グアテマラ大統領選2023:最高裁、候補者の抹消と権威主義の台頭

(Photo:@soy_502/ Twitter

グアテマラの最高裁判所(Corte de Constitucionalidad de Guatemala)は世論調査で大統領候補として最有力だったカルロス・ピネダ(Carlos Pineda)を立候補資格がないとし排除した。6月25日の選挙は、権威主義的な流れ、排除、不正選挙の可能性を受け各所から非難が上がっている。

 

最高裁が候補者を排除したのは初めてのことではなく、ピネダはその3人目にあたる。これまでにもアルヴァロアルス・イリゴエン(Álvaro Arzú Irigoyen)元大統領の息子でポデモス党(Partido Podemos)から出馬したロベルト・アルス・ガルシア=グラナドス(Roberto Arzú García-Granados)や、アルスとの共同候補として副大統領の座を狙っていたダビド・ピネダ(David Pineda)を排除した。アルスは陸攻に際してグアテマラが加盟しているコスタリカのサンホセ条約で禁止されている死刑制度の復活を提唱していた。ポデモス候補は最高選挙裁判所に登録されていたものの、ジミー・モラレス(Jimmy Morales )前大統領の国民収束戦線党(FCN-Nación)によって訴えを起こされ選挙から外された。早期選挙運動を行ったというのが理由だ。

先住民指導者テルマ・カブレラ(Thelma Cabrera)と元人権オンブズマンのジョルダン・ロダス(Jordán Rodas)が率いる人民解放運動(Movimiento para la Liberación de los Pueblos:MLP)もまた候補から外された。ロダスが立候補のために提出した公的資金管理の支払能力を選挙法廷が無効としたため、選挙戦から外された。本件についてMLPが彼を副大統領候補として宣言した数日後まで、疑問視されることはなかった。

ロベルト・アルズは選挙プロセスを「詐欺」と呼び、カブレラとピネダは現政権に「独裁」の兆候があると語っている。

 

ラファエル・ランディバル大学(Universidad Rafael Landívar)で政治社会科学部(Facultad de Ciencias Políticas y Sociales)副学部長を務めるカロリナ・ビジャトロ(Carolina Villatoro)は、「裁判所は他の関連機関とともに、恣意的な決断を下しており、公平性を欠き主観的に行動してきた。これは特定の政治オプションだけを投票に参加させ、他の候補者の登録を妨げている」と述べた。

MLPの立候補が排除された背景に先住民コミュニティが関係していると考えられる。社会運動や農民運動から生まれたこの同左翼政治組織は、マヤ・ママ(maya mam)出身のテルマ・カブレラが代表を務めている。2019年の選挙では4番目に多い票を獲得したものの、敗退したカブレラは今回選挙に臨むにあたり全有権者の42%を占める先住民の要望をまとめあげることに成功していた。ビラトロは複数ネイションと公共資源の国有化を提案する彼女の排除を目の当たりにし、このような人物が候補者から外されたという事象は「グアテマラの政治において、先住民の代表にどのようなスペースが与えられているのか、重要な警鐘を鳴らすもの」と述べた。

 

その一方、選挙当局は、マネーロンダリングから殺人まで、さまざまな犯罪で裁かれた候補者の登録を受け入れてきた。中でも、大量虐殺を行った独裁者エフライン・リオス・モント(Efraín Ríos Montt)の娘であるズリ・リオス(Zury Ríos)は憲法で禁止されているにもかかわらず、選挙に参加することが容認されている。

5月2日、国営メディアPrensa Libreが発表した世論調査でピネダは他の候補者よりも高い支持、23.1%を得ていた。しかしそれが目につき、候補者資格が奪われた。ピネダはバルディソン(Baldizón)の息子たちが作ったカンビオ党(Partido Cambio)から大統領選に出馬する予定だったが、昨年1月に関係が悪化し、プロスペリダ・シウダダナ党(Partido Prosperidad Ciudadana)に居場所を求めていた。これは、一部世論調査で2位につけている国民希望党(Partido Unidad Nacional de la Esperanza)の大統領候補サンドラ・トレス(Sandra Torres)に近い下院議員リリアン・ガルシア(Lilian García)が率いるグループである。

 

地方の実業家だったピネダは、TikTokでのキャンペーンにより人気が出はじめた。彼を候補者から排除したのは恣意的基準の適用によるもので「この選挙は、選挙管理当局がプロセスの最初で偉大な投票者となる制限付き選挙の性格を帯びている。その手法は市民の投票を事前に選択された候補者に制限するという形を取っている」と、Mirador Electoralという組織が報告している。

与党と距離を置くこの実業家は大量虐殺で告発された独裁者エフライン・リオス・モントの娘であるズリ・リオスや野党保守派候補だが政府に同調するサンドラ・トレス、政府支持派のマヌエル・コンデ(Manuel Conde)よりも人気があった。しかし世論調査が発表された数日後、ピネダは指名集会に誤りがあったとして他の政党から異議申し立てがなされたとし、大統領候補ではなくなった。

 

欧州連合(EU)はこのような事案に懸念を表明し、当局に「立候補を妨害しないよう」呼びかけている。米州人権委員会もまたグアテマラ国家に対し政治的権利、多元主義、選挙プロセスへの平等な参加を保障するよう求めた。米国政府関係者も同じような発言をしている。フィル・ゴードン(Phil Gordon)米大統領補佐官兼副大統領国家安全保障顧問は数日前、米国は「グアテマラにおける自由で公正、包摂的で平和な選挙」を支持すると述べている。

2015年以降、中米諸国では、あらゆる国家機関の共闘や、反対派、ジャーナリスト、汚職を告発する裁判官や検察官への迫害を特徴とする民主主義の後退が続いている。過去30年間で最も悲観的で変化の望めないこの選挙まで残すところ3週間となった。6月25日、グアテマラ国民は新大統領と副大統領、議会代議員、地方市長、中米議会議員を選出する。

 

 

今回選挙に関するその他の記事はこちらから。

参考資料:

1. Elecciones en Guatemala: a un paso de la autocracia
2. El candidato que lidera encuestas queda fuera de las elecciones en Guatemala
3. Elecciones en Guatemala: UE pide no “obstruir” candidaturas
4. Corte deja a segundo candidato fuera de las elecciones presidenciales de Guatemala

 

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