チリ大統領選2021:候補者出揃う

チリでは2021年11月21日に総選挙が行われる。大統領の決定はもちろんのこと、上院議員、下員議員、地方議員が選ばれる。なお大統領選挙においては1人の候補が過半数以上の票を獲得できない場合は、12月19日に開催される決選投票に進むこととなる。

 

大統領選に立候補するだろう人物は以下の通りである。

セバスチャン・シシェル(Sebastián Sichel)/Independiente Chile Vamos
 ジョゼ・アントニオ・カスト(José Antonio Kast )/Republicanos
カルロス・マルドナド(Carlos Maldonado )/PR
ヤスナ・プロボステ(Yasna Provoste )/DC
パウラ・ナルバエス(Paula Narváez)/PS, PPD y Nuevo Trato
ガブリエル・ボリック(Gabriel Boric) /Frente Amplio

 

大統領選は左翼勢力と、現政権である保守・右翼与党連合の争いとなる公算が大きく、そんなかでもセバスティアン・ピニェーラ大統領の支持率が20%を切っていること、直近の選挙で確定した制憲会議メンバーにも多く無所属、左派が多く選ばれたこともあり、左翼がやや有利になる可能性が高い。

その観点から予備選の結果と各候補者を見ていこう。なお、右派も左派も本名が予備選で敗れるという番狂わせが起きている。

保守で右翼与党連合「Chile Vamos(行こう、チリ)」の予備選には4人が立候補、無党派のセバスチャン・シシェルが大統領候補に指名された。Chile Vamosは中道・右派4党(UDI、RN、Evópoli、PRI)を擁する。予備選の結果は以下の通り。元社会開発相で無所属の候補者は、海外からの投票で相手を上回る結果となった。なおチリでは2017年選挙から海外在住者にも投票資格が与えられている。当時でも海外の有権者の数は約1400万人ほどいた。

ホアキン・ラビン(Joaquín Lavín )/UDI:418,766票、得票率31.3%
イグナシオ・ブリオネス(Ignacio Briones)/Evópoli:130,958票、得票率9.8%
セバスチャン・シシェル(Sebastián Sichel )/IND:656,056票、得票率49.1%
マリオ・デスボルド(Mario Desbordes)/RN:131,194票、得票率9.8%

 

シチェルは2005年にキリスト教民主党(DC)を脱退、シウダダノ(Ciudadanos)などを経て現在チリの与党である、右派政党に乗り変えた。無所属となった彼はエリートからも距離があると考えられている。かれが目指すのは既存の経済モデルを大きく変え流ことなしに、企業家たちを支援すること、パンデミックの影響を受けたチリ人の労働環境を改善しようとすることだ。チリで活動する企業に対する課税強化は望まない。

セバスチャン・シシェルは17歳で母親となったアナ・マリア・ラミレス(Ana María Ramírez)と、2018年3月に亡くなった林業技師アントニオ・シシェル(Antonio Sichel)の息子として育った。最初、母親と継父のサウル・イグレシアス(Saúl Iglesias)とともに暮らしていた。1年間ブラジルを旅して戻った後は場所を点々としながらも、一家を「譲り受けた」こともありそこに一家で住むこととなる。その家は電気も水もお風呂もなく薪で料理をしていた。辛い生活も常に誰かに愛され、助けてくれた。これが自身の生き延びるために必要だったこととした。複雑な家庭環境のため、最終的にはサンティアゴで、祖父母のアナ・アルバラード(Ana Alvarado)と、有名なロティサリー「ロス・シエルボス(Los Ciervos)」の店長だったギジェルモ・ラミレス(Guillermo Ramírez)のもとで育ったと言う。

「今日から、Renovación Nacionalのすべての活動家は、連立候補のSebastián Sichelのために活動を開始する」とRN党首のフランシスコ・チャウアン(Francisco Chahuán)は語った。

 

「Apruebo Dignidad(私は尊厳を認める)」という協定の元集まった左翼は陣営からは35歳の若者でCSから出馬したガブリエル・ボリックが大統領選への座を勝ち取った。こちらもまたダニエル・ジャデュが勝つと想定されていた。

ガブリエル・ボリック(Gabriel Borić Font)/CS:1,051,900票、得票率60.4%
ダニエル・ハドゥエ(Óscar Daniel Jadue Jadue)/PC:689,315票、得票率39.6%

ハドゥエは当初経験や知名度の観点から有利とされていた。パレスティナ人移民の3世である彼は建築家兼社会学者。自身もレコレタ区長を3期勤めているが、何よりも投票者数が最も多くいる首都圏でPCを支持する層が多いことにもよる。

一方のボリックは南端のマガジャーネス・イ・デ・ラ・アンタルティカ・チレーナ州(Región de Magallanes y de la Antártica Chilena)を基盤とし、現在同州の副知事も務める。ユーゴスラヴィア移民の子孫である彼は、2013年の学生運動でチリ大学学生連合議長として手腕を発揮、政界入りした。

大統領候補に選ばれたボリックは今回戦ったダニエル・ハドゥエに感謝を表明し、以降彼と協業をしていくこと、そして全国民に国を変革することを恐れてはいけないという強いメッセージを出した。「チリは新自由主義のゆりかごであった。今度はその墓場になるだろう」と最後はそしてアジェンデの言葉を引用した。

ボリックについてもう少し見ていこう。彼の指導者としての素質は2011年の学生運動のなかから生まれたという。2019年11月に「平和のための合意」(AP)を推進したこと(新憲法制定会議を結果として勝ち取る)、ハドゥエ自身がかれが「反バリケード法(※)」を支持したこともあり、ハドゥエを支援してきた左派からは「黄色」(中道派)と指摘されていた。なぜなら、抗議行動参加者を「政治犯」にする、起訴を容易にすることを可能にするからだ。米国雑誌『ジャコバン』スペイン語版でも彼は「チリ・リベラリズムの恐るべき子ども」と評していた。

ハドゥエは敗北に際して自己分析をした。予備選挙の6ヶ月ボリックを敵対視し団結できていなかったことだとした。また上述の通りパレスティナ系の彼は、チリのユダヤ人社会の大きな部分から、イスラエルの外交政策にたいする疑問から批判もされてきた。またイスラエルに対しシンパシーを持っていないことも暴露されていた。

「勝利しよう、それは美しい」と言うスローガンを掲げ、さらにピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズ、高名な詩人ラウル・スリタ、元ロス・プリシオネロスのリーダー、ホルヘ・ゴンザレスの支持も得ていた。さらにハドゥエは2年前から最近にいたるまで、すべての世論調査で右派候補をリードしていたにもかかわらず負けた。6月に行われた最新の調査でも彼は18%を獲得し、右派で有力とされていたアキン・ラビンの13%を上回っていた。それでも負けた。

ハドゥエは11月に訪れる大統領選においては、チリをよくするための挑戦する気持ちを有権者に持つことを要請し、また、勝者ボリックが大統領になることを望むと語った。

ボリックは上述の通り中道的左翼である。その点から言うと右翼支持者も含めて、幅広く票を集めることができる可能性がある。左派支持層の中心を担うのは環境保護、フェミニズム、地方分権、メンタルヘルスの庇護者である。ハドゥエほどの改革的思想を持っておらず、また地に足ついた国家構造改革を目指していることも評価された可能性がある。彼の言う構造とは例えば外資系企業や超富裕層への課税の強化が挙げられる。

 

そのほかの大統領候補者も見てこう。

 ホセ・アントニオ・カスト(José Antonio Kast )/Republicanos

https://twitter.com/joseantoniokast/status/1416892206426824707

カストは雇用を回復しよう、中小企業・チリ人の保護しよう、そして共産主義を打ち負かそうと立候補宣言とともに動画をアップした。一方フエンテスは、JAKが「チャンスのない」選挙に「魚雷を使わないように」と呼びかけている。JAKが選挙から降りればシシェルにその分の票が入ることによる。JAKはまだ自身の立候補については多くを語っていない。

 

 カルロス・マルドナド(Carlos Maldonado )/PR

カルロス・マルドナドは、1963年にバルパライソのセロ・ヒメネスに生まれた。彼の父親はバルパライソ出身の急進的なリーダーで、国鉄(EFE)の職員として働いていた。バルパライソ野中でも貧しい土地に住み公立学校で教育を受けた彼は20歳ではいったロースクールでその政治考えが急進的なものになる。1983年はアウグスト・ピノチェット政権に対する抗議活動が始まった年であり「独裁政権によって政治活動が禁止されていたため、特に困難な時期であった1980年代に、若いリーダーたちと一緒にバルパライソのラディカル・ユースの会長になった」。1989年、民政移管が始まった重要な年にパトリシオ・アイルウィン政権に付随する議会でマルドナドはバルパライソ州選出の上院議員、急進派のカルロス・ゴンサレス・マルケスのスタッフとして初めての仕事をした。

 

ヤスナ・プロボステ(Yasna Provoste )/DC

 

大統領候補者の中で唯一、先住民の子孫であるヤスナ・プロボステ・カンピレイは、先住民出身をアピールの材料にしている。上院議長に就任した3月17日、彼女は「これで、共和国の上院をディアギータ(Diaguita※)系の女性が議長を務めるというステージが発足した。女性であり、教師であり、母であり、妻であり、ヒューマニストであり、キリスト教徒であり、バリェナールに生まれ、ディアギータの血を引き、中流労働者階級の家庭の娘である」。

政治経験は様々な点から豊富である。計画・協力省(現在の社会開発省)の大臣と、教育大臣などを歴任する一方、2008年の補助金事件で上院を解任された。会計検査院は、都内の教育委員会で2620億円に上る不正会計を検出していた。ピニェラ大統領の政府に反対派。

 

パウラ・ナルバエス(Paula Narváez)/PS, PPD y Nuevo Trato

https://twitter.com/PaulaPdta/status/1416414993239744514

社会主義者の心理学者で、ミシェル・バチェレ元大統領のスポークスマンだった。プエルト・モントで育ちの彼女は自分をフェミニストだと定義している。UN Womenのラテンアメリカ・カリブ地域のガバナンスと政治参加に関する地域アドバイザーとして働いていた。彼女の父親は共産主義の過激派で、アウグスト・ピノチェト政権のエージェントによって逮捕され、拷問を受けていた。父親がどのような人生を送っていたかはある程度の年齢になるまで知らされていなかったものの、チリで独裁政権の意味を小さい頃から聞かされ、また政治についても常に食卓に上がる、そんな家庭で育った。保守的な学校では常に違和感を感じ、父親からは、自分が誰であるかを隠してはいけないと言われて育った。英語学習のために訪れたインドで道徳観「仏教は人間を宇宙の中に位置づけようとすること、そして自我の支配を克服することが存在の根本的な課題となること」を学び、後の自身を形成する重要な基盤となったと話している。

 

先に述べた通り大統領選は左翼勢力と保守・右翼与党連合の争いとなる可能性が大きい。ただし、2021年のラテンアメリカ各国における大統領選において大判狂わせも発生していることから、どの候補者も気が抜けない。民主化後の大半の時期の政権を担ってきた中道左派(DC、PPD(民主党)、PS(社会党))はいまだ候補を一本化していない。ヤスナ・プロボステで有力ではあるもののより過激な右派、ホセ・アントニオ・カスト(共和党、PR)が、バランスを揺さぶることがあるかもしれない。新しいチリ大統領は現在検討が行われている新憲法を最終承認する人物となる。

 

※反バリケード法は,暴力・脅威の利用または障害物の設置をもって公共の道路における人の通行または交通を完全に遮断する行為に対して,61日以上540日未満の懲役刑を現行刑法に追加することを目的とする。

※ディアギータとはスペイン人の侵入以前に,チリ北部とアルゼンチン北西部の山岳地方に居住していた少数民族。現在まで生き残った者はない。アラウカノ族、アタカマ族などとともにインカ帝国の辺境の民族であった。

 

参考資料:

1. Primarias 2021: Sichel y Boric triunfan y serán candidatos presidenciales
2. Elecciones presidenciales: ¿quiénes son los candidatos que buscan llegar a La Moneda?
3. Boric derrota a Jadue en las primarias de Apruebo Dignidad
4. Sichel da la sorpresa con triunfo en la primaria de Chile Vamos
5. Quién es el candidato presidencial Sebastián Sichel
6. ¿Qué es y qué quiere la nueva izquierda chilena?
7. Elecciones presidenciales: ¿quiénes son los candidatos que buscan llegar a La Moneda?

 

No Comments

Leave a Comment

CAPTCHA