スリナム・デモ:大統領、議会を襲撃したデモ参加者を訴追すると脅す

(photo by Gabwp

スリナム共和国はガイアナとフランス領ギアナに挟まれた国で、ブラジル、とも国境を接している。面積は日本の約2分の1で首都はパラマリボである。世界銀行の情報によると2021年の人口は59.2万人だが民族構成は多様でインド系(27.4%)、マルーン系(21.7%)、クレオール系(15.7%)、ジャワ系(13.7%)、混血(13.4%)などから成る。公用語はオランダ語であるが英語、スリナム語も使われる。何故オランダかと言えば(南米で唯一)、この土地で16世紀から17世紀にオランダとイギリスが領土争いをしたことによる。1667年にニューアムステルダム(現ニューヨーク)との交換でオランダの植民地となった。300年以上オランダであったということもあり、1975年に独立を果たすものの、引き続きオランダとの関係は深い。なお独立後の軍事独裁政権は国を荒廃させることになる紛争も起こしている。軍事政権期は10年以上に渡った。再び民主化するのは1991年のことである。

民族の多様さは植民地時代にアフリカから送り込まれた奴隷や、奴隷解放後の労働力不足を充填するために移民として受け入れられたインド系、インドネシア系、そして逃亡奴隷の子孫マルーン、この地で生まれ育ったヨーロッパ系とアフリカ系の混血クレオールと続く。首都パラマリボの中心地にはシナゴーグやモスクがある。2015年の大統領就任演説時大統領であるデシ・ボーターセ(Desiré Delano “Dési” Bouterse)は国の多様性は豊かさと繁栄の源泉になりうると述べている。本人自身もクレオール、オランダ、フランスそして中国にルーツを持っている。しかし彼自身は民族の多様性に対し人権侵害を加えた。国を混乱に貶めた紛争は1986年にボーターセの元警備員がマルーンによるゲリラ司令部を形成したことから勃発した反乱に端を発するが、ボーターセは学校やインフラ社会基盤、政府関連の建造物を破壊した上でマルーンの村を焼き払い、何百人ものマルーンを虐殺した。東部ジャングルに住むマルーンたちの土地はコカイン密輸において重要な拠点でもありその管理をめぐっての迫害でもあった。ボーターセは少なくとも2006年までは薬物貿易に手を染め、コロンビアのFARCと武器や薬物の取引を行っていた。

 

この国でデモが起きた。これは物価高騰に端を発するものである。食品・ガソリン価格、電気料金は高騰し国民の生活を圧迫し、痺れを切らしたからである。デモ隊は政府の腐敗についても言及している。2月17日パラマリボで起きた抗議デモと治安部隊は衝突し、中心部の店舗では略奪も起きている。スリナム国会も先週金曜日に襲撃されており、議員らは行動を非難するとともに、スリナム大統領チャンドリカペサド・サントキ(Chandrikapersad “Chan” Santokhi)もデモの責任者は処罰されると警告している。

スリナムは世界で17番目に天然資源が豊かな国だ。その経済の大部分はボーキサイトや金、石油の輸出から成る。これはスリナムのGDPの15%であり、貿易額の約7割を占める。この国は経済危機に見舞われ自国通貨も急落している。しかし多くの国民は生活が困窮している。だから政府政策に対抗すべくデモが起きた。政府は国際通貨基金(IMF)が義務付ける支出削減を守るべく、電力やガス、燃料への補助金廃止を計画した。「ほとんど全ての補助金の廃止、財政コストの増加、目まぐるしいスピードでのスリナム通貨の切り下げにより、年間50%以上のインフレが何年も続き、国民の多くが貧困ライン以下に追いやられている」と政府を糾弾したのはデシ・ボーターセ政権下で2015年から2020年まで務めたスリナム国民議会元議長ジェニファー・シモンズ(Jennifer Simons)だ。シモンズは権力中枢における「汚職と縁故採用の激増」も大きな不満の原因になっていると指摘する。

数千人のデモ隊は水力・火力エネルギーなどいくつかの項目の補助金廃止を含む政府の政策に抗議した。政府は、これにより年間およそ1090万米ドルの節約になると発表した。1人が死亡、20人が負傷したほか、100人以上が逮捕された先週末の騒乱で中断していた予算案の審議は再開している。「法治国家のすべての機関が機能している。民主主義の本拠地が攻撃されたが、民主主義は機能している」と大統領は述べた。彼は、国は平静を取り戻し、政府は国民の安全を確保し、様々な社会集団との対話を強化すると述べた。

マリヌス・ビー(Marinus Bee)下院議長は、この襲撃を「建物を吹き荒れた熱帯の嵐」にたとえ、休憩時間は設けず、予算審議を継続すると述べた。デュー・シャーマン(Dew Sharman)副大統領はいかなる行動も法と秩序の範囲内でなければならないと指摘し、「国民の家」への攻撃は正当化されないと付け加えた。幾人かの議員や野党は、抗議行動を支持する一方で、その後の略奪や暴力を非難し、このような光景を決して繰り返してはならないと述べている。

国民民主党(Partido Nacional Democrático en el Parlamento)党首のラビン・パルメサル(Rabin Parmessar)は「市民には、生活環境の悪化に不満を表明する民主的な権利がある。スリナムではもうほとんど生活できない」と述べ、また、政府は「国民のニーズに十分な注意を払っていない」と批判した。「この政権が始まって以来、さまざまな友好的な抗議活動が行われてきたが、政府は国民のニーズに十分な注意を払っていないように見える。発表された抗議行動の前夜まで、さらなる燃料の値上げが容赦なく押し通された」。政府が法執行機関は抗議行動に適切に対処したと主張している一方、パルメサルは催涙ガスやゴム弾がデモ隊に対して使用された警察の行動について徹底的に調査するよう求めている。シモンズもまた、国会議事堂から警備員が発砲し始め、警察が催涙ガスを発射したことでデモが暴徒化という「カオス」を引き起こしたと主張している。「政府はますます抑圧的になり、司法の独立性に対する国民の信頼は劇的に低下している。政敵に対する政治的迫害がある」シモンズは述べた。

https://twitter.com/AlertasRD/status/1626795391965429764

 

このデモは、政治活動家のステファノ・”パキトー”・ビアブリエ(Stephano “Pakittow” Biervliet)が呼びかけたもの。労働組合は公式なる参加呼びかけてはしていなかったが、木曜日と金曜日に招集されたストライキと重なった。

スリナムはIMFと6億9000万ドルの協定を結んだが、条件を満たせず資金が凍結されることになっていた。オランダの植民地であったこの国は、膨大な埋蔵量が予想される石油の採掘を待ち望んでいる。

カリブ海共同体(La Comunidad del Caribe:Caricom)は「公共の安全を維持するためにあらゆることを行う」よう呼び掛けた。「表現の自由と平和的デモの権利」を認める一方で、国内を緊張状態に保っているデモに対して「暴力の行使を許すことはできない」と警告している。

政府は市民の安全を保障しており、様々な社会集団との対話も強化されべきとパルメサルも述べている。

参考資料:

1. Presidente de Surinam advierte que responsables de protestas serán castigados
2. Suriname Parliament resumes debate on budget following last weekend’s violent protest
3. Manifestantes de Surinam tratan de tomar el Parlamento y saquean comercios
4. Surinam busca recuperar normalidad tras violentos disturbios
5. Comunidad del Caribe llama a restablecer el orden en Surinam

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