ラテンアメリカ初となる性別「ノン・バイナリー」を採用したアルゼンチン

7月21日より大統領令第476/21号に基づきアルゼンチン人の国民IDカードおよびパスポートの性別の欄に使用する名称は、「F(Female)」「M(Male)」「X(X)」のいずれかとすると決定がなされた。第4条では性別「X」は非二元、不確定、不特定、不定、自己認識、記載なし、または男性・女性の二項対立に含まれないと感じている人が識別できる別の意味を含むものとしている。

ノン・バイナリーとは(身体的性に関係なく)自身の性自認・性表現に「男性」「女性」といった枠組みをあてはめようとしないセクシュアリティのことだが、生まれた性別とは別の自認を持つトランスジェンダーと混同されやすい。トランスジェンダーがどちらかの性を強く認識している人が多いことに対して、ノン・バイナリー・ジェンダーは自分の性別を定義していないという違いがある。性別「X」は日本発「Xジェンダー(※)」を想起させるが、第4条でより広い定義をしていることからXジェンダーというより、やはりノン・バイナリー・ジェンダーを指していることが窺える。

この発表は200年記念館(Museo del Bicentenario)で行われ、セレモニーを通じ3人のノン・バイナリーが新しく発行されたIDカードを受け取った。そのうちの1人は35歳のへロニモ・カロライナ・ゴンサレス・デベサ(Geronimo Carolina Gonzalez)だ。通称カロ・ジェロは法律と生命倫理の博士である弁護士エレオノーラ・ラム(Eleonora Lamm)とブエノスアイレスにやってきた。2人の戦いは3年前に遡る。ゴンサレス・デベサは医療サービスを通じて大胸筋の男性化手術を受けるため国民IDカード(DNI)が必要で、その発行に際して自らのアイデンティティに基づいた変更を求めていた。しかしその要求は受け入れられることなく、むしろ3年もの間、DNIを受けることができない状態でいた。当時メンドーサ州裁判所の人権担当副部長だったラムにカロ・ジェロが明確に伝えたのは「自分はMにはなりたくない」ということであり、性同一性変更届に添える意見を述べるためにラムはメンドーサの登録事務所に同行したという。このプロセスを経て2018年11月2日、メンドーサ州政府は、決議Nº420/2018によりこれら要求を受け入れ、性別記入欄に線を入れた形で出生証明書の修正をするよう指示したのだ。Nº420/2018では特に性同一性法(26.743)の第2条を引用しており、そこには「各人が感じる性別の内的かつ個人的な経験であり、出生時に割り当てられた性別と一致する場合もしない場合もあり、身体の個人的な経験も含む」と書いてある。新しいIDカードの受け取りにあたってカロ・ジェロは「この二元的なシステムから離れるということは、すべたの人が参加できる社会、全てのアイデンティティが効果的に尊重される社会で働き始めることを意味する。このような変化がようやく訪れたことを実感できるのは素晴らしいことだ。」と述べた。

次にカードを受け取ったのはラ・プラタ(La Plata)出身のヴァレンタイン・マチャド(Valentine Machado)だ。ブエノスアイレスのAsamblea No Binarieのメンバーであり、国立工科大学でシステム工学を専攻している。式では「no somos una X(私たちはXではない)」と書かれたTシャツを着ていた。客席からもそのメッセージを応援するようなコメントがあった。不満の声を受けて、大統領は以前見た言語学者が対話するテレビプログラムを想起し「みんなのことを話さないと、みんなが談話に挑戦しているように感じられず、自分のことを話しているようには感じられないが・・・」と自らの意見を加えながら「他の形もあると思うが、国際条約の範囲内で権利を開放することができる、あのXの中に含まれている」と答えた。「男と女以外にもアイデンティティがあり、それらは尊重されなければならない」そして「愛し、愛され、幸せになる方法は千差万別である」と加えた。女性省も、ノン・バイナリーの定義を「性自認と性表現の同じ二元的な立場(男性か女性か)で表現されず、それらとの不一致を強調するとともに、性別割り当ての二元的なシステムにも不一致を感じている人」としている。

新しい3枚目のIDカードはティエラ・デル・フエゴ(Tierra del Fuego)に住む27歳のシャニク・ルシアン・ソサ・バティスティ(Shanik Lucian Sosa Battist)に渡された。2019年、シャニク・ルシアンも同州、さらには国レベルでも初の歴史的勝利な勝利を獲得する。この判決は出生証明書の性別記載欄に「non-binary/equal」を加えるというもので、義務付けられた。また、登録所に対しても子どもの出生証明書においても子どもの新しい名前とともに自己認識を記録するよう命じている。

 

第10条では個人の性自認および表現が尊重され、ジェンダーを理由とした差別がなくなるようにするために、この問題に関する権限を有する国家行政機関を構成するすべての機関の当局および職員にアルゼンチンの女性・ジェンダー・多様性省(ministerio de las mujeres, géneros y diversidad)が研修を提供するよう指示している。

100% Diversity and Rightsは「前政権時、RENAPERは、確固たる判決や司法長官からの好意的な意見があったにもかかわらず、新しいIDカードの発行を拒否したため、何十人もの人々が書類を持たない状態になった」が、今回の決定によってブエノスアイレスだけでも約300人が新しいIDカードの発行をするだろうことを述べた。

この式典にはアルベルト・フェルナンデス(Alberto Fernández)大統領の他に、ワド・デ・ペドロ(Wado de Pedro)内務大臣、エリザベス・ゴメス・アルコルタ(Elizabeth Gómez Alcorta)女性ジェンダー多様性大臣が同席した。招待客の中には、法務・技術部門のヴィルマ・イバラ(Vilma Ibarra)、INADIのヴィクトリア・ドンダ(Victoria Donda)代表、AYSAのマレーナ・ガルマリーニ(Malena Galmarini)会長に加え、LGBTTIQ+の活動家たちがいた。

国際的なレベルでは、マルタ共和国、ネパール、ドイツ、カナダ、インド、米国などが、男性と女性の二項対立以外の性の記載を認めている。アメリカ大陸においては、2019年1月より米国カリフォルニア州において、ノンバイナリーを自分の性別として選択できる法律「California Gender Recognition Act (SB 179)」が施行された。これにより、同州での出生証明書、運転免許証、身分証明書の性別欄には、男・女だけでなくノン・バイナリーと記載できるようになった。2019年夏時点で、米国の13州でノンバイナリーを選択することができる。機械読み取り式パスポートの世界的な規制を定めている国連機関である国際民間航空機関(Organización de Aviación Civil Internacional:OACI)でも、女性、男性、不特定多数を表す「X」の3つの性別が認められていて。オランダのように、身分証明書から性別を完全に削除することを計画している国もある。

アルゼンチンは、2012年に「ジェンダー・アイデンティティ」を法的に認めることを決定していて、2012年には、IDカードや出生証明書に記載されている性別や名前を簡単な手続きで変更することができる「性同一性法」が制定されている。アルゼンチンが批准している市民的及び政治的権利に関する国際規約では、法の下で認められる権利、プライバシー、無差別の権利が保護されている。これらの権利を完全に尊重するために、国家は人々が「F」から「M」へ、またはその逆へ変更することを認める必要があり、また、「X」または同等の選択肢が必要とされていた。

※Xジェンダーには、中性(男性と女性の中間)、両性(男性でもあり女性でもある)、不定性(性自認が流動的)、無性(男性・女性のどちらでもない)という4つのタイプがあるとしている。

 

aviso_247092 by Ana Breccia

 

参考資料:

1. Argentina reconoce identidades no binarias: se podrá optar por X en DNI
2. ノンバイナリーとは?【Xジェンダーやクィアとの違いは?】
3. Nuevo DNI no binario: en qué consiste la propuesta y cuándo entrará en vigor
4. Argentina aprueba que las personas no binarias puedan identificarse en su DNI con la opción “X”
5. Inédito en América Latina: personas no binarias lograron documentos sin sexo
6. El incómodo momento que vivió Alberto Fernández en el anuncio del nuevo DNI para personas no binarias: “No somos una X”

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