革命後最大の反政府デモがキューバで起きた

7月11日ハバナの南西に位置するサン・アントニオ・デ・ロス・バニョス(San Antonio de los Baños)で始まった反政府デモはすぐに国中に広がった。その規模は全国で数千人とキューバ革命後初の規模だ。

https://twitter.com/periodistassin2/status/1414380651499900928

彼らは経済破綻に加え、COVID-19パンデミックへの当局の対応や市民の自由の制限に憤りを感じているという。昨年キューバの実質経済成長率がマイナス11%になり、国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(Economic Commission for Latin America and the Caribbean:ECLAC)は今年2021年の成長率も2.2%にとどまると見通している。これは過去30年間で最悪の落ち込みだ。新型のウイルスの影響とともに、米国からの制裁で大きな打撃を受けたことは、誰もが疑う余地はなかった。

彼らはモノが無いことには比較的寛容なはずだった。それは革命来続く米国からの執拗な経済制裁や、支援をしてくれていた国々の崩壊などと関係がある。もちろん産業が偏っていたり、企業のほぼ全てが国営であることもその理由にあるのかもしれない。ただ、その辛い時代を知っている世代が減ってきたこと、さらには、本当にギリギリの状態に追い込まれていることも、今回のデモにつながりやすかったのではないかとも考えられる。

 

「自分たちには食べ物も、薬も、自由もなく、もう疲れきっている。」そうデモの参加者は語る。世界屈指の国産ワクチン生産国も、接種のための医療品が足りなければ国民は救われない。人口1000万人程度のこの国においては世界的大流行が始まって以降感染者の数は238,491人、死者も1,537人(7月12日, 13:59 GMT)、ワクチンに希望を見出しながらもここ数日の新規感染者数の増加は極端と言えるほどだった。7月11日には7,923人の感染が報告され過去最大の感染数となった。これが各地の病院を崩壊状態に追いやっている。

外貨獲得もパンデミックの影響があり出来ていない。砂糖専売公社アスキューバ(Azucuba)は、燃料不足や機械の故障で収穫物の搬入ができず、また、畑の湿度などの自然要因で収穫量が激減した。毎年500万人程度いたも観光者も、新型感染症の渡航制限で全くこの地を訪れることがなくなった。これらの要素が経済に壊滅的な打撃を与えた。

 

特定政党や政府が強い国においては、この手の抗議活動は見えづらい。なぜなら、声をあげれば投獄されるリスクはあるし、マスメディアも政府の悪い面を報道すれば何らかの制裁を与えられるかもしれないことによる。一方ソーシャルメディアやテクノロジーの発達はデモ参加者を現地での報道官に変えた。ライブ映像は拡散され、今国で何が起きているのか、国民は何を主張しているのかは隠すことができなくなった。ただ書記官が言うように「世界中でパンデミックが発生していないかのように、キューバ系アメリカ人のマフィアが、ソーシャルネットワークでインフルエンサーやYoutuberに高額な報酬を支払い、キャンペーンを展開し、国中でデモを呼びかけている」のも部分的に事実だろうし、この手の拡散は更なる先導や暴力を招きかねない。それもあってか、キューバ当局は午後からインターネットサービスを停止した。

https://twitter.com/14ymedio/status/1414363434033061889

 

人口3万4000人の地方都市、サン・アントニオ・デ・ロス・バニョスを震源とするデモは程度の差こそあれ、各地に飛び火した。その火は国内を飛び出し、ブエノスアイレスやモンテビデオのキューバ大使館周辺でもおきた。そしてもちろんマイアミでもだ。ここには反体制派が多くいる。

待っていたとばかりベネズエラの野党フアン・グアイド(Juan Gerardo Guaidó Márquez)はTwitterを通じ抗議行動への支持を表明した。そして最も喜んでいるかもしれない米国もだ。

ホワイトハウスのジェイク・サリバン(Jacob Jeremiah Sullivan)国家安全保障顧問も米国のキューバ全土における表現と集会の自由を支持を表明した。普遍的な権利を行使している平和的な抗議者に対するいかなる暴力や標的も強く非難すると。このコメント自体は、当たり前のことではある。暴力に対する言及は一部で催涙ガスが使われたらしいこと、さらにはディアス・カネルによるデモ鎮圧への呼びかけもあり、国民同士で暴力が起きていることにもよる。

ちなみに、ACLED (Armed Conflict Location & Event Data Project)によるとパンデミックで経済状況が悪化する中、キューバでは民間人に対する国家暴力が増加しているという統計情報を示している。

「残念ながら、すべての家族が休息と団欒のために過ごす日曜日と言う日を中断し、今日起きている出来事の説明をしなければならない。この出来事は、反革命を最近推進している組織的でエスカレートした挑発行為に関係している」と言う挨拶とともに始めた革命宮殿からの特別演説では、まず米国からの各種いやがらせについての共有があった。例えばそれは革命以来続く米国からの金融面、エネルギー面での迫害と一連の制限措置、同国による反政府へのプロパガンダやイデオロギーの構築、民族の権利、主権、独立を押しつぶすような軍事介入や干渉、キューバを苦しめるために制定した243の施策、キューバのテロ支援国指定などについてである。また、キューバの医療旅団の信用を失墜させようとする計画は、キューバの外貨獲得源である医療協力にインパクトを与え、これらすべてが国内で不足する状況を引き起こしていると糾弾した。

 

マタンサス(Matanzas)やシエゴ・デ・アビラ(Ciego de Ávila)などで起きた最も複雑な状況については、非常に臆病で、巧妙で、日和見的で、ひねくれた方法で、常に封鎖を支持してきた人々、傭兵や米国や帝国主義の手先として働いてきた人々が、人道的介入や人道的回廊のドクトリンを掲げて登場したものだとした。米国による介入がキューバ政府がこれらの苦しい状況から抜け出すことができないという印象を強め、それを信じる人々は今まで興味を示していなかったのに、これを機にあたかも国民の福祉や健康に関心を持っているかの如く主張し始めた、これが今の現状だと共産党第1書記は語った。

また自身を独裁者と仰ぐ意見に対しても「国民全体に健康を与えることに関心があり、すべての人の幸福を追求しようとする独裁者であり、このような状況の中で公共政策を実行する能力があり、キューバ製のワクチンを使った予防接種を熱望しているが、それは誰も売ってくれないことがわかっていたからであり、購入するお金がなかったからである。なんて(自身は)奇妙な独裁者なんだ 」と皮肉った。

https://twitter.com/cubadebatecu/status/1414326903771697154

数千人のキューバ人が日曜日を使い食糧不足や物価高騰、さらにパンデミックの苦しさを主張するために抗議行動をした。過去最大規模の反政府デモとなった。彼らの気持ちは少なからず誰もできることだろう。米国とそれが先導する他国からの経済封鎖は尚更に彼らを苦しめる。午後に行われた首都でのデモには多くの若者が参加し、数時間後に警察が動き出し、数人のデモ参加者が石を投げてデモ行進を中断させるまで、交通は混乱した。一部パトカーを倒したり、商品を外貨建てで販売している国有の商店から略奪するものも現れた。百歩譲って感情が昂った体としても、デモに便乗したこの手の行動は全くもって話にならない。政府に何かを伝えたいとも思えない。

大統領は、抗議行動を奨励しながらも反体制による挑発に立ち向かうために、革命支持者、共産主義者に向かい反革命グループから国を守るために街に出てそれらの分子に対抗するよう「戦いの命令」をした。

https://twitter.com/cubadebatecu/status/1414328906015027200

鍋を叩き、旗を振りながら、大声を出しながらの後進は基本的に平和理に行われた。そのような状態の中で、暴力を推進してしまうようなこのメッセージは全くもっていただけない。ディアス・カネルがどこまで力の行使を意味したのかはわからない。でもすべきことは、力を使ったぶつかり合いではなく、議論を通じてどのように課題を解決していくのか、どのように連帯をとっていくかを話し合うことではなかろうか。政府だけで解決できないことは残念ながら多い。国民の協力が必要だ。特に米国による封鎖はどう頑張っても自分たちだけでは解決ができない。こちらでも述べた通りどんなに他国が米国の対応を批判していても、自らが世界の中心だと勘違いしている米国は変わらない。特に今は変われない。だからこそ毎年毎年繰り返される国連決議も無視され今に至る。

ディアス・カネルが言うように米国政府は、自身が不当に封鎖している国の「国民のことを非常に心配している」としているが、その言葉は矛盾が多すぎる。本当にそう思うのであれば封鎖を緩和する、解除すればいい。でも残念ながら就任6ヶ月経ったバイデンの支持率が思うように伸びず、むしろトランプ支持は底堅いのが事実で、そのためキューバへの制裁の緩和をするわけにはいかないのだ。

何もできない他者にとやかく言われたり、そして精一杯の力を振り絞っている人からすれば頑張れなどと軽々しく言われたくなかろうが、今はエールしか送れない。キューバの友人たちに会いにすらいくことすらできない状態だ。キューバは体は小さいが、決して弱くない。むしろ大国に屈しない力強さを持っている。だから国民の力を結集すればこの苦境を乗り越えられられる、そう信じたい。

国務大臣も言うように今回のデモは「党・政府・国民の結束を分断しようとするメディアキャンペーンを伴って」いる可能性も高い。むしろJulián Macías Tovarが分析するようにデータからそれが見えてきていることも確かだ。でも、それら外部からの力のみで今回でもが起きたのではなく、国民が不満に思っていた思いが形になったことも否定できないだろう。いずれにしても、国が割れればそこにつけ込んでくる隣国がいる。今一度それを政府含め認識いただき、国民ではなく悪と戦い、困難を乗り切って欲しい。強く強く強く思う。

 

知識人・芸術家ネットワーク(Red de Intelectuales y Artistas en Defensa de la Humanidad:REDH)も米国政府とその取り巻きがキューバに干渉してくることを警戒している。ウイルスのみならず、彼らに先導されデモの第二波、第三波が起きるかもしれないからだ。キューバにはさも反政府思想の人しかいないようにも報じられているが、そんなことはもちろんない。

 

この国では1994年にも首都ハバナで反政府暴動マレコナソ(Maleconaso)が起きた。ソ連法滅後の経済危機ゆえのことだった。この時は故フィデル・カストロが現場に出向き国民と対話しその場を収めた。

政府にはホセ・マルティの言葉を忘れず、全国民のことを思った対応をぜひ行っていってほしい。

Donde no hay equidad ni respeto a todas las opiniones no hay patria si no una dictadura.

– José Julián Martí Pérez –

 

なお駐日キューバ大使館から本件に関してメールが届いたので共有しておく。そこにはキューバは人道的介入への呼びかけを拒否する旨記載されている。

 

 

 

引き続きソーシャルメディアでは「#SOSCuba」「#SOSMatanzas」「#SalvemosCuba」というハッシュタグを用いてこの島の危機的状況について人道的介入を呼びかけている。これ自体にはもちろん違和感はないが、ハッシュタグを用いた情報操作に関して事例を出しておこう。アルゼンチン優勝の歓喜をキューバの反政府デモに読み替えるというものだ。なんとも斬新な話であるが、このようなことは平気で行われている。CNNもまた、別の行進の写真を反政府運動のものとして流用した。そしてこれらが世界中に拡散されていく。これこそ糾弾されるべき内容だ。このようなことが起きていることは、「もちろん」日本などでは報道されない。

情報は世の中に溢れている。そしてそれをもとにした行動を取ることは大切だ。でも、その情報が正しいものなのかどうかを見抜くのは難しい時代になってきている。これは疑いようのない事実だろう。

https://twitter.com/cubadebatecu/status/1415020371829534722

 

参考資料:

1. Cuba protests: Thousands rally against government as economy struggles
2. Cubans take to streets in rare protests over lack of freedoms and worsening economy
3. A la Revolución la defendemos ante todo (+Video)
4. Cubanos, en toda la nación, al llamado de la Patria y de su Presidente (+Video)
5. San Antonio de los Baños: «¡Pa’ lo que sea Díaz-Canel!, ¡Pa’ lo que sea!» (+Video)
6. Cuba protests: Three key issues that explain the rare unrest
7. Así te contamos la inédita protesta en contra del régimen en Cuba
8. ¡Cuba vence y vencerá!
9. Investigación confirma la perversa operación de redes sociales contra Cuba lanzada desde el exterior

 

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