コロンビア大統領選挙2022:決選投票の日がやってきた

5月29日(日)に行われたコロンビア大統領選挙はどの候補者も50%以上の票を得られず、決定は第二ラウンドへと持ち越された。今回コロンビアの人々は、第一回投票で8,541,617票(40.34%)を獲得した歴史同盟のグスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)と5,965,335票(28.27%)を獲得した反腐敗支配者連盟のロドフォ・エルナンデス(Rodolfo Hernández)のどちらか、もしくはその他の選択肢を選ぶこととなる。

両者の違いはどこにあるのだろうか。例えばグスタボ・ペトロは現在同国に存在する力関係や不平等を不当と感じ、疑問を投げかけている。一方のロドルフォ・エルナンデスは、金銭的インセンティブを持って、各所に存在する問題の解決を目指そうとしている。汚職に対しては横領事件の通報者に金銭的報酬を与える、森林破壊問題に対しては森を大切にする人たちに直接お金を払うなどと明言している。

ペトロの支持者は主に左派の人々(ホルヘ・エンリケ・ロブレド(Jorge Enrique Robledo)率いるMOIR(Movimiento Obrero Independiente y Revolucionario)を除く)、アフロ・コミュニティ、先住民組織、フェミニスト、動物擁護者、環境保護活動家、サンペリスタ(元同国大統領エルネスト・サンペル・ピサノ(Ernesto Samper Pizano)主義者)、サンティスタ(元同国大統領でノーベル平和賞を受賞したフアン・マヌエル・サントス(Juan Manuel Santos)主義者)などで、これらの人々はゲリラ組織との和平合意推進に前向きなだ。元ウルグアイ大統領のホセ・ムヒカ(Jose Mujica)は未だ投票先を決めかねているコロンビア国民に対しペトロを支援するよう述べた。応援メッセージでは「コロンビアには、別の運命と宿命がある。平和のため、パンのため、私たちのため、コロンビアのため、私たちのラテンアメリカのための新しい社会を切り開くための素晴らしい土壌がある」とも述べているが、彼は第1回大統領選の前にもペトロを支持する理由をすでに説明している。一方のエルナンデスは特定の政治的・イデオロギー基盤を持たない。これは誰かに縛られることなく彼の政策を進められることを意味するが、彼がどのような政府を作っていくのかを見えづらくする。なお両者ともポピュリストとして知られている。

 

コロンビアはラテンアメリカで最も急速に成長している国の一つである。イヴァン・ドゥケ(Iván Duque Márquez)が政権をとった2018年以来、国は豊かになった。ただその成長は労働者世帯やより貧しい人々には浸透していない。またコロンビア・ペソがドルに対して40%も急落したため、平均的な労働者の年俸の価値は著しく低下した。インフレ率は4月に2000年7月以来最も速いペースで加速し、ウクライナ戦争によって悪化の一途を辿っている。だからペトロは、コロンビア経済の先行きに幻滅し、ドゥケ政権下で賃金が停滞し、この4年間で最も苦しんだ有権者からの支援を頼りにしている。ペトロは、コロンビアには民主主義が存在しないという仮定から出発し、医療、年金、経済モデルなど、社会システムの改革を提案している。この改革は今日の明日で達成できるものではない。そのことからペトロや副大統領候補のフランシア・マルケスは時間をかけて構造改革に臨むとしている。ベネズエラやニカラグアのように大統領再選を可能とする憲法改正の実施については言及していない。77歳のロドルフォは長期的な政策を立てづらい。そのためより具体的な行動計画を推進していくことが考えられる。例えば政治家やジャーナリストから特権を取り除く、利権を監督する、膨張した契約を評価し覆すなどを行おうとする官僚主義の削減などが挙げられる。エルナンデスは従来の政治体制に対する一部の有権者の不満を利用しようとしているが、汚職に焦点を当てた彼の経済に対するアプローチは、ペトロよりも穏健だとされる。ただし、汚職に関わった人間を見せしめにし、変革を推進する可能性もある。「ロドルフォは神父を変えようと言い、ペトロは教会の論理を変えようと言う」と政治アナリストのアルバロ・ヒメネス(Álvaro Jiménez)は分析する。

選挙における大きな争点の一つ、安全保障についてはどうだろうか。麻薬戦争の終結についても両者は前向きだ。コロンビアではコカイン生産や暴力、組織犯罪(麻薬取引や人身売買)が昨今著しく増加していることもり、この問題に対して国家の統制をいかに回復させるか、そしてカルテルをいかに撃退するかは選挙戦における大きな争点となる。悪名高い麻薬カルテル「クラン・デル・ゴルフォ」のボスの一人ディアロ・ウスガ”オトニエル”の米国への引き渡しをきっかけにその報復として、先月カリブ海沿岸で6人が死亡、180台を超える車両が襲撃された。また、国連の発表によると今年1〜3月にこの地区で武装勢力間の衝突が続いた結果、5万人近くのコロンビア人が強制的に監禁されている。ペトロは大麻の合法化とコカインやその他の薬物の摂取を部分的に非犯罪化することでこの問題に取り組むことを提案している。また、彼は2016年に実施された和平協定に似た和平協定を通じて犯罪集団と関わることを好むと発言している。なおペトロは「土地の民主化」と汚職で起訴された者を含む有罪判決を受けた犯罪者に対する恩赦を約束したことで批判の的となっている。一方のエルナンデスは2016年に実施された歴史的な協定に反対票を投じたことを明らかにしたが、大統領選の公約では、条約を尊重すると述べている。なお隣国ベネズエラの関係や麻薬組織との関係についても見ていこう。なお両者はともニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro Moros)の政権下でもベネズエラとの国交を回復させる方針だ。

 

国家の役割を両者はどう考えているのだろうか。経済発展に向け国家は積極的な役割を果たし、機会均等と不平等の解消に努めるべきとしている。ペトロはボゴタ市長時代、年間支出を2011年の112億ドルから2015年の137億ドルへと25億ドルも増やした。一方、エルナンデスは国家はより小さくすべきで省庁の合併などを提案する。これにより経費の削減、公務員特権の排除、官僚主義の削減を目指す。彼によると税金や無駄な国家経費は国民に直接行き渡るはずの資金源を奪い、国家繁栄を妨げる。彼はブカラマンガ市長時代、財政再建計画のもと2360億ペソの赤字を480億ペソの黒字に転換させた。

エルナンデスの戦略家を務め、2018年当時ペトロのキャンペーンアドバイザーを務めていたアンヘル・ベカシノ(Ángel Becassino)は両者の違いを次のように語る。「グスタボには理論的な推敲があり、ロドルフォにはこれらの問題を解決するための実践的な提案がある」。つまり一人は理論家、もう一人は行動家ということだ。

ペトロは元ボゴタ市長。2022年の大統領選は3回目の挑戦となる。62歳の彼は上述の通り国家経済の抜本的な見直しを提案している。元ゲリラ戦士としても知られ、現在は和解と暴力の終結を説いている。クリーンエネルギー、新技術、交通、通信への外国投資の誘致などにも積極的だ。もしもペトロが勝てば歴史的大転換となる。なぜならコロンビア初の左派政権、コロンビア初の黒人副大統領が誕生することになるからだ。

ユニークなソーシャルメディアキャンペーンを繰り広げるロドルフォは、ドナルド・トランプ(Donald John Trump)前米大統領やジャイル・ボルソナロ(Jair Bolsonaro)ブラジル大統領と比較されるような人物だ。自称「TikTokの王」は、伝統的なメディアと対立する姿勢をとっている。コロンビアの主要放送局が主催したテレビ討論会にも出演せず、海外の報道機関のインタビューにもほとんど応じなかった。CNNにはパジャマ姿で出演し、自分は「人民の男」だと語った。

現大統領イバン・ドゥケによる右派政権の支持率は最低で、不平等は助長され、組織的犯罪集団の衝突や、国家権力による暴力が相次いだ。それもあってかペトロの有力な対抗馬である右派で前メデジン市長、フェデリコ “フィコ” グティエレスは第一回投票で姿を消し、不動産王だったロドルフォが決選投票に進んだ。ダークホースと言えよう。

疑いようなく有権者、コロンビア国民、ラテンアメリカ諸国にとっても大切な1日となる。

 

コロンビア大統領選挙2022に関するその他の記事はこちらから。

 

参考資料:

1. SIETE DIFERENCIAS ENTRE PETRO Y RODOLFO
2. Pepe Mujica envió mensaje de apoyo a Gustavo Petro
3. Colombia’s presidential election: A rattled country looks left, but will voters make historic pivot?

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