エクアドル:先住民は天然資源採掘を助長する政策の即時撤廃を求める

(photo by David C. S.
 
 
アマゾン流域先住民組織調整委員会(Coordinadora de las Organizaciones Indígenas de la Cuenca Amazónica (COICA))など先住民団体は炭化水素(石油、天然ガスなど)と鉱業の搾取を加速させる大統領令の即時無効化を要求した。具体的にはギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)が2021年7月7日と8月5日に署名した大統領令95号と151号を対象としている。各々についてみていこう。

 

大統領令第95号

合理的かつ環境的に持続可能な方法で日々の石油生産量を増加させることを目的とし第95号は発布された。そこでは新しい炭化水素政策を「国内の石油バリューチェーン全体における作業のガイドラインを決定」し、「規制の枠組みの改革、法的安全性の強化、投資の誘致、公共企業の効率性の向上に焦点を当て」るものだと位置づけた。なお、国営石油企業ペトロエクアドル(Petroecuador)が現在生産している油田を民間企業に委ねることも記載されている。

石油の売上の一定割合を財源とする持続可能性基金も設立する。この基金は貧困や社会的不平等の是正、福祉の提供を支え流ものであり、基金は経済・財務省、エネルギー・非再生可能天然資源省、および独立した市民社会という3団体が運営する。また、石油開発プログラムが影響を与える地域の住民に対しては、その収益を正当に配分することで、慢性化している人々の栄養失調などの改善にも役立つと述べられている。

「エクアドルの石油産業は 1970年代の石油ブームを契機に基幹産業に成長し、小規模産油国ながら国内的比重は大きい。それ以降、石油政策は資源ナショナリズムによる国家管理と、民間活力重視の対外開放の間を揺れてきた。」(新木, 2008)石油産業に傾倒したエクアドルの状況は現在でも変わることなく、現在日量47万3,555バレルの石油生産量となっている。政府はこれを5年後には日量100万バレルにしたいと考えており、そのステップとして今年12月までに1日あたりの生産量を8%増加させることを目標とした。本目標達成にあたって大統領は今後100日間で次のような施策をするよう命じた。

– 石油・炭化水素分野への民間投資を誘致するための公共政策・規制の実施
– 参加型契約モデルの再構築、入札プロセスの推進(地元コミュニティとの事前協議や、無形地域や自然保護区の保護に関する規制は遵守する)
– 生産量を増やすことを目的とし国営企業ペトロエクアドルに民間に委託する部分を明確にさせる
– ペトロ・エクアドルによるペトロアマソナス(Petroamazonas)の買収を監査し、新しいビジネスモデル構築のためにコンサルタント会社を雇う
– 専門家の支援を受け、ペトロエクアドルの管理職を採用する
– ペトロエクアドルにおける過去10年間取引プロセスの診断を行う。(同社は過去多国籍企業との間で贈収賄スキャンダルが発生していることから)

 

参加型契約(contrato de participación)モデルとは「事業受託者が探鉱・開発の投資リスクや経費を自己負担し、生産開始後に契約で定める参加権益比率の 生産物を得ることができ、その処分権を持つ」(新木, 2008)契約のことで、各リスク(例えば財政的・地質的・環境的リスク)に対する国の負担を軽減することを目的としている。ラファエル・コレア(Rafael Vicente Correa Delgado)前大統領の時代に放棄された。

ラッソはペトロエクアドルが事業資金を民間から調達できるように法改正パッケージの提出をエネルギー省の優先課題に据えた。また、ペトロエクアドルが国際的な株式市場で株式を販売できるように、ベスト・ビジネス・プラクティスと優れたコーポレート・ガバナンスの導入に必要な措置を講じるよう命じている。

なお、60日以内にエネルギー省は、炭化水素輸送システムの改善のための投資プロジェクトを促進することを目的とし、現在のその状態を見直す予定だ。また、ペトロエクアドルの3つの製油所エスメラルダス(Esmeraldas)、シュシュフィンディ(Shushufindi)ラ・リベルタ(La Libertad)の状態と、これらの工場のコンセッションの可能性についても確認、報告するよう同省は命じられている。

 

大統領令第151号

鉱業などの分野に関する行政のアクションプランが記載されている。大統領は国内外からの投資を増やし、輸出を増加させ、その結果としてこれらの産業から多くの利益を得たいと考えている。そのために100日以内に合法的で責任ある採掘が可能な条件を普及させる必要があるとした。

エネルギー・非再生可能天然資源省や環境・水資源省が主導する本計画では環境および社会的ベスト・プラクティスに基づいたプロジェクトの実行と、効率的で責任ある産業の発展が目指される。その中には、法的安全性の保証、既存の採掘権、契約、権利の尊重、鉱物の違法採掘を根絶するための戦略の実施などが含まれる。政府は産業の中でも鉱業を重要視しているが、その開発にあたっては、地元住民、先住民に対し十分な情報を提供した上で、事前協議を行うこと、そして制度的な管理を強化していくと語った。なお大統領は、持続可能な採掘を目指していることから水源サラル・デ・パホナレス (Salar de Pajonales)には手をつけない予定だ。

2021年16億ドルの鉱山輸出を今年政府は見込む政府は、ラッソ任期期間の4年間で大幅に拡大させたいと考えている。それには投資が必要で例えば、非常に高い収益性を持つ鉱物精製工場は20億の投資が必要ながらも15年で返済でき、資金調達は国際的、多国間の銀行からできると説明した。投資を呼び込むには上述の通りプラットフォームを整える必要がある。

大統領令発布から60日以内に環境省は国内での採掘活動の基礎となる環境許可証、水許可証、行政許可証の発行手続きを迅速化させる。これは国営鉱山会社(Empresa Nacional MineraENAMI)の責任下にあるプロジェクトに民間投資を呼びかけるためのプロセスの一環だ。

発布から100日以内には鉱業活動の合理化、規範やプロセスの修正が行われる。なお保留中または処理中の行政アクション(許可、認可、登録、監査、ライセンス(第二暫定規定(第4条))が優先される。期限切れ、国へ返還済み採掘権や地域の付与に関する指示(第13条)も修正され、戦略的プロジェクトや第二世代プロジェクトの実行が促進されることになっている(第14条)。

 

先住民たちの反論

これらの大統領令に対し、先住民は異を唱え、即時撤回を求めている。例えばカミナンテス・エクアドル(Caminantes Ecuador)の環境活動家であるカルロス・ソリジャ(Carlos Zorrilla)は持続可能な鉱山というものは存在せず、その考え方自体が「矛盾している」と語った。同氏によると鉱業活動の手続きの簡素化は企業にのみ利益をもたらすものであり、農村や先住民のコミュニティや自然の権利を犠牲にするものでしかない。そもそも鉱業ビジネスが国に大きな利益を与えると考えていること自体証拠の上に成り立った仮説ではないとした。それは大統領令第151号第4条から推察でき、鉱業分野における今後数年間の経済的影響や環境的・社会的コストの評価が終わっていないことを示している。

ラファエル・コレア大統領の時代から、この産業のために少なくとも37の税制優遇措置が設けられており、それが税収を減少させてきた。さらに採掘収入のほとんどが国ではなく企業に入るよう法律で規定されている。一方産業を通じ排出される何十億トンもの汚染水は自然に深刻なダメージを与え、その影響は永続的に残る。これらの戦略的・第二世代のプロジェクトの修復費用(処理した鉱石1トンあたり2.88米ドルを考慮した場合)は145億米ドルに達する可能性があり、自然の回復のために必要となるコストを考慮していない状態でも、国が得る収入274億8600万米ドルの53%にも相当する。つまり、利益を生む産業ではないことがわかる。

大統領令151号第3条では違法な採掘が環境や社会に影響を与え、責任ある合法的な採掘を優先して撲滅しなければならないと言及されている。これもまた矛盾を孕んでいる。共和国憲法(第14条)によれば、生態系、生物多様性、遺伝的遺産の完全性などの自然遺産の共通財は公共の利益であるが、鉱業活動はそうではないし、合法であっても違法であっても採掘が土壌、植生、森林、河川、コミュニティに影響を与えるのは周知の事実だ。今までもこの国では「合法」という名の下に行われてきた開発でコミュニティ、環境が大いに損なわれリスクにさらされてきた。その例が最も生物多様性の高い地域のひとつであるコルディジェラ・デル・コンドール(Cordillera del Cóndor)のミラドール・プロジェクト(proyecto Mirador)であり、現在もなお闘争中のシャブロンにおけるアマゾンの破壊についてもそうだ。(詳細はこちら

 

ミラドールはアマゾンのサモラ・チンチペ(Zamora Chinchipe)州に位置し、中国のコンソーシアムCRCC-Tongguanの子会社であるエクアコリエンテ(Ecuacorriente)が30年間の利権を持って運営している。そこには銅318万トン、金339万オンス、銀2,711万オンスが埋まっているとされるが、ここの開発のために2009年から2017年だけでも1,300ヘクタールの森林が伐採され、毎日6万トンも鉱物搾取のために掘り起こされている。一方で、銅精鉱として輸出されるのは2%以下(1,000トン)で、残りの98%(約58,800トン)は鉱山廃棄物となり、酸性で重金属の含有量が高い尾鉱池に貯蔵されている。1日に排出される固形廃棄物の総量はキト市の家庭ごみ2ヶ月分に相当する量の約107,000トン、それ以外にも何千トンもの土砂が採掘プロジェクト地域に運び込まれている。また、川の汚染によって魚が消え、多くの家族が食料にアクセスできない状態に陥っている。これは人権侵害にもリンクする。またこの第3条は大いなる問題を孕んでいる。なぜなら国家との間ですでに締結された採掘契約や権利は、憲法違反かどうかを審議されることなく法的安全性が保証されてしまうからだ。

政令151号は国への攻撃である。その権威主義と法的暴力は、国の例外的な自然・社会文化遺産の荒廃を犠牲にして、国内および多国籍の鉱山資本の利益を満足させようとしているに過ぎないからだ。

 

政令95号もまた、国民の利益というよりも民間企業や金融機関の利益を保護し「戦略的分野の管理・運営を国家の手から多国籍企業に移すことを提案している」ことに他ならない。石油区画の入札や利権化を可能にするいくつかのプロセスの見直しや促進は、国民の経済的、社会的、文化的権利を損ねることになる。そもそもヤスニドス(Yasunidos)のペドロ・ベルメオ(Pedro Bermeo)が語っているように、54年前から石油を採掘しているにもかかわらず貧困は根絶されてこなかった。これが事実だ。また、政令95号が企業にとってより魅力的な参加形式にしようとしていることは「水質汚染、生物多様性の損失、社会的影響などの影響を発生させる」のだ。

 

エクアドルにおいては過去にも政府による一方的な資源開発プロジェクトや搾取主義に基づくが方針発表されており、国内で問題となっている。例えばラファエル・コレアも生命と自然の利益よりも経済的利益をを優先させたヤスニITT生態系保護区での石油開発を発表し、大きな問題として発展した。2013年8月15日のことである。

 

先住民族連合会(Confederation of Indigenous Nationalities of Ecuador:CONAIE)は、反搾取主義の戦線を強化することを決定した。さらに、彼らの政治団体であるパチャクティク(Pachakutik)に、自由・事前・情報提供による協議に関するプロジェクトの推進を依頼している。

 

参考資料:

  1. FIEL WEB PLUS
  2. Impactos del Proyecto Minero “Mirador” en Amazonía Ecuatoriana
  3. EL ESTUDIO QUE REVELA CÓMO EL MINERO PROYECTO MIRADOR AFECTA A LA SALUD DE LOS MORADORES
  4. Ecuador apunta a la inversión privada en el sector petrolero
  5. Organizaciones indígenas piden la anulación de los Decretos que intensifican el extractivismo
  6. Decreto 151: autoritarismo y violencia juridica
  7. Lasso define el plan de acción para el sector minero de Ecuador
  8. Decreto 151 de política minera llegó con desafío de mayor inversión y críticas de los ecologistas
  9. El Ecuador del Encuentro cuenta con una nueva política hidrocarburífera
10. Ojo con el Decreto 95
11. Decreto 151 de política minera llegó con desafío de mayor inversión y críticas de los ecologistas
12. エクアドルの石油産業 -資源ナショナリズムと対外開放のはざまで- (新木秀和)
  坂口安紀編『発展途上国における石油産業の政治経済学的分析―資料集―』調査研究報告書 アジア経済研究所 2008年 
13. 
Condor Mirador Mine Case

 

 

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