エクアドル国会解散:ヤク・ペレスは大統領候補として何を語るのか

(Photo:@yakuperezg/ Twitter)

2021年大統領選挙第1回投票で3位となり、決選投票に進むことのできなかったヤク・ペレス(Yaku Pérez)はClaro que se puedeという連合の支持を得て出馬する。同連合は「Democracia Sí」「Centro Democrático」「Unidad Popular」で結成される。前回選挙の母体パチャクティック運動(Pachakutik)はこの連合に参加表明したものの間に合わず、対外的な後ろ盾を与えるにとどる。ヤクと副大統領候補は全国選挙評議会(Consejo Nacional Electoral:CNE)での登録手続きを5番目に通過した。

クエンカ出身の54歳は、政治界ではおなじみの顔となっている。2013年、エクアドル先住民連盟(Confederación de Nacionalidades Indígenas del Ecuador:CONAIE)の草の根組織のひとつであるエクアドル先住民運動(キチュア語 Ecuador Runakunapak Rikcharimuy:ECUARUNARI)の代表に選出され、その名は一躍脚光を浴びた。当時はカルロス・ペレス・グアルタンベル(Carlos Pérez Guartambel)という名前を使っていたが、2018年にヤク・サチャ(Yaku Sacha)に改名した。ヤクとはキチュア語で「水」を意味する。

 

エクアドルが抱える問題は大きい。例えば経済状況、蔓延する暴力、エルニーニョ現象などが挙げられる。彼はこれらの問題に対峙するために少なくとも、今ある国とは異なる国の礎を築くこと、微細ではあるが戦うための力を国のために捧げなければならないと述べている。彼が公約に掲げるのは包括的な市民の安全保障、断固たる汚職との戦い、雇用の創出だ。

治安維持においては、まず犯罪の診断、その原因、病巣を理解しなくてはならない。そして犯罪者を排除するのではなく、犯罪者を生み出す機械を排除することが必要だと述べている。そのためには「予防」と「矯正」が必要で、尊厳をもって生きる権利を否定され、組織犯罪に巻き込まれた子どもたちに、芸術、職業、文化、スポーツを提供しなければならないと語る。予防措置という点では、軍隊、国家警察、検察、司法、そして国家における腐敗を一掃するために、憲法と法律の改革が必要だと考えている。これに加え彼はECU-911をバージョンアップし、必要であれば、ビッグデータや人工知能を応用した技術インフラを入れ替える必要があると述べている。またよく組織化された近隣地域、武装した家族、恒常的なパトロールを行うことも重要とした。根本的な問題解決に際して彼は元軍人、元警察官、そしてこの分野で多くの経験を持つ学識経験者などの専門家とともに策定した包括的な犯罪政策計画を準備していると述べている。ラ米各国治安対策には手を焼いているとともに、根絶には至っていない。しかし、社会平和を回復するための強力なコントロールは可能だと彼は考えている。

国境を越え広がる組織犯罪に対しては地域的または国際的な大きな協定が必要だと考えており、北米を含む近隣諸国が重要な役割を果たす必要があるとした。またエコサイド(Ecocide)や国際組織犯罪などの大きな事件を裁くラテンアメリカの刑事裁判所を創設することが不可欠だと述べ、単に警察を武装させたり暴力を用いて攻撃をすればいいという考えからの脱却を訴える。ヤクは「我々は犯罪者を排除するのではなく、犯罪者を生み出す機械(構造)を排除しなければならない」し、組織犯罪を裁くためのラテンアメリカの刑事裁判所を創設すべきだと述べている。

https://twitter.com/lahoraecuador/status/1667208876301615105

 

また天然資源の開発に依存しない新しい経済への移行についても言及しており例えばヤスニ国立公園のITT(Ishpingo-Tambococha-Tiputini )地区での石油掘削の代わりに国民の10%を占める富裕層に対する免税措置を解除すれば、年間約6億米ドルが手に入るとした。エクアドルでは銀行や石油会社、電話会社の税金を免除するのみならず彼らに補助金を与えている。8月と11月に終了する携帯電話との免税交渉を中断することで今後15年間で約90億米ドルの資金を国内で作ることができるとも試算している。また公共調達に関する有機法を改正し、すべてをデジタル化して、賄賂が複数の人を経由することなく、問題の発生場所を検知できるようにすることで資金を獲得するということも述べている。汚職をなくせば、収益が増えるは当たり前のことではあるが、長年解決できないもののひとつである。これを改善するだけで多くな収入となる。

汚職との闘いに際しては国連と米州機構(Organization of American States:OAS)の支援を受けながら金融経済分析ユニット(Unidad de Análisis Financiero y Económico:UAFE)と協力しなければならないと述べている。汚職の拠り所はミレニアム学校、道路、病院、石油、鉱山、電話、製油所契約、主要港などの利権を拠り所としている。だからUAFEがしっかりと機能し裁判官、検察官、元大臣、元国務大臣、元議会議員を調査できるようにしなければならない。彼が改正しようとしている憲法の条項は水源地や敏感地域での金属採掘の禁止、FPICの義務化、汚職との闘いなどに関するものである。国民議会がそれへ積極的でない場合は国民に問いかけるつもりだという。

雇用創出に際しては公共投資例えば、廃墟と化した道路への投資や食糧の運搬・販売会社の設立などを通じて行うとした。社会福祉の改善に向けては例えば飢餓や子どもたちの栄養失調と闘うための連帯バスケットや、中産階級向けの農業エコロジーバスケットを用意する。また低利融資(500米ドルから5,000米ドルまで)を可能にするために約5億米ドルを充てるとした。

エルニーニョ現象をはじめとした自然災害への対策としては基金を作ることに言及している。また陸軍工兵隊と国家機関全体が、シェルターの提供から経済再活性化への取り組みまで、行動する準備を整えていく必要がある。また、返金不要のクレジット、緊急資金の準備も検討している。

 

パチャクティックが彼に近づいてくることについては歓迎すると述べている。しかし「チュイタ(chuitas)」、つまり、クリーンで、誠実に、先住民運動の歴史的プロジェクトを回復したいという願望をもって来るべきだと主張した。腐敗し、搾取主義的で権威主義的な似非左翼の進歩主義は、進むべき道ではないと考えるからだ。

ECUARUNARIの会長だったヤクはラファエル・コレア(Rafael Correa)前大統領の政権に反対する人物の一人だった。2015年には、キト歴史地区で同政権に対する一連の抗議デモの最中に、サルバドル・キシュペ(Salvador Quishpe)とともに逮捕された。その際彼と一緒に逮捕された当時のパートナーであったフランス系ブラジル人のマヌエラ・ピック(Manuela Picq)はビザが取り消され、逮捕後から数日以内にエクアドルを出国しなければならない状態に陥った。2019年、彼は先住民を中心とするパチャクチック運動からアズアイ県知事選に出馬、得票率29%で勝利した。2021年の大統領選挙に出馬することを目的に同知事を離職、大統領選に備えた。上述の通り2021年の選挙でのヤク・ペレスの躍進は目を見張る者であり、誰も想像できなかった。2位で第1回投票を通過した現大統領ギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)の得票数は僅差であった。19.4%の得票率を得ていた彼は、不正を主張し再集計を要求したにもかかわらず、決選投票に進むことはできなかった。ラッソが勝利し、パチャクティックが与党と同盟を結んだ後、ペレスはパチャクティックから離脱、私たちは水を意味する「Somos Agua」と呼ばれる独自の運動を立ち上げていた。しかし今回選挙に際してはCNEへの登録が間に合わず、市民革命(Revolución Ciudadana)のイデオローグの一人であるグスタボ・ラレア(Gustavo Larrea)の政治キャリアに身を任せた。

https://twitter.com/PSESecretariaRI/status/1666282617325465602

 

ヤクは専門知識を総動員して任務を遂行できる政府の設計を目指している。そのためには各所に耳を傾け、自らを閉ざさず、独断を捨て去るように同盟を結んだ人々に訴えているとした。母なる自然との和解、そして兄弟姉妹の和解を目指そう、そう彼は語っている。

ヤク・ペレスはクエンカ大学で法学博士号と共和国裁判所弁護士号を取得し、上院の記録では刑法と先住民司法の専門家(ロス・アンデス自治大学)。流域・人口管理高等ディプロマ(クエンカ大学)。刑法および犯罪学修士(ロス・アンデス自治大学)。会社監督局の記録では、彼はどの会社の株主にもなっていないが、2019年からEconomía Mixta Gpatoursの社長になっている。2020年10月に県知事を退任した際に提出された会計検査院への最後の申告書によると、その時点で346,143米ドルの資産を持っていた。納税額 ヤク・ペレスは納税額が最も少ない候補者である。内国歳入庁(Servicio de Rentas Internas:SRI)の記録によると、彼が所得税を納めたのは、アズアイ州知事を務めた2019年と2020年のみである。また、過去5年間、外貨流出税の支払いも記録していない。ペレスは、この選挙キャンペーンにどれだけの費用がかかっているかは明かしていない。その一方財源を「帽子を渡している(están pasando el sombrero)」同志たちから来ていると断言している。

 

今回のMuerte cruzadaに関する別記事はこちらから。

 

参考資料:

1.Yaku Pérez cambia de partido para su segunda carrera presidencial 
2.Yaku Pérez: “No hay que eliminar al criminal, sino a la máquina que lo fabrica” 

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