ドミニカ共和国当局は1月10日月曜日、ハイチ大統領ジョベネル・モイーズ(Jovenel Moïse)殺害の重要容疑者を米国政府の協力で拘束したことを明らかにした。ポルトープランスのマフィアの一員であるロドルフ・ジャール(Rodolfhe Jaar、通称ドドフ、Dodof)は米国の囚人として扱われる。ただし米国当局は、捜査は継続中であるとし、コメントを避けた。ハイチ当局のコメントも得られていない。
事件を知る関係者によるとジャールは金曜日にハイチの隣国であるドミニカ共和国に入国したところを、ドミニカ当局によってサントドミンゴで逮捕されたと言う。
ジャールの逮捕はコロンビア人傭兵部隊やハイチ警察官などからなる暗殺部隊がペティオンビル地区にあるジャールの自宅から車に乗り込み、通りを渡って大統領の住むペレラン5地区に向かったとされる日から6ヵ月後のことで、事件発生から数ヶ月間ハイチに潜伏していた。なおハイチ生まれで大学で経営学の学位を持っているジャールは米国籍は持っていない。
大統領暗殺においてはドローンや手榴弾、4つの部隊により組織されていたことから資金力のないものに計画はできない。そのためハイチ当局は当初からハイチで養鶏業を営んでいたジャールのような人物が背後にいると考えていていた。また今回の暗殺事件には麻薬取引における利権が関わっていると考えられていることからも(詳細はこちら)、ジャールのような人間が容疑者として絞られていた。と言うのも、彼もまた麻薬と深い関係があることによる。ジャールは2013年、米国にコカインを密輸した共謀罪で南フロリダの連邦裁判所に起訴され、4年の禁固刑を言い渡されている。これらのドラッグはコロンビアとベネズエラからハイチを経由して運んだ。一方2015年の公判において彼の弁護士は、ジャールが起訴される前の数年間、米国政府の機密情報源であったこと、連邦当局への協力に同意していること、妻と1歳の子供、高齢の両親がいることを理由に刑の軽重を求めていた。
なお、マイアミ・ヘラルドが入手した報告書にもジャールが暗殺計画の中心人物であり、攻撃の数日前にも自宅にコロンビア人を招き入れ車、武器を提供したと書かれている。なおジャールヘの家に集まったコロンビア人22名は16個の武器を手に取ったと言うから、事件当日部隊を形成するすべての人間に武器が回っていたわけではないこととなる。ジャールはシネウス・フランシス・アレクシス(Cinéus Francis Alexis)と何度も連絡を取っており、警察によると、アレクシスとジャールは5月から6月だけでも203回も電話を交わしていた。
また、ジャールが逮捕される数日前には重要容疑者の1人であり元コロンビア軍将校であるマリオ・アントニオ・パラシオス(Mario Antonio Palacios)43歳がこの事件における米国での関与の確認のために米国に引き渡されている。ハイチにおける殺人、または誘拐の共謀罪と、犯罪のために用いられることを知りながら物質的支援を行ったとし起訴されていた。パラシオスたちは2021年7月7日計画実行の約10日前の6月28日に米国に渡り、モイス殺害の計画推進と支援を受けた。
パラシオスは10月にジャマイカで潜伏しているところを拘束され、1月10日コロンビアに送還される予定だったのを、代わりに米国に身柄が引き渡された。大統領暗殺で正式に起訴された最初の容疑者パラシオスは同日出廷していて、最初はモイーズの誘拐を計画していたこと、後に共謀者たちが大統領をハイチから連れ出す飛行機を手配できなかったために暗殺計画に転じたことを語った。なお当初の計画では共謀者が黒いパーカーを着て、6月に空港でモイーズを捕らえ、飛行機で連れ去ることになっていた。マイアミの米国地方裁判所においてパラシオスはまた、通訳を介して、米国に知り合いはおらず、収入は月に約375ドル(277ポンド)相当のコロンビア軍の年金だけであることも述べている。彼は10月の逮捕時にも米国当局に自発的に話をしハイチに行って警備を行い、大統領を逮捕する作戦に参加するために雇われたと話していた。
訴状にある容疑が有罪になれば、パラシオスは最高で終身刑に処されるが、弁護士は無罪を主張するだろうとされている。なお次回の出廷は1月31日(予定)だ。
ハイチ国家警察によると、モイーズ大統領の死後、犯罪組織が都市部の支配権をめぐってハイチ警察と衝突しており暴力が急増している。昨年10月16日、400人のマウォゾ・ギャングがポルトープランスで17人のアメリカ人とカナダ人の宣教師を誘拐される事件が発生したり、また人道支援に対する脅迫もあると言う。例えばコロンビア政府が逮捕された18人の元コロンビア兵に援助を提供しようとした後、ハイチの領事が脅迫を受けた。マルタ・ルシア・ラミレス(Marta Lucia Ramirez)外相によると、脅迫はフリオ・セサール・サンタ・マルティネス(Julio Cesar Santa Martinez)に向けられた。ハイチに大使館を持たないコロンビアにとって彼がこの国で唯一の代表となる。
領事は昨年拘束された元兵士を数回訪問して健康状態を確認し、コロンビアの親族から送られた洗面用具なども提供したというが刑務所で彼らが不当に扱われていることに不満を表明している。それは元兵士のうち2人が拷問を受け、誰も弁護士を付けてもらっていないことにも表れている。
今回正式に起訴されていないジャールに弁護士がついているかどうか、他の国に引き渡されるかどうかは、現時点では明らかになっていない。
※ハイチ大統領暗殺事件に関する他の記事はこちら
参考資料:
1. Dominican authorities capture another suspect in Haitian President Moïse’s assassination
2. New Details Emerge in Killing of Former Haitian President Jovenel Moïse
3. Dominican agents detain suspect in assassination of Haiti’s president
4. Update | Palacios charged in US over assassination of Haitian president
5. Haiti president assassination: US charges Colombian man over killing of Jovenel Moise
6. Colombia says consul in Haiti threatened after Moise killing
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