映画 “TAROMENANI”は先住民による先住民の虐殺事件を描いているのか

『TAROMENANI, El exterminio de los pueblos ocultos』はカルロス・アンドレス・べラ(Carlos Andrés Vera)監督によるドキュメンタリー作品である。2003年にエクアドル・アマゾンのジャングルで起きた大量虐殺の物語を描いている。この事件は当局からも一般市民からも注目されることもなかった。ジャングルに住み、自主的に現代社会から距離を置く「未接触の人々」に対する社会の無関心がそうさせた。ジャングルでは30人以上の子供と女性が殺された。それにもかかわらず何事もなかったかのように時間は流れていく。

「虐殺されたのが白人でも全く同じ状況だったろうか」。答えは明白だ。エクアドル国内もそう、そして国際社会もまた人種差別主義国であることを明確に示した瞬間だった。

 

アマソニアでは豊かな自然の一方、そこに住む人々は土地、文化を取り上げられ、「石油乞食」にもなっている。政府や国際機関は「開発」と言う名の暴力や、都合よく憲法を解釈することで、人権侵害を正当化し続けている。キリスト教の原理主義的福音派の利害関係者もまたオイル・メジャーや伐採会社とともに、この土地を破壊し人々を分断・支配している。キリスト教による言語習得のためのサマーキャンプは先住民女性を「誘拐」し、「文明化」政策を繰り出した。この結果、ワオラニ族の先祖伝来の領土は2万キロから67万8000ヘクタールへと徐々に縮小されていった。

 

ラファエル・コレア(Rafael Correa)元大統領と国民議会は、タガエリ(Tagaeri)族とタロメナネ(Taromenane)族※の居住する国立公園内の31と43の鉱区での石油採掘を許可することを決議した。エクアドル憲法第57条が、自主的に隔離された民族の領土におけるいかなる種類の採掘活動も禁止されているにもかかわらず、である。

「持続可能な開発というコンセプトの管理によって、私たちは自主的に孤立している民族の面倒を見ることができ、また、石油収入がこれらの民族や国の将来の世代のために使われることを保証することができる」と2013年当時の国民議会生物多様性委員会でかつ政府副代表のパメラ・ファルコーニ(Pamela Falconí)副委員長はBBC Mundoに語った。しかし、それは真実だろうか。

 

スペイン人ミゲル・アンヘル・カボデビジャ(Miguel Ángel Cabodevilla)はカプチン会宣教師である。幼いころパンプローナで、エクアドルのジャングルからやってきた神父に出会い、先住民の話を聞いた。その話がきっかけで、1984年にエクアドルに渡り、約16年間アマゾンのインディオたちと生活を共にしアマゾンの隠された民族、すなわちヤスニ国立公園の開発に関する議論の現在の主役たちの研究の第一人者となっている。カボデビジャはアマゾンの民族グループについて、「その接触は非常に散発的で、一般的に常に暴力的なグループ」と表現している。それは1987年に司教アレハンドロ・ラバカの命を奪った民族として知られている所以でもある。司祭はタガエリ・インディオと接触し、石油の侵入に直面する中で調停役を務めようとして槍に刺され、死亡した。しかし、そもそもオイルメジャーがタガエリ族やタロメナネ族がの領土で開発などを行うことがなければ、司祭が交渉役に回る必要はなかった。

 

米州人権裁判所における公聴会

米州人権裁判所は2022年8月23日、採掘主義の進展により自主的に隔離されているタガエリ族とタロメナネ族に対する侵害があったとして、エクアドル国に対する審問を行った。この法的プロセスは、2003年にタロメナネ族の20人以上が殺害された虐殺事件の後、2006年に始まった。活動家のグループが米州人権委員会に提訴し、16年にわたる審理を経て、2022年8月23日の公聴会という頂点に達した。

2015年、人権、平和、非軍事化のために活動する国際組織「地域人権救済基金(Fundación Regional de Asesoría en Derechos Humanos:INREDH)は報告書の中で、ヤスニでの虐殺が2003年、2006年、2013年の間に起こったことを明らかにした。これらの事件では、自主的に隔離された民族の子供や女性を含む約60人が死亡し、絶滅の危機に瀕した。この事件の後、米州人権委員会(Inter-American Commission on Human Rights:IACHR)では、エクアドル国が「タガエリ族とタロメナネ族の生命と個人の尊厳を保護するための効果的な措置、特に、第三者の侵入を防ぐために必要な措置を含め、彼らの住む地域を保護するために必要な措置をとる」ことを目的とした予防措置を発表したものの、2013年には、石油フロンティアの拡大の結果として暴力事件が繰り返されたことが述べられた。

隔離された人々を擁護するマリオ・メロ(Mario Melo)弁護士は、タガエリ族とタロメナネ族の地域は石油にとって大きな関心事であり、長年にわたり、先住民の領土、特に隔離された民族の領土内で採掘のフロンティアを拡大しようとする公共政策が、紛争と暴力のダイナミズムを生み出し、ヤスニ国立公園周辺に住む民族、特にワオラニ族、タガエリ族、タロメナネ族を傷つけてきたと述べた。またメロは国家が「民族とその領土の生命と完全性」を守る責任から逃げることはできないと述べた。というのも、自主的に孤立している民族の領土に石油活動が侵入し、流出、騒音、ゴミが河川に流れ込み、彼らが消費する水を汚染しているからである。

法学者のラミロ・アビラ(Ramiro Ávila)は、ワオラニの先祖伝来の領土は40年前まで広大で、接触していなかったと述べた。この領土は「エクアドル国家によって組織的に縮小されてきた」。アビラによれば、1958年、国家は福音派グループの参入を許可し、その後、ワオラニ族の80%が領土の5%にまで減少した。この「戦略によって、テキサコ石油会社をはじめとするあらゆる企業が参入できるようになった」。1979年までに、ワオラニの領土は再び半分に減らされ、ヤスニ国立公園が宣言された。1990年、先祖伝来の領土の3分の1がワオラニ民族のために奉献され、2007年には民族が自発的に隔離して占有していた無形地帯が承認された。

2018年の一般協議において、無形地帯の248キロメートル拡大が承認された。これは先住民を守政策ではなくいわゆるヤスニの緩衝地帯での石油開発を許可するものであり、ワオラニ族のすべての権利を侵害するものである、とアビラは振り返った。アビラは、裁判所の判決により、ワオラニ族の先祖代々の領土を平和地帯として認め、国家公務員と石油会社を調査する真相究明委員会を設置するよう要請した。同様に、土地所有権によって、自主的に孤立している人々に領土を引き渡すべきであるとも述べている。

エクアドル先住民連盟(CONAIE)のレオニダス・イサ(Leónidas Iza)代表は、「石油活動はアマゾンを破壊するものであり、隔離された同胞の生活を脅かすものであってはならない。彼らは森林の保護者であり、森林の世話をし、森林を守っている。もし彼らが死んだり、森から追い出されたりすれば、ヤスニの生命を維持するバランスは崩れ、人類は世界で最も生物多様性に富んだ場所を失うことになる」と述べ、孤立した民族に有利な判決を下すよう求めた。

公聴会の最後に、大統領府のマルコス・ミランダ・ブルゴス(Marcos Miranda Burgos)法務次官は、ギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)政権が「環境に有利な方向に変化し、新たに10カ所の保護区を宣言し、2カ所を拡張し、保護地域は35.66%に増加した。森林保護プロジェクトは強化され、大陸領土の5.83%が増加した」と語った。その他の保護活動やプロジェクトに加えてエクアドル国は、タガエリ族とタロメナネ族に不利益をもたらした、アメリカ人権条約第8条1項と第25条1項に規定された権利の侵害に対する国際的責任も認めている。 

 

ワオラニ族とタロメナネ族、タガエリ族との接触、そして報復

2003年

米州委員会の報告書によると、2003年、タロメナネ族の12人から26人が、ティングイノ地域の先住民ワオラニ族9人に殺害された。ワオラニ族は、パスタサとオレリャーナの国境にあるタロメナネの集落を突き止めた。そして奇襲をかけ、大人と子供を殺し、男たちの首を戦利品として奪った。

この虐殺は、10年前に先住民ワオラニ族カルロス・イマ(Carlos Ima)が死亡したことに対する報復であったとされている。申立人は、この虐殺は、孤立した民族との絶え間ない問題のために遠征隊に資金を提供していた違法伐採業者によって扇動されたと主張している。報告書によると、国は調査に関する情報を提供しなかった。先住民の正義に関わる事件として捜査は打ち切られた。この事件の検事は、被害者が「身分証明書を持っていなかった」という理由で捜査を取り下げた。

 

2006年

同報告書によると、申立人によると、2005年8月と2006年4月、違法伐採者がタロメナネ族に槍で襲われ伐採者の1人が殺された。その数日後、チリプノ川付近でタロメナネ族30人が死亡したという報告があった。この地域は人里離れ、立ち入りが困難なため、死者の正確な数は不明であり、川に投げ込まれたか、密林に隠された可能性も否定できない。スクンビオスとオレリャーナの検事は、虐殺はなかったと判断した。

申立人は政府各省に回答を求めたが、回答は得られなかった。こうした事実を受け、この事件は米州人権委員会に提訴された。2007年、委員会は保護措置を要請し、国は一連の政策、閣僚協定、条約を採択し、PIAV保護政策の幕開けとなった。2010年には環境大臣が現地を視察し、この地域に対する暴力的介入の危険性を超えたが、新たな悲劇はまだ起こらなかった。

 

2013年

2013年3月、タロメナネ族のメンバーがワオラニ族の成人夫婦(オンポレとブガネイと判明)を槍で殺害した。この事件は、スペインの資源メジャーレプソル(Repsol)によって開発が進められていたブロック16のヤレンタロ(Yarentaro)のワオラニ族の村で起こった。ワオラニの夫妻は、自分たちの領土を軽んじる者の侵入についてタロメナネ夫妻に苦情を言われ、怯えながら暮らしていた。国は紛争がエスカレートしないよう対策を講じようとしたが、それは実現しなかった。

同月、アグアリコの使徒司教は、紛争地域でワオラニ族に武器が売られていることを公職者に報告した。陸軍准将は事実を否定した。いくつかの社会団体は、暴力的な紛争が起こる可能性があると国に警告した。それにもかかわらず国は何の対応もすることがなかった。報告から1ヵ月続いた後、12人から18人のワオラニ族のグループが、オンポレとブガニーの仇を討つために襲撃を組織した。何度かの襲撃の後、3月30日、グループは自分たちの居場所を突き止め、銃と槍でタロメナネを攻撃した。子供を含む30人から50人が殺されたと伝えられている。2歳と6歳の姉妹が襲撃者に誘拐され、ワオラニに拘束された。

パスタサとオレリャーナの間、ヤスニの真ん中に、タガエリとタロメナネが自発的に孤立して暮らしている。これらの遊牧民はナポ川とキュラレイ川の間を3、4ヶ月で移動し、採集、狩猟をしている。彼らは弁護側は、両民族の先祖伝来の領土は、国が宣言したタガエリ・タロメナネ無形地帯を超えていると主張しているが、米州人権委員会の報告書によれば、無形地帯とタガエリ族とタロメナネ族が実際に通過した領土との対応関係は証明されていない。タガエリ族はワオラニ族からの分離されたグループの子孫と推定されているが、タロメナネ族との関係については議論がある。

 

長編ドキュメンタリー『TAROMENANI』は2003年における虐殺事件をあつかったもの。本作品は2008年、ワン・ワールド・フェスティバル、ベルリン(Festival One World)に出品された。

 

タガエリ族とタロメナネ族についてはこちらの記事も参考のこと。

作品情報:

名前:  El Candidato(邦題:候補者 ~メキシコシティの闇~)
監督:  Carlos Andrés Vera
脚本:     Carlos Andrés Vera
制作国: Ecuador
製作会社:Camara Oscura
時間:   60 minutes
ジャンル:Documental、Política

 

参考資料:

1. Corte IDH emitirá hasta fin de año sentencia en caso Tagaeri y Taromenane vs Ecuador
2. El misionero que alerta sobre los pueblos ocultos del Yasuní
3. Caso Tagaeri Taromenane: El Estado será juzgado ante la Corte Interamericana de Derechos Humanos

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