コスタリカ:民主主義の行方が問われる大統領選挙、第一回投票でフェルナンデスに確定するか

コスタリカは2月1日(日)、重要な選挙を迎える。この選挙では、アメリカ大陸で高く評価されてきた民主主義体制の継続が選ばれるのか、それとも現職大統領ロドリゴ・チャベス(Rodrigo Chaves)が体現する権威主義的な政治手法に国が屈するのかが問われる。現在、野党は完全に分裂しており、民主主義と環境保護への取り組みで中米の模範とされてきたコスタリカに、右派ポピュリズム型のモデルが持ち込まれる危険性があるとして懸念が広がっている。

支持率がおよそ50%に達するチャベス大統領は、制度的な権力分立を解体し、専制的性格を帯びた権力を確立することを公然と主張している。その政策は、犯罪対策における強硬姿勢を特徴とし、コスタリカの穏健で節度ある政治的伝統よりも、ナジブ・ブケレ(Nayib Bukele)が率いるエルサルバドルに近いものである。元大統領ラウラ・チンチジャ(Laura Chinchilla)は「民主主義が危機にさらされている」と警告し、元大統領ルイス・ギジェルモ・ソリス(Luis Guillermo Solís)も、コスタリカがかつて経験したことのない深刻な政治的分極化に直面しているとして、「この選挙は過去数十年で最も決定的なものだ」と述べている。

チャベス大統領は、従来の二大政党制(国民解放党(Partido Liberación Nacional:PLN)や市民行動党(Partido Acción Ciudadana:PAC))に挑戦する形で結成された比較的新しい社会進歩民主党(Partido Progreso Social Democrático:PPSD)の候補として2022年大統領選挙に出馬し、当選した。就任以来、大統領は国家権力、とりわけ司法権との対立を軸に統治を展開してきた。司法機関を恣意的だと非難し、選挙資金をめぐる汚職疑惑の捜査を「司法クーデター」と呼んで反発した。昨年には検事総長カルロ・ディアス(Carlo Díaz)の辞任を求め、司法機関前でデモ行進を主導した。この検事総長は、チャベス大統領に対する複数の刑事捜査を指揮するとともに、近年最悪の暴力状況に陥っている組織犯罪に関する重大事件も扱っている。

チャベス大統領は新憲法の制定や憲法の大幅な改正を公然と示してきた。与党系の一部勢力は、大統領の連続再選を可能にする憲法改正も推進している。チャベス大統領は「今こそ新しい憲法をつくる時だ」と繰り返し主張し、日曜日の選挙で自らの政治運動に「絶対的な権力」を与えるよう訴えている。これが実現すれば、行政府に権限を集中させる改革を強行できるようになる。

大統領は報道機関や市民社会に対しても敵対的な姿勢を取り続けており、民主的自由の後退を招くのではないかとの懸念が広がっている。政治的分極化を戦略の軸とする手法は、制度に対する市民の信頼を損ない、コスタリカの民主的安定に対するリスクを高めている。

ソリス元大統領は「この選挙は明確な転換点になる。チャベスのプロジェクトを継続するのか、それとも、より対話的で緊張の少ない政治的に正常な状態へ戻るのかが問われている」と述べ、問題は構造的課題に取り組むかどうかではなく、「制度の枠内で、法の支配を尊重しながら行うかどうか」にあると強調する。

 

チャベス大統領の後継者として立つラウラ・フェルナンデス

憲法で大統領の再選が禁じられているため、チャベス大統領は自政府で閣僚を務めていたラウラ・フェルナンデス(Laura Fernández)を後継候補として擁立した。複数の世論調査によれば、フェルナンデスは他候補を大きく引き離して首位に立っており、1回目の投票で当選に必要な40%を超える可能性もあるとされている。

フェルナンデスは必ずしも独自の政治的プロフィールを持つカリスマ候補ではないが、後ろ盾であるチャベス大統領の高い支持率と、分裂した野党の弱体化の恩恵を受けている。分裂した野党による約20の候補の中で最も支持を集めているのは国民解放党(PLN)所属の経済学者アルバロ・ラモス(Álvaro Ramos)であるが、支持率は10%前後にとどまる。

コスタリカ大学(Universidad de Costa Rica)傘下の政治研究・調査センター(Centro de Investigación y Estudios Políticos:CIEP)の最新世論調査では、フェルナンデスの支持率は44%に達しており、ラモスとドブレスはいずれも9%、未定層は28%、残る17人の候補者はいずれも支持率4%未満となっている。ただし、最近公表された2つの民間調査では、フェルナンデスは決選投票に持ち込まれるとの見方も示されいる。その場合も、第1回投票では30%以上を獲得してフェルナンデスが首位に立つと予測されている。専門家は、約3分の1の有権者が態度を決めかねていることや過去の世論調査の不正確さを理由に、番狂わせの可能性も依然として残ると指摘している。

フェルナンデスは、新設政党である主権人民党(Partido Pueblo Soberano:PPSO)に所属し、自らもチャベス大統領の政治運動の「後継者」と位置づけて選挙戦を展開している。現政権で計画相および大統領府相を務めた経歴を持ち、第1回投票での勝利を目標に掲げ、退任する大統領の政策路線を引き継ぎ政権の継続性を確保することを強調している。

Photo:Ezequiel Becerra / AFP

 

ブケレの影響下で揺れるコスタリカ大統領選

フェルナンデスの政策公約では、国有資産の一部売却や犯罪に対する強硬姿勢、さらに組織犯罪対策として特定地域で個人の権利保障を一時的に停止する可能性の検討が掲げられており、野党はこれを権威主義的と強く批判している。こうした政策は、コスタリカが長年維持してきた地域における民主主義と安全性の模範という国家像を変えかねないとの懸念もあるからだ。実際、2025年には殺人発生率が人口10万人あたり約17件に上昇し、これまで最も安全な国の一つとされてきた国の安全神話が揺らいでいる。

選挙戦には、エルサルバドル大統領ナジブ・ブケレの影響も色濃く表れている。ブケレの名前は投票用紙に記されないが、複数の候補者が彼のスローガンである犯罪に対する「強硬路線(マノ・ドゥーラ)」を掲げ、選挙戦を展開している。その中にはブケレのいとこの配偶者であるコスタリカ人候補も含まれる。フェルナンデス自身も、ブケレの思想的影響を積極的に取り入れたチャベス大統領の後ろ盾を受けている。

Photo:Carlos Leon/AP

 

チャベス自身は世界銀行の元職員で、新自由主義的政策課題と右派ポピュリズム的統治スタイルで知られる。フェルナンデスが所属する政党主権人民党(PPSO)は2022年設立で、ブケレの政治運動と同じターコイズブルーを党のシンボルカラーとして採用している。ブケレのコスタリカ訪問は投票のわずか2週間前に行われ、チャベス大統領とともに姿を見せることで象徴的な場面となった。

一方、政治状況は極めて複雑である。社会学者モンセラト・サゴット(Montserrat Sagot)は、「現政権は、コスタリカを中米諸国と差別化してきた民主的制度を組織的に攻撃してきた」と指摘し、最高選挙裁判所や司法権、政権に批判的な報道機関への攻撃を具体例として挙げている。チャベス大統領は立法府との対立も続けており、過去には大統領の免責特権剥奪が試みられたが、いずれも失敗に終わった。直近では「政治的中立義務違反」を理由に、現職大統領が選挙過程に関与したり特定政党を支持することを禁じる規定に抵触した。

こうした政治的緊張は、公的医療と教育の劣化、そして過去4年間での治安悪化と重なり、国民の不安を増幅させている。殺人発生率は人口10万人あたり13件から18件に上昇している。39歳のフェルナンデスは、大統領選挙と同時に行われる議会選挙でも支持を呼びかけ、38議席超の過半数を確保することで国家体制や司法権に対する抜本的改革を可能にしようとしている。

さらにフェルナンデスは、実業家イーロン・マスク(Elon Musk)に対し、将来の政権で「共に取り組む」ことを呼びかけている。マスクは世界有数の富豪で、昨年12月にはブケレ大統領とともに、X上の人工知能「Grok」を活用した公立学校の学習支援に関する協力関係を発表している。フェルナンデスは英語で、「神のご加護があれば、2月1日の大統領選挙に勝利するだろう」と述べ、マスクとの協働に意欲を示している。

専門家の見解は一致しており、コスタリカは長年にわたって地域における民主主義と持続可能性の模範とされてきたが、今回の選挙は国の性格そのものを変えかねない重大な転換点であると指摘されている。

 

ブケレ訪問、チャベス大統領と共に巨大刑務所起工式

2026年1月15日、2月1日の大統領選挙を前に、現職ロドリゴ・チャベス(Rodrigo Chaves)大統領とエルサルバドル大統領ナジブ・ブケレ(Nayib Bukele)が、組織犯罪対策を目的とした巨大刑務所「組織犯罪高収容センター(Centro de Alta Contención de Crimen Organizado:CACCO)」の起工式を行った。同刑務所はエルサルバドルのギャング収容施設「テロリズム収容センター(Centro de Confinamiento del Terrorismo:CECOT)」をモデルとし、同国のギャング対策の象徴とされる施設である。建設費は3,500万ドルで、5つの収容モジュールに分かれ、合計で5,100人を収容できる見込みである。政府によれば、最も凶悪な受刑者を対象に運用されるという。

コスタリカは年間約900件に達する歴史的な殺人件数に直面しており、その約70%は麻薬取引に起因すると当局は指摘している。ブケレは起工式で、「教育に投資し子どもたちに機会を与えることも重要だが、問題が発生する前の話である。これらの犯罪者はすでに犯罪の大学を卒業している。存在する問題を解決する唯一の方法は国家の力による強制であり、どの国家も犯罪集団より強力である」と述べた。また、「コスタリカには、エルサルバドルのような状況になる前に問題を解決できる幸運がある。命や経済、苦しみを救えるだろう」と付け加えた。

チャベス大統領も「国民は恐怖なく生活すべきであり、犯罪者には法の全力が及ぶべきだ」と強調し、司法権および立法府に対し、組織犯罪との戦いに協力して法制度を改正し、より厳格な処罰を実施するよう呼びかけた。さらに、「長年にわたり、組織犯罪は複雑で手に負えないと信じ込まされてきたが、実際にはそうではない。司法権と議会多数派にとって重要なのは、受刑者の人権であり、被害者の権利ではない。エルサルバドルで起きたことが、今やコスタリカで起きつつある」と述べた。

ブケレ大統領のコスタリカ訪問は、2月1日の大統領選挙を間近に控えたタイミングで行われた。一部の市民は、外国の大統領が選挙期間中に来ることは国内政治への介入になるのではないかとして、訪問を阻止する請願を裁判所に提出した。これに対し、コスタリカ最高選挙裁判所(Tribunal Supremo de Elecciones:TSE)は請願を却下したものの、「ブケレが国内政治に介入することは許されない」と警告した。これに対してチャベス大統領は、ブケレの訪問を正当かつ重要なものとして歓迎し、「外国大統領の訪問は光栄であり、裁判所が示した表現には失礼な面もある」と述べ、訪問の正当性を強調した。

昨年12月、チャベス大統領はエルサルバドルを訪問し、ブケレと会談したうえでテロリズム収容センター(CECOT)を視察している。また、ブケレも2024年11月12日にコスタリカを訪れ、主要刑務所を視察し、エルサルバドルで直面したギャング問題と同様の「犯罪の兆候」がコスタリカにも見られると警告していた。

今回の刑務所建設は、選挙戦で強硬路線を掲げる与党候補ラウラ・フェルナンデスの政策とも連動しており、チャベス大統領が掲げる犯罪抑止と司法制度改革の取り組みを象徴するプロジェクトである。専門家は、コスタリカが長年にわたり地域における民主主義と安全性の模範とされてきた中で、この選挙と治安対策の展開が国の方向性を大きく左右する可能性があると指摘している。

 

チャベスに対する評価

政権運営の実績だけを見れば、必ずしも再び権力を維持できる状況には見えない。しかし、チャベス大統領は52%という高い支持率を維持している。その背景には、過去4年間で平均4.4%の堅調な経済成長と、巧みに構築された政治的ナラティブがある。文化研究博士カルロス・サンドバル(Carlos Sandoval)は、社会の悪化を伝統的政党の責任とし、チャベスが提案する改革を妨げているのは他の国家権力だとする語りが世論から受け入れられていると指摘する。また、サンドバルは野党の失策も指摘し、「野党は大きな政策提案を打ち出せず、大統領とその候補を批判することにエネルギーを費やしている。その結果、相手に宣伝の場を与え、自らの議題を提示する機会を逃している」と述べている。

選挙戦は政策論争よりも感情と曖昧な約束が前面に出たものとなっている。与党のスローガン「変化のための継続」にもその傾向が表れており、ハインリヒ・ベル財団(Heinrich Böll Foundation)中米代表イングリッド・ハウジンガー(Ingrid Hausinger)は、有権者の生活の質を失うことへの恐れが政権によって巧みに利用されていると指摘する。

コスタリカのもう一つの重要な特徴は環境問題である。過去30年間、環境先進国で持続可能な国家というイメージは、コスタリカのブランドであり、観光業の重要な柱でもあった。しかし、フェルナンデスが勝利すれば、この路線は転換される可能性があると専門家は警告する。サゴットは、「チャベスは『木やサルのために開発を犠牲にするつもりはない』と公然と語っている。それは階級的で、資源採掘型の発想であり、大規模投資家を優遇するものだ」と指摘している。

 

元大統領が権力集中のリスクを警告

ラウラ・チンチジャ元大統領は、今回の選挙が現職大統領ロドリゴ・チャベスを中心とした国民投票のような性格に変質していると指摘する。「これは大統領を選ぶ選挙ではなく、大統領に賛成か反対かを問うレファレンダムにされた」と述べ、与党候補ラウラ・フェルナンデスが討論を避け、ほとんど表に出なかった点も強調した。「目的は候補者に投票させることではなく、大統領にイエスかノーかを突き付けることだった」と総括している。

チンチジャ元大統領は、与党が勝利した場合の最大のリスクとして権力集中を挙げる。「疑いなく存在する」と述べ、その危険性は推測ではなく明示された構想だと指摘する。「彼らは憲法改正を望み、判事の選出制度を変更し、監督機関を弱体化させ、検察と憲法裁判所を司法権から切り離そうとしている」と警告する。

次の4年間は特に重要な局面になる。判事の過半数が改選され、主要な監督機関のトップが任命されるからである。「その段階で、取り返しのつかない損害が生じる恐れがある」と述べた。また、チンチジャ元大統領は、この動きを世界的潮流の一部として位置づけ、「これはコスタリカ固有の現象ではない。民主主義の仕組みを利用して内側から弱体化させる世界的な動きの一環だ」と指摘している。

チャベス大統領は高い支持率を背景に選挙に臨み、人気が与党候補への支持に転化することを期待している。一方、約20の政党は票を分け合い、決選投票に持ち込もうとしている。フェルナンデスがそれを回避するには、得票率40%が必要となる。

ソリス元大統領は、チャベス大統領の高い人気について、複数の要因が重なった結果だと分析する。「チャベスは、反体制的で強い指導者として自らを演出し、実際には存在しない即効性のある手段で問題を解決できるかのように振る舞っている」と述べ、既存政治への市民の不満や攻撃的なコミュニケーション戦略も支持を押し上げていると指摘する。「十分な資金と国際的助言を受けた何千ものトロールが、恒常的な宣伝キャンペーンを支えている」と語り、その手法はナジブ・ブケレ大統領のモデルになぞらえている。

元大統領はまた、棄権と未決定層の動向が選挙結果を決定的にすると警告する。「棄権率が5%上がるごとに、15万票が政治の外に消える」と述べ、この傾向は固定票を持つ与党に有利に働くという。その上で、2月1日の選挙は単に政権を選ぶものではなく、国の民主的進路を決めるものだと強調する。「コスタリカは、専制的衝動を食い止め、民主的共存を守ることが可能だというメッセージを発することができるのである」。

39歳のフェルナンデスは、大統領選挙と同時に行われる議会選挙でも支持を呼びかけ、38議席超の過半数確保を目指している。これにより国家体制や司法権(Poder Judicial)などの制度に対する抜本的改革が可能になるからだ。司法については、現職大統領のロドリゴ・チャベスが、不処罰を助長しているとして強く批判してきた分野でもある。

#RodrigoChaves #NayibBukele #CECOT 

 

参考資料:

1. Costa Rica ante unas elecciones decisivas: “La democracia está en riesgo”
2. Costa Rica, una elección bajo la sombra de Bukele
3. La última encuesta perfila a la candidata de derecha como clara favorita para ganar la Presidencia de Costa Rica
4. Bukele viaja a Costa Rica y pone la primera piedra de una megacárcel junto al presidente Chaves

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