(Photo:Guadalupe Pardo / AP)
2026年2月18日、ペルー議会はホセ・マリア・バルカサル(José María Balcázar)を臨時大統領に任命した。4月の総選挙後に新たな政府が発足するまでの間、大統領としてその職務を担うこととなるバルカサルはここ10年間で8人目の大統領となる。
ペルーでは近年、大統領が頻繁に交代しており、政治的な安定を欠いた状態が続いている。2018年以降、ペルーは短期間で何度も大統領交代を経験しており、今回の任命もその流れに沿ったものだ。バルカサルは、ペルー自由党(Perú Libre)に所属する左派の元判事で、議会内で行われた選挙で他の候補者を破り、大統領に選ばれた。
バルカサルは、83歳という高齢にもかかわらず、左派政党からの強い支持を受けて勝利を収めた。就任式では、「国家の主権、共和国の統合、そして民主的機関の独立を守る」と述べ、国家の安定を維持する決意を表明した。また、議会の議長職も引き継ぐこととなった。
議会の投票では、バルカサルが64票対46票で中道右派のマリア・デル・カルメン・アルバ(Maria del Carmen Alva)を破り、新大統領に選出された。最初の投票ではどの候補も過半数を得られなかったため、再投票が行われ、最終的にバルカサルが議会の多数派の支持を集めた。この結果は、アルバが有力候補とされていた中での意外な展開だった。
ペルーでは、行政と議会の間で深刻な対立が続いており、政治的な不安定さが国の運営に影響を与えている。バルカサルの任命もその一環として位置づけられ、今後の選挙結果によっては再び大きな変動が起きる可能性がある。バルカサルは、2026年4月12日に行われる大統領選挙後に新たに選出された大統領が就任するまで臨時大統領として職務を果たす。もし選挙で過半数を超える候補が現れなければ、6月に決選投票が行われる予定だ。
新大統領バルカサルとは?
ペルーの新しい臨時大統領にホセ・マリア・バルカサルが選出されたことを受け、右派の一部の政治家から激しい反発がSNSで表明された。特に、極右の「フエルサ・ポプラル(Fuerza Popular)」党のパトリシア・フアレス(Patricia Juarez)は、次のように述べた。「私たちは5年間、議会の指導権が左派の手に渡らないように必死で戦ってきた。しかし今、その結果に深い懸念を抱いている。なぜなら、バルカサルを代表とする左派が、ついには共和国の大統領の座を手に入れてしまうかもしれないからである。神がペルーを助けてくれることを祈りる。」
バルカサルは、左派のペルー自由党に所属しており、ペルー北部のカハマルカ(Cajamarca)県で生まれた。法学を学び、その後、教授および裁判官としてのキャリアを積んだ。しかし、彼の司法経歴には物議を醸す出来事もあった。2004年、ペルー最高裁判所の臨時裁判官として勤務していた際、法的に最終的な判断とされる判決を覆そうとしたことで非難を浴び、懲戒審査を受けた。その結果、ペルーの国立司法委員会(Consejo Nacional de la Magistratura:CNM)は、彼の最高裁判所での再任を見送る決定を下した。
バルカサルは2021年からペルー議会(Congreso de la República)のメンバーで、ペルー自由党所属から「ペルー・ビセンテナリオ(Perú Bicentenario)」党に変更したこともある。近年のペルーの政治では、バルカサルもまた汚職やスキャンダルに巻き込まれてきた。特に、2023年に議会で議論された児童婚禁止法案において、バルカサルは児童婚を擁護する発言をして批判を浴びた。また、ランバイエケ(Lambayeque)弁護士会からの資金横領疑惑や、元検察総長パトリシア・ベナヴィデス(Patricia Benavides)との贈賄スキャンダルにも関与しているとして捜査を受けた。
それにもかかわらず、バルカサルはペルーの分裂した議会で十分な数の議員を団結させ、臨時大統領の座を勝ち取った。これは彼の政治手腕を示すものであり、決して小さな成果ではなかった。
元暫定大統領ホセ・ヘリはどうしたのか
39歳のホセ・ヘリ・ヘリ(José Jeri)は、同国の歴代最年少の大統領の一人として知られている。しかし、彼もまた、連続して弾劾された3人目の大統領となった。ヘリの前任者であるディナ・ボルアルテ(Dina Boluarte)は、10月に「道徳的能力欠如」を理由に弾劾され、その背景には悪化した支持率、汚職疑惑、そして抗議者に対する武力行使に関する問題があった。
ボルアルテは、ペルー自由党のペドロ・カスティジョ(Pedro Castillo)前大統領の後任として就任したが、カスティジョは2022年12月に自己クーデターを試みたとして弾劾され、逮捕された。その後、反乱罪と国家に対する陰謀罪で起訴され、昨年11月には11年5ヶ月の懲役刑を言い渡された。
ヘリは暫定大統領に就任する前、議会の議長を務め、ボルアルテの弾劾手続きの監督をしていた。しかし、就任後、ヘリ自身も複数のスキャンダルに巻き込まれることとなった。まず、性的不祥事の告発があり、さらに夜遅くに女性とともに政府のオフィスで会議を開いた後、その女性たちが政府契約を受けたことについて疑問が呈された。
しかし、最も大きなスキャンダルの一つは、彼が中国のビジネスマンとの非公式な会合を行ったことに関するものである。ペルーの法律では、公式な会議は大統領の議題に記録されなければならないが、ペルーのメディアはヘリがフードで顔を隠し、夜遅くに中国人実業家である楊志華(Zhihua Yang)が所有するレストランに入る映像を入手した。この会議は政府の記録には記載されておらず、さらにヘリが楊の卸売店に現れる映像も公開されたが、この時はサングラスをかけていた。
楊はボルアルテ政権下で水力発電所の建設に関する政府の許可を受けていたが、そのプロジェクトの透明性や進捗について疑問が持たれていた。また、別の中国の実業家である謝東吉(Xiaodong Jiwu)も会議に出席していたとされ、彼は違法活動に関与したとして現在は自宅軟禁中である。
ヘリは謝との会話を否定し、ただ食事を提供されたに過ぎないと主張している。楊との会合については、それが中国・ペルー友好イベントを開催するための試みであったと説明し、楊のビジネスでの存在については単なる買い物だったと弁解している。ヘリは不正行為を否定しているが、検察は彼の大統領職下での影響力行使の可能性について調査を開始した。
このスキャンダルは、「チファゲート(Chifagate)」として広まり、この名前は中国とペルーの融合料理である「チファ(chifa)」に由来している。
さらに、この騒動は、ペルーが中国との関係を制限するよう米国から圧力を受けている時期に発生した。米国務省は、ペルーのチャンカイ(Chancay)港における中国の投資が、ペルーが自国の領土を管理する能力を「無力化」する可能性があると警告している。
このような汚職疑惑を背景にペルー国会は17日、ホセ・ヘリを罷免した。
2026年2月18日の暫定大統領の選出は上述の通りヘリが中国人実業家との未報告の会合を巡るスキャンダルにより解任されたためである。バルカサルの選出は、ペルーの政治的安定を図るための重要な決定となるが、その任期は短期間であり、彼は市場の安定と公共の秩序の維持、そして信頼できる選挙の監督という難しい課題を抱えることとなった。コンサルティング会社Teneoのマネージングディレクター、ニコラス・ワトソン(Nicholas Watson)は、「ヘリの後任が7月まで持たないとは考えにくい。もしこの5ヶ月の間に再び大統領が交代することになれば、ペルー政治の新たな最悪の局面を迎えることになるだろう」と述べており、バルカサルの任期がどのような結果を生むかが注目されている。
新たな暫定政府は、政治的なライバルや市民社会からの圧力、そして再び政治的な動乱を恐れる投資家たちから強い監視を受けながら運営される可能性が高い。その中で、バルカサルは市場を安定させる必要があり、ペルー国内外の信頼を取り戻すための対応が求められる。
一方、ペルーの元議員でアレハンドロ・トレド(Alejandro Toledo)前大統領の内務大臣を務めたギノ・コスタ(Gino Costa)は、「今回のドラマが市場や選挙に悪影響を与えることはないだろう」と述べている。「7月28日まで何も変わらないし、変わることもない。新しい立法と政府の任期が4月12日の選挙結果を受けて始まるからだ」との見解を示した。コスタの言葉からは、政治的な混乱が続いても経済や選挙には影響を与えないという冷静な見方がうかがえる。
ヘリは昨年10月、ペルー議会が前任者のディナ・ボルアルテを解任したことを受けて急遽大統領に就任した。しかし、ボルアルテに対する支持は腐敗スキャンダルや治安悪化に対する市民の不満から撤回され、右派政党により支えられたものの、長期政権の維持には至らなかった。
ペルーの大統領職は、ここ数年で大きな政治的混乱を経ており、その交代劇は絶え間ない政治的危機を反映している。ペルーは、最近の大統領職の交代劇や政治的動揺が示す通り、議会での多数派形成が困難であり、そのため大統領が短期間で交代する事態が続いている。この混乱の中、ペルー議会は「永続的な道徳的無能力」という憲法の条項を拡大解釈し、大統領を次々と弾劾してきた。
2026年2月18日に議会の議長であるフェルナンド・ロスピグリオシ(Fernando Rospigliosi)から正式に大統領職に就任する宣誓を受けたホセ・マリア・バルカサールの任期は短期間であり、次の選挙で選ばれる新しい大統領に政権を引き継ぐことになる。ペルーでは、2026年4月12日に大統領選挙が行われる予定であり、もし候補者が過半数の票を獲得しなかった場合、決選投票が6月に行われることになる。
バルカサルは記者団に対し、次回の選挙が「疑う余地のないもの」であることを保証し、マクロ経済政策は変更せず、健全な金融政策を維持して「経済活動者が懸念なく活動できるようにする」と述べた。また、組織犯罪との戦いにも力を入れると述べ、今後の政策に対する方向性を示した。
バルカサルの後任者は、治安問題や経済的な課題、特に小規模なビジネスオーナーや労働者階級に深刻な影響を与え続ける殺人事件や恐喝の急増といった問題に取り組むことになるだろう。
ペルー政府の政治的な動揺は、この10年間で8人の大統領が交代し、4人が弾劾によって退任、2人が任期途中で辞任した事実からも明らかだ。最後に完全な任期を全うした大統領は、オジャンタ・ウマラ(Ollanta Humala)であり、その任期は2016年7月に終了した。
参考資料:
1. Peru installs Jose Balcazar as interim president after Jeri ousted in political upheaval
2. Peru appoints Jose Maria Balcazar as president, ninth leader in a decade

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