこの時である。制服警官の反応に加え、その場に居合わせた他の人々が、視聴覚映像にあるように、地面に倒れている男をリンチしようとした。事件後、暗殺犯の一人が死亡したことがわかったが、おそらくビデオに映っている男と同一人物とされている。

コロンビア国家警察の元司令官ホルヘ・ルイス・バルガス・バレンシア(Jorge Luis Vargas Valencia)大将はヴィジャヴィセンシオ暗殺事件について発言し、隣国から得た予備情報について説明した。現ボゴタ市長候補である同氏は、エクアドル当局の働きかけがこの事件でタイムリーな結果をもたらすだろうと述べた。

バルガス・バレンシアがヤミド・アマットとのインタビューで明らかにしたところによると、エクアドル領土における麻薬密売の進行は様々な分野に浸透しており、今回は政治に焦点を当てた。「私が得た予備情報では、このコロンビア人は麻薬密売組織とつながりがあり、それは大きな組織のひとつだ」である。

麻薬密売と6人のコロンビア人が逮捕された最近の事件との関係について、退役将軍は、ギジェルモ・ラッソ大統領の功績を祝福すると述べた。

ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)大統領はエクアドルでのヴィジャヴィセンシオ殺害事件の殺し屋について言及し、準軍事組織(パラミリタリー)を非難している。

ヴィジャヴィセンシオの遺体は、司法解剖が行われた法医学センターからキト北部の霊安室に木曜日の正午ごろ移送され、親族が見守る中、金曜日に一般公開された。

ラッソ大統領による非常事態宣言に従い、国軍が出動を開始し、全国選挙管理委員会(Consejo Nacional Electoral:CNE)は選挙手続きの続行を承認した。しかし、ヴィジャヴィセンシオの写真は、すべて印刷された投票用紙に残されたままであり、Construye運動はこの犯罪を調査する国際的なパネルを要求するとともに、投票の7日前に開催される来週の日曜日の候補者討論会を延期した。ヴィジャヴィセンシオの後任として政党はアンドレア・ゴンサレス・ナデル(Andrea González Náder)を大統領候補とし確定したことを発表している。

 

エクアドルのメディア「エル・ウニベルソ(El Universo)」によると、ヴィジャヴィセンシオが襲撃を受けた集会にはいなかった。副大統領候補だった彼女は大統領候補を失いソーシャルネットワークで、エクアドルはこのような形で候補を失うに値しないと述べ、国は勇敢な大統領を失ったと明言した。「勇敢なフェル、言葉がでない。アラウシにはあなたの名前を冠した通りができるだろう。彼らは勇敢な大統領を奪った。私は打ちのめされている。エクアドルはこのようにあなたを失うに値しない」とヴィジャヴィセンシオの伴走者は記していた。

 

捜査強化と犯罪解明のため、ギジェルモ・ラッソ大統領は米国連邦捜査局(FBI)による介入を要求しており、すでに現地にいるとされている。コロンビアでもまた、調査が始められている。

 

ヴィジャヴィセンシオに関する記事はこちらから。

※テニエンテ・エスパーニャは2007年、犯罪組織ロス・ケセロ(Los Quesero)との対立で殺された。

 

参考資料:

1. AMLO cuestiona versión de que Cártel de Sinaloa estuvo detrás del asesinato de Fernando Villavicencio
2. Quién es alias ‘Fito’, el cabecilla de Los Choneros que tenía amenazado al asesinado Fernando Villavicencio
3. Ecuador apunta a un grupo de colombianos como presuntos asesinos materiales de Fernando Villavicencio
4. Caso Fernando Villavicencio: video registra al presunto sicario colombiano responsable de su asesinato
5. Las 4 razones de la crisis de seguridad en Ecuador
6. ‘Siempre será referente de valor y tenacidad’: Habla partido de Fernando Villavicencio
7. ルイス・ドナルド・コロシオ暗殺から28年:メキシコを襲った殺害

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