2023年3月1日午後5時過ぎ、「真実・正義・腐敗との闘いに関する特別時限委員会(la Comisión Especializada Ocasional por la Verdad, Justicia y la Lucha contra la Corrupción)」は、大統領ギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)の弾劾を勧告する報告書を承認した。2023年1月、国民議会に設置された委員会は政府とアルバニアマフィアとの関係を調査している。
報告書に賛成票を投じた議員は以下の通り。
- Pedro Zapata (Partido Social Cristiano/キリスト教社会党)
- Diego Fernando Esparza (independiente/無所属)
- Rodrigo Fajardo (Izquierda Democrática/民主左翼党)
- Mireya Pazmiño (independiente, ex Pachakutik/無所属、元パチャクチック)
- Viviana Veloz (Unión por la Esperanza/希望のための連合)
- Augusto Alejandro Guamán (independiente/無所属)
報告書に反対票を投じた議員は、Bancada del Acuerdo Nacional(BAN)のグルベル・サンブラノ(Gruber Zambrano)だけだった。ザンブラノは当初賛成票を投じていたが、その後、大声で自分の票を修正するよう要求した。
弾劾勧告のための報告書は3月1日に承認されたため本会議での審議に移される。承認された場合、議員たちは大統領に対する弾劾を提案しなければならない。コレア主義の希望の連合(Unión por la Esperanza:UNES)は、すでに弾劾提案を行うことを発表している。
大統領または副大統領を弾劾するためには、議員(全137議席)の3分の2、すなわち92人の議員が支持をする必要がある。憲法第129条では共和国大統領または副大統領の弾劾事由を以下3つとしている。①国家の安全に対する罪、②強要、贈収賄、横領または不正な富の犯罪、③政治的または良心的な理由によるジェノサイド、拷問、人の強制失踪、誘拐、殺人の罪
ラッソは「国家反逆罪(国家の安全に対する罪)」や「強要、収賄、横領、不正蓄財」を疑われている。それは真相・正義・汚職撲滅特別委員会創設の背景ともなったLa Postaによる2つのリークとは以下に関するものである。その内容は以下の通り(詳細はこちら)。
1つはラッソの義兄でグアヤキル銀行の取締役社長であるダニロ・カレラ(Danilo Carrera)が、官僚・大臣の任命や契約に関与しているというもの。La Postaははラッソは国営企業の経営をカレラに譲り、賄賂と引き換えに、国と協力できる民間企業とそうでない企業を決めさせていた。カレラと友人であるルベン・チェレス(Rubén Cherres)の音声情報も流出している。
もう1つは中南米からヨーロッパへの麻薬輸出を担当し、グアヤキルで幅を利かせているアルバニアマフィアと関連する麻薬密売組織に関するものである。機密捜査の一環として、チェレスとカレラを尾行していることを示す2021年の警察報告書が流出している。La Postaの記述によると、アルバニア・マフィアと結びついた150万ドルのお金が、ラッソの選挙運動の資金として渡っている。警察報告は2021年に棚上げされたが、2023年2月の漏洩事件後、検事総長は捜査の再開を命じている。
委員会の報告書には「国家反逆罪の犯罪を犯したことが明白である」と書かれていた。しかし、3月1日の報告書でこの部分は削除された。現在、報告書は、大統領が「不作為による実行という様式で、贈収賄、恐喝、横領の犯罪を犯した」とだけ書かれている。
憲法129条は大統領または副大統領に対する弾劾裁判を開始するためには、憲法裁判所の認容意見を得ることが必要であると定めている。ただし、刑事裁判の前歴は必要ない。一方有機法第89条では、憲法裁判所が反対する判決を下した場合、弾劾手続きを進めることはできないと述べるとともに、この容認意見を求めるためには、国会議長が弾劾訴追請求書を立法管理委員会(CAL)に送り、要件を満たしているかどうかを確認しなければならないとされている。弾劾請求が要件を満たしていない場合、CALは3日以内に要件を満たすよう申請者に要請しなければならない。請求が完了した場合、CALはそれを憲法裁判所に送り、予備的な容認の裁定を仰ぐ。管轄権保証と憲法管理に関する組織法第148条には要請が到着し次第、3日以内に最高裁判所は裁判官の1人を抽選で決定し、同裁判官は3日以内に弾劾裁判を開始できるかどうかの意見書を提出する。意見書が提出されれば憲法裁判所長官は24時間以内に本会議を召集することとなる。管轄権保障と憲法統制に関する有機法では、報告裁判官の草案が提出されてから最大48時間後に意見が出され、全法廷議員の3分の2以上の賛成で決定されるとしている。
憲法第129条では、弾劾のために法律で定められた手続きが完了すると、国会は72時間以内に大統領または副大統領が提出した証拠に基づいて「理由をつけて要求を解決する」と定めている。問責または罷免には、国会議員の3分の2の賛成が必要だ。憲法は「問責決議が刑事責任の指摘につながる場合」、その手続きを有能な裁判官に委ねることを定めている。問責決議が承認されない場合、その要求は棚上げされる。憲法によれば、「いかなる場合にも、同じ事実について再び弾劾を提案することはできない」とされている。
弾劾裁判で大統領が罷免された場合、副大統領がその職を引き継ぐ。副大統領の地位は、新大統領が提出した3人の候補者リストの中から議会を通じ選ばれる。副大統領が解任された場合も大統領は3人の候補者を提示し、そこから議会で新副大統領を選出することとなる。
ペルーでは直近ペドロ・カスティージョが罷免された。モラルの欠如による職務不適任が理由だ。弾劾裁判直前に自身が行ったクーデターと呼ばれるものが失敗し直後に逮捕もされている。罷免当時ペルー経団連(Confederación Nacional de Instituciones Empresariales Privadas:CONFIEP)は「カスティージョによるクーデターの試みに対し、憲法と制度の秩序が守られたことを歓迎するとともに、ボルアルテ新大統領の就任を歓迎する」と声明を出していた。当の本人は現在人道的にも避難される状態と、国内における暴力を蔓延させている(詳細はこちら)。ペルーにおいては2018年にクチンスキー大統領が罷免直前に辞任、2020年にもビスカラ大統領が罷免となった。ブラジルにおいても2016年にルセフ大統領が政府会計を不正操作したとの疑いで罷免された。
エクアドルでは2017年末、当時の副大統領ホルヘ・グラス(Jorge Glas)が罷免されている。その際マリア・フェルナンダ・ビクニャ(María Alejandra Vicuña Muñoz)が後任となった。グラスは汚職事件で何度か刑事裁判にかけられ、5年間刑務所に収監された。
ダニロ・カレラという人物
2021年5月24日、ギジェルモ・ラッソが大統領に就任した際に大統領と抱擁を交わしたダニロ・カレラはグアヤキル出身の84歳のエコノミスト。グアヤキル大学を卒業し、米国テキサス州ヒューストン大学大学院で経営学の学位を取得した。1966年、カレラはグアヤキル大学経営管理・会計学部の初代学部長となり、その設立に貢献した。グアヤキルの他の大学でも勤務した彼はグアヤキル経済学会の会長、エクアドル中央銀行のマネージャー、エクアドル中央銀行金融委員会の会長など、生涯を通じてさまざまな役職を歴任していいる。ギジェルモ・ロドリゲス・ララ(Guillermo Rodríguez Lara)軍事政権では、産業・商業・統合大臣も務めた。1997年から2013年までエクアドルオリンピック委員会COEの会長を務めている。
ギジェルモ・ラッソとの関係も深い。大統領が15歳のとき、姉マリア・エウヘニア・ラッソ(María Eugenia Lasso)はダニロ・カレラと結婚しており、ギジェルモ・ラッソに最初の仕事の機会を与えてくれたのは彼女だった。高校の学費を稼ぐためにラッソにグアヤキル証券取引所の職に就かせてくれたのは初代総支配人だったカレラだったのだ。1981年にカレラが社長として金融会社フィナンスール(Finansur)を設立するなど、ダニロ・カレラとギジェルモ・ラッソはプロジェクトを共にしてきた。1984年にフィナンスールグループはバンコ・デ・グアヤキル(Banco de Guayaquil、現グアヤキル銀行)の株式の過半数を取得するとともに同年5月9日、カレラが同行の執行総裁に就任し、ラッソが代わりにフィナンシェルの執行総裁に就任している。1990年になるとラッソは同行の取締役副社長兼ゼネラルマネジャーに就任した。1993年、ラッソは取締役社長になるとともにカレラは取締役会長に任命された。2023年1月の大統領のワシントン DC への公式訪問においても彼は同行している。
Danilo Carrera, junto al hijo de Lasso y gerente del Banco de Guayaquil, durante la visita oficial del presidente a Washington D.C.#ElGranPadrino pic.twitter.com/a22haA9SVS
— Línea Dura (@lineaduraec) January 9, 2023
3月4日の国会においてラッソを弾劾のための提案書は賛成多数となった。なお弾劾に必要な賛同数は92であり、今回投票では12票その数を上回っている。
El Gobierno se queda solito. 104 votos a favor de un informe que propone su destitución.
Destituirlo vía juicio político solamente requiere 92.
En los próximos días se presentará la solicitud de juicio, que deberá pasar aprobación de forma en el CAL y la Corte Constitucional. pic.twitter.com/mlZXYs10AX— Andersson Boscán (@AnderssonBoscan) March 4, 2023
参考資料:
1. ¿Cuál es el proceso de juicio político al Presidente?
2. ¿Quién es Danilo Carrera?
3. El afectuoso abrazo de Lasso a uno de los asistentes en su investidura como presidente
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