コロンビア:「コカインの合法化政策」報道に感じる違和感

(Photo by Gustavo Petro Urrego

 

日本でも数日前からコロンビアによるコカイン合法化のニュースがセンセーショナルに取り上げられている。知らぬ土地の左派大統領が変わった政策を出してきた、ということなのかもしれない。しかし、切り取られた報道は少し「そうなのか」と首を傾げる部分もある。

たしかにコロンビアは麻薬カルテルや麻薬密売人の代名詞のように扱われることが多く、良いイメージがあるとは言いづらい。事実世界有数の麻薬生産国は昨年もコカインを100万キログラム以上生産しており、次点にいるペルーとボリビアの2カ国を合わせた量よりも多かった(米国政府の推計による)。

麻薬として定義されているマリファナの合法化をした国として有名なのはカナダ、米国(一部の州)、メキシコ、ウルグアイである。横並びのように捉えられない今回のペトロの発表は、それら嗜好的マリファナ利用の合法化国家が掲げる目的と同一視してしまうと少し違和感がある。それらの国の目的は(一括りにすることもよくないが)主に税収や雇用の拡大、犯罪組織の収入源を断つことだ。また、農作物としてそれを栽培できるようになれば、貧困地域の底上げになることも挙げられる。人種差別の解消にも繋がると言う考え方もある。

それと比べればやはり今回の麻薬合法化案はイコールとは言い難い。

 

コロンビア大統領グスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)は、違法薬物に対する政策の転換に取り組んでいる。就任して2週間、彼は、連鎖の中で最も弱い立場にあるコカ栽培者による犯罪への加担を停止させると話した。コカインビジネスは最も収益性の高い生産物と言える。これが農民と犯罪組織を結びつけてきた結果だ。大きな方針転換を持ってペトロは麻薬戦争を終結させたい意向だ。ただし今のところは、同盟国である米国との完全なる決別やパラダイムの即時変更を意味するものではない。

ペトロは8月12日の就任式で、政府が最近議会に提出した娯楽用大麻の合法化法案について「麻薬戦争が完全に失敗したことを認める時が来た」と述べた。それはマフィアを強化し、州の弱体化も招いた。ペトロは「いつからコカ葉を収穫する農民は犯罪者になったのか?コカを栽培する以外に何もしていない単純な農民であれば、犯罪者になることはない」「いつから消費する若者が、医者や心理学者のそばで心の弱さを克服しようとすることが犯罪者になったのか」とも述べ生産者と消費者の犯罪化に疑問を呈した。

彼の意見では、麻薬取引はコロンビアの暴力の構造的原因の一つであるだけでなく、国家の存在感の欠如による人種差別と不平等の原因ともなっている。違法組織の抗争の多い地域の一つである太平洋地域の市長と知事との会談においても「死んでいくのは黒人たちだ」と外遊で語っている。今日に至るまで、コロンビア国家は、旧左翼ゲリラや準軍事組織、麻薬カルテル、組織犯罪シンジケートなど、さまざまな犯罪行為者から領土の支配をめぐる挑戦を受け続けている。50年以上に渡ったコロンビア内戦の学際的調査機関である真実委員会によると、米国の軍事援助が80億ドル近くあったにもかかわらず、違法薬物の流れが止まることはなかった。むしろそれは麻薬密売に関する紛争の長期化を招き少なくとも26万人のコロンビア人(その大半は民間人)が暴力で死亡した。

 

上述のように一人歩きする「コカイン合法化」を娯楽のためのマリファナ合法化とイコールと考えるのは少し違和感があるコロンビア法務大臣ネストル・オスナ(Néstor Osuna)によると政府がコカイン自体を非犯罪化する計画を検討していることではない。政府方針はコカインの完全な断絶を狙うというよりはシフトを意味し「大麻やコカ葉栽培で生計を立てている農民を、軍事的に、あるいは警察を通じて迫害する意図はな」く、代替作物を栽培できる土地とする」ことを目指す。また「消費に関しては、禁止主義ではなく、公衆衛生を重視した政策になる」と述べている。

ペトロ政権の麻薬対策責任者であるフェリペ・タスコン(Luis Felipe Ruiz)によるとオスナ大臣が目的を明確化したことで国民の懸念が払拭される可能性があると述べている。「麻薬密売人は、彼らのビジネスが禁止法に依存していることを知っている。公共市場で規制すれば、大きな利益はなくなり、麻薬の密売人もいなくなる」と述べた。つまりコロンビア政権は「禁止法を廃止し、国家が規制するコカイン市場を立ち上げる」ことを提案しているという。

新法案の提案者の一人で、新大統領の盟友であるグスタボ・ボリバル(Gustavo Bolívar)上院議員は「麻薬取引を規制しない限り、コロンビアの平和は実現しない」と述べている。彼も「すべての力とお金を持つ米国でさえ、麻薬戦争に勝つことができなかったし… 現在はパブロ-エスコバルが生きていたときよりも多くの消費者と生産者がこの国にはいる。麻薬撲滅のために資金を投入し、何千人もの死者を出しているにもかかわらず、麻薬密売は拡大している」と語っている。ボリバルはCNNのインタビューで、米国が国内でマリファナを合法化し、国外では麻薬戦争を支援するのは偽善だと述べた。カルテルと戦うコロンビア軍の武装と訓練に毎年数百万ドルが米国より送られている。ボリバルは最近米国コロラド州を訪れ、大麻合法化の経済効果を直接見てきている。

ホワイトハウスの国家薬物統制政策室長ラウル・グプタ(Rahul Gupta)もまたバイデン政権における違法薬物への対峙方法について語っている。それによると過去続けてきた軍事作戦から「全体論的で、思いやりのある科学に基づき、人々を中心とした薬物政策の新時代を迎えている」。この言葉は、薬物との戦いを全面的に排除するのではなく、別の視点から捉えるというペトロや大砂の立場と重なる。

ペトロは麻薬撲滅政策においてグリホサートによる空中燻蒸をやめ、コミュニティと協議しながら手作業による撲滅を優先する、違法薬物の通過を阻止するための空中・海上阻止作戦の強化についても示している。キブド(チョコ州)で開催された安全保障会議で大統領は「麻薬撲滅活動に集中することがより効果的であり、それによって、ある地域がコカイン輸出の魅力から解放されれば、国内の武装紛争の問題さえ解決できるだろう」と述べている。

なお、コカイン撲滅に向けては過去にも色々と検討されている。例えば2019年、上院では政府によるコカ葉の購入が検討されていた。この法律のメリットは3つあり、まずコカ葉の買取は違法栽培されたコカ葉処分のためのプログラムより経済効果があることによる。年間年間4兆コロンビア・ペソ(約1200億円)が必要となるプログラムに対し、買い上げは2.6兆ペソ(約780億円)の出費で済むと言うものだ。またこれは、違法栽培を行う農家の保護にもつながる。違法と知りながら経済的事由で栽培せざるを得ない農民は当局に見つかるたびに逃げ延び新たな土地を探す必要があった。また、コカ葉農家による森林伐採の撲滅にもつながる。同国では年間30万ヘクタールの森林伐採があるが、そのうち25%が違法なコカ栽培が原因だ考えられている。

大統領就任前にペトロが話していた内容はこちらから。

 

参考資料:

1. Colombia vislumbra caminos para acabar la guerra contra las drogas: ¿legalización de la marihuana y la cocaína?
2. Colombia da los primeros pasos para cambiar la política antidrogas
3. コロンビアの“コカイン解禁”検討 米は危機感
4. コカイン産業の合法化をコロンビアが検討
5. メキシコ、嗜好用の大麻を解禁へ 世界最大の市場に

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