映画:”Bordertown” で描かれていることのフェミシディオのリアル

『Bordertown』はメキシコのシウダー・フアレス(Ciudad Juárez)で実際に起きているフェミシディオ(女性殺害)の実話にインスパイアされ作成された。グレゴリー・ナヴァ(Gregory Nava)が脚本・監督を務め、ジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)が好奇心旺盛なアメリカ人記者役として主演している。

 

マキラドーラ(maquiladora)は1965年に制定された制度だ。外国企業が所有する部品・原材料を保税状態でメキシコに一時輸入し、外国企業から貸与された機械で加工、輸出する。簡略化して言えば、無関税貿易を可能にする。メキシコ経済でよく聞かれる言葉ではあるものの、中南米諸国でもパラグアイ、ドミニカ共和国、エルサルバドルなどにも同様の制度がある。マキラドーラは元来輸出振興のための制度のことを言う。その一方この言葉は工業マキラ (Maquiladora Industrial)など同制度の適用を受け操業している企業を指す言葉としても使われることも多い。

1994年の北米自由貿易協定(North American Free Trade Agreement:NAFTA)の発効はマキラドーラの急成長を導いた。発効前の5年間の伸び率が47%だったのに対し発効後の5年間では86%の伸び率となった。NAFTA発効前はメキシコの北部国境地帯(米国国境)における工業化及び開発戦略として1966 年にスタートした。NAFTA発効後は国境から離れた場所にもマキラドーラが設置されるようになった。

フアレス市においては国境工業化計画(Programa de Industrialización Fronteriza:BIP)のもと市長のハイメ・ベルムデスが1965年にこのプログラムを創設したことに端を発する。

米国と、メキシコとの関係において言えばメキシコ側に子会社となる製造工場を設置する場合と、委託専門企業に生産を委託する場合がある。

マキラドーラは大量生産を前提とする。そのため多量の労働力を必要とする。米国は自らの資産力を武器に安い労働力、主にメキシコ人女性を雇い、低賃金で長時間働を強いている。一方のメキシコは1980年代以降の経済政策として輸入代替工業から輸出へと大きく舵を切っており、マキラドーラは彼らの政策としての重要性も増していった。マキラドーラはヨーロッパの植民地化プロセスの現代版と呼称されることもある。経済のグローバル化と構成員の非人格化という新秩序を体現しているからである。

 

マキラドーラと出稼ぎ労働は切り離すことはできない。米国は1917年から季節労働者受け入れ計画(ブラセロ・プログラム)を導入、メキシコから農業日雇い労働者を受け入れた。本プログラムが1964年に終わりを告げるとメキシコ国内には失業者が増加した。余剰労働力の解決策がマキラドーラの導入だった。このプロジェクトは、一時的な対策ではなく恒久的なものとし意図された。最も求められている労働力は若い女性スタッフである。なおマキラドーラの存在が一躍有名になったのは80年代後半からの家電製造、特にカラーテレビ製造においてとされている。メキシコは中国が台頭してくるまでの間、世界最大のカラーテレビ生産・輸出拠点だった。

 

エバ・サンチェス・マルチン(Eva Sánchez Martín)が述べるようにフアレスにおけるフェミシディオとマキラ工場には関係がある。マキラの設立と逆説的に同一視される安定した雇用状況によって提供される安全、あるいはアメリカンドリームを求めて国境を越えるという不完全な夢を見ることによる一般化された抑うつ状態が、社会構造の崩壊と、この不満に呼応する暴力の発生に大きく関係する、一般化された無気力状態を作り出す。フアレスの場合、これにカルテルと警察の腐敗が加わる。

女性がマキラドーラで働き自立できることは、マチョ(家父長制)が根付いたこの土地に権威主義的な男性像の変位を生み出した。男性はこの関係性の変化に対応できず、力で対抗する。暴力は、この女性の解放をコントロールするために考案されたメカニズムであるとマルチはそう語る。

また、「これら(殺人事件)の共通点は、女性は使いやすく、消耗品であり、虐待されやすく、使い捨てにされやすいということである。そしてもちろん、その無限の残酷さにおいて一致しており、事実、女性に対する憎悪犯罪である」と元メキシコ市憲法制定議会議員マルセラ・ラガルド(Marcela Lagarde)は述べている。

サウル・ランドー(Saúl Landau)とソニア・アングーロ(Sonia Angulo)も自身が製作したマキラドーラに関するドキュメンタリー『Maquila : a tale of two Mexicos』を通じ、女性に加えられる暴力は、マキラ内で女性が受ける差別の延長線上にある。マキラドーラで働く少女たちは巨大な機械の歯車にすぎず、人間ではない。彼女たちは人間としてではなく、大量生産者、大量消費者として扱われると述べている。

シウダー・フアレスの女性殺害事件は年々増えている。被害者は一般に9歳から25歳までの若い女性、青年、少女で、ほとんどが下層階級、学生、労働者である。殺害される前に、レイプや拷問を受けることも多い。この事実に対し米州人権裁判所は、メキシコ国家を主な加害者のひとつとみなしている。

遺体の多くが発見された場所はロテ・ブラボー(Lote Bravo)、グランハス・サンタ・エレナ(Granjas Santa Elena)、ラ・ヌエバ・エルミラ(La Nueva Hermila.)、現在Fiscalía Zona Norteとして知られるフアン・ガブリエル通り(Eje Vial Juan Gabriel)、セロ・デル・クリスト・ネグロ(Cerro del Cristo Negro)のはずれ、フアレスとテキサス州エルパソを結ぶ自由橋などである。被害者全てがマキラドーラと関係を持っているわけではないものの、マキラドーラの従業員もいる。マキラドーラ産業の繁栄にもかかわらず、この街は比較的貧しく未発達なインフラを維持しており、いくつかのセクターでは電気や舗装道路が不足していることもフェミシディオに拍車をかける 。自宅から職場までの毎日の通勤の一環として、多くのマキラドーラ労働者は、会社に向かうバスに乗るために、こうした治安の悪い、日当たりの悪い地域を歩かなければならず、これが通勤を困難にする要因となっている。 

 

映画はメキシコ南部オアハカ州出身の労働者エヴァ(マヤ・サパタ)が掘っ立て小屋への帰宅時、レイプされることから始まる。運良く行き帯びたエヴァ、そしてイラク戦争最前線へ行けなかったシカゴ・センチネル紙の報道記者ローレン・エイドリアンは事件を通じ、友情を育み、事件と対峙する勇気を養っていく。

ジェニファー・ロペスはこの映画のために『Porque La Vida Es Asi』という曲を作った。

 

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作品情報:

名前:  Bordertown
監督:  Gregory Nava
脚本:     Gregory Nava
制作国: United States
製作会社:Mobius Entertainment
時間:   100 minutes
ジャンル:Drama

参考資料:

1. FEMINICIDIO Y MAQUILA EN CIUDAD JUÁREZEva(Sánchez Martín)

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