2021年4月19日、エクアドルにおいて、同国の労働・人権分野に大きな影響を与える歴史的判決が下された。判決は、国内で今もなお続いているとされる“奴隷労働(現代奴隷制)”の存在を公式に認め、雇用主であるフルカワ・プランテーション(Furukawa Plantaciones C.A.:FPC)およびエクアドル政府に対して法的責任を問う内容となった。フルカワ・プランテーションは戦前、フィリピン南部ミンダナオ島ダバオで、南洋一の日本人社会を作った古川拓殖のエクアドルにおける現地法人である。
📢VICTORIA DE LAS Y LOS TRABAJADORES EN EL CASO #FurukawaNuncaMás
El 19/04/2021 Juez Cedeño notificó la sentencia escrita y declaró la existencia de ‘servidumbre de la gleba’, responsabilidad empresa Furukawa Plantaciones C.A. del #Ecuador
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— Furukawa Nunca Más (@AbacaleroLibre) April 21, 2021
エクアドルは世界第2位のアバカ繊維(Abacá fiber, マニラ麻)輸出国として知られ、毎年約7,000トン、金額にして1,700万米ドル以上を欧州、アジア、米国へ出荷している。アバカの用途は幅広く、ロープ、車のパーツ、紙幣など多岐にわたる。
同国でアバカ事業を牽引してきたのが、1963年2月22日に操業を開始したフルカワ・プランテーション(FPC)である。約60年をかけて事業を拡大し、現在では総面積2万3,000ヘクタールに及ぶプランテーションと32の農場を保有するまでになった。2017年における同社のアバカ輸出額が約840万米ドルに達していたことを踏まえれば、その経済的影響力の大きさは推して知るべしだ。なお、アバカそのものをフィリピンからエクアドルへ持ち込んだのもフルカワ・プランテーション(FPC)だとされる。
FPCに対する人権侵害指摘 劣悪な労働環境と政府の対応
しかし、その巨大企業の陰で深刻な問題が長らく存在していた。フルカワ・プランテーション(FPC)における人権侵害については数年前から国内外で指摘が続いており、実際、同社の労働者が置かれた状況は劣悪を極めていた。適切な住居が提供されないばかりか、労働者は健康、教育、仕事の選択、そして自由に関する権利までも奪われていたという。
エクアドル労働省も査察を通じて状況を把握しており、2019年2月18日にはフルカワ・プランテーション(FPC)の労働キャンプの一時的閉鎖、生産活動の停止、さらに罰金の支払いを命じている(※)。しかし、それ以外の重大な違法行為に対する追及や改善命令、追加調査は行われず、抜本的な是正措置は取られなかった。その結果、2021年に至っても労働現場の環境はほとんど改善されることなく放置されていた。
所得水準が決して高くないエクアドルの中でも、アバカ産業で働く人々の生活は特に厳しい。調査によれば、労働者世帯の81%(238家族)が極度の貧困、17%(50家族)が貧困に分類されている。貧困ラインを上回る生活ができているのはわずか2%(6家族)でしかない。多くの成人は読み書きすら十分にできず、教育へのアクセスが断たれていることも深刻だ。
また、アバカ農家が1トンを生産して得られる収入は640ドルであるのに対し、フルカワ・プランテーション(FPC)は同量のアバカ繊維を約2,700ドルで市場に販売しているとされ、所得格差は大きい。
危険な作業環境 怪我と病気が日常化
アバカ栽培と加工は長時間にわたる重労働であり、硬い繊維を解く機械作業は指の変形・切断、骨折など深刻な事故を引き起こす危険な仕事でもある。さらに、作業中に飛散する細かなアバカ粉塵や、夜間作業で使用される灯油ライターの残留物は呼吸器疾患の原因となり、多くの労働者が慢性的な健康被害を抱えている。
しかし、病気や怪我に対してフルカワ・プランテーション(FPC)が医療費を補償することはなく、労働者は自身の体を犠牲にしながら働かざるを得ない状況を強いられる。
労働者がこのような環境で働き続ける背景には、極度の貧困によって移動手段がないこと、そして職業選択の自由がないことがあげられる。貧困は大人だけでなく子どもをも過酷な労働へ追いやっており、児童労働は深刻な問題だ。多くの子どもが8〜9歳という幼い年齢から働き始め、呼吸器疾患や怪我など大人と同じ健康被害に苦しんでいる。
さらに、この地域で生まれた子どもには出生届が提出されていない場合が多く、その結果、国家から「存在していない」または「認識されていない」状態に置かれることも珍しくない。これは医療、教育、社会サービスへのアクセスを完全に断つことを意味し、貧困の連鎖を固定化する重大な要因となっている。

2021年4月19日、エクアドル裁判所は246ページにわたる判決文をもって、フルカワ・プランテーション(FPC)および関係政府機関に対し包括的な責任を認定する歴史的判断を下した。
判決内容によれば、フルカワ・プランテーション(FPC)には原告一人ひとりに対して、専門家が算定する全額の賠償金の支払いが命じられた。さらに、過去に暴力や深刻な人権侵害を受けてきた農民には、5ヘクタールの土地、またはそれに相当する金銭の提供が義務付けられている。加えて同社は、元従業員に対する公的謝罪として、エクアドル国内最大の日刊紙に謝罪文を掲載するよう求められた。
判決はまた、エクアドル労働省にも厳しい判断を下した。労働省はこれまで報告されてきた虐待・違反事例すべてに責任を負うとされ、その理由として、同省が本来果たすべき労働状態の監督・確認義務を怠り、その結果フルカワ・プランテーション(FPC)による基本的人権侵害が継続された点が指摘された。
このため、裁判所は労働省のみならず、経済・社会省、公共保健省にも謝罪を命じ、各省の公式ウェブサイトに謝罪文を掲示するよう指示している。
控訴と報復としての住居破壊
今回の歴史的判決をめぐり、フルカワ・プランテーションフルカワ・プランテーション(FPC)とエクアドル政府は「判断にそぐわない部分がある」として控訴を予定している。
また、原告として立ち上がった123家族の住居が、フルカワ・プランテーション(FPC)によって破壊されたという報告もあり、まるで報復行為のような振る舞いが社会的批判を呼んでいる。本来保護されるべき当事者が、勝訴後に新たな危険にさらされていることは深刻な問題だ。
過去の国家顕賞も撤回
今回の判決は象徴的な領域にも及んだ。2005年、フルカワ・プランテーション(FPC)は当時の大統領アルフレド・パラシオ(Luis Alfredo Palacio González)から功績を称える顕賞を授与されていた。しかし、この評価は本判決を受けて撤回されることとなっている。国家レベルでの評価が根底から見直される象徴的な出来事である。
ただし、今回の判決はエクアドルにおける労働環境改善と人権保護の取り組みにおいて、あくまで出発点に過ぎない。エクアドル共和国憲法第33条は労働について次のように定めている:
El trabajo es un derecho y un deber social, y un derecho económico, fuente de realización personal y base de la economía. El Estado garantizará a las personas trabajadoras el pleno respeto a su dignidad, una vida decorosa, remuneraciones y retribuciones justas y el desempeño de un trabajo saludable y libremente escogido o aceptado.
仕事は権利であり社会的義務であり、経済的権利であって、個人の自己実現の源泉であり、経済の基盤でもある。国家は、働く人々の尊厳が完全に尊重され、品位ある生活が送れ、公正な給与や報酬が得られ、健康的で自由に選択または受け入れられた仕事に従事できることを保障する。
仕事は経済基盤とともに、自己実現の場でもある。それを通じ、肉体的・精神的にも充実した生活を送れる必要があり、保証されている。しかし、エクアドルにおいては、アバカ産業のみならず、劣悪な条件で働く人たちも多いという。
アバカは成長が早く、二酸化炭素を比較的多く吸収することでも知られている。また、糸を焼却しても有害物質を発生させず、生分解可能という利点もある。持続的な成長とともに、環境にも優しい次世代型素材として今後注目されていくことだろう。
地球も労働者の生活も、さらには政治と金の問題(※)もクリーンな状態になるよう、一刻も早く状況がレビューされ、改善に向かうことを願わずにはいられない。
今回の勝訴により勇気を持った他の労働者からも、オンブズマンに対して集団告発の支援依頼が今後寄せられる可能性がある。
環境に優しい次世代素材「アバカ」 光と影
アバカは成長が早く、二酸化炭素を多く吸収する性質を持つことでも知られ、焼却しても有害物質を排出せず、生分解性にも優れる環境負荷の低い天然素材である。持続可能な社会づくりに資する次世代型素材として、今後国際市場でさらに注目を集めるとみられている。
しかし、アバカが生む富の裏側で、労働者の生活が搾取や危険と隣り合わせのままであるという「影」の部分が今回の事件によって浮かび上がった。地球環境だけでなく、労働者の生活、さらには政治と金の関係(※)もクリーンな状態へと改められることが求められている。
※労働省から命じられたのは42,880米ドルの罰金と90日間の閉鎖だった。
※金と政治の問題はエクアドルでも蔓延っている。レニン・モレノ(Lenín Boltaire Moreno Garcés)現政権の元農業副大臣職にFPCの役員バイロン・フローレス(Byron Eduardo Flores Loayza)がついていた。
[補足]
フルカワ・プランテーション(FPC)と労働者の関係は一見すると分かりにくい。FPCは自社で直接労働者を雇用しているのではなく、農民請負業者に自社の土地を貸し出している仕組みになっている。
貸し出された土地はプランテーション用の区画に分割され、そこに雇われた労働者が作業に従事する。つまり、直接の雇用主はフルカワ・プランテーション(FPC)ではなく、請負業者であることになる。
この構造が、FPCによる奴隷的扱いの責任回避の論拠にもなっている。FPC側は「過酷な労働や人権侵害は請負業者の責任であり、自社の責任ではない」と主張する場合があるため、責任の所在が複雑化している。
参考資料:
1. First Case In Ecuador Recognizes Slavery In Agriculture
2. Furukawa, el caso de esclavitud moderna por el que una empresa japonesa y el gobierno de Ecuador fueron obligados a pedir disculpas
3. Empresa que realizaba supuesta explotación laboral fue clausurada y multada
4. ONU denuncia trabajo infantil en Ecuador
5. ABACA: MODERN SLAVERY IN THE ECUADORIAN FIELDS
6. Los esclavos invisibles del abacá (Parte II)
7. Furukawa: un exviceministro como gerente y abacaleros contagiados, sin bonos ni atención de Salud
児童労働に触れているメキシコの環境と炭鉱問題についてはこちら。

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