エクアドル:2021年カカオの出荷量は過去最高、2月14日を前にして考える

エクアドル国立カカオ・工業化カカオ輸出業者協会(Asociación Nacional de Exportadores de Cacao e Industrializados del ECUADOR:ANECACAO)によると、2021年のカカオとその半製品の輸出は前年比でプラス1,500万米ドルとなり、輸出額は9億5000万米ドルを超えた。その販売量も5万トン以上増え360,714トンに達した。 2019年は301,337トンを出荷しています。

ANECACAO会長のフランシスコ・ミランダ(Francisco Miranda)によると同国のカカオ生産量も375,000トンを超えている。残念ながらそのうちの約15,000トンは世界的なコンテナ不足で輸出はかなわなかった。カカオ自体は数ヶ月から数年間保存ができることもあり、失われることはない。2022年は38万トン超の生産と輸出、2025年には輸出量が50万トンに達するを予測している。

2021年、輸出額が増えたのは年初における製品価格の高騰によるものだ。一方、最後の四半期は、その市場価格は下落している。それでも輸出されたカカオとカカオ製品の売上高は最高記録を更新した。カカオの市場価格は2021年の初め1トンあたり2,700米ドルを超え、年末には2,100米ドルに近づいた。2022年初頭はカカオの価格は高値で推移している。生産者にはカカオ豆の値段を決める力がない。だから豆を保存できた生産者に今すぐ売ることを勧めている。

カカオはニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)とロンドンのインターコンチネンタル取引所(ICE)で取引されている。相場は天候や、将来の収穫高と商品需要、それに市場での売り買いの需給など、多くの要素によって左右される。カカオは値動きも激しく、投機家にとっては、うまく波を掴めば大儲け、外せば大損失の相場ともなる。

ニューヨークの価格は南アジア市場、ロンドンの価格はアフリカ産のカカオを基準としている。NYMEXでのココアの契約量は10トンで、最大の生産国はコートジボワールとガーナで、合わせて世界の生産量の60%以上を占めている。カカオは世界で最も小さなソフトコモディティの一つだが、価格の変動は加工品メーカーやリテーラー、もちろんその生産者など大きな影響を及ぼす。ANECACAOは2021年後半に豆が安くなったことで生産者が最も打撃を受けたとし、2022年にこのようなことが二度と起こらないように取り組むと確約した。

TRADING ECONOMICS

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カカオ豆の価格コントロールを生産者がすることができないのは上述の通りだ。2020年前半には2,900米ドル台にまで急騰したものの、肥料や農機具など生産に必要な道具の高騰がこの豆栽培に従事する人々を裕福な状態にしてくれることには至らなかった。結局当時もインフレを鑑みれば90年代のピーク水準からそれほど変わっていない状態だ。この状態を打開すべくカカオの最大の生産国であるコートジボワールとガーナは2019年、生産量の調整に伴う価格交渉力をつけようとカルテルを結成した。カルテルは同年6月、1トンあたり2,600ドルの最低買取価格を世界のチョコレート企業に要求した。希望は残念ながら大手バイヤーたちによって阻まられるも、副産物として2020年〜2021年における農家への支払価格を1トンあたり400ドル上乗せすると言う権利を勝ち取った。コモディティー市場から価格決定権を生産国に戻そうとする取り組みは珍しく画期的だ。この連携はOPEC(国際石油輸出機構)ならぬコペック(COPEC)、あるいはチョコペック(CHOCOPEC)と呼ばれている。 

カカオ豆は「赤道ベルト」と呼ばれる赤道から上下20度以内の地域、そして高温多湿な条件のもと栽培される。生産国、さらにはカカオ生産を行なっているものたちの多くは自らが育てたカカオ豆からできるチョコレートの味を知らない。 なぜならその製品が自らの収入に対し高価であることによる。生産しても貧困状態から抜けられないことも多い。また、生産量を増やすことを目的とした土地の開墾は違法な森林伐採と隣り合わせで生態系破壊といった問題も抱える。児童労働の問題も未だ残っている。これはエクアドルがそうだと言うことではなく、カカオ産業のみならず多くの農業産品を輸出している国が抱える問題だ。

 

引き続きその多くが先物市場で取引をされているカカオは、直近で言うと主要生産国であるコートジボワールの乾燥状態を背景とした供給量減少から、2月第2週目には4カ月ぶりの高値となっている。コートジボワールの主要産地では3週連続で雨不足となっており、豆の品質低下も予想される。また、4月から9月の中間生産物も規模が縮小する可能性がある。そのため買い手が少しでも良い豆を早めに買おうと急いでいる。

少しでも生産者が豊かな暮らしができるよう、環境破壊や非正規労働とならぬよう国も購入側企業も検討はしている。その一つがESGとの結びつけだ。世界最大のチョコレートメーカーであるバリー・カレボーグループも持続可能性戦略「Forever Chocolate」を通じ、原料の半分以上を持続可能な方法で調達することや児童労働の根絶を目標に掲げている。その投資は結果として企業価値の向上にもつながった。フェアトレードを実践している人々もいる。

エクアドルのサモラ・チンチペ(Zamora Chinchipe)県ヤクアンビ川(Rio Yakuambi)流域にあるAPEOSAE(Asociación de Pequeños Exportadores Agropecuarios Orgánicos del Sur de la Amazonía Ecuatoriana)社はファインアロマ・オーガニック・カカオを作っている。このカカオは環境・水・生態系移行省(Ministerio del Ambiente, Agua y Transición Ecológica)によると、森林破壊を伴わない持続可能な方法で栽培されている。国連開発計画(Naciones Unidas para el Desarrollo:PNUD、いわゆるUNDP)が支援しているがここで、REDD+エクアドル行動計画(森林減少と森林劣化による排出の削減)の一環である「森林保全と持続可能な生産のためのアマゾン統合プログラム(PROAmazonía)」を実行しているというわけだ。このパイロットプロジェクトにはサモラ・チンチペの38の農場が参加している。この活動により80世帯のカカオ生産者が恩恵を受けている。

カカオの輸出業者や生産者にとって、現在エクアドル政府が中国に対して求めている貿易自由協定締結(ラッソの中国訪問についてはこちら)はポジティブに映っている。中国におけるカカオの消費量は極めて少ない。だからこそそことの取引は非常に重要である。調査によると日本人が1人当たり2.15キロ、ドイツ人は11.32キロ、消費しているのに対し、中国人は約200グラムのチョコレートしか食べていない。メキシコは、米国市場向けのココア生産者でありメーカーでもある。一方米国での製品加工の原料としてエクアドル産ココアを買い取ってくれる。「関税がゼロになれば、メキシコの工場を通じて、よりダイナミックに米国市場に参入できるようになる」とミランダは語る。エクアドル産カカオ豆と半製品の主な輸出先は米国で、エクアドルの非石油輸出品の中で、エビ、バナナ、魚の缶詰、花に次いで5位にランクされています。米国に続いてインドネシア、マレーシア、オランダ、メキシコなどと取引をしている。カカオの半製品としてはリカーやペースト、バター、パウダーなどを輸出している。

日本が輸入しているカカオ豆生産国は1位ガーナ、2位がエクアドルだ。エクアドルは5000年以上も前にカカオが栽培された痕跡が見つかっておりカカオ発祥の地とも考えられている。現在は上述のようなオーガニック栽培に加え、高級チョコレートの原料となる香り高く希少な固有種アリバ種の一大産地ともなっている。ちなみにその名の由来は西洋人が「エクアドルにこれはどこのカカオか」と問うた際に「アリバ(Arriba=上)」と答えたことによる。つまり川の上流にカカオがあったのだ。アリバ種はジャスミンの様な香りとナッツの様な苦みもその特徴だ。不思議なことに他の土地では同じアリバ種を育ててもエクアドルで作ったもののような香りを持たないと言われている。アリバ種は世界でも5%くらいしか栽培されていない。エクアドル政府は「プレミアム&サステイナブル」をスローガンに、持続可能なサプライチェーンの構築にも力を注いでいる。

生産者たちが自然とともにその生活に持続性を持たせ、幸せに暮らしていくために我々は彼らに対して何ができるのか。2月14日のバレンタインデーを前にしてそんなことを思いながら、本記事を締め括ることとする。

 

エクアドルのチョコレートを試してみたい人のために下記を紹介しておく(画像をクリックするばAmazon.co.jpで参照可)。

 

 

 

また、2021年4月14日(水)エクアドル政府と独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency:JICA)が行った「エクアドル・サステイナブル・カカオ国際フォーラム」で使用された資料が、エクアドルにおけるカカオの歴史や、この産業を通じて抱える課題などを知る上で極めて有用であることから、資料を添付しておくこととする。

 

 

 

 

なお同会議の場でANECACAO会長は、エクアドルではカカオ生産者は安定した収益を得ており農家の貧困や児童労働の問題がないことを語り、農業畜産省農業生産次官のアンドレス・ルケ(Andrés Luque Nuques)は、エクアドルにおけるカカオ生産過程に携わる労働者や農園、企業の繋がりや競争力の強化を促進するために、政府がトレーニングの機会を提供したり、小規模農家が金融機関から融資を受ける支援を行ったりしていることを報告している。この会議は持続可能なカカオ生産を推進するエクアドルの取組を紹介することを目的に開催された。

 

参考資料:

1. El cacao rompió un récord en el 2021
2. 3,8 toneladas de cacao orgánico fueron exportados a Bélgica
3. ご存じですか?「チョコレート」を取り巻くおカネの“苦い現実”
4. エクアドル政府とサステイナブル・カカオ国際フォーラムを開催しました!
5. 神様の食べ物「チョコレート」エクアドルでしか育てられない地域限定カカオを求めて
6. エクアドル産チョコに復活の兆し その影の立役者

 

 

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