エクアドル:降り続く大雨が国土の90%に新たな災害をもたらす

エクアドルで続く大雨は高地(Sierra)や沿岸(Costa)部の住民に深刻な被害をもたらしている。先週末から発生した洪水は道路の分断、建物被害のみならず、人命さえも奪っている。

豪雨は今世紀最大級と言われておりエクアドルの首都であるキト(Quito)も大きな被害を受けている。国家危機・緊急事態管理庁(Servicio Nacional de Gestión de Riesgos y Emergencia)は、31日現地時間18時の発表で死者数24人、42人の負傷、3棟の家屋が倒壊を報告した。当局によると、最も被害が大きかったのは、市の北西部に位置するラ・コムナ(La Comuna)地区から水が流れ込んだラ・ガスカ(La Gasca)地区、アルメロ(Armero)地区、テレフェリコス(Teleféricos)地区だ。数週間前に始まったこの雨は、国土の92%に影響を及ぼしている。

キト市のサンティアゴ・グアルデラス(Santiago Guarderas)市長は集中豪雨と長雨がピチンチャ火山(volcán Pichincha)で発生した地滑りは、丘の中腹にある集水構造の能力を超えたことによるもので、森林伐採との関係も言われている。濁流が地区の車や家を飲み込んだ。救助隊員のクリスティアン・リベラ(Cristian Rivera)によると、犠牲者の何人かは低体温症で「膝まで泥まみれ」だったという。ファサードの一部には、高さ3メートルにも及ぶ泥の痕跡が残っていると言う。市長によると、先週土曜日の降雨量は1平方メートルあたり2リットルの降雨予想に対し75リットルもの雨が降ったという。

国家危機・緊急事態管理庁によると、保健省は25台の救急車で負傷者を搬送し、キト市は他の機関の支援を受けて、崩壊した道路や集水システムの清掃に重機を導入している。火曜日の午前2時まで、当局は雨の量と瓦礫のために被災地に立ち入ることができなかったとを報告するとともに消防隊や警察による捜索・救助活動は続いており、彼らを支援するためにも約60名の兵士も動員したと述べている。

 

本災害は国内24県のうち22県に被害を与えており死傷者の他に約2,800人が被災、200人ほどが影響を受けたと報告されている。

アンデスのコトパクシ(Cotopaxi)県と沿岸部のグアヤス(Guayas)県が最も被害が大きく、標高2,900メートルに位置する都市ラタクンガと、コトパクシ州第2の都市で最も人口の多いラ・マナ(La Maná)を結ぶアスファルト道路もピラロ(Pilaló)川の氾濫により崩壊した。ラ・マナの教区であるプカヤク(Pucayacu)でも、キンディグア(Quindigua)川の氾濫による洪水で少なくとも100世帯が被害を受けた。Pucayacu Educational Unit、Junta de Agua Potable、Centro de Atención de Niños del Patronato Municipalの施設が避難場所となっており衛生用品や食料キットが配給される予定になっている。同じくラ・マナの一部であるエル・パルマール(El Palmar)でも、川の氾濫により、この地域にある教会の構造物の半分が崩壊した。これらの地域では、ラフティングやカヤックなど、過激なアクティビティが観光の中心となっているが、雨が降り続いていることもあり、いくつかのアクティビティは中止されている。

グアヤス州でも週末にバラオ(Balao)川とテンゲル(Tenguel)川が氾濫し、両支流沿いの町が水浸しになった。当局によると、バラオ川の氾濫による今回の洪水は、過去10年間で最も深刻な記録となった。グアヤス川の東岸に位置する都市ドゥラン(Durán)では、洪水によって少なくとも60世帯が脆弱な状態に陥り、48時間降り続いた雨で、街は完全に水に覆われた。国立気象水文研究所はこの雨を「異常気象」と表現しており、ドゥラン市のダルトン・ナルバエス市長によると「1カ月分の雨が1日で降った」。

 

国家危機管理庁は、自然災害に対するプロトコルを発動するとともに、洪水の起こりやすい地域に住む人々に対して、雨の時は木や川、小川に近づかないこと、子供には常に付き添うこと、橋を渡ったり浸水地域を歩いたり運転したりしないこと、電線に近づかないこと、川や川、下水道にごみを捨てないことなどを勧告している。

ギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)大統領は、大雨で被災した人々に「ラ・ガスカの悲劇で亡くなられた方々のご家族、ご友人、愛する方々に、心から哀悼の意を表する。このような困難な時こそ、私を、そして政府を信頼してほしい。私たちは地域社会と連帯し、彼らを全面的に支援する」と哀悼の意を表すとともに、地域社会との連帯を呼びかけている。

 

 

なお雨の影響はアマゾン地域でも大きな被害をもたらした。大雨による土砂崩れと落石が、重油パイプラインを直撃し石油が漏れ出している。復旧作業が続くも石油は生活水となるナポ川にも流出し水源を汚染しだている。パイプライン運営会社OCPエクアドル(OCP Ecuador S.A.)は当初事故をマネジできていると発表してはいたものの誰の目にもそうではないと写っている。(詳細はこちら

森林伐採は森林の水源かん養機能である水資源の貯留、洪水の緩和、水質の浄化といった機能を弱める。許容量を超えれば雨水の川への流出量を平準化を阻害するのみならず、このように大きな災害をもたらす。このような災害はそれをもたらした自然が悪いわけではなく、そこまでに至らしめた人類の問題である。もちろんエクアドルだけの問題ではない。地球上にいるすべての人間の行動が本件に関与している。

 

[UPDATE]

政府はキトで起きた洪水はウルクパンバのアッシュヒープ・プロジェクト(Cenizario Ecológico Urkupamba)とは無関係であると政府は断言している。教区長とともに共和国副大統領の行った航空調査分析結果による。あくまで山腹の防潮堤の容量を4倍も超える雨が降り、それを吸収できなかったという説明だ。また、キトの洪水はグアンガ・ウアイク(Guanga Huaycu)によるもので、ウルクパンバ貯水池はルミパンバ(Rumipamba)川の水源地域に位置している。

ベリサリオ・ケベド(Belisario Quevedo)教区に住む住人は洪水の前日にも、ピチンチャの斜面の保護林で森林破壊が起きていたこと糾弾している。2月1日、洪水の影響を受けたセ地区の住民は、ピチンチャの斜面の木の伐採と貯水池建設に反対し団結を示した。彼らは抗議のための行進を通じ、当局にこのプロジェクトの建設中止と自然破壊をしないよう要求している。

エル・テハド渓谷は標高4,000mのクルス・ローマ(Cruz Loma)山頂から始まり、約1,700mを下り、平均勾配は63%になる。47年前の1975年にも、同じような現象が起きて、水が谷を下ってラ・ガスカに流れていったという。その後、1990年代に自治体が建設した「ラデラス・デル・ピチンチャ(Laderas del Pichincha)」プロジェクトは、ダムや貯水池、集水塔など約30の構造物で構成され、地下集水槽に水を運んでいる。

森林伐採などを伴うこの種のプロジェクトを見直すのか、渓谷付近の住民を移住させるのか、という質問に対して、キト市長は、環境省の報告書によると、この現象はウルクパンバから遠く離れた場所で発生したものだと繰り返し答えた。

 

ラ・マナ教区の住人に対しては政府は生活を支えるべく、このセクターの320家族に対しグアヤキルの会社インテレグア(Interagua C. Ltda)の協力のもと9台の給水車を派遣したと語っている。

 

[UPDATE]

「グラウンドゼロ」地区には400人以上の警察官が配備され警備にあたるとともに、軍隊、消防隊、自治体の職員、地域社会は連携し地滑りによる救助活動、残った瓦礫の撤去を48時間以上行っている。そんな中、22日(水)夜、キト首都圏地区作戦本部長のフェルナンド・バカ・モンカヨ(Fernando Vaca Moncayo)大佐は、これまでに26人が死亡、5人が行方不明、53人が負傷したことを明らかにした。

 

[UPDATE]

洪水が与えた影響範囲について心配している人が多いようにも見向けられることから特に被害があった場所を示しておくこととする。洪水はキトの西側にあるピチンチャ火山の斜面にある集水域、エル・テハド川の氾濫によるものだ。洪水は溢れた出た地点からキトの大通りの一つであるアメリカ大通り(Avenida América)付近まで、最大で下流2kmにわたる。水路は、大きく分けて2つのルートを通って行った。一つが「ベルティエタ通り(calle Berrutieta)、ラ・ガスカ大通り(avenida La Gasca)」と「ヌニェス・デ・ボニーリャ(Nuñez de Bonilla)を含むリザラズ通り(calle Lizarazu)」だ。この2つの水路を通じて、水は泥や棒、家屋や瓦礫を巻き込み破壊力を増していった。

ラ・ガスカは、キトの北西に位置する住宅街で、グアグア・ピチンチャ(Guagua Pichincha)火山の斜面に面している。人口密度の高い地域で、商業活動も盛んだすぐ近くにはエクアドル中央大学(Universidad Central del Ecuador)がある。マリスカル・スクレ大通り(avenida Mariscal Sucre)から、キトの目抜き通りである12月6日大通り(avenida 6 de Diciembre)まで続くラ・ガスカ通りは、瓦礫が落ちてきた場所である。ベルティエタ通りからラ・グラサ通りにかけては、エル・テハド渓谷の斜面や西大通り(avenida Occidental)の家屋に浸水し、ラ・グラサ通りに至っては、車や店、家屋が水浸しになった。

リサラスとヌニェス・デ・ボニージャ通り(calles Lizarazu y Nuñez de Bonilla)では、家屋やラ・グラサ地区警察、運動場が浸水し、木や電柱が倒された。運動場ではバレーボールをしたり友人たちと会話したりと、人々は午後のひとときを過ごしていた。家に避難する暇もなく、泥がすべてを押し流していくのを呆然と見るしかできなかった人たちがほとんどで、亡くなったのはそのような人々だと推定されている。

 

[UPDATE]

ラ・ガスカ地区とラ・コムナ地区では、1000人以上もの人々が参加しメガミンガ(Mega-Minga)が行われた。ミンガとは共同作業を言うが洪水や土砂によって流され、汚された街の清掃・回復作業に取り組んだ。2月5日(土)、キト緊急対策委員会(Comité de Operaciones de Emergencia:COE)は、いわゆるグラウンドゼロで行われた作業や現在の状況について詳細を発表している。まず、緊急事態が発生した2022年1月31日以降、遺体収容は28名分、52名が負傷でこのうち41人が退院し、10名が入院中、1名が危篤状態となっている。その一方で1名が行方不明の状態だ。また160世帯(555人)が被災している(2月5日午前11時時点)。

 

発表によると緊急事態対処に向け2,218人の労働者と447人の後方支援者が配置されている。また、家屋倒壊7棟、車両被害37台、バイク被害22台、電柱被害20本、変電所被害1箇所、ゴミ箱被害40台が報告されている。

グアルデラス市長によると、2月8日には被災地の復興計画が発表され、復興に向けた行動や経済的損失額、復興に着手するために必要な金額などが決定される。計画を通じて被災した人々や家屋、企業に対して、悲劇に対応するためのメカニズムが提案される。

なお洪水被害を大きくした要因だと疑われているウルクパンバの灰地プロジェクトに関する都市開発許可(Licencia Metropolitana Urbanística:LMU)を失効させるとの発表がなされている。ホルヘ・ユンダ(Jorge Homero Yunda Machado)前市長時代の2020年6月に付与されたものだ。

 

[UPDATE]

2月12日、アルフレド・ボレロ(Alfredo Borrero)副大統領がキト北西部の被災地を訪問。家財を失った20世帯の被災者に洗濯機、ミキサー、調理器、冷蔵庫など家庭用電化製品を届けた。ボレロは、ホセ・ベルティエタ通りとフルジェンシオ・アラウージョ通りを視察、住民と対話するとともに政府各部局や警察、軍隊などの治安部隊が行っている清掃・復興作業を視察した。また、中国政府から寄贈された物資もラッソ大統領自らが届けている。政府は負傷した人々や自宅での治療を希望する人々に対する医療団の派遣も述べている。

 

参考資料:

1. Familias evacuadas y poblaciones inundadas por las intensas lluvias en Ecuador
2. Catástrofe en Ecuador: al menos 14 muertos por la lluvia más fuerte en décadas
3. Aluvión en Ecuador: mueren al menos 24 personas en Quito tras intensas lluvias
4. Guarderas aclara que aluvión de La Gasca no tuvo que ver con cenizario Urkupamba
5. Las víctimas mortales por el aluvión subieron a 26
6. Este mapa interactivo muestra el recorrido del aluvión en La Gasca
7. COE de Quito eleva a 28 la cifra de víctimas del aluvión
8. Suben a 28 las personas fallecidas por el aluvión en La Gasca. Municipio de Quito anunciará el martes el plan de recuperación
9. Vicepresidente Borrero entrega ayuda a damnificados en la Comuna y La Gasca

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