エクアドル:シナンゴエ・コミュニティでの判例が未来を作る

(Photo by David C. S.

コロンビアとの北部国境沿いシナゴエ(Sinangoe)コミュニティに住むアイ・コファン(A’I Cofán)の闘いは、2022年2月4日、歴史的な勝利を遂げた。シナンゴエ事件裁判として知られるこの戦いにおける勝利と判例化は、他の土地で同様の事案を訴える先住民、住民たちにとって有利な未来への道標となるからだ。

憲法裁判所は「当裁判所は、スクンビオス(Sucumbíos)県ゴンサロ・ピサロ(Gonzalo Pizarro)郡にある多能性司法ユニットの判事とスクンビオス県司法裁判所(Tribunal de la Corte Provincial de Justicia de Sucumbíos)が下した判決を承認する」と先住民族たちからの判例化要求を承認した。また、憲法裁判所はタガエリ・タロメナネ(Tagaeri Taromenane)無形文化財地帯の緩衝地帯内でのいかなる種類の採掘活動も禁止するとの判決を下した。

この判決は先住民が自らの領土の将来を決定する権利を有することを保証し、地球温暖化や生態系9,300ヘクタールを維持・保護すること、ギジェルモ・ラッソ(GuillermoLasso)大統領が掲げる石油・鉱業開発を通じた経済対策に対抗するための強力な武器ともなる。

https://twitter.com/confeniae1/status/1489713997075173376

 

シナンゴエ事件

アイ・コファンは、長年にわたり違法な採掘者、伐採者、狩猟者、漁師に土地を侵略されてきた。コミュニティは政府に対し何度も措置を要請するも解決策が提示されることはなかった。それどころではなく、政府はこの土地に住む人間への相談、事前同意なしに、チングアル川(Ríos Chingual)やコファネス川(Rio Kofanes)に影響を与える金探査と開発のためにアイ・コファンの領土の32,000ヘクタールに及ぶ20の利権をすでに企業に付与していた。さらに32の利権もまた付与準備段階にあった。当時、コミュニティが県や国当局に苦情を申し立てるも、何の回答も得られなかった。

 

裁判と判例化に至るまで

◆ 2017年 ◆ 
先住民警備隊が森のパトロール中に採掘現場を発見、脅威の可能性について調査開始。アグアリコ川(Río Aguarico)のほとりでモーターポンプ、シュート、浚渫船などを使用し金の採掘をしている50人以上の鉱夫たちに出くわす。鉱夫たちに撤退を求めたところ、コミュニティの数人を脅迫。同年7月24日、コミュニティは、教区、カントン、国の当局にアラートをあげる。ゴンサロ・ピサロ地方自治政府は、鉱山活動がシナンゴエのアイ・コファン・コミュニティーに損害を与えていることを確認。鉱山登記簿を確認したところ、アグアリコ川とその源流であるチングアル川、コファネス川に金採掘のためにすでに20の鉱業権が付与され、そのほかにも32の権利が譲渡手続き中だった。この利権は、地域住民に相談することなく付与されたものだった。なお鉱区はカヤンベ=コカ国立公園(Parque nacional Cayambe-Coca)の境界線上にあった。

 

◆ 2018年 ◆ 
コミュニティは環境省(Ministerio de Ambiente)、鉱業省(Ministerios de Minería)、鉱業規制管理局(Agencia de Regulación y Control Minero:ARCOM)、国家水事務局(Secretaria Nacional del Agua:SENAG)、そして州司法長官事務所(Procuraduría General del Estado:PGE)に対し保護と予防措置を求める。

7月19日、ゴンサロ・ピサロで審問が始まるが、現地視察が必要となったため中断。7月20日、憲法裁判官現地入り。8月3日、訴訟番号:21333201800266の第一審において、保護のための訴えを受け入れ、シナゴエ共同体の自由意志に基づき、事前に十分な情報を与えられた上で協議する権利の侵害を侵害したと裁判官が認める。大臣官房はこの判決を不服として控訴。9月、スクンビオス県裁判所が本訴事案を受理。

11月16日、スクンビオス県司法裁判所は、付与済み採掘権(20)と、付与準備中の権利(32)の取り消しを命じるとともに自由意志による、事前の、十分な情報に基づく同意、水に対する権利、自然に対する権利、環境の侵害も認めた。また、鉱業によってコファン地方に生じた損害や影響に対する賠償も命じた。

なおFPIC(Free, Prior and Informed Consent )として知られる「自由意志による、事前の、十分な情報に基づく同意」とは特定事業が先住民族などの土地、領域、資源などに影響を及ぼす恐れがあると考えられる場合、対象事業に対し先住民族などが同意するか、否かを判断する権利/原則のことを言う。これは憲法で保障された先住民族や民族の基本的な権利であり、国は私的企業に限らず公的企業に対しても採掘を計画している地域の住民、部族民に対して、その活動を望むかどうかを判断できるよう、事前かつ真実の情報を提供する義務を負っている。なお本権利については同国における法律のみならず、国際労働機関(International Labour Organization:ILO)第169号条約などにも記載されている。なお、しばしばこの権利は侵害されており、シナンゴエ事件のよう闘争の要因となってきた。

◆ 2019年 ◆ 

2月27日、オンブズマン事務所が憲法裁判所に判決文を提出。将来の同種事案に対する解決の基準、つまり裁判例になるよう分析を求める。

10月21日、最高憲法機関はシナンゴエでの事案(事件番号273-19-JP)を採用し、いかなる協議プロセスにおいても、「彼ら先祖代々の領土内での投資や採掘プロジェクトの実施」、あるいは彼らの権利や利益に影響を与える可能性がある場合には、事前に先住民と国家の同意を得ることを義務付けるよう認めた。

 

◆ 2021年 ◆ 

11月15日、同裁判所の裁判官9人の裁判官のうち5人がヒアリングのためにコミュニティを初めて訪れる。これは先住民にとって歴史的瞬間だった。朝から昼にかけて裁判官は先住民の長老や若者から自己決定権に関する数十の証言聴取した。共同体は、裁判所が先住民族の自決に関する拘束力のある基準を設定するよう要求。また、可能性のある採掘事業については、事前協議だけでなく、自由意思に基づく事前のインフォームドコンセントを主な要件として考慮するよう求めた。オンライン参加も含む公聴会には、エクアドル先住民族連合(Confederation of Indigenous Nationalities of Ecuador:CONAIE)のレオニダス・イザや全国から300人以上の先住民の代表、環境・水・生態系移行省、鉱山管理規制庁、司法長官室の代表者も参加した。政府サイドは国家の利益を擁護した。公聴会の最後に、マリア・エスピノサ(María Espinosa)弁護士は「前進する唯一の方法は同意であり、それがなされるまでは利権もライセンスも与えるべきではない」と述べた。

 

◆  2022年 ◆ 

1月18日、365,515人の署名を裁判所に届け、先住民の自由意志に基づく事前協議と同意の権利に関する法理を生成するよう要求。2月4日、憲法裁判所がアイ・コファンからの要求内容を承認、シナンゴエ事件が判例となることが確定した。

https://twitter.com/confeniae1/status/1489734281249312784

 

判例化の重要性

先にも記載されている通りこの国においては憲法にて先住民の権利が保障されている一方で、彼らの土地、生態系、そして彼ら自身もさまざまな利害関係の中で脅かされている。経済対策の名の下、憲法における権利は都合よく解釈され、先住民の土地の下に眠る鉱物、石油が搾取されている。2021年10月、先住民たちは代表団を動員し、ギジェルモ・ラッソの掲げる石油政策(石油生産量は2倍にする)を定めた政令95号に対して違憲の訴えを起こしている。12月にも政令151号(鉱業の急速な拡大)に訴訟を起こしている。今回の判例は常に脅かされている先住民や自然への権利を保障し、FPICなしの開発停止を判例の観点から謳うものである。なお、エクアドルの法制度は「大陸法系」に属しるが、それでも判例は実務上とても重要な役割を担っている。

 

シナンゴエのアイ・コファン

コファンはエクアドル・アマゾンに住む11の先住民族のひとつ。シナンゴエの彼らは、スクンビオス県アグアリコ川沿いに300人ほどが住んでいる。高床式の木造家屋に住んでいる。彼らの土地は62,000ヘクタールにわたり、そこで狩猟や漁業をしている。

 

参考資料:

1. Jueces de la Corte Constitucional visitaron el territorio Cofán de Sinangoe
2. En la primera audiencia de la Corte Constitucional del Ecuador realizada en territorio indigena, los pueblos indigenas exigen que se respete su decisión de mantener sus territorios libres de extracción
3. エクアドルの法制度の概要 – BLJ法律事務所
4. A’I KOFÁN NATIONALITY
5. Corte Constitucional ratifica fallo a favor de la comunidad A’I Cofán y crea jurisprudencia vinculante para otras comunidades

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