ペドロ・カスティージョ(José Pedro Castillo Terrones)が「閣僚の入れ替えを決断した」と述べたのは、昨年7月末に政権が発足して以来行ってきた3回目の内閣改造からわずか3日後のことだった。
Saludo al actual gabinete presidido por @HectorValer_PER. Desde el Gobierno ratificamos el compromiso de trabajar por el Perú, priorizando las necesidades de todos los peruanos y las grandes reformas que consolidarán el bienestar nacional.#SiempreConElPueblo pic.twitter.com/sXCWsvbjd9
— Pedro Castillo Terrones (@PedroCastilloTe) February 2, 2022
これは新しく閣僚評議会(Presidencia del Consejo de Ministros :PCM)議長となったエクトル・バレル(Héctor Valer Pinto)に対する家庭内暴力の疑惑や、他の閣僚もそのポストにふさわしくないという意見が出、大騒ぎになったことによる。女性に対する暴力への対策は、この国の緊急課題の一つであるのに、その政府の中心人物が加害者であると言うのは洒落にならないし、議会もそれを認めなかった。エクトル・バレルが率いる閣僚評議会のメンバー数人に対する一連の質疑を経て、同評議会を再結成するとカスティージョは金曜日に発表した。
「私たちの市民は、これ以上の対立や妨害的で反民主的な行動、欠員の発表、議会の閉鎖や議会や行政の権限を縮小するプロジェクトの発表、不当な間題や問責を見たくない」。このままではいけない、過去から学ぼう」とカステージョは呼びかけた。
エクトル・バレルは何をしたのか
バレルは、亡くなった妻と娘に対するドメスティック・バイオレンス(DV)疑惑など、一連の告発が事実無根であることを主張した。報道によると、バレルは2016年10月、元妻や娘に暴力をふるったとしてリマ警察署に通報されている。警察の発表によると、当時29歳だった娘は、「平手打ち、殴打、顔や体のいろいろなところを蹴る、髪を引っ張る」などされたと語っていた。またバレルの妻も、夫に「顔を殴られ、地面に押し倒された」と訴状に署名している。数ヵ月後、裁判官は妻に有利な「身体的暴力」に対する「保護措置」を出し、バレルに対して「権力への不服従や抵抗という罪で刑事告発される恐れがある」こと、また彼による「暴力および/または嫌がらせになる行為」を禁じた。バレルはこれに対し裁判所による判決は「無効」であり、これは「害を与える意図がある場合のみ有効化されたものだ」と述べた。また彼は心理技術評価中に農業銀行(Agrobanco)の従業員に暴行を加えたとも苦情を受けている。
政治家、労働組合、市民団体、メディア、そして政府を構成する通商観光相のロベルト・サンチェス・パロミノ(Roberto Sanchez Palomino)大臣はバレルの退陣を求めている。政府には彼以外にもバレルの辞職を促すものがいる。それは外務相のセサル・ランダ(César Rodrigo Landa Arroyo)とエルナンド・セバジョス(Hernando Ismael Cevallos Flores)保健相だ。ランダは大臣は女性や家族に対するあらゆる種類の暴力を否定し、現職の閣僚理事会議長に対する告発に関連して、いかなる公務員もこの種の疑惑を持たれてはならないと指摘し、セバジョスも「現政権は、より公平な国への変革を実現するために、何百万人ものペルー人の希望とともに誕生した。閣僚評議会議長の任命は、このコミットメントを反映していない。この経過を是正し、人々の声に耳を傾けなければならない。国を変革する明確な意思決定のない内閣は、汚職攻勢と議会の右派クーデターを助長するだけだ」と指摘た。
El actual Gobierno llegó acompañando la esperanza de millones de peruanos para lograr los cambios hacia un país más justo. La designación de la PCM no refleja este compromiso, debe rectificarse el rumbo y escuchar al Pueblo (1/2)
— Hernando Cevallos (@HCevallosFlores) February 4, 2022
これらの非難に対し内務大臣のアルフォンソ・チャバリ(Alfonso Chávarry)は、「私はまだ入閣したばかりで何も知らないし、背景も新しく入閣した人物も知らない。宣誓した際に見て知っているだけだ」と述べた。一方、ホセ・ルイス・ガビディア(José Luis Gavidia Arrascue)国防大臣は「個人的なことは個人的なことだ」と主張し、バレルへの非難を正当化した。ディナ・ボルアルテ(Dina Ercilia Boluarte Zegarra)共和国副大統領兼開発・社会的包摂担当大臣は、女性に対するあらゆる種類の暴力を「どこから来るのか」と拒否したが、エクトル・バレルの職務継続についてはコメントを避けた。
バレルは辞職に際して「私は自分の敗北を認識しているが、虚偽の事実に基づいて作られた新聞の一面を通しての敗北だ。(選挙に)負けた人たち、今も共和国大統領を共産主義者だと言っている人たちが、同じように自分たちの敗北を認識してくれれば良いと思っている」と述べた。
ケイティ・ウガルテは何をしたのか
バレル以外にも問題視されている人物が採用されていた。それは女性・弱者省(Ministerio de la Mujer y Poblaciones Vulnerables:MIMP)のケイティ・ウガルテ(Katy Ugarte Mamani)だ。 過去にジェンダーを重視した教育に反対する発言をしている。2021年4月、当時当選したばかりの彼女は、RPP Noticiasのインタビューで、ジェンダーに焦点を当てた教育に疑問を呈し、「例えば幼稚園の子どもたちが女性と同じであるとか、男の子が女性と同じ格好をしていいとか、非常に微妙な状況に同意することができない。男の子も女の子もそのように性別があり、我々は男性か女性として生まれてきた。この状況を歪める理由はないと考える。家庭というのは、家族の核がとても大切であり、その価値が失われるような状況に、子どもたちを連れて行く必要はない」と語っていた。つまり彼女の考えではジェンダーに焦点を当てた教育は少年少女の「価値観」に反し、「家族の核」にも反する。
彼女はまた、2018年に勤務していた教育機関(クスコ地方カンチス(Canchis)県の首都シクアニ(Sicuani)地区にあるホセ・カルロス・マリアテギ・デ・パンパ・チカラサヤ(José Carlos Mariátegui de Pampa Ccalasaya)校56012)の校長カルメン・カラスコ・タコ(Carmen Carrasco Taco)から暴力を受けたと訴えられている。ウガルテは小学校4年生の教師として勤めていた時代に職務を繰り返し怠っていた。校長たちによるとウガルテは「職場での嫌がらせ、迷惑行為、生徒、教師に対する差別など、ネガティブな態度をとってき」ており、学校として複数回「注意喚起」をしている。それでも彼女の対応はかわらなかった。むしろ誹謗中傷を含んだ言葉で、「あなたは私の仕事の泥棒であり、教育機関の収入の泥棒だ。このような人間が私を支配する人間であってはならない。サインするつもりはない」と彼女の行動を報告するレポートにサインすることもしなかった。これは記録としても残っている。
彼女に対する疑惑は、これだけではない。クスコの地域教育管理局の決議N°0916-2021においてウガルテに与えた有給休暇、期間 2021年3月1日から7月27日までのことが書いてある。Sute Regional Cuscoの書記長を務めていた彼女は「組合代表のため」の休暇を取った。だがその頃にはすでに政治的なキャンペーンを展開していた。言い換えれば、地域教育管理局が組合活動のために与えた有給休暇を、本来の職務ではなく利用したと言うことだ。キャンペーンに使ったのは少なくとも3月と4月の最初の数日間とされている。女性大臣はバレルによる女性に対する家庭内暴力という深刻な問題に対して何の意志も表明していない。脱線するがバレルもまたジェンダーに配慮した教育に反対をしている。
ウィルベル・スポは何をしたのか
ウィルベル・スポ(Wilber Dux Supo Quisocala)の任命は、エクトル・バレル内閣の中で最も疑問視されている人物の一人である。国立サン・マルコス大学(Universidad Nacional Mayor de San Marcos:UNMSM)で地理学の学位を取得し、2021年の総選挙ではペルー・リブレの議員候補として立候補していた人物はLinkedInによると地図製作のアシスタント(3ヶ月)と地形測量の経験(2ヶ月)があると言う。「Dux」というニックネームで知られている彼は地理学の専門家として、党のさまざまな制度的プログラムに参加している。最近ではデジタル空間への介入について国際メディアに寄稿している。
大臣になってからの彼といえばレプソル社の石油流出事故(詳細はこちら)による生態系災害を改善するために効率的に行動しなければならないのに、環境省が取らねばならないアクションについては語ろうとしない。生態系災害の影響を最も受けた海岸のひとつであるベンタニージャ(Ventanilla)のカヴェロ海岸を訪れた際にも沈黙を守ったまま、ジャーナリストの質問に一切答えることをしなかった。大臣になる前はRTチャンネルに対し、多国籍企業は情報を隠し、環境に対する違反や過ちを報告するなど透明性のない行動をとってきたと指摘、「多国籍企業レプソルは、当初7バレルが誤って(海に)流出したと報告していたが、調査の結果、これは嘘であり、約1,600バレルがペルーの海に流出したことがわかった」と、サン・マルティン広場での多国籍企業に対するデモ行進で述べてはいた。ただし、スモがインタビューで語ったデータは不正確で、レプソルが最初に見積もった海上流出油量は0.16バレル、ペルー当局は当初6,000バレルだった。その後の計算でも11,900バレルが海に流出したことになっている。この人物の採用に当たってはオンブズマン事務局は「共和国大統領が、この職務を適切に遂行するために必要な訓練や経験を持たない人物を環境大臣に任命したことは遺憾であり、大統領に対してその決定を再考するよう求める」と警鐘を鳴らしていた。この国では「気候変動、違法伐採・採掘の進行、埋立地による汚染、環境債務の改善不足などが常に課題として挙げられているが、解決には専門的なリーダーシップが必要だ」からだ。石油流出事故で動植物は多大なる被害を被っている。数日で解決できるものでもない。
https://twitter.com/epicentro_tv/status/1490449639857864704?s=21
組閣の難しさ
コントロール・リスク(Control Risks)のアナリストであるナバス(Navas)は組閣の難しさを次のように分析する。カスティージョは、彼を支持し、彼の政府への参加拡大を望む労働組合や社会組織からの圧力の高まりに直面している。有権者の要望に応えることと、議会との関係を改善することのバランスを模索し、そのプレッシャーを政府人事に反映しなければならない。この流れは特にカスティージョに限ったことではなく、誰が権力を握っているかに関わらず、政治システムの構造的欠陥ゆえのことである。一院制議会を取るペルーでは130議席を10政党が構成している。つまり議題を進めるためのコンセンサスを得るのが難しい。ほとんどないと言っていいほどだ。カステージョの政党は37人の議員を擁するも、野党が主要な委員会を支配するというねじれの状態にある。この分裂はカスティージョが掲げる「豊かな国ペルーから貧しい人をなくす」ためのプロジェクトを実行できる可能性が極めて低いと言うことを意味する。
ペルーの太平洋大学(Universidad del Pacifico)の政治学教授で、ワシントンのウッドロー・ウィルソン・センター(Woodrow Wilson Center)のフェローであるシンシア・サンボーン(Cynthia Sanborn)は、「就任すると、経験不足と悪いアドバイスが効いてくる」と述べた。「カスティージョは国政に出る準備ができていなかっただけでなく、支持基盤となる政治的・社会的基盤を持たず、大統領が統治するのに必要なさまざまな分野の有能なアドバイザーや専門家を連れてくることができなかった」と分析する。その結果、元大統領秘書官のカルロス・ハイコが語っているように、ビベルト・カスティージョ(Biberto Benerando Castillo León)やベデル・カマチョ(Beder Ramon Camacho Gadea)のような人物の話を聞いてしまうと言う。しかし議会におけるねじれ状態についてはカスティージョを政権に留まることを助ける可能性にもなるとした。なぜなら今年後半には地方選挙もあり、政党はその準備のために力をそちらに向けるだろうし、今の時点で大統領選に挑戦することも望んでいないかもしれないからだ。
カスティージョにアドバイスをしているとされる両2名について見てみよう。ビベルト・カスティージョは大統領とは血縁等ではない。ペトロ・ペルー(PetroPeru)に取締役会長として就任したダニエル・サラベリー(Daniel Enrique Salaverry Villa)を執拗に「管理」した人物だが、当時のエドゥアルド・ゴンサレス(Eduardo Martín González Chávez)エネルギー鉱業大臣に指摘されている。もう一人のベデル・カマチョは政府宮殿での手続き責任者から大統領府次官まで上り詰めた人物だ。ハリコは警察署長ガジャルド(Javier Santos Gallardo Mendoza)とカマチョが抜き打ちで会っていることについて調査を命じていた。ハリコはラジオExitosaに、国家安全保障の問題が議論される会議にはビベルト・カスティージョさえも同席していたと語り、「このような不始末があるから、無責任な人間が大きな責任を負うことになる」と指摘した。
マルティン・ビスカラ入閣の可能性
マルティン・ビスカラ(Martín Alberto Vizcarra Cornejo)前大統領は新閣僚評議会議長、更に閣僚になることを否定している。これは一部メディアやインターネットで報じられた内容を否定するものである。元運輸通信大臣でもあるビスカラは、Twitterを通じても「私は政府とは何のつながりもなく、私の立場は固く、常にペルーを第一に考えている」と発信している。 また、「この政府は能力がないだけでなく、優れた経歴を持つ幹部を撤退させ、国家に損害を与えている」と発言した。背景にアベリノ・ギジェン(Avelino Trifón Guillén Jáuregui)内相、ミルタ・ バスケス(Mirtha Esther Vásquez Chuquilín)首相の先週の辞職があると考えられる。ギジェンは汚職や組織犯罪との戦いで当局がより効率的に活動できるよう警察を改革するよう提案したが大統領が支持しなかったとして辞任しており、月曜日にもミルタ・ バスケス首相が、カスティージョが汚職に取り組んでいないとして辞職していることがある(詳細はこちら)。ちなみに大統領秘書官のカルロス・ハイコ(Carlos Jaico Carranza)も同週で辞任している。
Vienen circulando por redes publicaciones falsas que desmiento. No tengo ningún vínculo con el gobierno, mi posición es férrea y siempre pensando en el Perú primero. pic.twitter.com/z5RDKV8nvB
— Martín Vizcarra (@MartinVizcarraC) February 6, 2022
CNNはカスティージョの告白「私は政治家になるための訓練を受けたことはない、大統領としての訓練を受けたことはない」を取り上げ、彼が国に語った数少ない完全な真実のひとつだと痛烈に批判している。
参考資料:
1. Pedro Castillo: “He tomado la decisión de recomponer el Gabinete Ministerial”
2. Ciudadanos realizan plantón frente al Ministerio de la Mujer y exigen cambio del Gabinete
3. Ministro Hernando Cevallos y canciller César Landa también piden que Héctor Valer deje el cargo de premier
4. Martín Vizcarra niega que vaya a ser jefe del Gabinete Ministerial: “No tengo ningún vínculo con el Gobierno”
5. Katy Ugarte: La mala educación e indisciplina de la aún ministra de la Mujer
6. Defensoría pidió al presidente reconsiderar nombramiento de nuevo ministro del Ambiente
7. Así opinaba Wilber Supo sobre Repsol antes de ser ministro del Ambiente: “Es posible exigir su salida del Perú”
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