国連開発計画:2022年度「赤道賞」候補者ノミネート始まる

国連開発計画(United Nations Development Programme:UNDP)は第13回目となる「赤道賞」受賞者のノミネートを始めた。これは同団体が主導する赤道イニシアチブ(Equator Initiative)の枠組みの中で行われるもので、地域レベルで成功した持続可能な開発プロジェクトを「赤道賞」として隔年で表彰している。イニチアチブでは大きな転換期となっている地球において、自然と人間の関係を再定義し、生物多様性の保全と持続可能な利用を通じ、地域コミュニティのエンパワーメントを促進する。また気候、人、地球のための優れた解決策を地域ベースで見出すことを目的としている。イニシアチブは国連、政府、市民社会、民間セクター、草の根組織などパートナーシップを前提としている。ドイツ連邦経済協力開発省(Federal Ministry for Economic Cooperation and Development:BMZ)、ノルウェー開発協力局(Norwegian Agency for Development Cooperation:NORAD)、スウェーデン国際開発協力庁(Swedish International Development Cooperation Agency:Sida)、コンサベーション・インターナショナル、生物多様性条約、ワンアース、トライバルリンク財団、エコアグリカルチャーパートナーズ、フォーダム大学、国際自然保護連合、自然保護団体、PCI-メディアインパクト、レア、国連環境計画、国連財団、野生動物保護協会、世界自然保護基金(WWF)もまた参加している。赤道賞のノミネート期限は4月5日までだ。

 

2022年の赤道賞は地球のセーフティネットを構築し、繁栄や開発、自然との関係を再定義するために、「自然を前提とした」「ローカルでの」革新的なソリューションを開発した地域社会や先住民族グループに焦点を当てる。なぜなら自然と調和した持続可能な生活の基礎となるからだ。国連事務次長補でUNDP政策プログラム支援局長の徐浩良(シュウ・ハオリヤン)は、「先住民族と地域コミュニティは、私たちの惑星の危機に対処し、繁栄と開発を再定義するために必要な変革に取り組む道を示している」と述べた。2022年のテーマは「持続可能な開発のために経済と自然との関係を変革する」であり、上述の通り自然を保護、回復、持続可能な管理することで、開発にプラスの効果をもたらしたものが表彰される予定だ。

 

詳細は以下の通り

  1. 「惑星のセーフティネットの構築」する。温室効果ガス排出の緩和や気候変動の影響に適応するための生態系の保護、回復、持続可能な管理を行う。
     – 水、炭素、生活、安全、生物多様性を守るために自然を保護する。
    – 水、食料、生活、炭素、安全保障、生物多様性を守るための自然を回復する。
    – 土地と領土に対する先住民の権利を保護する。
  2. 地域の開発計画や政策の中心に自然を据え、土地や水の守り手の権利を守ることで、「人間と自然との関係を再定義」する。
    – 先住民や地域社会の概念、伝統的知識、ビジョン、自然の価値を、地方や国の開発計画や政策に統合する。
    – 土地と水の守護者を擁護し、土地と水の権利を擁護し、 社会と環境の正義を推進する。
  3. 「人と地球のための新しいグリーン経済を創造」する。陸上または海洋の生態系、生物多様性、野生生物の保護、回復、および/または持続可能な管理で、先住民族の経済の促進を含む持続可能な生活、グリーンビジネス、および雇用を可能とする。
    – 再生可能な農業、アグロフォレストリー、持続可能な漁業を加速させる。
    – 先住民や地域社会、そしてその環境に配慮した零細・中小企業が、公正で包括的な持続可能なサプライチェーンの中核となるようにする。
    – 持続可能な商品生産を開発、および森林破壊を伴わない商品を推進する。
    – 先住民の経済活動を支援・強化する。

 

なお、生態系の健全性・完全性、世代間の公平性、男女平等の分野で貢献するプロジェクトは特に注意が払われる。国連開発計画(UNDP)の支援を受けている国で3年以上継続されている取り組み、または3年以上継続している活動がノミネートの条件となる。農村地域で活動する地域住民のイニシアチブ、または、いずれかの国の先住民が主導し、農村地域で活動するイニシアチブが対象だ。

これらの取り組みは知識やグッドプラクティスを共有する機会、プラットフォームを提供するとともに国連総会、国連砂漠化防止条約(UNCCD)のCOP15、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)のCOP27などのハイレベルなサミットに貢献するものだ。

赤道賞受賞者には、2002年以来、84カ国の264の主要なコミュニティ組織からなる名誉あるネットワークの一員となる。また1万ドルが贈られ、2022年後半に開催される一連の政策対話と特別イベントにバーチャル参加するための支援を受けることができる。

第12回の赤道賞は、世界126カ国、600のノミネートがあり、そこから10の地域社会と先住民族に与えられた。受賞者10名は森林保護区での伐採や密猟に代わり、持続可能な方法で収穫した果物や有機栽培の作物を販売する地元主導の協同組合、石油開発から祖先の土地を守るために戦う先住民グループ、気候変動の緩和に貢献しながら何百ものコミュニティの水源を守る重要な湿地生態系を守る地元組織、そして伝統的慣習に基づく有機農業への転換を推進し、政府が10年間で国全体で有機食品のみを生産することを約束した草の根提言グループなどが受賞した。

 

前回の受賞者は以下の通り。

1. ボリビア – 少年森林管理協会(Asociación de Jóvenes Reforestadores en AcciónAJORA)
  持続可能なアグロフォレストリーモデルを推進。伝統的な防火管理・修復活動を通じて生態系の損失と劣化に取り組む若い女性のグループ。AJORAはボリビア・アマゾンの若者が農村部から流出するのを遅らせることに貢献している。

2. ブラジル – セラード農家、外来生物、漁師、観光客、観光ガイド のための協同組合(Cooperativa Mista de Agricultores Familiares, Extrativistas, Pescadores, Vazanteiros, Assentados e Guias Turisticos do Cerrado:CoopCerrado)
  セラード生態系から持続可能な方法で生産された数十種類のオーガニック製品に関するマーケティングを通じて、土地に住む4,600世帯以上の生活を向上させ、生物多様性を保護し、グリーン経済への道筋を示す持続可能利用の保護区の設立を支援している。

3. カメルーン – 熱帯林と農村開発(Tropical Forest and Rural Development)
  カメルーンのジャ生物圏保護区(Dja Biosphere Reserve)の先住民族コミュニティをエンパワーし、カカオを使ったアグロフォレストリーや林産物の採取を推進し、脆弱な森林を保護しながら地域所得の向上に努めている。

4. コスタリカ -カベカル・カバタ・コナナ地域先住民族協会 (Asociación de Mujeres Indígenas del Territorio Cabécar Kábata Könana)
  伝統的な知識とソーシャルメディアを組み合わせ、パンデミック時の食糧確保を実現。気候変動やその他の外的要因に対するコミュニティの回復力を高めるモデルとなっている。

5. エクアドル – サラヤクの原住民族キチュワ族(Pueblo Originario Kichwa de Sarayaku)
  サラヤクのキチュワ族は、アマゾン熱帯雨林にある13万3千ヘクタールの領土を石油掘削、伐採、道路建設から守るために、法的な闘争に勝利。「Kawsak Sacha(生きている森)宣言」は、先住民の世界観と先祖伝来の慣習を反映した新しいカテゴリーの保護区の承認を求めている。

6. インド – アーディマライ・パザングディナール・プロデューサー・カンパニー・リミテッド(Aadhimalai Pazhangudiyinar Producer Company Limited)
  ニルギリ生物圏保護区(Nilgiri Biosphere Reserve)の先住民族によって管理・運営されている会員数1,700の協同組合で、さまざまな森の産物や作物の持続可能な収集と栽培を支援することにより村人の生計を向上させている。付加価値付によりプレミアムのついた収入を得ている。。

7. インド – スネハクンジャ・トラスト(Snehakunja Trust)
  西ガーツ(Western Ghats)山脈とカルナータカ(Karnataka)州沿岸の淡水湿地、常緑樹林、マングローブ生態系の保護と復元に取り組み、生物多様性の保全、帯水層の維持、炭素吸収源の保護、地域コミュニティの持続可能な生活への支援を実施

8. キルギスタン – BIO-KGオーガニック開発連盟(BIO-KG Federation of Organic Development) 
  BIO-KGは、キルギスの農村や山岳地域の土地の劣化を回復するために、村人が伝統的な知識とアグロバイオディバースのフードシステムに基づいた有機農業のみに取り組むコミュニティ「有機アイマク(Organic Aimaks)」作りを率先して行っている。このモデルは、政府が10年以内に全国的に有機農業に移行すると発表した際に、大きな役割を果たした。

9. メキシコ – グルポ・エコロヒコ・シエラ・ゴルダ(Grupo Ecológico Sierra Gorda IAP)
  コミュニティベースの気候変動緩和とそれを引っ張る同社は、シエラゴルダ生物圏保護区(Sierra Gorda Biosphere Reserve)を総合的に保護し、638のコミュニティの経済・社会発展を促進するため、国家資金によるカーボンフットプリントメカニズム、社会起業、生態系回復活動、民間保護区を推進した。

10. ニジェール – ファルウェルの農民組合マダベン(Farmer Union Maddaben of Falwel )とテラの農民組合ハレイベン(Farmer Union Hareyben of Tera)

  両組合はニジェール農民組合(Féderation des Unions de Groupements Paysans du Niger:FUGPN)のメンバーである2つの農民組合は、参加型研究における農業生物多様性の促進、劣化した土地の修復と再生、有機農業を通じて、食料安全保障、地域の生活、気候変動へのコミュニティの適応の状態を改善している。

 

受賞を受けキチュア青年グループのリーダー ケルリー・サンティ(Kerly Santi)は「生ける森の胎内から、サラヤクの女性たちが人類を祝福する」と述べていた。エクアドルのアマゾン熱帯雨林の奥深く、サラヤクのキチュワ族は、先住民族の権利擁護の先頭に立ち、先祖伝来の領土と森林を保護し、自然を単なる資源としてではなく、先住民族の知恵に沿った持続可能なライフスタイルを追求している。抽出産業やそれゆえの道路建設から生態系を守るための法的闘争なども行なってきた。また、先住民族のリーダーシップのもと、森林に法的権利も付与した新しい保護区「カウサック・サチャ(Kawsak Sacha、生きている森)」のコンセプトを推進している。カウサック・サチャは、持続可能な狩猟や漁業、作物生産、住宅、交通、伝統医療などの森林管理政策の指針となるものだ。

今年はどのような人々が受賞されるのだろうか。

 

参考資料:

1. Iniciativa Ecuatorial
2. Equator Prize 2021 honors trailblazing Indigenous and local solutions for people and planet
3. UNDP主導のパートナーシップ・イニシアティブが 地域主導の持続可能な開発プロジェクトの成功の鍵を明らかに

No Comments

Leave a Comment

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください