コスタリカ:大統領の決定は4月3日の決選投票で

2月6日にコスタリカで行われた総選挙は与党にとって辛い戦いとなった。中道左派の市民行動党(Partido Acción Ciudadana:PAC)は議会の席を全て失った。これまでの議会では9議席を有していた。

結果は以下の通りだ。
国民解放党(Partido Liberación Nacional:PLN):       18名
キリスト教社会統一党(Partido Unidad Social Cristiana:PUSC):11名
社会民主進歩党(Partido Progreso Social Democrático:PSD):   9名
ニューリパブリック(Nueva República:NR):           7名
進歩的自由党(Partido Liberal Progresista:LP):         6名
拡大戦線(Frente Amplio:FA):               6名
 ※前回の2018年の選挙ではPSD、NR、LPは議席を取れなかった。立法委員選挙に36政党が参加した。

 

午後6時、全国2,100カ所の投票所が閉まっコスタリカ選挙は、有権者350万人に対し25人もの大統領候補者が出るという異常な状態だった。パンデミックの影響もあろうが過去60年間で最も高い棄権率40%以上を記録した。それでも各地の都市部では、終日、お祭り気分で騒ぎ立てていたという報道もあった。

大統領は当初の予定通り1回で決まることはなく、4月3日の決選投票に進むこととなった。次回選挙は元大統領(1994~1998年)で伝統的政党国民解放党(PLN)から出馬しているホセ・マリア・フィゲレス(José María Figueres Olsen)と、2018年に誕生した社会民主進歩党から出馬している経済学者ロドリゴ・チャベス(Rodrigo Alberto de Jesús Chaves Robles)の戦いとなる。

フィゲレスが「この第1戦は、圧倒的な差で勝利し、大きな責任を負うことになりました。だからこそ、4月3日の最終的な勝利のために、明日もこれまでの作業を継続する」と述べているように、第一回目投票では2位と大きな差を開けていた。第1回投票のみで大統領が確定するまでの票40%の獲得にはいかなかったが79%の開票時点で、フィゲレスが27.4%、チャベスが16.7%と、10ポイント以上の開きがあった。得票率3位のファブリシオ・アルバラド(Gerardo Fabricio Alvarado Muñoz)は14.9%だった。上述の通り立法委員選挙で大敗した与党のPACは大統領選挙でも得票率は1%未満、順位は10位だった。

 

ホセ・マリア・フィゲレスの人物像

「コスタリカの救出と変革が始まるまで、あと一歩のところまで来ている。第1回投票では大差で勝ったが、その分責任も重大だ。4月3日の最終勝利に向けて、たゆまぬ努力を続ける」と、フィゲレスは結果を受けて党員に語った。

フィゲレスは政治家の家系に生まれた。1954年生まれの67歳の父親は1948年の内戦で武装して勝利し、第二次共和国を樹立、コスタリカの軍隊を廃止したとして歴史に名を残す「ドン・ペペ」ことホセ・マリア・ヒポリト・フィゲレス・フェレール(José María Hipólito Figueres Ferrer)だ。PLNの創設者もまた父である。

フィゲレス自身、公務員として豊富なキャリアを持つとともに、米陸軍士官学校ウェストポイント校で経営工学を学び、1986年に政界入りした。1991年、ハーバード大学大学院に留学し、行政学の修士号を取得した。ノーベル平和賞受賞者であるオスカル・アリアス(Óscar Rafael de Jesús Arias Sánchez)の第一次政権(1986-1990年)では外国貿易大臣、農畜産大臣を歴任している。父の死後、大統領になることを表明し、1994年、当時39歳だったフィゲレスはコスタリカの第42代大統領に就任、当時大陸で最年少の大統領となった。

当時は銀行の自由化や、いくつかのコスタリカ政府機関の閉鎖を通じ国家機構の縮小化を行っている。汚職事件もあった同国最古の国営金融機関であるバンコ・アングロ(Banco Anglo Costarricense)の閉鎖は銀行員の失業を招き、問題となった。また、技術やエコツーリズムへの投資を促進し、環境サービスに対する支払いシステムを構築、1996年にはインテル社をコスタリカに誘致したことでも知られている。政権末期には支持率が急落するが、これは年金法改正や新たな構造調整計画の実施を推し進めたためとされている。

大統領職を終えた後、世界経済フォーラムに参加したが、2000年から2003年にかけてICE-アルカテル事件と呼ばれる汚職事件への関与が指摘され、辞任した。報道によると複数のコスタリカの政治家や政府役人に賄賂を贈ったとされているフランスの企業Alcatelから90万米ドルを受け取ったとされている。本人はこの疑惑を否定し、同社への協力は「コンサルタント業務」に限定されると主張している。約8年間はスイスに住み、2011年にコスタリカに戻った。事件は2007年に解決しており、彼が罪に問われることはなかった。ただし、2017年にも、建設会社への疑わしい銀行融資に関わる「セメンタソ」と呼ばれる汚職スキャンダルへの間接的な関与でも告発されている。

「すべての人にすべての権利を、それがコスタリカ社会に対する我々の揺るぎないコミットメントだ」と述べている通り、大統領のなった暁には、女性や少数派の権利を尊重し、環境を擁護する包容力のある政府を推進すると断言している。もう1人の候補への対策としては「女性に対するあらゆる侵略行為と闘い、女性の品位に対する軽蔑を言葉遊びで隠さない政府を実現する」と言う言葉を用いて敬遠した。チャベスは世界銀行に赴任していた2008年から2013年にセクハラで訴えられている。

公約には失業率(2021年14.4%)と貧困(23%)の削減、炭化水素開発の廃止による環境保全の推進を中心に掲げている。官民パートナーシップのもと、年金資金を公共事業に投資し、持続可能なインフラを構築することも掲げている。

「私たちは、わが国を世界のエネルギー転換のリーダーとし、すべての人々に機会を提供する、つながりとバイリンガルの国とする。そして、私たちが夢見る偉大な国を作ろう」と1次開票結果を受け言葉を結んだ。

 

ロドリゴ・チャベスの人物像

「私たちは第2ラウンドに進む。今回の選挙戦における最も若い党がだ。私たちは銃撃戦や紛争、不毛な対立を捨て去ろうとしている。対話と意見交換を通じて、国の軌道を修正し、国民の繁栄を再スタートさせ、若者により良い生活環境を与え、この国を受け継いだ私たちが持っていたように、より良い未来を約束するために必要な合意を作り出すために、皆で力を合わせよう。それが私の呼びかけだ」と祝辞とともに決意を党員に向かって述べた。

ロドリゴ・チャベスは当初決選投票に進むとは予想されていなかった人物だ。選挙1週間前に行われたコスタリカ大学(Universidad de Costa Rica:UCR)の調査・政治研究センター(Centro de Investigación y Estudios Políticos:CIEP)による最新の世論調査でも彼は投票率4位だった。その時の支持率も5%にとどまっていた。それが蓋を開けたら結局17%の有権者から支持を得ており、決選投票に進むこととなった。

1961年生まれのチャベスは米国に留学し、経済学の博士号を取得、ハーバード大学から奨学金を受け、アジアの貧困問題を研究していた。世界銀行に30年近く勤務し、中南米やカリブ海、東欧、アジアなどさまざまな地域での調査を行った。世界銀行のインドネシア事務所の所長に就任するまでに至った実力者だ。ただ同社でも問題がなかったわけではない。2008年から2013年にかけて「性的誘惑」や「望まない不適切な行動のパターン」について2人の女性スタッフから申し立てられていて、時に影が薄くなっていた。経済学者はこの疑惑を「ゴシップと嘘」と表現し、選挙期間中はそれが世銀を辞任した理由ではないと断言した。世界銀行を去った彼はコスタリカに戻り、2019年10月からの半年間、カルロス・アルバラド・ケサダ(Carlos Alvarado Quesada)政権の元で財務省を担当した。彼の任務はパンデミックの中で経済復興に加え、財政安定、貧困削減、予算を効率化することにあった。大臣だった期間も幹部の許可を得ずに報道機関にさまざまな発言を行ったり、彼の公的な立場が書かれた文書が流出するなどし、2020年5月に突然、政府での地位を終えることになっている。彼は何より公的機関の経常支出の伸びの上限を定めた財政強化法の条文の改革を「容認できない」と述べていた。

彼は選挙戦において公共予算の再編成、グリーンエネルギーへの投資の増加、国の自動車保有台数の変更、支出の抑制、国民皆年金などを提案している。「コスタリカは現在悪い状況にあるが、悪い国ではない(…)。一人当たりの所得では中米のシンガポール、国家の効率性ではエストニア、そして一人当たりの所得では世界一の国になることができるのだ。」と語っている。また、「自由なジャーナリズム」へのコミットメントも誓っている。

 

コスタリカの選挙制度

コスタリカは小選挙区制を取っている。1949年の政治憲法第10条に規定されているように、4年ごとの2月の第1日曜日に国民選挙が行われる。立法議会の代表は、国内の7つの州それぞれで比例代表で選出される。議席は各州の人口に比例して配分されている。

大統領と2人の副大統領選挙については次のとおりだ。第1回投票で40%を超える有効票を得られれば候補人がその役職を獲得することとなるが、いずれの方式もこの過半数に達しない場合は、同年4月の第1日曜日に第2ラウンドが、上位2人の間で行われる。同選挙で最多得票を得たものが当選となる。

大統領になるためには、コスタリカ人として生まれ国籍を持ち、30歳以上でなければならない。同国のいずれかの政党の推薦を通じて大統領選に参加することができる。なお現職大統領の連続再選は禁止されている。また、政府の閣僚や自治機関の理事・管理職が共和国の大統領や副大統領に立候補する場合は、選挙実施の12ヶ月前に辞任しなければならない。

 

この国では伝統的に中道~中道左翼主義色が強かった。次回決選投票は4月3日だ。
第一回投票に関する記事はこちらも参照のこと。

 

参考資料:

1. Elecciones en Costa Rica | José María Figueres vs. Rodrigo Chaves: quiénes son y qué proponen los candidatos que se disputarán la presidencia en segunda vuelta
2. El expresidente Figueres gana la primera vuelta de las elecciones en Costa Rica
3. Rodrigo Chaves llama al consenso y se compromete con el “periodismo libre” en la segunda ronda

 

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