エクアドル:前大統領レニン・モレノ、公判前勾留を要請される

司法長官のディアナ・サルサル(Diana Salazar)は、シノイドロ(Sinohydro)でも知られるIna Papers事件の収賄容疑者として37人を起訴した。起訴された者の中にはレニン・モレノ(Lenín Moreno)元大統領、その妻、娘、2人の兄弟、2人の義理の姉妹が含まれている。37人に対する告発は、キトの国立司法裁判所で行われた審問で行われた。

サラサル検察官は「刑事手続きの次の段階における彼らの存在(逃亡回避)を保証する」ために、アドリアン・ロハス判事に対し捜査対象者全員の公判前拘束を命ずるよう要請した。なお被告37人のうち10人が既に国内にいないと付け加えた。一方検察は37人の被告のうち14人が65歳以上であることからこれらの人物の予防拘禁は自宅軟禁に置き換えるべきだとも述べている。エクアドルの憲法では高齢者は公判前勾留ではなく、自宅軟禁にすべきとされている。前大統領は69歳、その妻、コント・パティニョ、Cai Runguoもまた65歳以上である。

 

本件はコカ・コド・シンクレア水力発電(hidroeléctrico Coca Codo Sinclair)プロジェクトに関連する汚職疑惑に関するものである。検事総長サルサルによると、37人の被告は約7600万米ドルの賄賂で利益を得たとされている。不正行為は2009年から2018年の間に行われたとされている。水力発電建設をめぐり、契約を確かなものとするために不正な方法による振込(国の金融システムや海外の銀行を利用)、小切手、贈与が発生した。さらに「虚偽の法的表明やコンサルティングを通じて、7600万ドルの賄賂が贈られたことが立証されている」。

検事はスイス、スペイン、中国、パナマ、パラグアイ、米国、ベリーズに国際刑事援助を要請している。被告、関係者が保有する預貯金や当座預金、積立政策、投資を差し止めるのが目的だ。ピチンチャ、ナポ、グアヤス、サンタエレナにおいて被告人らが自分たちの名義で保有している動産・不動産、株式、参加権、証券、信託の疎外禁止もまた要請されている。

司法省によると、水力発電をめぐる賄賂は以下のように分配されている。

 

モレノ家:655,000米ドル以上

元大統領とその妻(Rocío González):家具とアパートの購入により22万米ドル
前大統領の娘(Irina Moreno):50,000米ドル
前大統領の弟(Guillermo Moreno):10,000米ドル
前大統領の弟(Edwin Moreno):350,000米ドル
前大統領の義理の妹(Jaqueline Viteri):10,000ドル
前大統領の義理の妹(Martha González):15,000米ドル
前大統領の義母(故人)を通じて、その他の金額

 

パティニョ家:4400万米ドル以上

シノハイドロの代表でRecorsaのマネージャー(Conto Patiño):150万米ドル
コント・パティニョの娘(María Auxiliadora Patiño):2,000万米ドル
マリア・パティニョの夫(Xavier Macias):3.5百万米ドル
コント・パティニョの息子(Manuel Patiño):600,000米ドル
コント・パティニョの息子(Juan Carlos Patiño):700,000米ドル、他の会社を通じて250,000米ドル、その他12,000米ドル
コント・パティニョの娘(Patricia Patiño):100,000米ドル
パトリシア・パティニョの夫(Juan Manuel Durini):900,000米ドル
同族企業の一員(Francisco Chiriboga):190,000米ドル
同族企業の一員(Mauricio Pérez de Anda):190,000米ドル
コント・パティニョの孫娘(Vitoria Patiño): 200,000米ドル
レコルサのドライバー(Juan Cristóbal Simbaña):600万米ドル
レコルサ従業員(Antonio Simbaña)250万米ドル
レコルサ社員(Mercedes Cruz:500,000 米ドル
未確認の役割(Pablo Zatizabal):150,000米ドル
弁護士(Ximena Delgado):400,000米ドル
弁護士(Carlos Almeida):個人で140万米ドル、会社を通して180万米ドル
弁護士(Eduardo Carmigniani)260万米ドル
未確認の役割(Pablo Avilés):250,000米ドル
未確認の役割(Francisco Espinoza):100,000米ドル
未確認の役割(Mónica Ortega):400,000米ドル

 

中国代表: 1百万米ドル以上

元駐エクアドル中国大使、元シノハイドロ代表(Cai Runguo):40,400米ドル
シノハイドロ元代表(Yan Huijun、Song Dongsheng、Wu Yu、Liu Aisheg):100万米ドル

 

その他の元公務員:585,000米ドル以上

Coca Codo社の元マネージャー(Luciano Cepeda)とその配偶者(Maria Augusta Baquero):310,000米ドル
Coca Codoの元マネージャー(Henry Galarza):220,000米ドル
水力発電会社の取締役(Francisco Castello):55,000米ドル

 

検察官によると、このプロジェクトの経済的・技術的な大きさは、2009年から2018年にかけて、ある幹部グループが違法な対価と引き換えに多額の贈り物を受け取るのに理想的なシナリオであった。2008年9月25日に公募された水力発電プロジェクトのエンジニアリング、建設、組み立て、試運転のための入札募集は2009年1月13日、プロジェクトの資金調達を含めることを条件に、複数の入札者の参加が制限された。定められた条件によれば、予算の85%は入札者が負担し、残りの15%はエクアドルの責任となると言うものだった。このプロジェクトは、当初16億7,900万ドル(約1,000億円)と見積もられていた。このプロセスを経ることによって入札できるのは2社に絞られた。そのうちの1社がシノハイドロ社だった。

シノハイドロは85%の融資を必要とした。しかし融資の条件がエクアドルに受け入れられなかったため契約は解消され、実行されなくなる危険性があった。モレノは融資条件に介入し融資に関する誤解を解くための動きをした。モレノは中国の駐エクアドル大使であったRunguoと会談したと伝えられており、会談後中国側から新たな融資の提案があった。新たな提案はラファエル・コレアの説得材料となり、融資締結を可能なものとした。

サラサルによると賄賂の受け渡しに当たっては、コント・パティニョが経営する企業の1つComercial Recorsaが選ばれた。同時にコント・パティニョはBanco Pichincha Panamaに行き、2010年7月1日に口座を開設している。その手続きの中でパティニョは、その口座で受け取る予定の資金は、水力発電建設プロジェクトの4%からもたらされることを伝えたと言う。口座開設後、Comercial Recorsaはシノハイドロ社から約7600万米ドルを受け取ったとされる。また、パナマのミラーカンパニーであるRecorsaの口座には、さらに40万米ドルが入金されている。

2019年9月時点で裁判所からCai Runguoは「Arroz Verde(緑の米)」でも知られている。彼に対し逮捕状が出ているものの中国は身柄を引き渡していない。Runguoはラファエル・コレアが自称する「市民革命」が起こった2007年にエクアドルにやってきた。政権発足時の出来事を見守った彼は、ヤスニITTイニシアティブ(Initiativa Yasuni-ITT)の実施に向け自らや大使館の他の職員とともに1,000米ドルを寄付すると公言し、また「ゼロを2つ増やしたかったが、可能性は非常に小さい」と冗談を言っていた。その一方で画策したのは中国の石油会社によるヤスニでの原油採掘だった。このことは中国大使と米国大使の間で交わされた公文書で明らかにされており、ウィキリークスで公開された。

Runguoはレニン・モレノとの交渉を通じ水力発電プロジェクトにおいて大きな社会貢献をしたとしオノラト・バスケス(Honorato Basques)勲章が授与されている。中国の融資はLenin Morenoが手配したが、手数料は彼の個人的な友人であるConto Patiño Martínezが徴収した。そして、シノハイドロ社からパティーニョ・マルティネス氏が所有するオフショア企業レコルサ社への1830万米ドルの支払いが発覚したことで、すべて明らかになった。

ダニエラ・カマチョ(Daniella Camacho)判事は、数年前にカロンデレ宮殿と国民議会でエクアドルへの関連する奉仕のために叙勲された人物に、実刑命令を出すという「象徴的な罰」を実行した。Runguoは自分を弁護してくれる弁護士を探し、その弁護士は、依頼人は北京に出頭する意思がある、と言っている。しかしRunguoはすでにエクアドルに別れを告げ、戻る予定もない。

疑惑に対し前大統領は「市民革命の最も象徴的な作品」の契約について、自分には何の責任もないと断言している。 ラファエル・コレア(Rafael Vicente Correa Delgado)政権時代に副大統領だったモレノは、「コカ・コド・シンクレアのプロジェクトは当時の管轄当局が担当していたが、私は副大統領として、マヌエラ・エスペホ(Manuela Espejo)計画の遂行という唯一の責任を負っていた」と述べている。

レニン・モレノ前大統領は退任後数カ月で国を離れ、2021年末まで米国で暮らしていた。その後、今日までモレノはパラグアイに居住し、米州機構(Organización de los Estados Americanos:OEA)の障害者問題担当委員を務めている。エクアドルはパラグアイと犯罪人引き渡し条約を締結している。サラサル検事は、被告人全員の歴史的な移動の様子から、逃亡する可能性があると述べている。そのため今回これらの人物に対する公判前勾留を要請したと言うわけだ。

レニン・モレノはこれ以外にもボリビアにおけるクーデター支援(詳細はこちら)疑惑や、COVID-19ワクチン接種にあたって便宜を図ってきた。

 

参考資料:

1. El domingo se conocerá si Lenín Moreno debe cumplir arresto domiciliario
2. Fiscalía pide prisión preventiva para Lenín Moreno por Ina Papers
3. ¿QUIÉN ES CAI RUNGUO, EL EX EMBAJADOR DE CHINA, PRÓFUGO Y AMIGO DE CORREA Y MORENO?

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