スティーブン・ドンジガー(Steven Donziger)の足首に巻き付いていた電子監視が2022年2月5日ついに取れた。913日間、彼の在宅拘禁を監視し続けた。
BREAKING: The ankle bracelet has been hacked off and I'm heading home! This black claw was both a real and symbolic taking by @Chevron of my freedom and peace of mind for 913 days. Outrageous in the extreme.
— Steven Donziger (@SDonziger) February 4, 2022
Full release coming on April 25. I'm thrilled. pic.twitter.com/tlmhQNraT4
ドンジガーはテキサコ(現シェブロン)を相手に、エクアドルアマゾンの民のために戦っていた。テキサコの石油開発は悪意を持っているとも思えるほど杜撰で、採掘場から流れ出る廃油がこの土地を汚染した。オリンピックプール大の穴に溜め込まれた廃油は川に流れ込み、それを生活水とする先住民族は胃がん・肝臓がん・喉頭がん・小児白血病などの発症リスクと隣り合わせになった。1993年、先住民約3万人はテキサコを相手に集団訴訟を起こし、この原告団の弁護士となったのが、ドジンガーであった。
テキサコの買収を経て被告となったシェブロンは、エクアドルで審理を行うように要請。2011年エクアドル最高裁は原告の主張を認め、シェブロンに対して95億米ドルの罰金を科した。シェブロンがおとなしく判決に従うわけはなかった。彼らはエクアドル最高裁自体を否定し、RICO法(米国組織犯罪規制法 、Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Act)違反とし、ドンジガーを訴える裁判をニューヨークで起こした。「ドンジガーら原告団は裁判所職員に50万米ドルの賄賂を送り、証拠をねつ造した。ドンジガーはシェブロンを相手に数十億ドルを巻き上げるという国境を越えた計画の黒幕である」と主張した。
米国連邦法「第18編 刑法及び刑事訴訟法、第1部 犯罪」の第96章(第1961条~第1968条)及び第95章(第1951条~第1960条)に定められた刑事法であるRICO法は組織的犯罪を行うものの活動を規制するもので、昨今では米司法当局が中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対して適用した。通例はマフィアなどの組織犯罪を取り締まるものであるがファーウェイは米企業の知的財産を窃取した罪、ドンジガーに対しては上述のようにゆすり行為を疑いによる。
マンハッタン連邦地裁のルイス・カプラン(Lewis A. Kaplan)判事は、ドンジガーや原告団が強要や贈賄、資金洗浄の犯罪行為に関与したことを認め、エクアドルの最高裁によるシェブロンにへのた損害賠償金の支払い無効と、ドンジガーにはシェブロンの法定費用数百万ドルを支払うよう判決を下した。これを不服に思ったドンジガーは控訴するも、求められた証拠品である電子機器の提出を個人情報保護の観点から拒否、カプラン判事は法廷侮辱罪でドンジガーを起訴した。これが2019年8月のことである。ドンジガーは法廷侮辱罪の審理を待つ間、自宅勾留となり、彼の足にはそれ以来電子監視が取り付けられていた。
2022年1月20日、ドンジガーの侮辱罪に対し特別検察官は67万米ドル超を請求した。これはリソース不足のためマンハッタン連邦判事が調査のために任命した特別検察官、つまりニューヨーク市の弁護士3人にかかった費用で、請求書には、パラリーガルの人件費も含まれている。この弁護士たちの所属は法律事務所Seward & Kisselである。本事件の主任特別検察官であるGlavin PLLCのリタ・グラビン(Rita Glavin)は、彼の起訴費用はドンジガーが繰り返し裁判の延期を要求し、反復的な動議を提出したことによって、大きく膨らんだごによると述べた。なおグラビンは2021年3月に独立するまでSeward & Kisselに勤務していた。なお、ロレッタ・プレスカ(Loretta Preska)判事も、自宅監禁と裁判が長引いた理由として、ドンジガーの「裁判所がすでに却下した救済を求める、反復的な動議」を挙げている。
この事件を追っているボストン・カレッジ・ロースクール(Boston College Law School)の准教授で元連邦検察官のジェフリー・コーエン(Jeffrey Cohen)は、支払われた金額について、「連邦検事局に十分なリソースがないという主張と矛盾するようだ」と述べている。また、ノーベル賞受賞者、米議会議員、欧州議会議員、そしてアムネスティ・インターナショナルもシェブロンによる異様なまでの告発と求刑を過剰で懲罰的なものだと批判している。
なお彼が完全に自由になるとされているのは今年4月25日だ。
エクアドルアマゾンにおけるシェブロンの生態系破壊に関する詳細はこちら
参考資料:
1. Special prosecutors’ bill in Donziger contempt case tops $670,000
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